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雇用・労働キーワード~現役法務が注目テーマを解説⑤「副業・兼業」

キャリアリサーチLab編集部
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雇用・労働キーワード~現役法務が注目テーマを解説⑤「副業・兼業」

はじめに

みなさんのまわりには、「昼と夜とで違う会社に勤めている」「会社員をしながら動画配信をしている」といったように、2つ以上の仕事を掛け持ちしている方はいらっしゃいませんか?また、自分でも挑戦してみたいと思ったことはありませんか?

働き方が多様化している今日では、「副業・兼業」を行うことで新たな収入源を得たいと考えている方が増えているようです。このような傾向をもとに、国も「働き方改革」のひとつとして、厚生労働省を中心に「副業・兼業」に関する方針を整えています。

このコラムでは、「副業・兼業」とは何か、企業が社員に「副業・兼業」を推進または規制するにあたって注意すべき点は何か、といった点を解説していきます。

「副業・兼業」とは

「副業・兼業」とは

まず、「副業・兼業」とはそれぞれどう違うのかを解説します。しかし、民法のように日常生活に適用される法律や、労働基準法や労働契約法といった労働に関する法律においても、「副業・兼業」といった用語の定義やそれぞれ何が違うのか、といった内容は定められていません。

また、一般的に「副業・兼業」は似て非なるものと捉えられることが多い用語ですが、法律上の議論においても明確な使い分けはなされておらず、ひとまとめに扱われることが多いのが実情です。

次からは、一般的に「副業・兼業」がどのような意味なのかについて解説していきます。

副業とは

「副業」とは、本業として従事している仕事を続けながら、本業とは異なる仕事にも従事すること、またはその従事している仕事自体のことをいいます。

過去のコラム「雇用・労働キーワード~現役法務が注目テーマを解説①『出向』」でも触れたことがありますが、副業は、会社の命令によって行われる「出向」とは異なり、社員本人が自己の意思でするかしないかを決められるものであり、また実際に何をするかについても主体的に決められるものであることが特徴です。本業とは異なる会社の従業員になることに限らず、個人事業主になることや業務委託を受けることなども『副業』に含まれます。

また、「副業」に関しては、かねてより「収入を得ることを目的に行われるもの」との意味合いで喧伝※1されてきており、一般にも広くそのように理解されているかと思います。そのため、一般的にボランティア活動とされていること(例:道端や海岸のごみ拾い、炊き出し)でも、本業とは別に収入があるのであれば「副業」となりますし、本業ではない方の仕事を無償で行っているのであれば「副業」とはなりません。
※1:世間に広く知らせること

兼業とは?副業との違い

「兼業」も、意味としては「副業」と変わらず、本業として従事している仕事を続けながら、本業とは異なる仕事にも並行して従事することであり、またその従事している仕事自体を指すものです。

しかし、「副業」と「兼業」の違いを決定づけているものは、本業と本業ではない仕事との優先順位の有無や、実際に発生する収入や労働時間の差であると考えられています。

「副業」では本業の優先順位が高く、本業でない仕事は本業に比べて収入や労働時間、労力などが少ないのに対して、「兼業」は本業と同時並行で優先順位も大差がなく、本業と同程度の労働時間や労力を伴う仕事をもうひとつ行っている状態を指します。

「副業・兼業」のルール

法律上の「副業・兼業」

「副業・兼業」については、その定義だけでなく、労働者が「副業・兼業」を行ってよいか否かについても、法律に定めはありません。

しかし、判例では、労働者が勤務時間外の時間をどのように使うかは労働者個々の自由であり、使用者(企業)は労働者の「副業・兼業」を原則として認めなければならないものとしています※2。
※2:マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)

また、憲法第22条第1項に「何人も、公共の福祉に反しない限り、……職業選択の自由を有する」と定められていることから、どのような職業に就くのかだけでなく、いくつの職業に就くのか(=『副業・兼業』をするのか)も基本的には個々の選択に委ねられているものと考えられています。

