マイナビ キャリアリサーチLab

副業・兼業の現状を「働き手と企業の変化」という視点から読み解く

石井愛子
著者
株式会社マイナビ 独立推進事業室 スキルシェア事業統括部事業推進部 部長
AIKO ISHII

筆者は、企業と副業・フリーランスのマッチングプラットフォーム【スキイキ】の運営をしている。副業をする人々の分析や副業解禁する企業の狙い、人材不足の時代を乗り切るための「雇用しない」人材活用法などについて連載する予定だ。

はじめに

副業・兼業という概念は昔からあったものの、その意味合いは少しずつ変化してきた。

以前は、副業・兼業といえば、会社に隠れて小遣い稼ぎや物販、内職のようなあくまで報酬を得ることのみがその目的であり、副業の内容そのものが重要というよりも、隙間時間を使い、効率よく稼げる仕事が意図されてきた。

しかし、人生100年時代といわれるようになり、個々人が自身のキャリアを定年、さらにはその先まで考えなければならない状況下において、徐々に副業・兼業の意味合いは小遣い稼ぎから自身のスキルアップや本業への好影響をもたらすような人脈作りや実績作り、またビジネスパーソンとして自律的に働く場としての選択肢として広がっていった。

特に、2018年については副業解禁元年といわれ、厚生労働省のモデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、副業・兼業の促進に関するガイドラインも発表された。

その結果、企業は徐々に副業・兼業を認可するようになり、働き手の従業員もまた機会を活かすようになった。今回は、その増加する副業・兼業者とその背景にある働き手のマインドや企業の変化などについて話をしたいと思う。

働き手のマインドの変化

副業・兼業の意向を弊社の「マイナビ ライフキャリア実態調査 2022年版」から見てみよう。

「マイナビ ライフキャリア実態調査 2022年版」より「副業・兼業の意向(単一回答)」
マイナビ ライフキャリア実態調査 2022年版」より「副業・兼業の意向(単一回答)」

2022年では、

  • 「副業・兼業経験あり」が全体の25.3%
  • 「副業・兼業を今後はしたい」は49.5%

と2人に1人が希望をしている。副業・兼業希望者は、前年から9.1ポイントと大きく増加していることがわかる。

副業・兼業をするためにもっとも必要なものは、時間である。働き方改革や業務効率化が進み、長時間労働が緩和されたこと、コロナ禍においてテレワークが普及し、今まで通勤時間や人付き合いなど出勤することで生じた時間的制約がなくなったことで会社員の可処分時間(※)が大幅に増加したことが後押しになった。
(※)個人が自由に使える時間のこと

また、以前は副業先を探すことが人脈頼みだったところから、現在はマッチングサービスが拡充されたことで、自分の希望にあった副業先の仕事が見つかりやすくなった点も挙げられるだろう。

副業・兼業をする目的とは?

副業・兼業をする目的について、「マイナビ ライフキャリア実態調査 2022年版」から見ていく。

「マイナビ ライフキャリア実態調査 2022年版」より「副業・兼業をした理由(複数回答)」
マイナビ ライフキャリア実態調査 2022年版」より「副業・兼業をした理由(複数回答)」

副業の目的はさまざまであるが、大きく5つに区分できそうだ。

収入補填型

 1つ目は収入補填で、仕事の内容へのこだわりというよりは効率的に副収入を得られることをゴールとして行う。

趣味追求型

2つ目は趣味追求型であり、本業ではできないが自分の興味関心がある分野に関わることを目的として、たとえば旅行ライターやヨガのインストラクターなど「ライフワークとしてやりたいこと」と言い換えることもできるかもしれない。

スキルアップ型

3つ目はスキルアップ型で本業で活きるような経験や人脈を作るなどであり、また人生100年時代に長期的視野で働き続けることを前提に、自身の履歴書に書ける経験を増やしキャリア形成を目的とするケースである。

独立志向型

そして4つ目は独立志向型。会社員から独立してフリーランスや起業をするための足掛かりとして、自らのスキルを社外で価値発揮ができるかや、自分で仕事を取って稼いでいくことができるかを副業を通じて確認していくことが目的である。

