「まずはやってみる」精神で進める、BEAMSのICT・AIと働く現場

キャリアリサーチLab編集部
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アパレル業界でいち早くRFID(無線ICタグ)を導入し、物流と店舗を一気通貫でつないできた株式会社ビームス。近年では生成AIツールも全社的に導入し、バックオフィスから店舗運営にいたるまで、スタッフ自らが技術を使いこなす「AIネイティブ」な組織文化が根付き始めています。今回は、同社のITと物流を統括する竹川氏とIT開発を担う石田氏に、技術導入の裏側と、AIとともに働くこれからの未来についてお話を伺いました。

写真左・竹川氏、写真右・石田氏

■ロジスティクス本部本部長 兼 ITシステム本部本部長 竹川 誠(写真左)
1997年、株式会社ビームスへ新卒入社。物流部門へ配属される。2012年より、RFID導入プロジェクトマネジャーとして、RFIDの全店舗展開を進める。2026年3月、現職にてIT基盤(基幹システム・DWH・セキュリティ)と物流基盤(安定稼働・物流DX・グローバル物流)の構築を推進中

■ITシステム本部 IT開発部部長 石田 雄大(写真右)
2008年、株式会社ビームスへ中途入社。IT部門へ配属される。社内インフラに従事。2015年、内製開発の立上げに参画。以降、社内向けWEBサービス、データ連携基盤、DWHの構築。2024年3月、現職にて内製開発とデータ活用の強化を推進中

「使わされるAI」ではなく「自主的に使うAI」へ

質問:貴社の業務のなかで、AIやICT技術を使用している取り組みを教えてください

竹川:AIについては、まだまだ道半ばというのが正直なところで、「これを使っています」とはっきり言えるほどの状態には至っていないのが現状です。メインで使用しているITインフラの中に生成AIツールがあり、それを各スタッフが自主的に使えるように促すかたちで「AI活用ナビ」という社内イントラの中にコミュニティを立ち上げました。それぞれのスタッフが自分で使っているAI活用事例を共有し合う場として機能しています。

今後は画像認識をはじめ、AIにできることがどんどん増えてくるはずです。AIという電車は必ずやってくると思っているのですが、時刻表がまだわからない状態。切符を買いながらいつ乗るかを考えているような感じですね。

石田:バックオフィス部門を中心にAIツールの活用が徐々に進んでいます。この1年で使い始めたのですが、AI活用ナビの場を通じて、各バックオフィス部門が自分たちで必要な業務効率化のためのチャットボットなどを作っているケースも出てきています。ユーザー自身が自発的にAI活用に取り組んでくれているなという感触があります

開発の視点から見ると、これまでは「こういうものが欲しい」というリクエストをもとに作るケースが多かったのですが、生成AIを使うことでクイックに必要なアプリケーションを自分たちで簡単に作れるようになってきています。

データ活用の面では、お客様へ提供しているサービスを含めていろいろな情報が社内に蓄積されてきました。集約するところまでは進んできているものの、人の目線だけでは判断できない部分も出てきています。そういったところでAIの力を使ってデータを分析し、お客様をより深く知るための取り組みも今後進めていきたいです。

RFID導入という新しい挑戦が、結果として働き方を変えた

質問:2011年からRFIDを使用した在庫管理をされているとのことですが、人手不足など課題があったのでしょうか。導入した背景を教えてください

竹川:「RFID(無線ICタグ)」は、バーコードの読み取りではなく、情報が書き込まれたタグで電波を使って非接触で読み書きすることができるシステムです。これの導入に関して、実は課題ありきで取り組んだわけではないんです。当時、新しいレーベルの立ち上げのタイミングで、社内に新しいことにチャレンジしようという機運が高まっていました。物流の効率化をさらに進めるにはどうすべきかを考える中で、RFIDという選択肢が浮かび上がってきたのです。