「副業・兼業」と就業規則

「副業・兼業」の実施については、先ほど説明した内容をもとに、労働者が自由に選択できるものと考えられています。しかし、どのような場合でも労働者の「副業・兼業」が認められるわけではありません。

では、どのような場合に「副業・兼業」が認められ、または禁止されるのでしょうか。その答えは、それぞれの企業の就業規則に委ねられることとなります。

厚生労働省は、平成30年1月に「モデル就業規則」を改訂しました。改訂前は「副業・兼業」を全面的に禁止する内容だったものが、改訂後は原則「副業・兼業」を認める内容に大きく変更され、企業は社員からの届け出によって各社員の「副業・兼業」の具体的な内容を把握すべきであること、および一定の場合(詳しくは後述します)には「副業・兼業」を禁止または制限できることが定められました。

もちろん、改訂後のモデル就業規則の内容を直ちに自社の就業規則に盛り込まなければならない、というわけではありません。しかし、今回のモデル就業規則の改訂は、社会全体における「副業・兼業」を容認する流れに端を発したものです。

改訂された具体的な内容として、社員からの「副業・兼業」の申告は具体的にどのような形式で行うのか、「副業・兼業」の禁止または制限ができるケースをどのように設定するのか、といった内容が盛り込まれたことから、各企業においてそれぞれの実態や社員の声に基づいて、「副業・兼業」の実施可否を検討する機会を設けることを促すものといえるかもしれません。

社員の「副業・兼業」について把握する

社員の「副業・兼業」について把握する

企業が実際に「副業・兼業」を認めるとなった場合、社員の希望する「副業」・「兼業」の内容はさまざまなものとなるでしょう。

たとえば、本業に重きをおきつつも「スキマ時間でちょっとした仕事をしたい」といった要望は多くなるものと思われます。ただ、本当に「スキマ時間」でできる程度の「ちょっとした」量の仕事なのか、自社の事業と競合しない内容の仕事なのか、企業として、社員が「副業・兼業」として実施する内容を具体的に確認することが重要となります。

また、「本業も副業もバリバリやって収入を増やしたい」という社員に関しては、労働時間を厳重に管理する必要がありますが、この場合には特に注意が必要です。というのも、企業は労務管理として、各社員の労働時間を管理・把握しておく必要がありますが、労働基準法第38条第1項の規定によって、副業・兼業を行う各社員の労働時間に関しては、本業と「副業・兼業」分の合計時間が労働時間とみなされる場合があり※3、そのような場合には、社員に副業での労働時間を申告させ、自社での労働時間との合計値を管理・把握しておく必要が生じます。
※3:各社員がフリーランス、起業など副業先の会社との雇用関係を持たずに副業をおこなっている場合や、農業、漁業など、労働基準法は適用されるが労働時間については規制されない形での副業を行っている場合は除かれます。

また、時間外労働(いわゆる残業)の管理にも注意が必要です。厚生労働省が策定している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によれば、時間外労働における割増賃金は、以下の内容が基本的な考え方となるようです。

  1. 社員との雇用契約締結の日時を比較し、後の方の企業が、本業先と副業先の所定労働時間の合計から8時間(労働基準法第32条第2項)を引いた時間分の割増賃金を支払う
  2. 1からさらに所定外労働が発生した場合、所定外労働が発生した日時を比較した結果後の方の企業が超過時間分の割増賃金を支払う

これらを踏まえると、副業先が割増賃金を支払うケースが多いように思われますが、先述のとおり、企業としては、たとえ自己が本業先であっても、社員の申告をもとに、所定外労働がどちらの企業でいつ発生したかを把握しておく必要があります。

さらに、企業は労働契約法第5条に基づいて、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負っており(安全配慮義務)、この安全配慮義務の観点からは、企業が把握した各社員の労働時間に関して、各社員の健康状態の善し悪し(体調不良や心理的なストレス※4)とも結びつけておく必要があるといえます。
※4:企業は、労働安全衛生法第66条の10によって義務付けられているストレスチェックを通じて、体調不良や心理的負担を抱える社員がいないか、把握することも必要とされています。

