はじめに
2026年度の最低賃金が2026年10月から各都道府県で順次発効されている。最低賃金に関して活発に議論されるテーマの一つが「地域格差」である。ここ数年は、近隣エリアを意識した引上げ競争が過熱する中で、最低賃金水準が低い都道府県を中心に国の目安額に上乗せする動きが目立ち、地域間の金額差は縮小傾向がみられる。
こうした格差是正の向きもある中で、最低賃金に密接に関連するアルバイト就業者は26年度の最低賃金改定をどのように捉えているのだろうか。本コラムでは「マイナビ最低賃金に関する調査レポート(2026年)」のデータとともに、地域格差に焦点を当てながら最低賃金の現状と課題を整理する。
最低賃金の現状
【図1】は2026年度の地域別最低賃金一覧表である。
【図1】2026年度最低賃金 賃金・発行時期一覧
地域間の最低賃金の差は少しずつ縮まっている。国の中央最低賃金審議会は、現行の最低賃金額に応じて47都道府県をA~Cのランクに分け、26年度の引上げの目安額としてAランク=54円、Bランク=56円、Cランク=56円を定めた。これに対して、各都道府県で決定された実際の引上げ額は、Aランク=54円~55円、Bランク=56円~62円、Cランク=56円~65円となった。
25年度は目安額61円に対して63〜82円の引上げが行われ、目安額に10円以上の上乗せをする都道府県も続出した。この水準には及ばなかったが、26年度も最低賃金水準が低いCランクでは目安額に対する積極的な上乗せが目立った。具体的には、Cランクの全13県のうち12県が目安額に上乗せして引上げ、中でも、高知・沖縄は63円(+7円)、鹿児島は64円(+8円)、佐賀は65円(+9円)で積極的だった。【図2】
【図2】2026年度 ランク別の最低賃金引上げ額
また、最低賃金の最高額と最低額の差も縮まった。2026年度でもっとも高い東京は1,280円であるのに対して、もっとも低い宮崎は1,085円。その差は195円で、25年度の203円(東京1,226円/高知・宮崎・沖縄1,023円)から縮まった。26年度の最高額に対する最低額の比率は84.8%で、年々上昇傾向にある。【図3】
【図3】最低賃金推移(全国加重平均・都道府県別最低額/最高額)
アルバイト就業者の受け止め
では、アルバイト就業者は最低賃金改定をどのように受け止めているのか。マイナビは2026年9月、最低賃金に関する実態を把握する目的でアルバイト就業者を対象に調査を行った。
調査開始時の9月1日は、2026年度の都道府県別の最低賃金額が決定していなかったため、2026年度最低賃金引き上げに関しては、目安額(全国加重平均55円)を基準として聴取した。
地域格差の認識
まず、「自身が働いている地域の最低賃金額は生活状況と照らし合わせた時に適正な金額であると思うか」を聞いたところ、「適正でない計(どちらかといえば適正でない+適正でない)」は55.4%となった。
エリア別では、北海道・東北・九州で「適正でない計」が6割を超えた。A~Cのランク別では、Cランクで「適正でない計」が67.5%となり特に高かった。【図4】
【図4】就業地域の最低賃金額の適正性
また、アルバイト就業者のうち「最低賃金の地域格差を感じる」とした割合は70.4%となり、前年に引き続き7割を超えた。A~Cのランク別では賃金水準が低いCランクで唯一8割を超えており、賃金水準が低いエリアにおいて格差の認識が強い傾向がみられた。【図5】
【図5】最低賃金の地域格差を感じている割合
さらに、「2027年度以降、地域間の最低賃金の差が縮まっていくこと」についても聞いた。結果は、「あまり期待できない」が40.9%、「期待できない」が32.1%で、二つを合わせた『期待できない(計)』は73.0%に上った。A~Cランク別では、賃金水準が低いエリアで期待感が低い傾向がみられた。【図6】
【図6】2027年度以降、地域間の最低賃金の差が縮まっていくことへの期待感
最低賃金はハイペースで上昇しており、実質的な地域間の金額差は縮小傾向にあるものの、個人の認識としては地域格差の意識が強く、今後の格差是正に対する期待感も薄い傾向がうかがえた。
越境バイトのニーズ
アルバイト就業者の視点では「時給」は就業先を考える上で重要な要素であり、少しでも高い賃金で働きたいというのが本音ではないだろうか。物価高騰で生活に必要なお金の水準が高まっている中、賃金水準が高い近隣地域で働こうとする動きも想定できる。
そうした関心から、調査では、時給が高い近隣地域でアルバイトをする「越境バイト」のニーズを探った。アルバイト就業者のうち、時給が高い近隣地域でアルバイトをしたいと感じたことがある割合は47.3%で、前年から3.7pt増えた。 【図7】
【図7】時給が高い近隣地域でアルバイトをしたいと感じた割合
また、時給が高い近隣地域に越境してアルバイトをした経験があるとした割合は19.1%で、前年から1.2pt増加。約5人に1人以上が地域を超えて越境バイトをした経験があるとした。【図8】
【図8】時給が高い近隣地域に越境してアルバイトをした経験割合
調査結果からも、より高い賃金水準を求めて近隣の市町村や都道府県外でアルバイトをするニーズがうかがえる。アルバイト就業先に求める条件として「エリア(自宅から近いこと)」は重視される傾向だが、時給額によってエリアの条件を超えてアルバイト先として選ばれる可能性もあるだろう。
おわりに
実質的な地域別最低賃金の金額差が縮まっている現状はある一方で、地域格差の意識が根強いことが調査から見えてきた。特に、最低賃金水準が低いエリアで格差の意識が強い傾向にある。時給が高い近隣地域への越境バイトに対する一定のニーズがあることも見逃せない。
首都圏への人口一極集中が進む中、地方企業の人手不足の抑制や地域経済の活性の観点では、この先さらに地域の最低賃金の金額差が縮まっていくことが欠かせない。それによって、アルバイトで働く人が地域格差を感じることなく、自身が暮らす地域で納得感を持って働き続けられる選択ができるようになることが重要だろう。
キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太