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いま必要な「対話力」を磨く~道具的コミュニケーションを超えて~

昨今、対話の場が重視されています。1on1などの施策を導入している企業の方も多いのではないでしょうか。変化する環境に適応するためには、状況に応じて自律的に動ける社員を育てていくことが求められています。それを支援する取り組みとして、対話を社内コミュニケーションに導入する企業が増えているように感じます。

さて、 対話というアプローチが広がりを見せるなかで、よく頂くようになった相談が次のような内容のものです。

「対話スキルを身に着けるためのトレーニングをしたので、効果測定をしたい」
「1on1がパフォーマンスに影響しているのか検証したい」

人事施策であれ、パフォーマンスへの影響を重視するのは大切なことです。これらを精緻に検証したいというお気持ちもよく理解できます。しかし、対話に関しては成果を出そうと意識しすぎると、むしろ対話の効果は低下してしまうケースが多いので要注意です。

どうして対話は、パフォーマンスを意識すると逆効果になってしまうのでしょうか。本稿では、対話の性質を確認しながらこの点について触れつつ、より豊かな対話を展開するためのポイントをご紹介したいと思います。

対話とはどのようなコミュニケーションなのか?

対話(dialogue)の語源はギリシャ語の「dia-logos」です。直訳すれば「言葉によって通じ合う」という意味です。

この語源が示すように、対話とはお互いが強く信じているものや、自分のありのままの気持ちを共有するコミュニケーションです。自分の内側を相手に対してオープンにして、互いに深く理解し合う。これが対話の基本です。

たとえば、仕事においてもっとも大切にしていること、家族に対する考え方、あるいは自分自身に感じている弱さやコンプレックス、あるいは辛さや寂しさといったものです。

これらをオープンにするということは、個人をより脆弱な状態(価値観を露出することで批判・批評されやすい状態)に置くことを意味します。情報共有や相談といったビジネスコミュニケーションよりも、対人リスクを感じやすいコミュニケーションです。

職場のコミュニケーションの塁型

そのために、信頼関係を築けていなければ対話を成立させることは難しくなるでしょう。相手は、さりげなく話題を別のテーマに置き換えたり、言葉を濁したりして「無防備な自分」が露出するのを防ごうとするかもしれません。

このように対話とは、他者との繊細な相互作用が求められるものです。相手の気持ちの揺らぎによってその質が変化するために、期待した成果を生み出すことは容易ではありません。

仮に、対話相手のパフォーマンスを高めようという態度で臨めば、相手は本音を見せることはしなくなってしまうでしょう。表面的に取り繕ったやりとりに時間を消費することになり、かえって成果を見込むことは難しくなってしまいます。焦らず、より丁寧に対話という行為を紐解き、少しずつその感覚を身につけていくことが大切です。

対話を失わせるもの

まず、対話において回避すべきポイントを示しておきたいと思います。「やるべきこと」よりも「やってはいけないこと」を知る方が対話に求められるスタンスを理解しやすいからです。

かつて、ある企業の1on1に同席をさせていただき、コミュニケーションの調査をさせていただいたことがありました。以下では、そのときに観察された「対話を失わせるもの」をご紹介します。対話を進めるときに、これらが登場すると対話のムードが消え去ってしまう。そのような負のパターンです。

強者の態度

まずは、態度です。面談を実施するときに「この面談で成果を出そう」と意気込むと、つい次のような態度をとってしまうことがあります。

支配者の態度 :「この面談は、私がコントロールしている」という態度
上司の態度  :「私があなたの面倒を見てあげるから」という態度
解決者の態度 :「さぁ、遠慮なく悩みを相談してみなさい」という態度
識者の態度  :「分からないことは私が教えてあげよう」という態度

直接、言葉に出さなくても話の文脈や振る舞いから、上記のような態度が見え隠れすると、部下としては本音で語りにくくなります。「上司の役割認識」に合わせて、「部下」としての相談や悩みを打ち明けるようになってしまうからです。無意識的に「何か困ったことはある?」「自分にして欲しいことあったら言ってね」といった声掛けをする管理職の方もいるでしょう。このような、ちょっとした声掛けで、上司ー部下の関係性があらためて強調されてしまうこともあるので注意が必要です。

対話とは、部下や上司といった役割を脱ぎ捨て、個人として向き合うコミュニケーションです。職場における役割や関係性を前提にコミュニケーションを進めていくのは、妥当ではありません。

