アルバイトのリファラル採用は定着するのか|業種や報酬の有無から考える
目次
企業のアルバイト人材の新規確保は困難になっている
企業が2021年にアルバイトの人手不足を感じた割合は58.8%と前年より2.5pt増となり、業種別でみると[警備・交通誘導(セキュリティ等)]が2020年から連続で人手不足を感じた割合がもっとも高くなった。またワクチン接種の拡大や緊急事態宣言の解除による経済活動の再開を受けて[販売・接客(パチンコ・カラオケ・ネットカフェ)]が14.7pt増、[ホールキッチン・調理補助(飲食・フード)]が9.8pt増と前年より伸長しており、緊急事態宣言解除後の2021年10月以降はアルバイトの人手が不足して営業を再開できない店舗もあったという【図1】。
実際に2021年に人手不足を感じたと回答した企業に人材活用で困っていることを聞いたところ、「募集しても、必要な人数が集まらない」が74.5%と突出してもっとも高く、次いで「採用してもすぐに辞めてしまう」が49.3%となっており、人手不足の状況下で企業は新規人材の確保に苦戦している様子がうかがえる【図2】。
そのような中で人手確保のために企業が2021年に実施して効果があった施策は「給与の増額」がもっとも多く、次いで従業員、知人、親族等からの紹介を活用した採用手法である「リファラル採用の導入・強化」となり、「リファラル採用の導入・強化」は2019年と比べて19.7pt増と顕著な伸びがみられた【図3】。これまでも「友だち紹介」などの形でアルバイト採用でもリファラルは存在していたが、最近では人材獲得のための明確な“制度”として活用している企業が増えているようだ。そこで、アルバイト採用におけるリファラル採用の実態についてみていきたい。
アルバイトの人手不足を感じた業種ほどリファラル採用実施率が
高い傾向
2021年にアルバイト採用でリファラル採用を「実施している」企業は59.5%と半数を超え、そのうち69.2%が採用に繋がっている【図4】。
業種別でみると、慢性的な人手不足が続いている[警備・交通誘導(セキュリティ等)]でリファラル採用の実施率がもっとも高く、次いで、前年より人手不足を感じた割合が増した[保育][販売・接客(パチンコ・カラオケ・ネットカフェ)][ホールキッチン・調理補助(飲食・フード)]においてリファラル採用の実施率が高い傾向にあり、これらの業種は約7割がリファラル採用経由で採用に繋がっていることがわかる【図5】。
リファラル採用と似た採用手法に縁故採用があるが、縁故採用は求職者との関係性や人柄に重きをおき、入社を前提とした採用手法という側面を持つため、通常の選考フローを設けない場合が多いことから企業の採用条件にマッチしない人材を採用するリスクもあるという。
一方でリファラル採用は、企業の通常の選考フローで実際に働いている従業員等に紹介してもらった求職者の採用判断を行うため、求職者と企業の双方にとって入社後のギャップが少なく、ミスマッチや求職者の早期離職を防ぐことができるという点があり、企業が抱える「募集しても、必要な人数が集まらない」「採用してもすぐに辞めてしまう」という課題を解決し、新規人材の獲得を行うことができる有効な手法の一つとして注目を集めていると考えられる。
アルバイトのリファラル採用でインセンティブを支給することは
有効なのか
企業が新卒採用や中途採用でリファラル採用を行う場合、求職者を紹介した従業員に対して金銭の支給や人事評価の加点を行うなどという形でインセンティブを支給する場合もあるという。そこでアルバイトのリファラル採用を実施した企業のインセンティブ有無をみてみると、「リファラル採用を導入しているが、インセンティブは支給していない」が45.8%ともっとも高く、次いで「入社して職場に配属された段階で、インセンティブを金銭で支給している」「入社承諾を貰い、入社が確定した段階でインセンティブを金銭で支給している」となり、アルバイト採用でもインセンティブを金銭で支給する方法をとっている企業は35.7%と一定数あることがわかった【図6】。
次に、リファラル採用経由で採用に繋がった企業のインセンティブ支給方法をみると、「採用には繋がらなかった」は「リファラル採用を導入しているが、インセンティブは支給していない」でもっとも高く、インセンティブ支給は採用への繋がりやすさという点から有効であるといえる。加えて、採用に繋がった割合がもっとも高かったのは「入社承諾を貰い、入社が確定した段階でインセンティブを金銭で支給している」、次いで「入社して職場に配属された段階で、インセンティブを金銭で支給している」となっており、インセンティブを“金銭”で支給している企業の方が、よりアルバイト採用に繋がっていることがみてとれる【図7】。