つまり、企業は各社員に対して、体調の自己管理や社内での相談を促すことはもちろん、「副業・兼業」に充てる時間が長すぎることで社員の健康状態が悪化している、と判断せざるを得ない場合は、「副業・兼業」の時間制限に踏み切ることも必要となってくると考えられます。

このように、企業が「副業・兼業」を制度として取り入れる場合は(具体的には就業規則を改訂し「副業・兼業」に関する条項の効力が発生した時点から)、社員の業務外の労働状況について、適切に管理する方法を決定し、実行してゆく必要があるのです。

「副業・兼業」を禁止できるケースを決める

まず、本業がおろそかになる場合は、当然「副業・兼業」を禁止すべきでしょう。

社員は、所属する企業と雇用契約(民法第623条)を締結し、その企業での労働に従事することを約束し実行することの対価として、企業から報酬として賃金を得ています。すなわち、「副業・兼業」の実施を理由に、「本業の企業と約束した労働に従事し、実行すること」ができなくなるのであれば、社員は企業との契約に違反していることになります。

また、判例では、社員は、企業との雇用契約に基づいて、企業の正当な利益を不当に侵害してはならないという義務を付随的に負うものとされています※5。
※5:共立物産事件(東京地判平成11年5月28日)

厚生労働省のガイドラインには、こうした付随義務の代表例として競業避止義務が挙げられており、「社員が競合他社で「副業・兼業」を行う」「競合他社を設立する」などの行為は、企業の利益を奪う可能性が非常に高いものです。従って、「社員が競合他社で「副業・兼業」を行う」「競合他社を設立する」といった行為は、「副業・兼業」としては認められないものであることを、就業規則に明確に規定しておくべきでしょう。

さらに、競業避止義務に違反していない場合でも、自社のノウハウを副業先に漏洩すること(秘密保持義務)や、「副業・兼業」に関する虚偽の届け出を行うこと、本業先である企業を攻撃することなども、企業の利益を損なうものとして禁止しておくべきです。

ただし、就業規則に禁止事項を定めた後、実際に違反が発生し、社員に処罰を与える場合には、規則違反の事実それだけをもって処罰するのではなく、社員の違反行為が当該社員の仕事ぶりや会社の秩序にどれほどの悪影響を与えているかを個別で具体的に検討したうえで、処罰の程度を慎重に決定する必要があるといえるでしょう。※6
※6:都タクシー事件(広島地決昭和59年12月18日)

おわりに

企業は、社員の「副業・兼業」を認めることにより、就業規則の改訂から始まる半永久的な労務管理を行う必要が生じ、これら労務管理は、企業にとって無視できないほど大きな負担となります。また、「副業・兼業」を積極的に希望する社員と企業との間で意見が衝突することも考えられるため、「副業・兼業」を制度として取り入れることは、企業にとってはこれからも難しい問題であり続けるのかもしれません。

しかし、社員にとっては、「副業・兼業」を行うことで収入が増えるという経済的メリットが生じることはもちろん、自分の趣味を「副業・兼業」とすることにより心に余裕が生じるなど、仕事に対する意欲の増加というメンタル面でのメリットも期待することができます。

また、社員が副業で得たノウハウを本業に還元(もちろん、秘密情報の漏洩はしてはいけませんが)することで、企業の事業の発展や効率化につながる可能性もあり、「副業・兼業」を取り入れることは企業にとってもデメリットばかりではありません。

厚生労働省が「副業・兼業」の促進に着手してからは未だ5年あまり。企業においてもさまざまな事例を蓄積し、メリット・デメリットの検討や社員との協議を行っていくことで、「副業・兼業」をどのように促進し、または規制していくのかを考え続けてゆく必要があるでしょう。

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