オンボーディングとしてのインターンシップを考える

井出 翔子
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
SHOKO IDE

新卒採用市場において、インターンシップ等のキャリア形成支援プログラムはいまや重要なプロセスの一つだ。学生にとっては企業理解を深める機会であり、企業にとっても将来の入社候補者と出会う貴重な接点となっている。

本稿では、インターンシップを単なる採用広報の手段としてではなく、入社後の活躍と定着を見据えた「オンボーディング」の一環として再定義し、その効果を最大化するための視点と実践について考察する。

インターンシップの現状と早期離職

学生のインターンシップ・仕事体験参加状況

まずは学生のインターンシップ・仕事体験への取り組み状況をみていく。参加率や参加社数は年々増加しており、2026年卒学生のインターンシップ・仕事体験の参加率は85.3%、平均参加社数は5.2社と、いずれも過去最高水準に達している。【図1】

【図1】インターンシップ・仕事体験参加率/平均参加社数 / 2026年卒 大学生広報活動開始前の活動調査
【図1】インターンシップ・仕事体験参加率 / 平均参加社数 / 2026年卒 大学生広報活動開始前の活動調査

企業のインターンシップ・仕事体験実施状況

また企業の実施率をみても、2025年卒向けのインターンシップ・仕事体験の実施率は61.3%で3年連続の増加となっている。前年に引き続き、コロナ禍の影響を受ける前の2021年卒(56.9%)を上回り、調査開始以来もっとも高い実施率となった。【図2】

【図2】インターンシップ(仕事体験を含む)実施率/マイナビ2025年卒企業新卒採用活動調査
【図2】インターンシップ(仕事体験を含む)実施率 / マイナビ2025年卒企業新卒採用活動調査

2026年卒向けの実施状況は今後調査の予定であるが、おそらく同水準もしくはさらに増加すると予想される。このようなデータからもわかるように、インターンシップ・仕事体験は学生にとっても企業にとっても重要な機会となっている。

早期離職の実態

学生にとって、インターンシップ・仕事体験は入社前に企業理解を深めることができる機会だ。ただ、それがこれだけ広く浸透し、入社前に企業理解を深める機会が持てているはずであるにもかかわらず、新入社員の早期離職がなくならないという現実がある。

2024年9~10月に実施した企業向け調査で、卒業・入社年次別の退職状況を聞いた結果がある。調査時点での1年目社員(入社後約半年)に退職者がいると回答した企業は28.1%と、約3割であった。さらに入社3年目にあたる2022年入社社員の退職者がいると回答した企業は59.4%と半数を超えている。多くの企業でいわゆる早期離職が起こっているのが実態だ。【図3】

【図3】 卒業・入社年次別 退職状況(2024年9月-10月時点) / 2025年卒企業新卒内定状況調査
【図3】 卒業・入社年次別 退職状況(2024年9月-10月時点) / 2025年卒企業新卒内定状況調査

インターンシップ・仕事体験が新入社員の定着に寄与しているのであれば、その拡大とともに、早期離職の割合は縮小していくはずだ。厚生労働省の発表する就職後3年以内の離職率とインターンシップ・仕事体験の参加率を比較してみると、インターンシップ・仕事体験の参加率は大幅に増加している一方で、3年以内の離職率はおおよそ横ばいとなっている。【図4】

【図4】 3年以内離職率 / インターンシップ・仕事体験参加率 / 厚労省 新規学卒就職者の離職状況2025年卒企業新卒内定状況調査

早期離職の防止のためには「こんなはずではなかった」というネガティブなギャップへの対策が必要不可欠だ。新入社員の定着まで見据えたインターンシップの在り方を考えることが重要になるのではないだろうか。今回はインターンシップの役割を再考し、オンボーディングの一環としてのインターンシップの効果を最大化する方法を模索してみたい。

オンボーディングとは

オンボーディングとは、内定者や新入社員の自社へのスムーズな適応をサポートするための施策や取り組みのことである。入社後に「この会社の一員として、頑張っていこう」という前向きな心理状態を促進し、新入社員のモチベーション向上に効果が期待できる。オンボーディングによって定着や戦力化が促されれば、当然ながら企業にとっても大きな恩恵が得られる。

