マイナビ キャリアリサーチLab

30代前後に訪れる「クォーターライフクライシス」の乗り越え方

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部

クォーターライフクライシスとは人生の4分の1(クォーター)が過ぎる20代後半~30代前半に陥りがちな漠然とした不安や焦燥感、憂うつ感を持つこと。自身の在り方に疑問を抱いたり、「自分は何者なのか」「このままで良いのだろうか」「本当は何をしたいのか」といったことを深く考え込んだりする時期で「人生の低迷期」ともいわれる。

2001年に発行された『Quarterlife Crisis: The Unique Challenges of Life in Your Twenties』(Alexandra Robbins・Abby Wilner著)の中で初めて使用され、徐々に広がっていった。2017年にLinkedlnが行った調査(※1)によると、アメリカやイギリス、オーストラリア、インドの25歳~33歳の6,000人のうち75%が「クォーターライフクライシス」を経験しているという。アメリカやイギリスでは一般的な概念である。

「クォーターライフクライシス」に似た言葉で「ミッドライフクライシス」というものがある。これは30代後半から50代頃に陥る漠然とした不安や焦燥感を持つことを意味する。多様な働き方やライフスタイルが広まっている中、日本でも「クォーターライフクライシス」は注目が高まっている原因について、次の項目で詳しく説明していく。

クォーターライフクライシスの原因

社会の変化

一昔前の日本においては「新卒で入社した会社で定年まで働く」「20代後半から30代にかけて結婚して子供をつくる」という人生のロールモデルがあった。しかし昨今は終身雇用の崩壊やコロナ禍によるリモートワークの普及により、転職が当たり前になったり、フリーランスで働くことが珍しくなくなったりと、多様な働き方が増えた。結婚をしない人や子供を持たないという選択を取る人も珍しくなくなり、社会の複雑化が進んでいる。

先が見えにくく正解もない社会で、多様な選択肢の中から自ら考えてライフプランを立てなくてはならなくなり、不安が生じやすくなっているという背景がある。

SNSの普及

SNSの普及により、他人の成功や幸福が可視化されるようになった。同年代が結婚や仕事で成功している様子を見て、焦りや劣等感を持つ人が増えている。

たとえば、仕事に集中して取り組んでいる期間に同世代の友人が結婚や子育てをしている投稿を見て不安になる人もいれば、育休や産休を取っている間に、友人が着々とキャリアを積んでいる姿を見て自分との差を感じてしまい不安になったりする人もいる。

また、初婚年齢が上がっていたり、出産の時期が人それぞれになったりと、ライフイベントが起こるタイミングは人それぞれになった。そのため選択肢が増え、選ばなかった選択肢を見て不安が生じるのだ。SNSの普及により選ばなかった選択肢が目に入りやすくなったことで、より他人と自分を比べやすくなってしまった。

理想と現実のギャップ

30代に近づくと、社会に出たての頃とは違い、実際の自分の実力や仕事の現実が見えてくる。自分が想像していたような人生を歩めていなかった場合、そのギャップにより「このままでは良くないのでは」「本当は何をしたいのだろうか」という不安や焦燥感を持ちやすくなる。意欲的な人やまじめな人ほど、計画通りの人生を歩めていないことに戸惑い、葛藤が生じやすい。

クォーターライフクライシスの5つのフェーズ

グリニッジ大学のオリバー・ロビンソンによると「クォーターライフクライシス」には5つのフェーズがあるという。

フェーズ1 選択への後悔

仕事や恋愛、あるいはその両方において自分のした選択のせいで身動きができなくなっているように感じる状態。

フェーズ2 思考の変化

フェーズ1を受けて、「このままでは良くない」と考える段階。悩んでいた段階から行動の準備をはじめる段階になる。

フェーズ3 自分との葛藤

フェーズ2を受けて、実際に行動に移す段階。仕事をやめたり恋人と別れたり、自分を縛っていると感じていたものから離れる。あらゆるものから距離を置き、自分と向き合う状態に入る。

