良い人か悪い人かを決めなくてもいい:味方とも敵とも言い切れない相手との付き合い方

伊達 洋駆
著者
株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役
DATE YOKU

「フレネミー」という言葉を耳にすることがあります。friend(友人)とenemy(敵)を組み合わせた言葉で、親しげに接してくる一方、敵のような面も見せる相手を指して使われます。

このような相手が友人であれば、付き合いに疲れた時に距離を置くこともできます。しかし、職場では相手を避ければ済むとは限りません。同じチームなら一緒に仕事を進める必要がありますし、上司であれば指示を受け、評価される関係が続きます。取引先や他部署の人でも、その人が仕事に必要な情報や専門知識を持っていれば、関わらざるを得ない場面があります。

仕事では頼りになるのに、話すと疲れる同僚。普段は助けてくれるのに、時々こちらを傷つける上司。フレネミーと同じ概念ではありませんが、こうした関係を考える手がかりになるのが、「両価的な関係」の研究です。同じ相手に対して、好意と反発、信頼と警戒の両方を感じている関係を指します。相手の良い面と悪い面のどちらか一方だけでは捉えきれない関係です。

こうした相手との付き合いが難しいのは、悪い面があるからだけではありません。助けてもらった経験もあり、単純に避けにくいことがあります。「今回は頼って大丈夫だろうか」「また嫌な思いをするのではないか」と、相手との接し方をその都度考えることになります。

そこで本稿では、両価的な関係の研究をもとに、こうした相手との関係がなぜ負担になるのかを見ていきます。その上で、相手を良い人か悪い人かと決めつけず、職場でどのように付き合っていけばよいのかを考えます。

頼りになるのに、なぜ付き合うと疲れるのか

両価的な関係が厄介なのは、嫌なことをされるからだけではありません。次に何が起こるかを読みにくいところに負担があります。

ドイツの大手製造業で働く人を対象にした研究では、上司の支援的な行動と負担をかける行動を別々に尋ね、両方が高い状態を上司への両価性として捉えました[1]。参加者には心理的なストレスを尋ねるとともに、勤務日から翌朝にかけて唾液を採取し、ストレスホルモンであるコルチゾールも測定しています。

その結果、上司に対して「支えてくれる面もあるが、負担をかけられる面もある」と感じる程度が強い人ほど、起床後や日中のコルチゾール分泌が多くなっていました。この傾向は、上司の支援的な行動と負担をかける行動、それぞれの影響を考慮しても確認されています。

本人が感じているストレスについては、少し結果が異なりました。上司の支援的な行動と否定的な行動もあわせて考慮すると、両価性そのものとの独自の関係は明確ではなく、否定的な行動との関係が残りました。一方、身体の反応では、良い面と悪い面が同じ上司に同居していることにも負担が伴う可能性がうかがえます。

なぜ両価的な関係は負担になるのでしょうか。研究者は、その理由の一つとして、相手の行動を予測しにくいことを挙げています。いつも厳しい上司なら、こちらも身構えられます。いつも支援的なら、助けを求める判断もしやすいでしょう。ところが、昨日は助けてくれた人が今日は仕事を妨げるとなると、「今回は大丈夫か」「この発言には別の意図があるのか」と考える作業が増えます。

上司に企画案を見せる時を例に考えてみましょう。前回は丁寧に相談に乗ってくれたのに、別の機会には皆の前で強い口調で責められた経験があると、企画の内容以外にも気を配ります。今日の機嫌はどうか、誰が同席しているか、どこまで話してよいか。仕事に使うはずの注意が、相手を読むことにも割かれます。

何をしてくる人かに分解する

相手の出方をその都度読もうとすると、それだけで負担が増えていきます。そこで、相手が「良い人」なのか「悪い人」なのかを考えるより、実際にどのような行動を取る人なのかに目を向けてみます。

ここから紹介するのは、両価的な関係の研究から考えられる付き合い方です。対処法の効果が確かめられているわけではありませんが、研究で分かっていることを職場での行動に置き換えてみます。

「あの人は信用できるのか」という問いには、なかなか答えが出ません。頼りになる出来事もあれば、警戒したくなる出来事もあるからです。それなら、一人の人物として評価するのではなく、「専門的な知識は正確」「急ぎの依頼には応じてくれる」「人前では強い言い方をする」「自分の評価が関係する場面では情報を出してくれない」というように、経験した行動を分けて捉える方が分かりやすくなります。

