はじめに
本稿は連載企画「職場における『間食』がもたらすもの」の第3回である。第1回は、職場の間食には人と人との関係性を促進する“共食”と、心と体を回復させる自己調整である“ひとり間食(孤食)”の二面性があることを確認した。第2回では間食を「共食」という視点から捉え、ちょっとしたおやつが職場での雑談やつながりを生むきっかけになりうることを紹介した。誰かと同じものを口にする時間には、言葉にしなくても共有される安心感があり、忙しい職場に小さな余白をもたらす。
一方で、職場での休憩が常に「誰かと一緒」であるとは限らない。忙しさのピークがずれていたり、そもそも周囲に人がいなかったりすることもある。また、人とのやり取りが活力になる一方で、気を遣う会話や情報のやり取りが、かえって消耗につながる場面も少なくない。
第1回でも述べたとおり、マイナビが実施した「職場における間食に関する調査」によると、職場における間食の際、「誰とも一緒でない(いつもひとり)」の割合は全体で52.2%と半数以上であることが分かっている。
そこで本稿では「ひとり間食(孤食)」、つまりあえて一人で取る休憩の価値について注目する。それは、人とのつながりを避ける行為ではなく、一度仕事や周囲の刺激から距離を置くための意図的な自己調整の時間とも言える。職場における疲労回復やウェルビーイングに関する研究でも、仕事の合間に「一人で静かに頭を切り替える時間」を持つことが、疲労やネガティブな感情を和らげる可能性が指摘されている。
重要なのは、休憩の際に、その人の状態に合ったかたちで仕事から切り離されているかどうかだといえる。共食としての間食が「つながり」を生む時間だとすれば、ひとり間食は、「自分を取り戻す」時間なのかもしれない。
マイクロブレイクとしてのひとり間食
マイクロブレイクとは
まず、職場における“孤食”としての間食を語るうえでマイクロブレイク(micro-break)について説明したい。
マイクロブレイクとは、仕事や学習などの作業の途中で取る短時間の中断を指す概念であり、一般的な定義として、「10分以内の短い休憩(タスクの中断)」とされている(たとえばAlbulescu et al., 2022)。
この概念は人間工学分野で、筋骨格系の痛みや不快感などの身体症状の発生・進行を防ぐために設定された「計画的に設ける短い休息(scheduled rests)」(McLean et al., 2001)がベースになった考え方だ。
マイクロブレイクの効果
Albulescu ら (2022)が複数の研究を用いて行ったメタ分析では、マイクロブレイクは活力の向上と疲労の低減といったウェルビーイングに小さいながら一貫した効果が示されている。仕事の合間にとる取る「回復のための行動」が、作業中に蓄積した負荷による悪影響を防ぐうえで有効な解決策になるようだ。
比較的負荷の低いルーチンワーク(自動化された作業)においては、自動化されているがゆえに注意がそれやすく誤りが増える傾向があるため、マイクロブレイクは再度集中力を高めることに寄与する。
また、発散的思考が求められる創造的なタスクを行う場合は、休憩が気持ちや思考の「切り替え」につながる。その結果、柔軟性を高めることで、創造性に寄与するようだ。
つまり、仕事の合間にほんの短い中断を入れるだけでも、気分の面では「持ち直し」が起こりうる。孤食のように、人と関わらず静かに自分を整えたいとき、マイクロブレイクは“ひとりで回復する選択肢”としても位置づけられるといえる。
一方で、この研究は、マイクロブレイクを「生産性を必ず上げる魔法」として語ることには慎重だ。高度な認知負荷がかかるタスクでは、マイクロブレイクでは十分な回復には至らないことも示されている。言い換えると、マイクロブレイクは「何をしても成果が伸びる」というより、“疲れをためこまない”という土台づくりに効きやすいといえるだろう。
ひとり間食が効果的な理由
また、そのマイクロブレイクを「ひとり」で行うことの意味もある。
職場の会話や気遣いは、関係性を滑らかにする「潤滑油」である一方で、同時に相手の状況を読み取り、言葉を選び、感情表現を調整するという心的負荷が認知的・情動的負荷にもなりえる点には注意が必要だ。
職場における人間関係においては、職業上求められる感情表現がある。たとえば「感じよく振る舞う」「共感的に応じる」など、状況に応じてコントロールする必要がある。こうした感情調整は対人サービス業に限らず、会議や調整、日常的なやり取りにも程度の差はあれ含まれる。
とりわけ問題になりやすいのが、内面の感情と求められる表情・態度が食い違う感情的不協和(emotional dissonance)である。本当はそう感じていないのに、そう見えるように振る舞わないといけない状態は情緒的な消耗を生みやすい(Zapf, 2002)。
そう考えると、職場におけるマイクロブレイクにおいて、「ひとり」であることが会話や気遣いといった人間関係の中で求められる社会的な刺激を一時的にでも遮断する時間になると考えられる。そのため、ひとり間食の時間は、気持ちの高ぶりを鎮め、脳と感情の負荷を下げるという意味で回復に効きやすいといえるだろう。
ひとり間食する人の回復の実態
Shimazuら(2012)が示した、勤務後の余暇時間における回復経験を測る「日本語版リカバリー経験尺度」を用いて、「ひとり間食」をする人がそうでない人に比べて、どの程度、気分転換に成功しているのか確認する。
なお、本稿では職場内における短い休憩としての間食をテーマにしている。そのため、「日本語版リカバリー経験尺度」で想定している勤務後の余暇時間とは前提が異なるが、職場内の気分転換に対する個人の傾向として利用した。
「日本語版リカバリー経験尺度」の下位概念には以下の4つがある。
- 心理的距離(Psychological detachment):仕事から「頭の中でも」離れる(仕事のことを考えない)
