マイナビ キャリアリサーチLab

副業者やフリーランスなどの外部人材を活かした新時代の人事戦略

石井愛子
著者
株式会社マイナビ 独立推進事業室 スキルシェア事業統括部事業推進部 部長
AIKO ISHII

新型コロナウイルス感染症により、リモートワークなどの「働き方」の柔軟性は飛躍的に変化した昨今。企業と働き手の関係性についても、雇用という枠組みに縛られない、社外の副業者やフリーランスを企業で活かす『外部人材活用』が注目を浴びている。優れた専門スキル、社員にはない発想、そして独自の視点を持つプロフェッショナルが、人材不足やノウハウ不足という企業の課題に新たな選択肢となることが期待されている。

このコラムでは、外部人材の活用に関するエッセンスを深掘りし、そのメリット、委託可能な範囲、活用フロー、選定のポイント、などをまとめる。企業が未来に向けて挑戦し、持続的成長をするためには、どのように外部人材を活用し、企業という壁を越えてベストなチームを作ることができるかがカギになる。

外部人材活用のトレンドとマーケット動向

フレキシブルな働き方の推進や副業の増加

先のコラムでも取り上げたが、2018年の副業解禁元年から始まり、新型コロナウイルス感染症によるリモートワークの拡大によって自由に使える時間が増加した。人生100年時代のキャリアプランの形成も視野に置き、自らのキャリアを企業の中だけで完結させるのではなく、副業という形で自らのスキルを社外で発揮する人材が増加している。

フリーランス人口の増加

また、同じく一つの企業に所属しないフリーランス人口についても見てみよう。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)の調査によればフリーランス人口は306 万人~341 万人程度(2019年調査)とされており、労働人口のおよそ5%を占める。こうした会社という枠組みの外で、個人のスキルや経験をベースに価値提供を行う新しい労働力を企業が活用することを『外部人材活用』と呼ばれている。

外部人材活用のメリットと企業への影響

企業が外部人材活用を行うことで、どのようなメリットがあるのだろうか。スキルとコスト、組織活性化という3つの視点から見ていこう。

【スキル】専門知識・スキルを持つ即戦力の獲得

副業・フリーランスどちらとも共通しているのが、個人という単位で、自らの知識や経験を活かして自律的に仕事をしている点だ。そのため、仕事相手のクライアントやプロジェクトが変わったとしても、ある程度の再現性を持ち、自らのスキルをもとに一定のクオリティを提供できる。

人材を活用する企業の立場からすれば、このようなスキル経験を持つ即戦力を柔軟かつスピーディに自社の組織に取り入れることができることが利点だ。

【コスト】コストとリソースの最適化

外部人材活用では、一般的に業務委託契約を締結し双方が合意した業務ポジションや範囲において業務を遂行してもらう。契約の方法は「請負契約」と「準委任契約」の2つが主流である。

請負契約・準委任契約・委任契約の違い
著者作成「派遣や外注と何が違う?今更聞けない副業・兼業プロ人材の業務委託採用【基礎講座】」より抜粋

まず、請負契約は、委託業務の納品をもって報酬を支払う契約である。準委任契約は、その人材の時間単価×業務遂行に要する時間=報酬となる。準委任契約であれば、契約内容によるが、業務量に応じてコストの調整が可能となり、その案件が終了すれば人材との契約も終了となるため、今必要な業務に最適な人材をアサインでき、業務効率の向上が見込める。

限られた社員や予算というリソースを、もっとも注力すべき業務等に費やしつつ、期間が限られた仕事や、正社員を雇用するほどではない業務量であれば、外部人材を活用するといった方法で、リソースの最適化ができる。

【組織活性化】第三者視点の獲得とノウハウの蓄積

外部人材というと、一般的な外注と何が違うのかという疑問を持つ方もいるだろう。外部人材活用では、業務をアウトソースするというよりも、自社の組織に社外の助っ人を巻き込むイメージを持っていただきたい。外注となれば、その業務を行うプロセスは依頼元には見えづらいが、外部人材であれば、同じチームで仕事をするメンバーという感覚に近く、結果までのプロセスも一緒に進めていくので、プロの知見を借りつつ内部メンバーも学び成長する機会創出にもなる。いずれ、内製化したいと考える業務であれば特に外部人材の方が向いている。

