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人の世界を見出す適性検査の構造と特徴の違いについて

長瀬存哉
著者
HRコンサルタント
ARIKA NAGASE

二回目のコラムでは、人の内面世界を捉える適性検査を、氷山モデルや構造モデル※1などを通して、その全体像を解き明かした。今回は、日本の代表的な適性検査の特徴について、構造モデルのスクエアをもとに、その違いを紐解いていきたい。【図1】 ※1:構造モデルの詳細は第二回コラムにて解説)

適性検査の構造モデル:人的構造スクエアー(広がり)

自己の世界を分析する【基本的な適性検査】

まず一つめに紹介する適性検査を仮に適性検査Aとしよう。この適性検査は、日本で古くから活用されている適性検査である。もともと1920年代に海外で開発された性格検査をモデルに、日本の文化・風土に馴染むよう、日本の学者によって翻訳され再開発された。120問の質問に答えることにより、性格を構成する12の因子の強弱で人の内面を測定し、その結果を5つの類型で診断する検査である。

その構造は、人の思いから行動をおこす「Ⅰ.意欲&主体」と、自発的な動きに伴って感知する「Ⅳ.感知&緩和」の窓に関わる特性を捉えようとしている。これは、人の心情や動きは、自らの発意からすべてが始まることや、そこからさまざまな情報・機会に触れることで、自己世界に吸収し備えていく特性など、自己寄りの窓を中心に、周囲との関係性を分析している。

また、他者に近づくための窓の一つ、「Ⅴ.自省&俯瞰」の特性もみられる。思いのエネルギーを前に推進していく駆動力と共に、一旦立ち止まって冷静に見つめ直すという特性や、当初の目的に伴う行動がズレなく連動できているのか、その要素を測る視点が備わっている適性検査となっている。

こうした視点によって、特定の職務領域において、定型的で標準化された役割を堅実に遂行する業務や、物事を誤らず安定的に遂行する業務など、ルーティンで行う仕事に関する適性などが確認できる。さらに組織的に統治して管理監督していくことが必要となる企業では、この適性検査Aはもっとも有効なものと考えられる。【図2】

適性検査A:日本で古くから活用されている適性検査

“タイプ論”と“特性論”の視点を広く浸透させた
【日本を代表する適性検査】

日本の歴史上、高度成長期に広がり、もっとも大きな影響を与えたのが適性検査Bである。日本では、人を学力だけでなく、内包している性格面を含んだ選考の形が主流となるなど、より総合的で効率的な選考方法のモデルとなった適性検査ともいえる。

この特徴は、構造的に「Ⅰ.意欲&主体」の窓に加え、「Ⅱ.外向&受容」「Ⅲ.探究&良化」「Ⅳ.感知&緩和」の自己寄りの窓をすべて包含した視点を持った適性検査となっている。つまり、自己の内面世界を丁寧に捉えつつ、一言でどんな領域で活躍する可能性があるのか、自己寄りの根本的な“特性”を広く捉えている。また、他者寄りの窓では、「Ⅴ.自省&俯瞰」と「Ⅵ.統制&進歩」の要素を備えており、特に他者に向き合うベースとなる視点を持ちつつ、より多様な組織の戦力として選考判断していくための指標を備えた万能な適性検査といえる 。【図3】 人は多種多様、さまざまな特徴があるため、その特徴を丁寧に説明しようとすれば、細かな特性を紐解き説明することが必要となる。たとえるなら、積極性が高くて協調性が低い人・・という説明になるわけだが、一人ひとりの細かな長所短所を語るには重要な視点になる。多様化していく役割や職種の特徴によって、自己に必要な特性要素が何かを見極めていくには、“特性論”的な基準が必要となる。

適性検査B:日本で広く普及している適性検査

それに加え、人をより効率的に判断するための指標である“タイプ分類”という概念を、わかりやすく示した適性検査でもある。多くの種類の仕事や役割が必要となる企業にとって、多様な人材を見極めるには、仕事の内容やプロセスに対する適性を、ある一定の基準で見極める必要がある。一言でいうとどんな特徴で、どんな役割に向いているのか?・・その場合、モデルとなる仕事の型や標準化された業務に対し、タイプとして適合するかどうか、という観点が重要となるため、とても有効な検査といえる。のちに会社にとってのロールモデルといった考え方が広く浸透するきっかけともなった検査である。

このように、「細かな特徴に適合する要素は何か=特性」と「一言でいえばどんな役割なのか=タイプ」の両面で見極められる、基本的な適性検査の形を作り上げたのが、この適性検査Bということになり、心理学の世界で人を捉える考え方の“特性論”と“タイプ論”の両方を兼ね備えた適性検査のモデルともなった。

また、日本における検証データも豊富に備わっていることから、業界や職種・業態による適性を識別したいという要望や、同業他社との違いを比較したいといった要望がある場合はとても有益な適性検査といえる。したがって、歴史が比較的長く、組織が拡大しつつある企業や、さまざまな組織が体系的に、また機能的に整理されている企業、一人ひとりの役割や適性を素早く見極めていく企業などに、とても有益な適性検査といえる。