社会貢献・地域貢献型

そして最後に、社会貢献や地域貢献などを目的に、報酬有無を問わず自分自身の力を地元や、関心がある分野で活用していくこと。プロボノといわれることもある。

どれか1つを目的とするというよりも、副業・兼業をする人によって複数の目的があり、もっとも大きなモチベーションをベースに仕事を探す手段やなすべきことは変わってくるだろう。

転職や独立という今までの選択肢に加え、副業・兼業が大きな存在感を増してきたことは間違いなさそうだ。

適した副業を探す際の注意点

マッチングサービスが拡充されたことで、副業・兼業について希望者が増加している一方で、まだまだ課題も多い。

業務委託で、企業と契約をするケースについては、新規事業開発、マーケティング、営業支援、人事採用などが人気だが、副業・兼業者に業務委託で仕事を依頼することは、未だ社会的に浸透しているとはいえず希望する人材数に対して、まだ案件の方が少ない。

企業の人材活用についての現状や課題は、次回のコラムにて詳しく解説していきたいが、現状、副業・兼業者が自分に合う仕事を見つけることに苦労するケースも多いだろう。

また、副業・兼業先との面談は就職面接とは異なる点も押さえておかなければならない。企業はその対価に見合う業務の遂行を求めており、採用面接のように「自分はこのような経験・スキルがあります」という以上に、「その課題であればこのような対策が有効です」のような提案に近いものが求められる。

企業も自分たちにできないから依頼をしたいというケースも多く、副業・兼業者はより積極的に自分自身の経験やスキル上の強みを伝えていくと良いだろう。特に副業・兼業がはじめてという場合に、この辺りは意識しておくべきといえる。

副業・兼業に対する企業の音とリスク

ここまで副業・兼業をする個人について述べてきたが、ここからは企業側の視点で副業・兼業をとらえていきたい。

社員が副業・兼業することについて、離職や情報漏洩のリスク、また過重労働で本業への集中力を欠くのではないかという懸念から、経営者視点ではあまり良い印象がなかったというのが本音かもしれない。

「中途採用実態調査(2022年)」より「Q.従業員に副業・兼業を許可する制度の導入について、課題となったことをお選びください。お勤め先が副業・兼業を許可していない場合は、導入を検討するにあたり、課題となっていることをお選びください。(Q42)」
中途採用実態調査(2022年)」より「Q.従業員に副業・兼業を許可する制度の導入について、課題となったことをお選びください。お勤め先が副業・兼業を許可していない場合は、導入を検討するにあたり、課題となっていることをお選びください。(Q42)」

もちろん、そのリスクはあるものの、結論からいえば今は副業・兼業を認めないとすることの方がさまざまなリスクがありそうだ。

なぜならば、大前提として個人が労働時間外にどのような活動を行うかは、個人の自由であり会社は明確な理由がなく副業・兼業を禁止することはできないのだ。

さらに、働き手の副業・兼業ニーズがコロナ禍で増加したことや、厚生労働省が2022年8月に副業を禁止する場合はその理由の公表を求めるなどの発表をしたことから、企業としては副業・兼業を解禁しないことが働き手、求職者、株主などさまざまなステークホルダーからの視点で、企業価値を損なうリスクをはらんでいる。

副業解禁の効果

ここで、副業・兼業制度がある(解禁している)企業の状況を確認してみたい。

「中途採用実態調査(2022年)」より「Q.あなたのお勤め先に、従業員向けの「副業・兼業」「従業員シェアリング」ができる制度はありますか。現状に最も近いものをお選びください。(Q37)」
中途採用実態調査(2022年)」より「Q.あなたのお勤め先に、従業員向けの「副業・兼業」「従業員シェアリング」ができる制度はありますか。現状に最も近いものをお選びください。(Q37)」

2022年実施の「中途採用実態調査2022年版」によると、副業・兼業制度を設けている企業は68.7%と前年より7.4ポイント増加した。

増加の理由は何か。副業・兼業制度導入のメリットにヒントがありそうだ。

中途採用実態調査(2022年)より「Q.お勤め先で副業や兼業を導入している方におうかがいします。副業・兼業の導入理由をお答えください。」
中途採用実態調査(2022年)より「Q.お勤め先で副業や兼業を導入している方におうかがいします。副業・兼業の導入理由をお答えください。」