マウンティング

1on1の調査をするなかで、もっとも多く見られたのが、この「マウンティング」という行為でした。先に述べた「強者の態度」はあくまでも面談に臨む“態度”ですが、「マウンティング」はその態度を実際に言動に反映し、相手に自らの優位性を知らしめる“行為”を意味します。たとえば、次のような言動です。

評価  :上司として評価する(させる)
分析  :問題の原因を分析する(させる)
尋問  :進捗は?問題は?要因は?何をすべきか?と問い続ける
解説  :相手の知らないことや気づいていないことを雄弁に説明する
一般論 :上司の考える「常識」によって部下の状況を意味づける

「マウンティング」をされているとき、部下は上司の思考や視点にひたすら「付き合わされる」ことになります。上司の気になっている点や、上司が知りたい点を伝える。そして、上司の分析した結果などを受け入れるという上司ありきのコミュニケーションになります。

このようなスタンスでは対話は生まれません。いくらコミュニケーションを進めても、部下自身が本当に大切にしている事柄は出てこないでしょう。つらかったことや、嬉しかったこと、仕事をしているときにどのようなことを思っていたのか?そういった「ぶっちゃけ」の気持ちは把握することができません。

他者事例

また、相手と向き合っているときに他者の話を持ち出してしまうのも適切ではありません。「部下に参考にして欲しい」という思いから、ついつい他者事例を持ち出してしまうこともあるでしょう。たとえば面談の場でよく見られたのは、次のような発言です。

比較   :「〇〇よりも進んでいるよ」

成功事例 :「〇〇も同じ悩みを持っていたけど、XXで乗り越えたよ」

失敗事例 :「そのままだと〇〇みたいになるよ」

これらの発言を聞いた相手は「自分を他者とダブらせている」と感じるはずです。実際に面談のやりとりを観察していても、他者の話が登場すると急速に対話がトーンダウンしていくのが分かります。他者の話を持ち出された方は、安易な同調ばかり(「そうですね」「そう思います」)するようになり、その後は他者に対する質問(「その人はどういう状況だったんですか?」)ばかりをするようになってしまいました。

「外(社会・職場・他者など)」の話を持ち出すとき、それが対話のノイズになってしまう可能性があります。それによって、相手の本心を見通すことが難しくなります。

応援・期待

つい、使ってしまうのが「応援・期待」といったコミュニケーションです。たとえば、次のような声掛けです。

応援・励まし :「期待している」「頑張れよ」

期待     :「頼んだよ」「君ならやれるよ」

労い     :「よく頑張っていると思うよ」

これらは、一見するとポジティブな声掛けのように感じると思います。

ただし、このような何気ない(応援対象や想いが説明されないままの)応援・期待は「現在の役割に尽力することを期待されている」と受け取られてしまうリスクがあります。過剰に「部下としての役割」を意識させてしまったり、義務感や責任感を刺激してしまったりして、個人的な想いを言いにくくなってしまうことがあります。

このように、成果を高めたいと意気込むと、それが態度や言動に反映されてしまい、対話の質を低下させてしまうことがあります。成果を焦るのではなく、相手と向き合う姿勢を意識し続けることが大切です。

欲求(Needs)と要求(Request)の違い

では、相手と向き合うために意識するべきポイントはどのようなものでしょうか。もっとも大切なポイントをひとつ紹介しましょう。

相手の欲求(Needs)に注目することです。
欲求(Needs)は、相手の気持ちを意味します。たとえば、身体が疲れていて、とても辛い!とか、もっと自分はやれるはず!とか、そういったありのままの気持ちです。

似て非なるものに要求(Request)があります。
これは、相手にして欲しいことです。たとえば、休みが欲しいです!とか、難しい仕事を任せて欲しい!とか、あるいは上司に面談をして欲しくない!とか、そういった相手に対する要望です。

この欲求(Needs)と要求(Request)を適切に切り分けて、相手の欲求(Needs)に集中してコミュニケーションをとること。これが対話においてはもっとも大切なことです。
たとえば、以下のようなやりとりがあったとします。

部下 :「私は、資料作成に時間を割きたいんです。」
上司 :「いいことだね、頑張ってね。」

このコミュニケーションは、対話として十分なレベルではありません。欲求(Needs)と要求(Request)の観点から見ると、部下も上司も互いに要求(Request)しか伝えていないことが分かります。
部下は、資料作成に時間を割きたい(要求)と相手に伝え、その背景にある「どうしてそれをしたいのか?」「それをすると自分のなかのどのような気持ちが満たされるのか?」といった欲求(Needs)まではアウトプットしていません。
また上司も、頑張って欲しいという要求(Request)だけを伝えており、「部下が頑張ることで自分はどのような気持ちになるのか(Needs)」については伝えずにコミュニケーションを終えています。
このような観点で、私たちの日頃のコミュニケーションを振り返ってみましょう。多くのやりとりが要求(Request)に終始していることに気づくでしょう。