- リラックス(Relaxation):低覚醒でポジティブ感情を伴う状態(くつろぐなど)
- 熟達(Mastery experiences):学習や挑戦による達成感・有能感(新しいことを学ぶなど)
- コントロール(Control):余暇の過ごし方を自分で決められる感覚
本稿ではこのうち、仕事中のマイクロブレイクでも共通して検討でき「心理的距離」と「リラックス」を用いる。
まず、「心理的距離」だが、これは「仕事と距離を置く」「仕事での負担から離れて,ひと休みする」などの4つの質問を5件法(1:全く当てはまらない~5:よく当てはまる)で聴取する。 点数が高いほど「心理的距離」が実現できていることを示す。
誰かと間食する割合別でみると、「0割(いつもひとり)」の人でわずかではあるが「心理的距離」の点数が高くなっている。【図1】
【図1】一緒に誰かと間食する割合別「心理的距離」/「職場における間食に関する調査」
また、「リラックス」は「くつろいでリラックスする」「リラックスするために時間を使う」などの4つの質問を5件法(1:全く当てはまらない~5:よく当てはまる)で聴取する。点数が高いほど「リラックス」が実現できていることを示す。
誰かと間食する割合別でみると、「リラックス」の点数においても、「0割(いつもひとり)」の人が高くなっている。【図2】
【図2】一緒に誰かと間食する割合別「リラックス」/「職場における間食に関する調査」
特に注目したいのは、「心理的距離」「リラックス」ともに、ひとり間食(0割)の人が高い傾向にあることに加え、次に「5割以上」の人が高い点である。本稿ではおもに「ひとり間食」の効果を中心に述べているが、共食を好む人は反対に人と間食する割合を増やすほうがよいともいえる。いずれにしても、自分にあったスタイルを取ることが望ましいと考えられる。
気分転換と“不健康な間食”の分岐点
気分転換としてのひとり間食は有効だが、それが「不健康な間食」にならないよう注意する必要がある。本稿でいう「不健康な間食」とは、空腹とは無関係に、退屈や気分の穴埋めとして間食が惰性的に増えていく状態を指す。問題は「食べること」ではなく、休憩が回復から外れ、刺激補償の行動にすり替わる点にある。
Vasiļjevaら(2024)が行った研究によると、単調な仕事が続く日は刺激が不足し、意識が低覚醒で不快な状態、つまり「退屈」な状態になる。そうなると、刺激を得るための補償行動として「不健康な間食(甘味・塩味スナック、ファストフード、甘い飲料などの摂取回数)」が増えることを示した。具体的には、「退屈」度合いが1段階高い日は「不健康な間食」が約23%増えたと報告されている。
職場における刺激を「間食」に求める状況は望ましい状態とはいえない。タスク設計や裁量配分で仕事中に「退屈」を感じないような環境にする必要はあるだろう。
さいごに
マイクロブレイクとしてのひとり間食は気分転換や集中力の回復をもたらし、活力を上げ疲労を下げるということを示した。もちろん、ちょっとした運動なども効果的ではあるが、職場で仕事中に行う方法としては「ひとり間食」はもっとも手軽な方法といえるだろう。
さらに上司が「回復を支持する姿勢」を示している場合には、マイクロブレイクがメンバーの「回復感」を促進し、さらにウェルビーイングを高める効果が強まることが報告されている(Nie et al.,2023)。
つまり、職場における間食において、つながりを重視する「共食」の場合のみならず、ひとり間食の場合でも、職場側がそれを「怠け」と見なさず、むしろ回復行動として許容・推奨する文化や上司の支援的な声かけがあるかどうかによって、回復の効き方が変わりうるという点も興味深いといえるだろう。
<参考文献>
Albulescu, P., Macsinga, I., Rusu, A., Sulea, C., Bodnaru, A., & Tulbure, B. T. (2022). ” Give me a break!” A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance. PloS one, 17(8), e0272460.
McLean, L., Tingley, M., Scott, R. N., & Rickards, J. (2001). Computer terminal work and the benefit of microbreaks. Applied ergonomics, 32(3), 225-237.
Nie, Q., Zhang, J., Peng, J., & Chen, X. (2023). Daily micro-break activities and workplace well-being: A recovery perspective. Current Psychology, 42(12), 9972-9985.
Shimazu, A., Sonnentag, S., Kubota, K., & Kawakami, N. (2012). Validation of the Japanese version of the recovery experience questionnaire. Journal of occupational health, 54(3), 196-205.
Zapf, D. (2002). Emotion work and psychological well-being: A review of the literature and some conceptual considerations. Human resource management review, 12(2), 237-268.