2022年のアルバイト採用予定について「増やす予定」とした企業は34.4%と前年より8.0pt増となっていることから、今後労働人口の減少が進むことに加えて、ウィズコロナ・アフターコロナ時代が到来して通常の生活に戻ることにより、アルバイト人材の獲得競争は激化すると考えられる【図8】。そのため、一つの採用手法としてアルバイト採用においてもリファラル採用を行う企業や、リファラル採用実施時にインセンティブを金銭で支給する企業は増加していくのではないだろうか。
アルバイトのリファラル採用は学生採用と親和性が高いと考えられる
今後、アルバイト人材を求める企業が増加することで企業の求人数は増え、求職者は複数の企業の中から自身の求める条件に合致する入社先を選ぶことになるため、企業は”これまでより個々の”求職者の求める情報を届けることが重要となるだろう。
そこで、求職者が求人に応募する前に、給与などの基本的な情報以外で知りたい情報のうち、知れなかった情報について聞いたところ、「職場の人間関係」がもっとも多く、次いで「同じ職場で働く人の雰囲気」「職場の雰囲気」となった【図9】。職場の人間関係、働く人や職場の雰囲気といった情報は求人票のテキストだけでは得ることが難しいため、従業員、知人、親族等からの紹介を活用した採用手法であるリファラル採用は求職者が求めるリアルな現場の情報を届けることができるといった点で有効だと考えられる。
実際に求職者が応募先を決めるまでに利用した情報源を属性別でみると、学生において友人や知人、家族からの話を聞いた割合が高くなった。
加えて採用決定後から入社までの期間で利用した情報源としても学生において求人検索エンジン、求人サイトに次いで友人や知人、家族からの話が上位となっている【図10】。学生は応募先を決める段階と入社を決める段階のいずれにおいても友人や知人、家族からの話を情報源とする傾向があることから、アルバイトのリファラル採用は特に学生の採用と親和性が高いと考えられる。
学生のリファラル採用は、友人や家族に勧めたいと思ってもらえる
職場環境を整えることがカギ
企業がリファラル採用を行う場合、従業員が知人や友人に自身の勤める企業を勧めたいと思ってもらうことが不可欠であるが、リファラル採用と親和性の高い学生はどのようなアルバイト先を友人や知人、家族に勧めたいと思うかについてみていきたい。
大学生に現在のアルバイトについてあてはまるものを、職場を家族や友人に勧めたいと思えるか別で聞いたところ、「そう思う」と回答した人は「そう思わない」と回答した人より、現在しているアルバイトについて「やりがいを感じる」が37.8pt上回り、反対に「単純な作業である」は16.1pt下回った【図11】。大学生はアルバイトでやりがいを感じている人の方がアルバイト先を家族や友人に勧めたいと思っている割合が高いことから、学生のリファラル採用をする上では、単純作業だけではやりがいを感じにくいため、任せる仕事内容や従業員間でのコミュニケーションの取り方を工夫するなど、従業員が“やりがいを感じ”て働くことのできる環境を整備していくことが重要と考える。
まとめ
少子高齢化社会が進み、労働人口が減少する中でアルバイトの採用手法も多様化し、今後アルバイト人材の獲得競争は激化していくとみられる。アルバイト人材を獲得する上で、リファラル採用は求職者と企業の双方にとって入社後のギャップが少なく、ミスマッチや求職者の早期離職を防ぐことができるという点から、企業が抱える「募集しても、必要な人数が集まらない」「採用してもすぐに辞めてしまう」という課題を解決し、新規人材の獲得を行うことができる有効な手法となり得る。そのため、今後アルバイト採用においてもリファラル採用を実施する企業が増加すると考えられる。
しかし、企業がリファラル採用を活用するためには、自社で働く従業員が自社を知人や友人に“紹介したい”と思うことが不可欠であり、そのために企業は自社で働く従業員の満足度を向上させることが重要となるだろう。このようにアルバイトのリファラル採用の活用が進むことは、企業がアルバイトの働く環境を改革・整備することにも繋がっていくと考える。
キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実