2003年頃からRFIDには取り組んでいたのですが、当時はRFIDタグの費用が高く、実際の導入には至りませんでした。2011年のタイミングで新しいことに取り組もうという機運と費用面の条件が整い、導入に踏み切ったわけです。

2011年から2014年に新レーベルだけで試験的に導入して効果を検証し、2014年に全店展開を決め、2015年に物流でもRFIDを使い始めて、2017年に全面導入が完了しました。

人手不足の解消を目的に始めたというよりは、新しいことにチャレンジしたという方が正確です。結果として従業員の業務負担軽減や人手不足対策にも繋がりましたが、それは後からついてきた効果でした

在庫精度の向上が、現場の負担と判断を変えた

質問:RFIDを導入したことで、どういったメリットを感じましたか

インタビュー中の様子

竹川:一番大きな効果は棚卸の部分です。在庫精度がお客様へのサービスに直結するという考えが根底にありましたので、以前から弊社では年10回棚卸を実施していました。四半期に1回とか、2、3カ月に1回棚卸しする企業が多い中で、弊社は毎月のように実施していたわけですから、棚卸にかかる労力は相当なものがありました。

以前は10人がかりでシフトを組んでその日のために人を集めて実施していた作業が、今や1、2人でできるようになっています。今のスタッフの中にはもはや棚卸という概念自体がない人もいるんじゃないかというくらい、負荷が軽減されました。スタッフからも「もう昔には戻れない」という声が上がっています

数字で証明できる効果だけでなく、在庫精度が格段に上がったことで実現できたこともあります。それがオムニチャネルです。店舗の在庫をECで販売する、店舗にいながら物流センターの在庫を販売する、そういった在庫の一元管理が可能になりました。今主流になっているオムニチャネルに他社より早く取り組めたのも、RFIDで在庫管理の精度を上げていたからです。お客様へのサービスにも、売り上げにも貢献できたと思っています。

ROIは店舗と物流を「一気通貫」で考えてこそ成立する

質問:これまでの取り組みのなかで、「導入にあたり障壁となったこと」「やってみようとしたがうまくいかなかったこと」などがあれば教えてください

竹川:RFIDについては、ROI(投資利益率:投じた費用に対してどれだけの利益が得られたかを示す指標)をどう考えるかが最大の壁でした。2011年当時を振り返ると、店舗業務だけでRFIDの投資効果を出すことは難しかったのですが、社内でのチャレンジを体現する役割を私たちの部門に与えてくれての投資判断だったと思っています。弊社が他社と違うのは、物流と店舗のRFID活用をしっかりと一気通貫でやっているところかなと思っていて、その仕組みをしっかり整えることが想像以上に大変でしたし、そういったチャレンジをしたからこそ今も投資効果を実感しています。

石田:データ活用の面での課題は、見る視点によってデータの意味が変わってしまうことです。同じ情報でも、しっかりデータの意味を理解できる状態を作っていかないといけないと感じています。以前は人がExcelを使ってデータを作るのが文化でしたが、そこをシステムで自動化するところまで進んできました。次のステップは、そのデータからどんな課題を発見してどう意思決定していくかというところです。

たとえば、在庫移動(※1)の分析については、数年程前にチャレンジした際はノイズとなるデータをうまく扱えず期待した成果は出せませんでした。現在はAI技術も飛躍的に進化し、機械学習を活用し、広範囲なデータから精度の高い移動指示を出す仕組みへと進化しています。これからその適用範囲をさらに拡大していくところです。

AI番長がいる。「まず使ってみる」文化をガバナンスで支える

質問:結果として従業員の業務負担軽減や人手不足対策につながったというお話もありましたが、貴社と同様にICT技術で人手不足感を緩和したい、業務負担を軽減したいと考えている企業に向けてアドバイスがあればお聞かせください