中途採用実態調査2022年版」によると、収入の補填はもちろん、社員の人脈拡大やスキルアップ、求職者へのアピール、生産性の向上や本業への集中力向上などが挙げられる。

特に本業の企業にとってもメリットが大きいのは、こういった副業・兼業先での出会いや仕事を通じて社員が成長することにより、本業そのものにも好影響が還元されることも期待できる点だ。

また、副業・兼業をする個人を尊重する姿勢そのものが、従業員のエンゲージメント向上にもつながる可能性もある。副業・兼業先に転職してしまうのでは?というのが、会社としてはリスクに感じるかもしれないが、そもそも人材流動性が高まる中では一社に定年まで勤めることはむしろ稀な状況であり、副業・兼業解禁で退職しないまま、外での経験を積める機会を設けた方が得策である。

特にZ世代といわれる若手世代は副業を禁止するような社員を囲い込むような風土を嫌がる傾向があり、就職先として選択しないことも多々あるのだ。

副業・兼業解禁における注意点

一方で、副業・兼業解禁において気を付けなければならない点もある。

副業・兼業解禁において、一番に注意しないといけないのは、社員の働きすぎである。副業・兼業が忙しくて本業がおろそかになったり、体調不良になったりすることは避けたいところだ。ここで、企業が副業・兼業解禁にあたって、設けているルールを一部紹介する。

【労働時間の管理】

  • 副業の上限時間を設ける(東京海上日動火災保険:「社外副業の労働時間は原則、月30時間まで」という要件を設定)
  • 本業の残業時間が〇時間以下であること(カゴメ:本業である同社での年間総実労働時間が1,900 時間未満」かつ「同社での時間外労働の月平均が15 時間以下)
  • 休息時間の確保(ライオン:深夜22 時以降の副業は禁止、翌勤務まで10時間以上のインターバルの確保、週に1日は休日を取ることを要件としている。)

また、競業避止、機密漏洩、名誉棄損、本業への専念などの項目についても申請書や誓約書等で提出を求めているケースも多い。

どの程度のルールを設けるかは、社員が副業をすることによって企業が何を目指しているかによる。たとえば、会社としては労働時間管理をしっかりと行い、隠れ副業・兼業や過重労働を防ぐということがもっとも重要な点であれば副業・兼業労働時間は厳しめに制限をすることになるし、一方で社員が自由度を持って自らの責任で経験を積み成長することを第一にするのであれば、最低限のルールにとどめることで問題ないだろう。

参考:経団連の副業・兼業の促進

おわりに

これまでは「社外で副業・兼業することが会社にとっては良くないこと」「本業でもっと頑張って欲しい」など、会社側は社員を無意識に拘束している状況だった。

しかし、人材流動性が高まっている中、あらかじめ会社として社員が社外との接点を増やして自己成長につなげることは積極的に容認すべきことだと考える。

このように働き手の意識の変化と企業側の動向を見れば、今後も副業・兼業の働き手は増加していくだろう。会社としては、先の通り副業・兼業をそもそも禁止することはできない状況だが、副業・兼業を解禁するということは、社員の労働力が社外で発揮されることになる。

企業は人材を送り出すだけではなく外から副業・兼業者を受け入れて、自社の戦力として活用していくことも同時に考えるべきである。労働人口減少から正社員での即戦力人材の獲得は今後一層厳しくなる中、企業が成長を続けるためには必要なスキル・経験を持つ副業・兼業者を社外から受け入れることが1つの対策になるといえるだろう。

次回のコラムでは、人材不足の今を乗り越えるために「雇用しない」という人材活用の方法について取り上げたいと思う。


石井 愛子(いしい あいこ)
株式会社マイナビ 独立推進事業室 スキルシェア事業統括部事業推進部 部長

石井 愛子(いしい あいこ)
株式会社マイナビ 独立推進事業室 スキルシェア事業統括部事業推進部 部長

2006年(株)毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)入社。
以降、企業の人材採用支援に一貫して従事。 総合商社・総合電機などリーディングカンパニーに対する、採用から育成までの総合提案営業や、グローバル人材採用事業の責任者等を担ってきた。

現在は【スキイキ】法人マーケティングの責任者として、副業・フリーランスとの協働を推進するメディア『プロ活らぼ』の運営、ウェビナー企画・登壇などを担当。
※所属や所属名称などは執筆時点のものです。

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