はじめに
現在、多くの大学生はインターンシップや仕事体験を通じて就職活動の準備を行い、就職先を決定している。キャリア形成活動を本格的に始めるのは大学3年生が一般的であるが、本来「キャリア」とは過去の選択や経験の積み重ねによって形成されるものであり、大学入学前の進路選択からその後のキャリアについて考える必要がある。 そこで本連載では、積極的なキャリア形成活動が始まる前の大学1、2年生を対象に、大学入学前の選択から今後の活動までの一連の流れを探っていく。
第1回目のコラムでは高校時代の文理選択と大学選びについて取り上げた。第2回目となる今回は、大学低学年(1、2年生)の段階で卒業後の進路(キャリアの方向性)をすでに決めている学生の特徴を見ていく。
キャリアの方向性が決まっている学生の特徴
志望業界・職種
前回のコラムでも紹介したように、『大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)』によると、大学低学年でキャリアの方向性(卒業後の進路)が決まっている(※1)学生は45.3%であった。【図1】
※1「具体的に決まっている」「どちらかといえば、決まっている」の計
キャリアの方向性が決まっている学生に志望業界を尋ねると、「メーカー(28.5%)」「サービス・インフラ(27.2%)」「官公庁・公社・団体(15.4%)」が多くあげられた。【図2】
【図2】 キャリアの方向性が決まっている学生が志望している業界
出典:大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)
文理別では、理系学生は「メーカー」が62.4%と圧倒的に多く、大学で学んだ内容を活かせる職場を志望する傾向が明確であった。一方、文系学生は「サービス・インフラ(31.9%)」「官公庁・公社・団体(21.6%)」が多かった。 さらに「サービス・インフラ」業界の詳細をみると、教育業界が多くを占める結果であった。これにより、文系学生は「教員」や「公務員」など資格や試験準備が必要な職業を志望していると考えられる。
職種では、理系学生は基礎研究、応用研究・技術開発などの「技術・研究系(42.4%)」が最多回答であった。文系学生は総務・人事といった「事務・管理系(20.6%)」や広報・マーケティングといった「企画系(19.1%)」が多くみられた。 文系学生は5人に1人が公務員を志望していたため、職種もそれに伴って事務・管理系が一定の割合を占めていることが考えられる。【図3】
【図3】キャリアの方向性が決まっている学生が志望している職種
出典:大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)
以上より、大学の低学年時点でキャリアの方向性が決まっている学生の志望する進路は文理によって違いがみられた。理系学生は大学での学びを活かせるメーカーの技術職を希望し、文系学生は資格が必要な教員や試験勉強が必要な公務員など、その職業に就くために長期間準備が必要な職を主に希望していることがわかった。
キャリア形成に影響する要因
影響を受けた人・もの
続いて、キャリアの方向性が決まっている学生に影響を受けた人やものについて尋ねた。現在希望している仕事・キャリアを意識するきっかけとなった人は「両親(55.1%)」がもっとも多かった。その他にも「中学・高校の教員(26.7%)」や「同世代の友人(20.2%)」が続き、学生生活で身近に関わる人からの影響が大きいことがうかがえる。【図4】
【図4】希望しているキャリアを意識するきっかけとなった人
出典:大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)
人以外では、「YouTube(42.0%)」「テレビや映画(41.5%)」「WEBサイト(41.5%)」が上位で、SNSやメディアの影響が大きいことがわかる。【図5】
【図5】希望しているキャリアを意識するきっかけとなったもの
出典:大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)
インターネットやSNSの普及により、現在の学生は過去の世代と比べて圧倒的に多くの情報に触れているが、こうした環境は、学生の価値観や意思決定だけではなく、キャリア形成においても影響がありそうだ。
キャリアを意識し始めたタイミング
キャリアを意識し始めたタイミングについては「小学校~高校」が7割で、特に高校のタイミングが約4割を占めており、高校時代の文理選択や、大学に進学するかどうかも含めた大学選択がキャリアを意識するきっかけとなっているのだろう。