委託できる業務の種類

では、具体的にどのような業務を委託できるのか見てみよう。外部人材が担うことができる業務範囲は、事業の戦略部分、各種戦術の計画、また実際に手を動かす実行部分に至るまで幅広い。ここでは、新規事業を例にとって考えてみたい。

戦略パート

  • 進出するマーケットの市場調査
  • ビジネスモデルの構築支援
  • 事業責任者の壁打ち/アドバイザー

戦術パート

  • マーケティング全体計画の策定
  • 営業先のセグメント分析/ターゲティング
  • アライアンス先の発掘
  • 資金調達支援

実行パート

  • 企画書作成
  • WEBサイト構築
  • 広告運用
  • 商談獲得・商談対応

進出を検討する市場調査や3P、4C分析など、新規事業なだけに社内に経験者が不在なことも多く、ゼロベースから始めるとなれば事業開始まで時間がかかる。

一方、その市場での事業経験がある人材に市場調査などを委託することで、準備期間の短縮や第三者から見た自社の強みの発見など、今はまだ自社にない事業だからこそ、外部人材活用が効果を発揮しやすい。

また事業フェーズに応じて、必要なスキルは変化するため、事業開始時はリサーチや事業計画、事業のローンチ前後ではマーケティングや営業体制の構築支援、事業計画がスタートした後は、各タスクの遂行といった、必要なときに必要な人材を引き入れるという柔軟な人材活用が実現できる。

業務委託採用のプロ人材モデルケース集
著者作成「業務委託採用のプロ人材モデルケース集」より抜粋

外部人材活用で成果につなげるステップ

1.課題の整理

今、このコラムを読んでいる方は、経営者、人事部門、営業部門などさまざまな立場で、仕事の現状と理想の姿にギャップがあり、解決したいという思いがあるのではないだろうか。社員の成長を促したい、優秀な人材を採用したい、売り上げを上げたいなど、理想と現状のギャップ=課題と定義し、その原因は何かを細かく整理することが、人材活用の最初のステップだ。

ぼんやりとした「できていないこと」「やりたいこと」をまずは掘り下げ、その原因となる部分を特定すれば、どのような人材に何をしてもらえれば、課題解決につながるのかを適切に検討することができる。その際、今の社員や会社でできること、ではなく、自社や自部署の成果のために根本的に足りないことなどもしっかりと考えたい。

2.委託業務の決定

課題が整理できたら、次は委託業務を既存の業務から切り出すことだ。日本の多くの企業はメンバーシップ型雇用のため、実施する仕事内容や要件を細かく定義することに慣れていないことが多い。

一方、業務委託をする際には、明確に委託する仕事内容、範囲、期間、頻度、ゴール設定など、明文化することが求められる。人材はどのような課題解決のために何の業務を行うのかを理解したうえで、その業務を引き受けるか決定するため、後から依頼事項がぶれてしてしまうと、当初の契約から齟齬が出てしまうので、トラブルになることもあり、注意しなければならない。

業務要件を決定する際は、以下のような5W1Hのフレームに当てはめて、内容を決定すると検討しやすい。

派遣や外注と何が違う?今更聞けない副業・兼業プロ人材の業務委託採用【基礎講座】
著者作成「派遣や外注と何が違う?今更聞けない副業・兼業プロ人材の業務委託採用【基礎講座】」より抜粋

1で考えた課題の原因が複数あれば、まずは優先度の高いものからスタートする方がよい。

3.人材選定

募集要件が整ったら、次に人材募集を行う。外部人材活用において、2023年現時点では求人企業よりも、仕事を希望する人材側(副業・フリーランス)の方が多い状況である。つまり買い手市場といえる。またスキル面でも、正社員となれば人材は1社しか選択できず、優秀な人材は激しい争奪戦となるが、業務委託であれば人材は本業含め、複数の業務をかけ持つこともできるため、優秀な人材が多数候補として上がることはよくある。