Klein and Heuser(2008)の研究によれば、オンボーディングの機能は以下の3つに分類される。

  1. Inform:情報を与える
    例:採用サイトやパンフレット、会社説明会、入社前後のオリエンテーションなど
  2. Welcome:迎える
    例:内定式、入社式、懇親会など
  3. Guide:導く
    例:リクルーター、入社前・入社後の研修、メンター制度など

このようなオンボーディングの目線でみたときに、現在広く行われるインターンシップ・仕事体験はこれらのような機能が備わっているだろうか。まずはインターンシップの現状をみていきたい。

インターンシップの実情

三省合意による定義改正

文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合意による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(3省合意)により、インターンシップ等の学生のキャリア形成支援に係る取り組みは4つに類型化された。

  • タイプ1(オープン・カンパニー)
    主に企業・就職情報会社や大学キャリアセンターが主催するイベント・説明会を想定。
  • タイプ2(キャリア教育)
    主に企業が CSR として実施するプログラムや、大学が主導する授業・産学協働プログラム(正課・正課外を問わない)を想定。
  • タイプ3(汎用的能力活用型インターンシップ、専門活用型インターンシップ)
    主に企業単独、大学が企業あるいは地域コンソーシアムと連携して実施する、適性・汎用的能力ないしは専門性を重視したプログラムを想定。
  • タイプ4(高度専門型インターンシップ)
    文部科学省を中心に試行的に実施している「ジョブ型研究インターンシップ」や、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」で検討している「高度な専門性を重視した修士課程学生向けインターンシップ」が該当。

このうち、一定の要件を満たす質の高いインターンシップで取得した学生情報については、就職・採用活動開始日以降に限って活用できることとなった。

しかしながら、「タイプ1~4は学生のキャリア形成支援に係る取り組みであって、採用活動ではありません。」とされている。政府の要請日程より前に実質的な採用選考活動を行うことや、通常の学事日程を考慮しないインターンシップ等を実施することなど、学生が学修時間等を確保しながら就職活動に取り組める環境を損なうような事態を避けなければならないというのは、重要なポイントである。
※参考
厚生労働省:令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります

将来の入社候補者との接触機会

このようにあくまで採用活動ではないことが大前提ではあるが、インターンシップが将来の入社候補者との出会いのきっかけとなっているのは事実だ。調査時点で内々定を得ていた2026年卒学生に対し、その時点で入社意志のもっとも高い企業の主な発見ツール(方法)を聞いた結果、もっとも多かったのは「インターンシップ・仕事体験(28.7%)」だった。【図5】

【図5】入社意思のもっとも高い内々定先の主な発見ツール(方法)※複数回答/上位抜粋 / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査3月<就職活動・進路決定>
【図5】入社意思のもっとも高い内々定先の主な発見ツール(方法)※複数回答 / 上位抜粋 / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査3月<就職活動・進路決定>

実際に新入社員が勤務先のインターンシップ・仕事体験に参加していた割合をみると、2024年卒で49.3%と、2人に1人が参加していたことがわかる。【図6】

【図6】現在の勤務先のインターンシップ・仕事体験の参加率/マイナビ 2024年卒 入社半年後調査
【図6】現在の勤務先のインターンシップ・仕事体験の参加率 / マイナビ 2024年卒 入社半年後調査

またインターンシップ・仕事体験に参加した学生のうち、85.8%が参加後に企業への志望度が上がったと回答している。【図7】

【図7】インターンシップ・仕事体験に参加した企業の志望度について(単一回答) / 2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(9月)
【図7】インターンシップ・仕事体験に参加した企業の志望度について(単一回答) / 2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(9月)

以上のような、入社へのつながりや志望度の向上といった、インターンシップ・仕事体験の採用プロセスへの波及効果は否定できない。学業配慮というスケジュール的な意味で採用活動とは切り離して考える必要はあるが、将来の入社候補者との接触機会としてとらえるのは自然なことだと言えるだろう。

