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インドの就職・転職事情~インドのジョブ型雇用

キャリアリサーチLab編集部
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キャリアリサーチLab編集部

Mynavi Solutions Indiaの伊藤と申します。
Mynavi Solutions Indiaはマイナビグループのインド子会社としてインド企業への投資や買収を通じてグループの海外展開を推進しており、現地法人を開設してから3年が経ちます。

このコラムを通じてインドでの活動、文化、ビジネス環境などの情報発信を通じて、インドに興味を持っていただいたり、採用やビジネスに少しでもお役に立つことができれば幸いです。
今回はインドの就職・採用事情について、少し抽象度が高くなりますが、現地の情報をお届けできればと考えています。

まずはインドについてざっくり情報(2022年3月現在)

インドは28の州と8つの連邦直轄領から成る国で、面積は日本の約9倍、人口は13億8000万人。ほか宗教などを説明した表

インドはスケールが大きすぎて簡単に語れる国ではありませんので、上記はあくまで基本情報としてご理解いただければ幸いです。

インドで働く~基本はジョブ型雇用

インドの主な雇用はジョブ型雇用で、Job description : 職務内容に応じて人材の採用を行います。また新卒と中途採用で明確な区別は無く、あくまでJDに応じた能力度合いによって給与・待遇が決まっていきます。

そのため同じタイミング、同じポジションで採用された人材のサラリーに大きな差が出ることも起こります。ポジションや階級が上がっていくことで複数のチームを持つことでいわゆるジェネラリスト(総合職)になる人材もいますが、基本的には特定の分野でキャリアを積み重ねていきます。

また、日本で言う社内でのジョブローテーションなども基本的には無いため、新しいキャリアや経験を獲得するにはほとんどの場合で転職が必要になります。

インドの大学進学率、そして学生の人気は …?

インドでは大学に毎年進学する人数は3000万人前後と言われており、進学率は25%程度と言われていますが、全体の約3割の900万人程度が卒業します。

その中でもコンピューターサイエンスなどIT関連の学部は人気で卒業する人数は毎年100万人を超えると言われています。日本では毎年60万人前後が大学を卒業すると言われていますが、インドではそれ以上のIT人材が毎年高等教育機関から輩出されています。【図1】

日本とインドの教育の違いをあらわした図。日本でいう小学校から高校までの学校数はインドは日本の27.9倍、教員数は6.1倍、児童生徒は15.6倍。
【図1】 出典:JETRO

インドにも財閥や各業界にローカルの大手企業は存在しますので、業種に限らず地場大手と呼ばれる企業への就職はもちろん人気ですが、外資企業の参入や投資が多い国でもあるため外資企業への就職も自身のステップアップや職務経歴を向上させるために人気です。

また、スタートアップへの投資も非常に活況な国でもあるため、近年ではスタートアップへの就職も注目度が増しています。

厳しい就職事情、当たり前のステップアップ転職

前述のようにジョブ型雇用では、日本のメンバーシップ型のように大事に育て中長期での成果を期待する文化ではないことから、パフォーマンスに対して厳しく評価され、試用期間の2~3ヶ月で解雇される事は普通に起こりえます。

また非常に厳しい学歴社会でもあるため、新卒者に関しては上位15%の上位校以下の学生は新卒の平均初任給3万ルピー/月(約4.5万円)を得ることが難しいという厳しい就職事情になっています。【図2】

新卒者の15%は就業の選択肢の幅が広く給料も十分であるが、それ以外の85%は就職に苦戦し平均給料をもらうことが難しいことを表現したピラミッド
【図2】
*Tierとはエリアやレベル感を区別するもの。TOP Tier, Tier1がいわゆる優秀層、Tier2~が一般的な大学を指す。

背景として、大学の数自体はそれなりにあるものの、中身の改善や更新に投資する資金は無く、ビジネスの現場では日々新しいスキルが求められる一方で教育機関では20~30年前のカリキュラムを使っていたり講師の質が低かったりするという問題があるため、雇用側のニーズと働き手のスキルに大きなギャップがあります。