それぞれの役割をベースにして、相手に求めることだけを簡潔に、そして気軽に伝え合うビジネスコミュニケーションが基本となっていることが多いはずです。このような言葉の「道具的」利用が習慣化していると、自分や相手の欲求(Needs)に意識的になる機会は少なくなります。

効率性重視のビジネスコミュニケーションに慣れていることで、自分の本当の気持ちをどのように相手に伝えて良いかが分からず、欲求(Needs)をうまく表現できない。あるいは、相手の気持ちにどのように近づいていけば良いのかが分からないかもしれません。

まずは、その難しさに気づくことが大切です。これが対話を進めるための大切な第一歩です。

対話ルールをひとつだけ使用する

自分と相手の欲求(Needs)が意識できたら、その上で自らのコミュニケーションを整えていきましょう。
ただし、より良い対話をしようと気負いすぎてしまうと、プレッシャーや緊張感をおぼえ、なんとも息苦しい場になってしまう可能性があります。コミュニケーションばかりに気がいってしまい、相手や自分の内側から意識が逸れてしまうのは本末転倒です。
リラックスしながら、対話を意識し、コミュニケーションの質を高めていくためには、いきなり完全なる対話を目指す必要はありません。対話の要素を少しずつ取り入れながら、相手と向き合う姿勢を習得していくのが良いでしょう。

そこで、おすすめなのが「緩めのルール」を取り入れることです。 どういうことかと言うと、面談の際に対話に求められる要素をひとつだけルールとして取り入れることです。
たとえば、以下のような対話のポイントのうち、毎回ひとつだけルールとして取り入れることです。「今日は、これを意識してみよう」といった具合です。

「対話のルール」選択用リストの一例

  • 自分の生活がより気持ちの良い状態になるためには、何が必要なのかを本質的に話す。
  • 相手にリクエストを提示する前に、なぜそれをして欲しいのか自分の気持ちを話す。
  • 「思う」「感じる」という表現を意識してみる。
  • 定期的にコミュニケーションを一時停止し、相手の気持ちを考える時間をつくる。
  • 喜怒哀楽の感情が強まったらどうしてそう感じたのかを確認する。
  • 相手はどのような状態であることを願っているかを質問で確認し、深く理解する。
  • 相手を評価する前に、嬉しいと感じているのかを伝える。
  • 「私は」という主語を意識する。(自分以外の主語をなるべく使わない)
  • 自分の本音と向き合い、安易に同町しない。

さらに、最初は対話をしながらメモをとるのも良いと思います。自分のことをきちんと理解してくれていないなと感じたポイントや、相手が本音で話してくれていないと感じたポイントなどを記録しておきます。

まずはゲーム感覚で実践してみましょう。その上で、自分たちのコミュニケーションを振り返り、どのような進捗や成果が見られたのかを確認すると良いでしょう。また、難しかったポイントやうまく表現できなかったところなどは、メモを確認し、どうしてそのようなコミュニケーションが生まれたのかを振り返ると、対話の質を磨き上げることができると思います。

何に取り組むにしても、一定の期間は「何も成果がない状態」を経験する必要があります。本稿で見てきたように、対話とは短期間で修得可能な「ビジネスコミュニケーションスキル」ではありません。むしろ、ビジネスコミュニケーションに慣れ過ぎてしまった自分を見直し、コミュニケーションに効率性を持ち込もうとする自分と距離をとろうとする試みです。

相手のNeedsに関心を持つマインドセットからゆっくり時間をかけて醸成していくことが求められます。途中で、面倒くさい、もうやめようかと感じることもあると思いますが、根気強く経験と学習を積み上げていくことが大切です。成果や効果を急がずに、コミュニケーションの変容を待つ姿勢が求められます。


<参考文献>
Bohm, D., Senge, P. M., & Nichol, L. (2004). On dialogue. Routledge.

Rosenberg, M. B., & Chopra, D. (2015). Nonviolent communication: A language of life: Life-changing tools for healthy relationships. PuddleDancer Press.

著者紹介
神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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