マイナビ キャリアリサーチLab

生成AIがもたらす就職活動の変化~2024年卒から2025年卒の変化について

中島英里香
著者
キャリアリサーチLab研究員
ERIKA NAKASHIMA

AIの技術発展は目覚ましく、経済成長や社会課題解決への貢献が期待されており、日本においても人手不足解消などを目的としてAIの積極的な活用が求められている。その中でも文章や画像、音声などさまざまなコンテンツを生成できるいわゆる生成AIはOpenAI社が開発した対話型AI「ChatGPT」の公開を皮切りに広く普及し始めた。 

日本における生成AIの利用状況は総務省が発表した2024年版情報通信白書によると、個人での利用経験は9.1%と低い状態である。しかし、潜在的な利用意向は7割程度あり、今後利用率は高まっていくと予想される。また、企業において「活用の方針を定めている」割合が42.7%と半数には満たないものの少なくはない。今後も技術発展により個人・企業どちらの利用率も高まっていくことが想定される。 

本コラムでは就職活動という文脈における現時点での生成AIの利用について、マイナビが行った学生調査と企業調査をまとめ、紹介する。 

学生の生成AI利用の現状

利用の有無が逆転

マイナビの調査で就職活動中の学生の生成AI利用について聞いたところ2024年卒と2025年卒で大きな変化が見られた。利用経験あり(※1)の学生は2024年卒から2025年卒にかけて23.7pt増え、利用経験なし(※2)の学生は23.6pt減ったため、利用経験の有無については1年間で逆転した結果となった。この結果から生成AIの利用が大学生へも広がっている様子がうかがえる。【図1】

※1 「使ったことがある(就職活動以外の場面のみ)」「使ったことがある(就職活動の場面のみ)」「使ったことがある(就職活動の場面、就職活動以外の場面ともに)」の合計 
※2 「使ったことはないが、生成AI(ChatGPT等)のことは知っている」「使ったことはないし、生成AI(ChatGPT等)のことも知らない」の合計 

【図1】 学生の生成AI利用について 
引用元:2024年卒大学生活動実態調査(5月)/2025年卒大学生活動実態調査(5月)
【図1】 学生の生成AI利用について 
引用元:2024年卒大学生活動実態調査(5月)/2025年卒大学生活動実態調査(5月)

利用場面を聞いたところ、就職活動とそれ以外の場面ともに利用している学生がもっとも多く、就職活動のみの学生がもっと少なかった。そのため、就職活動のために生成AIを利用しているというのではなく、普段利用している流れから就職活動でも利用していると思われる。 

また、就職活動以外の場面のみと回答した学生もいるため、利用している学生全員が就職活動でも利用するという訳ではないことが示された。【図2】 

【図2】 学生の利用場面について 
引用元:2024年卒大学生活動実態調査(5月)/2025年卒大学生活動実態調査(5月) 

身近になった生成AI

では、学生はどのように生成AIを使っているのか。詳細な利用方法を聞いたところ、「大学の授業やそれに関する学習(63.2%)」や「大学のレポート・課題(49.6%)」といった大学での学習から「趣味での活動(33.5%)」と身近な場面で広く利用されていることがわかった。 また、一部の学生においてはインターンシップ・仕事体験の際に利用をしていることが示された。【図3】 

図3 学生の具体的な生成AIの利用について 
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(5月)
【図3】 学生の具体的な生成AIの利用について 
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(5月)

就職活動での生成AIの利用状況

どのように利用されているか

図2より就職活動でも生成AIが利用されていることが示されたが、具体的にはどのように利用されているのか。調査の結果よりエントリーシートの作成や推敲といったテキスト生成で多く利用されていることがわかった。その他には自己分析や面接対策もあげられた。【図4】

図4 学生の就職活動時の具体的な生成AIの利用について 
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(5月)
【図4】 学生の就職活動時の具体的な生成AIの利用について 
引用元:2025年卒大学生活動実態調査(5月)

生成AIでは文章の生成・推敲が容易なため、エントリーシートに関する利用が高い結果となったと思われる。また、ただ単に文章を生成させるだけではなく生成AIとの対話による自己分析や想定問答を生成させるといった面接対策などの利用もあげられておりさまざま方法で利用されていることがうかがえる。

学生が生成AIを就職活動で使うことについて企業視点の調査

企業は学生が生成AIを使っていることを感じ取っているか

企業に対して学生が生成AIを就職活動で利用している実感を聞いたところ、実感している企業は12.3%であった。前年と比較すると7.7pt増加してはいるものの実感している企業は学生の利用率と比較すると少ない。これは学生の生成AI利用があくまでも補助的なものにとどまっているからだと推測する。【図5】