これは、両価性の研究で用いられている考え方とも重なります。相手の良いところと悪いところは別々に捉えます。「よく助けてくれる」と感じているからといって、「嫌な思いをさせられる」と感じなくなるわけではありません。一人の相手に対して、どちらも強く感じることがあります。

この見方を実際の付き合いにも当てはめると、「信用できるかどうか」という大きな判断をしなくても済みます。たとえば、技術的な相談には詳しく答えてくれる一方、役割分担では自分に有利な主張をする人なら、専門的な助言は受けつつ、担当範囲については文書で確認できます。

相手が本当は何を考えているのかまで分からなくても、どのような場面で、どのような行動を取りやすいかは見えてきます。それが分かれば、頼るところと注意するところを分け、自分の接し方を決めやすくなります。

一人に支援も評価も情報も依存しない

両価的な相手が、自分を支えてくれる人でもあると、関係はさらに難しくなります。困った時には頼りたい一方で、その人に傷つけられた経験があれば、素直に助けを求めにくくなります。支援してくれる相手と警戒する相手が同じだからです。

この点を考える手がかりになるのが、同僚からの支援と地位喪失を調べた研究です[2]。働く人を7週間追跡した調査では、普段から同僚の支援を多く受けていた人ほど、自分の地位が下がったと感じた週の翌週に、仕事へのエンゲージメントが低くなっていました。ところが、別部署や社外の専門家仲間から受ける支援では、同じ傾向は見られませんでした。

続く実験では、支援的なチームの中で周囲からの尊敬を失うと、同僚に対する両価性が強まり、それが不安を通じて仕事へのエンゲージメントの低下と結びついていました。普段は支えてくれる同僚たちに対して、同時に否定的な感情も抱くようになることが、負担につながったと考えられます。

問題は、同僚から支援を受けること自体ではありません。支援してくれる相手と、警戒したくなる相手が重なっていることです。そうなると、一人の相手に頼りながら、同時にその人の反応にも気を配ることになります。

この結果を職場での付き合い方に引きつけると、両価的な相手だけに頼りすぎないという考え方ができます。関係を断つ必要はありません。

仕事の相談を一人の同僚に集中させているなら、別部署にも話せる人をつくる。上司からしか自分の仕事の評価を聞けないなら、プロジェクトで一緒になった人からもフィードバックをもらう。専門的な情報を一人だけが持っているなら、資料や議事録に残し、他の人もアクセスできる形にする。

小さなことでも違いは出ます。会議前に別の人にも資料を見てもらう。判断に迷ったら部門外の人にも意見を聞く。業務上のやり取りを口頭だけで終わらせず、メールやチャットにも残す。頼る先と確認する先を少しずつ増やしておけば、一人の態度の変化に仕事全体が振り回されにくくなります。

仕事上で頼れる部分に絞って関わる

頼る先を増やしても、両価的な相手と関わらずに済むとは限りません。その人が仕事に必要な知識や経験を持っていれば、力を借りた方が良い場面もあります。人として付き合いにくいことと、仕事で頼りになることは、同時に成り立ちます。

航空宇宙産業の技術部門を対象にした研究では、「一緒に働きにくいと感じる相手」に仕事上の問題解決を頼る関係が調べられました[3]。誰に相談するか、誰を働きにくいと感じるかなどを、職場の人間関係とあわせて分析しています。

その結果、働きにくいと感じながらも問題解決を頼る相手を持つ人ほど、上司や管理職から高い仕事評価を受けていました。研究ではインタビューも行い、なぜそのような関係が仕事に役立つのかを探っています。

インタビューでは、働きにくい人ほど周囲から相談されにくく、その人が持つ専門知識が十分に使われていないことがあると語られていました。そうした相手に相談できれば、普段は共有されにくい知識に触れられます。また、相談相手から案を退けられたり、前提を問い直されたりすることで、自分の考えを練り直すこともあります。実際、相談する側が、話を持ち込む前に質問の仕方や根拠を考え直す様子も見られました。

この研究は、働きにくい相手との関係にも、仕事に役立つ面があり得ることを示しています。そこで、必要な知識や視点を得られる場面では関わり、それ以外の接点は増やさないという付き合い方も考えられます。