政府も一部の上位校に対しては国の予算を使って投資をするものの、それ以外に対してはサポートを行う予算が追いついていない状況です。そのため、新卒者に関しては、低い賃金でまずは就職をして、スキルが身に付けば待遇の良い企業に転職するということは頻繁に起こるので、特に若手のうちは1~2年で転職を繰り返す事は当たり前となっています。また、企業への就職よりもギグエコノミーに従事する労働者、たとえばUberドライバーの方が満足なサラリーを手にできるケースもあるため、大学を卒業してもギグワーカーとして生計を立てる人も少なくはありません。

しかしながら優秀な人材の流出は不利益でしか無いため、大手企業や著名なスタートアップを中心に、長く働いてもらうためにミッション・ビジョン、パーパスの再定義や雇用環境を整備する動きは出てきてはいるものの、1年以内の離職率が30%以上という企業は珍しくありません。そのため、日本のように定着のための従業員研修というようなビジネスモデルは現状ではあまり成り立っておらず、早期にパフォーマンスを発揮できる人材を発掘するためのスクリーニングが求められており、それらのビジネスモデルへの投資が活発な国でもあります。

日本企業がインドで採用を行うには

新卒採用であれば日本と同様に、キャンパスリクルート(学内イベントや面接会)はあります。前述の通り一部の優秀層の学生には企業も積極的にアプローチを行いますが、それ以外の学生は企業からのアプローチが少ないため、インターンやリファラル(知人紹介)、または中途採用と同様に求人サイトやLinkedInなどのSNSを通じて就職活動をしています。

インドでも複数の求人サイトが存在していますが、需要と供給のバランスから、1回の求人掲載に対して平均して100~1000倍の応募があり、 Job description : 職務内容に適応していない求職者からの応募が8割は当たり前ということが課題として顕在化しています。企業の人事部もそれを捌くことにコストを割きたくないと考えているため、インタビューまでのスクリーニングプロセスをエージェントに委託したり、最近ではスクリーニングをするためのAIマッチングやSaaS*を活用する企業も増えてきています。
*SaaS(サース)一般的にクラウドで提供されるソフトウエアのことを指す

そのような背景から、スタートアップに関しては、採用にコストをかけることができず、より短期的な成果が必要なため、LinkedInやリファラルでのダイレクトリクルーティングが多く、規模がそれなりに大きい企業で採用人数も多ければ求人サイトやエージェントも使いながら採用活動を行っています。

インドという市場とその特徴

経済成長、投資ターゲットという文脈では、世界でトップクラスのポテンシャルがあると言えますが、その分、国の政策もドラスティックに変更されるなど、変化に対応していくことが大変な国でもあります。

例をあげると、現政権に交代してから、汚職防止、フィンテック推進ということから、「翌日から高額紙幣(日本で言う一万円札)の使用禁止、交換の期限は約3週間」という政府の発表から実際に高額紙幣の使用が廃止になり、インド社会が大混乱に陥るというような、日本では考えられない事態が普通に起こります。法律においても未整備な部分も多く、日本からの投資においても提出する書類や手続きが異なってくるなど、対応が大変な事も多くあります。

ネガティブなことも多い一方で、インド人は基本的にポジティブでエネルギッシュです。言葉にするのが難しいですが、デリー空港に降り立ったときに感じる得体の知れないエネルギーは日本には確実に無いものだと感じます。

社会課題も多いことから、それに対する新しいビジネスが日々生まれ、それに触れながら国の成長を身近に感じることができます。また、現在の投資業務から、自分よりも若い起業家や、何倍も経験のあるベテラン経営者との交渉は自分の力不足を痛感するため大変ハードで骨が折れますが、その分学ぶことも多く、自分のキャリアにおいて大変価値のあるもので、インドで仕事ができることに日々感謝をしながら生活をしています。

次回以降機会があれば、スピード感のあるインドで企業が生き残るために何が必要か、などをお伝えできたらと思います。


著者紹介
伊藤秀和
Mynavi Solutions India Pvt. Ltd. 代表取締役社長
2009年新卒で専門商社へ入社後、2012年マイナビへ中途入社。就職情報事業本部で企業向け新卒採用企画営業に従事した後、グループ経営統括本部での海外事業企画業務を経て、2018年10月より現職。
インドに存在する社会課題解決策へ投資を通じて、マイナビグループによるCSV(共通価値の創造)の実現と事業成長を目指して現地で活動中。

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