周囲への影響力やアグレッシブさを見極める
【グローバルな適性検査】

次に、海外で広く活用されている適性検査Cについて、触れていきたい。これは、海外で開発された内容を、日本の風土に適応変化させた、とてもメジャーな適性検査の一つである。特にグローバルに展開している商社や企業、コンサルティング系の企業などでは、採用選考で広く活用されており、そのシェアも大きく占めている。

こうした企業に広く活用されている理由の一つに、歴史的にも海外の文化や風土を通して研究されたバックボーンがあることは言うまでもないが、構造的な面でみると、「Ⅰ.意欲&主体」や「Ⅱ.外向&受容」「Ⅲ.探究&良化」の自己寄りの3つの窓を測る指標が備わっている。これは、個人が意欲を持って何かを成そうとすることに対し、特に外に向かって影響を与えるためのベースとなるエネルギーや、そのエネルギーをより良い形に変容させ、高質化につなげていく特性を捉えている。

加えて、他者寄りでは「Ⅵ.統制&進歩」と「Ⅶ.変容&耐性」という、壁を乗り越えそれを凌駕していくためのエネルギーを測定する視点が備わっている。ことを成し遂げるためには、想定外の事態が発生し、さまざまな壁にぶつかるなど、過酷なプレッシャーに追い込まれても、めげずに打ち勝てる人間力が備わっているのかを捉えようとしている適性検査である 。【図4】

適性検査C:海外で広く活用されている適性検査

そのため、人事評価やコンピテンシー ※2などの “行動力”や“チャレンジ精神”、といった視点を大切にしている企業においては、この適性検査を中途・就職選考の過程で導入することはとても有益であると考えられる。数年先を予測することが難しいとされる時代において、混沌とした状況を打開していくエネルギーを兼ね備えた人材は、どの企業においても強く求められている。と共に、新たな市場に向けて起業していくベンチャー気質を持ち、外に向かって押し出す特性やそのポテンシャルを採用選考時に見極めたい、という組織や企業にとって、とても有効な検査といえる。

※2 ハイパフォーマーに共通してみられる特性であり、高い業績や成果につながる行動特性のこと。構造モデルについては第二回コラムで解説。

ビジネス活動に重要な周囲との関係性を分析する
【心をはかる適性検査】

また、より複雑な人間関係が増していく中、その環境下において、しなやかに適応することができるかどうかといった観点は、チーム力や組織力などを大切にする企業にとって、なくてはならない重要な視点の一つとなっている。自分の強みを活かしつつ、自身が馴染める職場かどうか・・・など、社会人としてビジネス世界で活動していくには、対人関係やコミュニケーションに関わる柔軟性が問われてくる。特にこの点に着目し、周囲との関係を受け入れ許容できるのか、という特性を深く見つめているのが適性検査Dとなっている。

二人集まればマネジメントが必要とされる、とも言われるように、多くの組織において一人仕事に加え、自身と異なる相手とどう関わり、パフォーマンスを発揮できるかが問われることになる。こうした視点を明らかにするには、「Ⅰ.意欲&主体」「Ⅱ.外向&受容」「Ⅳ.感知&緩和」の自己寄りの窓はもとより、「Ⅴ.自省&俯瞰」や「Ⅶ.変容&耐性」の特性など、さまざまな特徴や価値観を持った相手と対峙した時に、自身の強みを活かしながら、よりよい関係を築くことができるのか、を丁寧に分析し捉えようとしている適性検査Dが有効と考えられる 。【図2】

適性検査D:対人関係に有効な適性検査

特に、異なる価値観や文化を持った人と対峙していくことが求められる業界や、多くの人と接する営業や接客・サービス等の領域における適性、また能力のみに留まらない人間性や心の豊かさなどを大切にする職場や企業にとって、活用範囲は広い適性検査といえる。

このように、各適性検査は、構造面からみると、それぞれ捉えようとしている特性や領域が異なることがわかる。そのため、ここでは一部の紹介となったが、必要なテーマや目的によって、適性検査の用い方の見直しをしてみる、各々の特徴を活かし、組み合わせて活用してみるなども、有効な手段の一つとして考えられる。一つの適性検査で見極められれば十分、という考え方もあるが、組織をより機能的に戦力強化していくなど、人事・組織の課題に応じて、使い分けて活用していく、ということも有効な手段の一つといえよう。

では、これら適性検査を活用して見極めた人材は、企業が求める人材として成長しパフォーマンスを発揮する可能性があるのか、というテーマがある。次回は、こうした疑問に対する考察を含め、適性検査で見極められた人材と発揮すべきコンピテンシーとの関係性について触れていきたい。


著者紹介
長瀬 存哉(ながせ・ありか)
HRコンサルタント

1970年東京生まれ。大学卒業後、多種多様な業界の業態開発・商品開発に携わり、人の感性と環境・ハードとの間に融和と相乗効果が生まれる世界を見出し、人の可能性や創造性に関する調査・研究活動に取り組む。そこで、心理学・統計学分野のオーソリティに師事。HR分野の課題解決を通して、適性検査や意識調査・行動調査などの診断・サーベイ・アセスメントの設計・開発・監修を行い、その数は数百種類に上る。その後、取締役を経て独立。現在は、各企業やHRテクノロジーに関するコンサルティング・研修・講演活動を通して、HRの科学的なアプローチによる課題解決に取り組んでいる。

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