その一方で、割合として2番目に多かったタイミングは「大学生以降」であった。現在、キャリアの方向性を決めている学生は必ずしも高校時点でキャリアを意識していた訳ではなく、大学での出会いや経験を通じてキャリアを意識し、方向性が決まった学生も一定数いることがわかる。【図5】
【図6】現在希望している仕事・キャリアについて、意識し始めた時期
出典:大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)
大学から始めるキャリア形成行動
大学から行っている仕事選びのための行動
卒業後の仕事選びに向けた行動でもっとも多い回答は「両親と将来の進路について話し合う(42.1%)」であった。キャリアを意識し始めたタイミングごとに見ていくと、高校以前にキャリアを意識し始めた学生は大学のキャリア教育科目の履修をしている割合がもっとも多く(45.9%)、大学入学後の学生よりも18.0pt高い結果であった。
一方で、大学入学後にキャリアを意識し始めた学生はキャリア支援サイトへの登録をする割合がもっとも多く(45.2%)、高校以前の学生より14.2pt高かった。その他にも「企業が主催する仕事研究セミナー・合同企業説明会等のイベントへの参加(36.2%)」については高校以前の学生よりも24.6pt高い結果であった。【図7】
【図7】卒業後の仕事選びをするうえで行っている活動
出典:大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)
高校以前にキャリアを意識し始めた学生は将来の進路を見つけるための行動ではなく、親や友人と話し合ったり、キャリア教育科目を履修したりとキャリアに対する考えを深めるような行動が上位にあがっていた。
一方で、大学入学後の学生は、キャリア支援サイトへ登録を行っていたり、企業主催のセミナーへ参加していたりと、将来の進路を探すための具体的な行動を行っていた。その結果として現在、キャリアの方向性が決まっているのだろう。
活動の背景には?
上記の活動のきっかけを自由回答にて尋ねたところ、「選択の幅を広げるため」「納得のできる進路を実現したいため」と将来に対して前向きな意思で行動を行っていたり、親や兄弟などからの勧めで始めていた。
一方、将来の漠然とした不安がきっかけという意見や、SNSなどで就職活動の早期化という情報をみて行動を起こしたといった意見もあり、必要以上に不安を煽るような情報には注意が必要かもしれない。【表1】
以上より、高校以前にキャリアを意識し始めた学生は長期的な準備や資格が必要な職業や、大学で学ぶ内容から進路を決めていることがわかった。一方で、大学入学後の学生は、低学年次から具体的な行動を取っており、その結果としてキャリアの方向性が決まっていることが示唆された。
このことから、低学年次からの積極的な行動が重要であることがわかるが実際はどうだろうか。最後に、就職活動を経験した学生の意見をみていく。
就活生が考えるキャリア形成活動の理想のタイミング
就活生のキャリア形成活動を始めたタイミング・始めたかったタイミング
2026年卒の大学4年生にキャリア形成活動を始めたタイミングと始めたかったタイミングを尋ねた。どちらも「大学3年生」が最多回答ではあるが、“開始したかった時期”の「大学3年生」の回答割合は“開始した時期”の回答割合よりも減少し、「大学2年生」の“開始したかった時期”の割合が増加していた。
そのため、大学3年次にキャリア形成活動を始めた学生の中には、就職活動を経験したことで「大学2年生から始めたかった」と思った学生がいることがわかる。【図8】
【図8】キャリア形成活動を開始したかった時期/した時期
出典:大学生低学年のキャリア意識調査8月(2028・2029年卒対象)
まとめ
本コラムでは、大学低学年次に将来の進路を決めている学生の特徴をみてきた。大学低学年次に将来の進路を決めている学生は4割ほどであるが、その多くは高校までにキャリアを意識し始めており、その結果として大学低学年次にキャリアの方向性が決まっている状態であることがわかる。
一方で、大学入学後にキャリアを意識し始める学生も一定数存在し、それらの学生は早期から企業が開催するイベント等に参加し、積極的にキャリアについての情報を収集することで将来の進路を決めているようだ。
また、就職活動を経験した学生の中にはインターンシップへ参加できる3年次よりも前の「大学2年生」からキャリア形成活動を行いたかったという学生もおり、キャリアを考え、決めるということについてはある程度時間が必要であることがわかる。
しかし、早期から行動を始める学生の背景の1つとして「将来への不安」がみられた。過度に不安を煽られ、「せねばならない」行動として、キャリア形成活動をするのではなく、自身のより良い未来のための前向きな活動として行われることを願っている。
マイナビキャリアリサーチLab 研究員 中島英里香