たとえば、専門的な知識が必要な時には相談する一方、雑談や個人的な相談まで関係を広げる必要はありません。やり取りに疲れるなら、事前に論点を整理して送り、確認する内容を絞ることもできます。口頭で話が変わりやすい相手なら、決まったことを後から文章で残しておく方法もあります。

相手との関係全体を良くしようとするより、「この仕事ではここまで関わる」と範囲を決めた方が、付き合いやすくなる場合があります。職場では、親しい関係を築かなくても、必要な協力はできます。

「良い面もある」で害を相殺しない

ここまで、相手の仕事上で頼れる面に目を向け、関わる範囲を決める方法を見てきました。ただし、相手に良い面や頼れる面があるからといって、問題のある行為まで受け入れる必要はありません。「普段は助けてもらっているから」と、嫌な扱いをそのままにしてしまうのは別の話です。

この点を考える上で参考になるのが、普段の上司との関係と、侮辱的な扱いの影響を調べた研究です[4]。ここでいう侮辱的な扱いには、人前で侮辱する、不当に非難する、脅す、排除するといった行動が含まれます。

調査では、こうした扱いを多く受けている人ほど、自分で仕事を進められる感覚や、自分の能力を発揮できている感覚、周囲から受け入れられている感覚が弱くなっていました。そして、こうした心理的な欲求の低下は、組織に対する逸脱行動の多さとも関係していました。

注目したいのは、この傾向が、普段から上司との関係が良い人でむしろ強く見られたことです。日頃の関係が良ければ、侮辱的な扱いの悪影響が和らぐとは限りません。普段の関係が良い人ほど、そうした扱いによって心理的な欲求が損なわれやすかったのです。

ここから考えると、相手全体への評価と、その人が取った行動への評価は分けた方がよさそうです。「これまで助けてもらった」「仕事では頼りになる」と感じていても、負担をかける行動まで受け入れる必要はありません。良い面があることと、問題のある行動を問題として見ることは両立します。

負担になる行動が繰り返される場合は、人間関係の悩みとして自分の中だけで抱え込まず、起きたことを記録したり、周囲に相談したりする方法もあります。相手への評価を一つに決めなくても、そうした行動には別の対応を取ることができます。

味方か敵かを決めなくても仕事はできる

職場で関わる人を、味方か敵かのどちらかにきれいに分けることはできません。助けてもらった相手に腹が立つこともあれば、苦手な相手の知識を頼りにすることもあります。同じ人に信頼と警戒の両方を感じることは、それほど不自然なことではありません。

フレネミーという言葉を使うと、「この人は本当は味方なのか、敵なのか」と考えたくなります。しかし、相手の意図を確かめ続けても、はっきりした答えが出るとは限りません。それよりも、実際の行動を見る方が、仕事上の付き合い方を決める材料になります。

実際の行動を見ていけば、頼れる場面と、少し距離を取った方が良い場面を分けられます。負担になる行動があれば、相手全体への評価とは切り離して対応することもできます。

両価的な相手との関係では、好きか嫌いか、信用できるかできないかを無理に決めなくても構いません。相手への評価が揺れたままでも、自分がどう関わるかは決められます。白黒をつけることより、仕事を続けられる付き合い方をつくる方が、職場では役に立つでしょう。


[1] Herr, R. M., Van Harreveld, F., Uchino, B. N., Birmingham, W. C., Loerbroks, A., Fischer, J. E., and Bosch, J. A. (2019). Associations of ambivalent leadership with distress and cortisol secretion. Journal of Behavioral Medicine, 42(2), 265-275.
[2] Marr, J. C., Lemay, E. P., Jr., and Park, H. (2025). Conflicted about coworkers: How coworker support influences engagement after status loss. Personnel Psychology, 78, 403-429.
[3] Brennecke, J. (2020). Dissonant ties in intraorganizational networks: Why individuals seek problem-solving assistance from difficult colleagues. Academy of Management Journal, 63(3), 743-778.
[4] Lian, H., Ferris, D. L., and Brown, D. J. (2012). Does taking the good with the bad make things worse?: How abusive supervision and leader-member exchange interact to impact need satisfaction and organizational deviance. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 117, 41-52.

株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役・伊達洋駆

著者紹介
伊達洋駆(だて ようく)
株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『世界の研究者はマネジメントをどう分析しているのか』(労務行政)、『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 客員研究員を兼務。

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