だからこそ、人材選定のポイントは、その人材が「短期的に成果を出せそうか」という点をまずは重視していただきたい。当初決めた委託業務に対して、必須のスキルや経験をMUST条件、あればベターなものはWANT条件を決めて判断軸とするのがよいだろう。また、事前にある程度現状の課題を伝えたうえで、面談で簡単な提案をもらうなど、具体的に自社の課題解決につながるスキルを持っているかどうかで判断することもできる。その際、人事や経営者だけが人材を選定するのではなく、人材を活用する部署やプロジェクトのメンバーが必ず1度は面談に同席することをお勧めする。

雇用であれば、「うちの会社にあいそうだから」「意欲があって頑張ってくれそうだ」というポテンシャルで採用することもあるが、外部人材活用の際は、設定した課題に対してすぐに取り組むことができる即戦力かどうかを意識していただきたい。

4.人材との契約

業務委託では、雇用条件のような決められた型はなく、2で決定している業務要件をもとに業務委託契約を結ぶ。スキイキのような外部人材活用のプラットフォームでは、人材との契約内容についてWEB上で合意を取ることも可能であり、また個別の契約書を締結する場合については、電子押印システムもあるので利用すればスムーズに契約ができる。

2023年4月に特定受託事業者にかかる取り引きの適正化等に関する法律案(いわゆる「フリーランス保護新法」)が国会審議で可決され、『業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法により明示しなければならない。』と、発注者の企業規模に関わらず、取り引き条件の明示が義務付けられる。(施行日は未定)

5.稼働開始後

稼働開始時には、キックオフミーティングを行い、委託業務の確認、現状の整理と共有、今後のスケジュールや連絡方法の確定、進捗確認の方法など円滑なコミュニケーションを行う土台を整えることが大切だ。

定例ミーティングを設定しておくと、コミュニケーションの頻度が増え、人材との信頼関係を構築しやすい。また、毎月の締め切りのタイミングなど、期間を区切って仕事ぶりへのフィードバックや改善要望なども遠慮せずに伝えるとよいだろう。委託する側は外部人材もプロジェクトメンバーの一員という意識を持ち、情報共有やマネジメントすることを心掛けていただきたい。

おわりに

副業やフリーランスという働き方が増加している背景を鑑みれば、本来はもっと企業が外部人材を登用してもよいはずだが、活用しているのは一部企業に留まる。外部人材活用を知らない、業務委託のやり方がわからない等の理由はあるが、実は「社外の人材」と業務を進めるという点に、心理的なハードルを感じ、踏み出せないことも要因の一つだ。

あまり考えすぎず、できる人がいるならまずは頼ってみよう、くらいの気軽さでまずは仕事を依頼してみていただきたい。私自身、配属当初は部署に一人だったため副業メンバーにメルマガの企画や作成などを手伝ってもらっていたが、定例ミーティングを行う中で徐々に打ち解け、現状の課題などにも話題が広がりディスカッションをする機会も増えていった。

上司や部下ではないフラットな関係性だからこそ、本音を話しやすく、壁打ち相手として非常にありがたい存在だったし、結果として、今後行うウェビナー企画のテーマ設定やメルマガの結果分析など、依頼が増えていった。社員のように毎日顔を合わせることはなかったとしても、仕事を通じて信頼関係は十分築けるので、まずはスモールスタートで始めてみるのはいかがだろうか?


石井愛子(株式会社マイナビ)

■著者プロフィール
石井 愛子(いしい あいこ)
株式会社マイナビ 独立推進事業室 スキルシェア事業統括部事業推進部 部長

2006年(株)毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)入社。
以降、企業の人材採用支援に一貫して従事。 総合商社・総合電機などリーディングカンパニーに対する、採用から育成までの総合提案営業や、グローバル人材採用事業の責任者等を担ってきた。

現在は【スキイキ】法人マーケティングの責任者として、副業・フリーランスとの協働を推進するメディア『プロ活らぼ』の運営、ウェビナー企画・登壇などを担当。
※所属や所属名称などは執筆時点のものです。

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