【図5】 学生が就職活動で生成AIを利用している実感について 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 
【図5】 学生が就職活動で生成AIを利用している実感について 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 

図4を見て生成AIが使われているとわかる可能性が高いのはエントリーシートの作成であろう。しかし、これも生成AIが生成した文章をそのまま利用する、面接時の回答がエントリーシートの内容と矛盾してしまうといったようなケースではありえるだろうが、ほとんどの場合、生成された文章をより自分自身の経歴に合うように修正するだろう。そのため、企業側の実感としては低くなっていると考えられる。

学生が生成AIを利用することについて企業の見解

学生の利用については肯定的な見解が増えている。企業に学生が生成AIを利用することについて聞いたところ、「利用してほしいと思う」(※3)という回答は2024年卒時には44.1%だったが2025年卒時には57.7%と13.6ptも増えている。 【図6】

【図6】 学生が生成AIを利用することについて 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 
【図6】 学生が生成AIを利用することについて 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 

その背景としては、企業側でも生成AIの利用が広がったためだと考えられる。2024年版情報通信白書の結果からも4割ほどの企業が生成AIの活用方針を定めて利用しており、学生同様に企業も生成AIの利用が身近になったのである。この変化の結果、学生の利用も肯定的に捉えられるようになったと想定される。 

※3「積極的に活用してほしいと思う」、「使い方を慎重に検討したうえで活用してほしいと思う」の合計 

企業側の対策は?

学生が生成AIを利用することについて対策を聞いたところ、多くの企業は対策する予定はないという回答であった。【図7】 

【図7】 学生が生成AIを利用することに対する対応 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 
【図7】 学生が生成AIを利用することに対する対応 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 

これは上記でも述べたように学生はあくまでも補助的なツールとして生成AIを利用していることが多く、選考過程において大きな影響が出ていないためだと推測される。また、対応する企業の中で多くあげられた対応策は「面接での質問内容を工夫する(21.3%)」や「エントリーシートの内容を精査する(21.3%)」であった。どちらもエントリーシートの作成に生成AIが使われやすいと想定した対応策であった。 

生成AIの浸透がもたらす影響

生成AIの利用が就職活動で浸透するにあたり影響が出る可能性があるものとして、企業が考える学生の「優秀さ」の指標があげられる。

企業はどういった点を学生の優秀さとしてみているのか調査を行ったところ、「(文書を含む)言葉で伝える力(45.4%)」が学生の優秀さの要素としてあげられていたが、たとえば、生成AIでエントリーシートの作成・推敲を行うことでより良い文章を作ることができれば「文章で伝える力」については学生間で差が見られなくなる可能性がある。

この場合に差が生まれるのはいかに生成AIでより良い文章を作れるかという“生成AI活用スキル”となる。また、図8からわかるように「学習能力の高さ」や「知的好奇心」といった資質についても優秀さとしてあげられているが、生成AIを活用しているということは現在注目を集めているテクノロジーへの知的好奇心や学習能力の証明とも考えられる。【図8】 

【図8】 企業が考える学生の「優秀さ」について 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 
【図8】 企業が考える学生の「優秀さ」について 
引用元:2024年卒企業新卒採用活動調査/2025年卒企業新卒採用活動調査 

このように今後、生成AIの利用が広がることによって学生に対する評価指標や評価方法については見直しを迫られるかもしれない。

まとめ 

マイナビが行った調査により2024年卒から2025年卒にかけて学生の生成AI利用は大きく増え、就職活動においても利用されていることが示された。企業も学生が就職活動において生成AIを利用することに対しては肯定的であることがわかった。その背景としては生成AIが普及し、身近なツールとなったことがあげられる。 

学生が就職活動で生成AIを利用している現状において、多くの企業は特別に対応する必要はないという考えだったが、一部の企業では学生がエントリーシートの作成で生成AIを利用することに対して、エントリーシートの内容の精査や面接内容の工夫などで対策を行っていた。 

生成AIがもたらす経済効果は大きく、利用率は今後も高まっていくと考えられる。さらには、多くの課題を解決するために生成AIを使いこなすことも1つのスキルとして評価されるようになるかもしれない。その際、企業に必要なのは生成AI対策ではなく、上手く活用している人材の見極めとなるだろう。このように生成AIによって就職活動にも大きな変化が生まれる可能性がある。そのため、マイナビキャリアリサーチキラボでは今後も就職活動文脈における生成AIの影響について注視していく。

マイナビキャリアリサーチラボ 研究員 中島英里香

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