インタビュー中の様子

竹川:日本の経済停滞期をよく「失われた30年」と言いますが、それ以前は作業を効率化することで生産性が上がっていたと思うんですね。ところがそれ以降は、ホワイトカラーの業務効率化がすごく下手だったなと。IT部門としても、そこに取り組めていなかったという反省があります。今後取り組めるとしたら、やはりAIの活用だと思っていて、オフィススタッフがやっている今の業務を棚卸しながら、どこでAIを活用して生産性を上げていくかに取り組みたいと考えています。

もちろんAIで代替できない業務はあります。自分でデータを集めるといった業務がAIに置き換わっても、集めたデータから何を発見して何に生かすかを考えるのが、人間の仕事になっていくのではないでしょうか。アナログな仕事が減っていき、フィジカルな仕事が増えてくる──そのフィジカルな部分は、体を動かす仕事という意味だけではなく、もっと広く、人が考えて何かを作り出す領域として私は捉えています。

また、AI活用を推進するための研修も大事だとは思いますが、まず内発的な興味を引き出すことが大切だと思っています。研修で知識を与えても、その後に広がりが生まれにくい。そうではなく、各部門に必ずいるAIに興味があって使ってみたいと思っている人、私たちの部門ではそういう人を「AI番長」と呼んでいるのですが、そういった人材を見つけて連携しながら、その部門での広がりを作っていくという取り組みをしています。

一方でガバナンスの部分は私たちIT部門の役割です。セキュリティを確保しながら伴走していくイメージです。弊社の場合、会社で管理するツールの中で使ってもらっています。その大前提があるので、むしろ「まず使ってみましょう」というスタンスで推進できています。ルールで縛るよりも、安全な環境を整えた上で活用促進を優先する、というのが弊社の方針です。

石田:AI活用を通じて、今やっていない新しいことに興味が持てるというのは一つの大きな効果だと思っています。AIをもっと深掘りしたいと思ったとき、自分の業務以外の知識も必要になってくる。そうやって自分をバージョンアップさせるきっかけになる。そういった意味でも、AIの活用はポジティブな変化をもたらしてくれると感じています

弊社では今年、「AIより愛」というスローガンを掲げています。データ分析でこうすべきという推論や試算はAIがしてくれますが、ビームスのスタッフが持っている経験や感性と掛け合わせていくことが大切です。

専門家でなくても使える──AIと協働する未来の仕事像

質問:今後のAI・ICT活用について、どういったビジョンを描いていますか

竹川:AIネイティブな時代になっていく中で、私たちはAIに選ばれる企業にならなければいけないと思っています。今は検索サイトで調べてビームスの公式サイトに来て商品を購入するというフローですが、近い将来、「春先に着たいアイテム」とAIにプロンプトで問いかけて、そこから直接購入するという時代が来ると思っています。ビームスという名前を知らないまま購入されることもあり得ます。そのためには、商品情報も企業情報もすべてのネット上の情報を正確に整備しておくことが不可欠です。SEOの延長線上の話でもありますが、AI時代のデータ構造をどう整えるかは今すぐ取り組まないといけないテーマです。

また、開発の観点では、ノーコードツールを取り入れるなど、スタッフがやりたいことを素早くシステム化できる体制を作っていくことが課題です。

もう一つ夢として持っているのは、写真などの2Dデータを3Dに変換して、お客様がバーチャルで試着できるような世界観を作ること。売れたものだけを作るという発注の形が実現できれば、在庫ロスもなくなります。そういう時代がいつか来てほしいですね。

石田:将来的には、構造化された情報だけでなく、音声データや画像などの非構造化データとも掛け合わせながら活用できるようにしていきたいです。

データ活用についても、自然言語でデータを深掘りできる環境を検討中です。エンジニアに頼まなくても、AIとの対話の中で専門家でない人でも分析ができるようになればと考えています

VMD(ビジュアルマーチャンダイジング:売り場の陳列など視覚的な販売戦略)の領域でも、脳科学AIなどを活用して、お客様がどこに視線を向けるかを分析できるようになると面白いと思い、その活用の可能性を個人的に探っているところです。

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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