プログラム内容

では、インターンシップ・仕事体験にはどのようなプログラムがあるのだろうか。2026年卒の学生が参加したことのあるインターンシップ・仕事体験の内容として多かったのは、「グループワーク(企画立案、課題解決、プレゼンなど(73.5%)」「若手社員との交流会(59.8%)」「会社見学・工場見学・職場見学(57.1%)」などだった。

前年から割合が増加してはいるものの、「実際の現場での仕事体験(38.9%)」「実際の仕事のシミュレーション体験(38.5%)」といった、入社後のイメージがつくようなリアルな体験ができるプログラムはまだまだ多くないのが現状である。【図8】

【図8】これまでに参加したインターンシップ・仕事体験の内容(参加者のみ) / 2026年卒 大学生広報活動開始前の活動調査
【図8】これまでに参加したインターンシップ・仕事体験の内容(参加者のみ) / 2026年卒 大学生広報活動開始前の活動調査

オンボーディングとしてのインターンシップの効果

前述の通り、オンボーディングには「1.Inform:情報を与える」「2.Welcome:迎える」「3.Guide:導く」の3つの機能があるとされている。これをインターンシップに当てはめて考えてみたい。

1.Inform:情報を与える

現状のインターンシップでも、多くの企業が会社説明やグループワーク等による企業・仕事理解のためのコンテンツを実施しているようだ。それに加えて、実際の現場での仕事体験の機会を設けることができれば、その体験はよりリアルな情報となり得るだろう。

さらにその過程で、入社したら一緒に働くこととなる先輩社員や上司とのコミュニケーション機会をつくることができれば、人や社風の理解にもつながる。実際に現場社員にメンターとしてインターンシップに協力してもらうのが理想的だ。

インターンシップと実際に入社した場合とで、業務内容や職場環境の差異を小さくするほど、入社後のギャップも小さくなるだろう。

2.Welcome:迎える

インターンシップが新卒採用における企業広報の側面をもつ今、その後の採用選考に進んでほしい、自社への志望度を高めてほしいといった思いから、インターンシップ生をお客様扱いしてしまうケースもあるかもしれない。

プログラムの期間としても、数日~数週間のケースが多く、学生がその企業で過ごす時間は短いが、「一緒に働く仲間」としての姿勢を見せられるかは重要だ。歓迎会やメンター制度、社員証や会社のロゴ入りの備品の支給などにより、自社の一員として温かく迎え入れることで、安心感や帰属意識を高めることができるだろう。

3.Guide:導く

インターンシップに参加した学生がその後実際に入社をする可能性を考えれば、インターンシップ期間は育成のための機会となりえる。プログラムの効果を高めるためには「事前学習」と「事後学習」を両方行うことが有効であるとわかっている。

「事後学習」の重要な要素に「フィードバック」があり、政府の要請としても職場の社員が学生を指導し、学生にフィードバックを行うことが求められている。そして、その「事後学習(フィードバック)」の効果をより高めるのが「事前学習」だ。

事前学習では「このインターンシップに参加する意味・目的とは何か」「インターンシップで何を学びたいのか」を明確にできると良いだろう。

おわりに

インターンシップは、学生にとって企業理解を深める重要な機会であり、企業にとっても将来の入社候補者との接触機会として非常に有益だ。しかし、現状のインターンシップは新入社員の定着に対する効果が限定的であり、早期離職の防止という観点からは、十分な役割を果たしていないことが示されている。

オンボーディングの視点からインターンシップを再考することで、「Inform:情報を与える」「Welcome:迎える」「Guide:導く」の機能を強化し、入社後のリアリティギャップを縮小することができる。具体的には、実際の現場での仕事体験やメンター制度の導入、事前学習と事後学習の組み合わせによるフィードバックの充実などだ。

これにより、インターンシップは単なる企業広報の手段から、学生のキャリア形成を支援し、企業への定着を促進する有効なオンボーディングツールへと進化するだろう。企業と学生双方にとって、より良い未来を築くためのインターンシップのあり方を模索し続けることが重要だ。


<参考文献>
Howard J. Klein and Aden E. Heuser. “The learning of socialization content: A framework for researching orientating practices”. 2008.

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