2026年度最低賃金改定の現状と課題 個人の不足感・企業の疲弊感

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

はじめに

2026年度の最低賃金は全国加重平均で56円増の1,177円となり、2025年度に次ぐ過去2番目の引上げ額となった。2025年度までの5年間は毎年引上げ額が過去最高を更新するハイペースで上がり続けてきたが、26年度は増加幅が10円下がり、上昇の勢いは落ち着いた格好だ。

では、2026年度の最低賃金について、アルバイトで働く個人とアルバイトを雇用する企業はどのように受け止めているのだろうか。本コラムでは、2026年9月公開の「マイナビ最低賃金に関する調査レポート(2026年)」の結果から最低賃金を巡る課題を探る。

最低賃金上昇の推移

最低賃金の全国加重平均の推移をみると、2021年度に前年度比28円増の930円となったことを機に過去最高の引上げ額を更新しており、2025年度は前年度比66円増の1,121円だった。【図1】 

【図1】最低賃金推移(全国加重平均・前年比の引上げ率)
【図1】最低賃金推移(全国加重平均・前年比の引上げ率)

2020年以降の大幅な最低賃金引上げの流れは、「2020年代に全国平均1,500円」という政府目標のもとで加速度的に上昇してきた経緯がある。それが2026年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針)」では、「遅くとも2030年代前半できる限り早期に全国平均1,500円を達成する」という方向性が示された。この政府方針の転換がハイペースの上昇を落ち着かせた要因の一つであろう。 

個人と企業の比較

では、働く側の個人と雇う側の企業は、どのくらいの引上げ額を望んでいるのか。マイナビは2026年9月に最低賃金の実態を把握するため、アルバイト就業者とアルバイト雇用をしている企業の採用担当者を対象に調査を行った。調査開始時の9月1日は、2026年度の都道府県別の最低賃金額が決定していなかったため、2026年度最低賃金引き上げに関しては、目安額(全国平均55円)を基準に聴取した。

調査では、アルバイト就業者と、アルバイトを雇用する企業の採用担当者の双方に、「2026年度の最低賃金改定で適正だと思う全国平均額の引上げ額」を聞いている。

結果をみると、個人側では「100円以上」が40.2%でボリュームゾーンとなっており、『60円以上・計』の割合は62.9%を占めた。他方、企業側では「30円未満」が22.4%でもっとも高く、『60円未満』の割合は67.3%となった。【図2】

【図2】適正だと思う全国平均額(個人・企業)
【図2】適正だと思う全国平均額(個人・企業)

個人側では2026年度の全国平均の目安額(55円)を上回る引上げを求めている一方、企業側は目安額を下回る引上げを求めている傾向がみられ、双方で対照的な捉え方が浮かび上がってきた。 

企業の負担感

企業側には、近年の最低賃金改定の負担の大きさがうかがえる。アルバイトを雇用する企業の採用担当者に、「2025年度の最低賃金改定による雇用への負担」を聞いたところ「大きな負担となった』が17.0%、「やや負担となった」が50.2%で、負担となった(計)の割合は67.2%となった。【図3】 

【図3】2025年度の最低賃金改定による雇用への負担
【図3】2025年度の最低賃金改定による雇用への負担

また、2026年度の最低賃金引上げの目安額を基準として、「2026年度の最低賃金改定による雇用への負担の予想」を聞いたところ、「大きな負担となる」21.8%、「やや負担となる」55.1%で、負担となる(計)は76.9%(前年比0.6pt増)となった。従業員規模が小さいほど負担が大き高く、とりわけ中小企業の負担の大きさがうかがえる。【図4】 

【図4】2026年度の最低賃金改定による雇用への負担の予想

【図4】2026年度の最低賃金改定による雇用への負担の予想

2026年度の最低賃金引上げの水準は2025年度に比べて落ち着いてはいるが、それでもなお、企業にとっては負担の大きな引上げであると捉えることができる。 

個人の不足感

企業側とは対照的に、個人側には現状の最低賃金改定に対する不足感がにじむ。調査では、アルバイト就業者に2026年度の最低賃金改定後の期待について3項目を聞いた。

『自身が希望する時給額になること』は「期待できない・計」が69.5%、『私生活が豊かになること』は「期待できない・計」が74.9%、『仕事への意欲が高まること』は「期待できない・計」が71.8%となり、多くの人が改定による仕事・私生活への影響は限定的であると捉えていることがわかった。【図5~7】 

【図5】最低賃金改定後の期待 自身が希望する時給になること
【図5】最低賃金改定後の期待 自身が希望する時給になること
【図6】最低賃金改定後の期待 私生活が豊かになること
【図6】最低賃金改定後の期待 私生活が豊かになること
【図7】最低賃金改定後の期待 仕事への意欲が高まること
【図7】最低賃金改定後の期待 仕事への意欲が高まること

物価高騰で生活に必要な所得水準が高まる中、アルバイトで働く個人としては賃金水準に物足りなさを感じている人も多いのではないだろうか。最低賃金改定が、アルバイト就業者全体の賃金ベースの底上げや、それと連動して仕事・私生活の質向上につながることが理想だが、現状では、そこへの期待感も小さいと捉えることができる。 

おわりに

今回の調査では、最低賃金に関する個人側・企業側の認識の差が見えてきた。個人側の不足感、企業側の負担感という対照的な受け止め方を考えれば、両者の間には温度差があるように思う。

「全国平均1,500円」という政府目標に向けて、今後も引き続き高い水準で最低賃金引上げが行われる可能性がある。個人の立場では、ハイペースの最低賃金改定が続いていてもなお賃金に対する不足感が根強いため、歓迎されるべきことであろう。一方、企業の視点では、今年度の最低賃金の引上げ率が落ち着いた現状はあるものの、毎年の大幅な改定への疲弊感は大きい。最低賃金の上昇は企業の人件費に影響を与える要素であり、賃上げの成果としての生産性向上なくしては負担がかさむ。

その意味でも、最低賃金改定に伴う賃上げを、従業員の仕事・私生活の質的向上につなげる工夫が欠かせない。それによって、時給に対する納得感を高めることが人材の採用・定着には大切だろう。国の経済成長に欠かせない最低賃金改定が、労働・雇用の現場の当事者である就業者や企業に良い影響を与えることに期待する。

キャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太

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