フェーズ4 人生の再建

フェーズ3で自分と向き合い、理想にむかってゆっくりとスタートを切る段階。「クォーターライフクライシス」ではこのフェーズ4に早く着くかどうかで解決するかが左右される。

フェーズ5 人生の選択

ここまで達して初めて「クォーターライフクライシス」は解決したといえる。みつめなおした自分の理想や関心ごとに関して熱意を持って取り組むことができる段階である。

クォーターライフクライシスを乗り越えるには

上記のフェーズ5まで達すれば「クォーターライフクライシス」を乗り越えたといえる。ではどのようにして段階を進めていけば良いのだろうか。

悩みを整理する

不安や焦燥感は漠然としていることでさらに増していく。自分が抱えている悩みや不安、モヤモヤを具体的に整理して可視化することで「漠然とした不安」から「解決すべき問題」になる。

「私は今『クォーターライフクライシス』に陥っている」と認識するだけでも悩みの解消の手助けになる。「クォーターライフクライシス」の早期解消のためには、悩みを可視化して自分を客観的に観察することが重要だ。

同じ悩みを抱えている人を探してみる

調査にもあったとおり「クォーターライフクライシス」は世界中の人間が突き当たる問題である。同じような悩みを抱えている人や過去に悩んでいた人と接して、どのようにして脱したかを聞くことも一つの手だ。

他人の解消事例を聞くことで「クォーターライフクライシス」を解消する手がかりを見つけるきっかけになったり、悩んでいるのは自分だけではないことを認識するだけで気持ちが軽くなったりする。

他者と比べることをやめる

「クォーターライフクライシス」の原因の一つが「他者と比べることにより焦燥感が生じる」ことだ。他者と比べることをやめるには、比較対象を過去の自分にしてSNSから距離を置くなどして、他者と比べにくい環境をつくることが重要だ。

他者との比較に関して理解を深めるためによく取り上げられるのが『社会的比較理論(Social Comparison Theory)』(※2)だ。『社会的比較理論』とは、アメリカの社会心理学者レオン・フェスティンガーが1954年に提唱した理論で、個人が自分の価値を他人との比較に基づいて決定するという考え方である。他者と比較する人は、向上心を高めることができる一方で深い不満や罪悪感、嫉妬を感じる傾向が高くなるという。

他者と自分を比べることは必ずしも悪いことではないが、SNSの使用は自尊心の低下を招くことが多い。結果的に「クォーターライフクライシス」に陥る原因となる。どうしても他者と比べてしまうときは、その比較対象のどういった部分が自分より優れていると思ったのか、何をうらやましいと思ったのかを深く掘り下げていくことで、本当の自分の望みが見えて、悩みの解消につながる場合もある。

マイナビキャリアリサーチLab内では、仕事やキャリアにおける悩みやその解消方法についての調査や個人の体験談を掲載している。併せてご覧いただきたい。

まとめ

社会や生き方の多様化により、人生のロールモデルはなくなりつつある。そんな社会で不安を持たずに生きていくことは難しいだろう。20代後半~30代前半で悩みを持つことは当たり前で「クォーターライフクライシス」は誰にでも訪れる。

漠然とした不安や焦燥感は不快だが、だからといって計画を立てずに退職や転職をするといった衝動的な行動は禁物だ。「クォーターライフクライシス」を脱するためには、改めて自分をみつめなおし、自分の中にある悩みと向き合うことが重要である。


<参考文献>
※1: “New LinkedIn research shows 75 percent of 25-33 year olds have experienced quarter-life crises” Linkedin Pressroom. 2017/11/15.
https://news.linkedin.com/2017/11/new-linkedin-research-shows-75-percent-of-25-33-year-olds-have-e, (参照2024-09-05)
※2: Leon Festinger. 1954 “A THEORY OF SOCIAL COMPARISON PROSESSES”.

関連記事

コラム

老後キャリアの需要と供給

コラム

年代別の「転職率」と「転職理由」とは? 20代・30代・40代・50代それぞれ解説

【20代正社員に聞いた】<br>仕事・私生活の意識調査2024年(2023年実績)

調査・データ

【20代正社員に聞いた】
仕事・私生活の意識調査2024年(2023年実績)