マイナビ キャリアリサーチLab

「タイパ就活」のメリット・デメリット【2023年最新調査より分析】

長谷川洋介
著者
キャリアリサーチLab研究員
YOSUKE HASEGAWA

タイパとは

かけた時間に対する効率や満足度を表す言葉として、とりわけZ世代を中心とした若年層の行動の特徴を表す言葉として登場した「タイムパフォーマンス」、略して「タイパ」。
かけた「お金(あるいは労力)」に対するパフォーマンスが「コストパフォーマンス」であるなら、タイパはかけた時間に対するパフォーマンスのことを指し、かけた時間あたりのパフォーマンスが高ければ「タイパが良い」という表現をする。

2022年は「タイパ元年」?

2022年は、映画の倍速視聴に着目した『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社/稲田豊史 著)が出版されたほか、辞書出版社・三省堂の発表した『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」』の大賞にタイパが選出されるなど多くのメディアに取り上げられ、さながら2022年は「タイパ元年」のような年であったともいえる。

マイナビキャリアリサーチLabでも、2022年に「Z世代が思う『タイパの良い就職活動』と『タイパの悪い就職活動』 ~就活に費やす時間とスマホ普及率の関係~」というコラムを発表するなど、このタイパという行動特性と学生の就職活動との関係に着目してきた。
今回のコラムでは、さらに2023年に新たに行った学生調査・企業調査の結果をもとに、就職活動においてタイパを意識することを学生がどのように捉えているのか、タイパを意識する部分と、そうでない部分はどこなのか、そして学生のタイパ就活は企業の目にはどのように映っているのか、ということについて考察していきたい。

就職活動において「タイパを意識する部分」と「タイパにこだわらない部分」

まず、就職活動において学生は具体的にどの部分でタイパを意識して取り組み、逆にどの部分ではタイパにこだわらずに取り組んでいるのか。下の【図1】はその回答結果を示したグラフである。

就職活動準備および就職活動において、タイパを意識して取り組むもの・取り組むと思うものと、タイパにこだわらずに取り組むもの・取り組むと思うもの/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 
【図1】就職活動準備および就職活動において、タイパを意識して取り組むもの・取り組むと思うものと、タイパにこだわらずに取り組むもの・取り組むと思うもの/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 

「タイパを意識して取り組む・取り組むと思う」という回答が多かった項目を黄色く囲っており、インターンシップ・仕事体験への応募や申し込み・参加、合同企業説明会への参加といった項目がそれにあたる。
対して「タイパにこだわらず取り組む・取り組むと思う」という回答が多かった項目は青く囲っており、エントリーシートの作成や適性検査、面接といった項目が多い。項目によっては一概にはいえない部分もあるが、傾向としては概ね以下のようにまとめられるだろう。

タイパを意識する】フェーズ=企業探しのフェーズ

インターンシップ・仕事体験への応募・参加、合同説明会(対面・オンライン)への参加など、興味ある企業を探すフェーズにタイパを意識する傾向があり、これによって接することができる企業の数を最大化する目的がある。

タイパにこだわらずに取り組む】フェーズ=次のステップに進むためのフェーズ

エントリーシートの作成、適性検査や筆記試験、面接など、企業探しで見つけた企業の中から絞り込み、次のステップ(インターンシップ参加や選考)に進みたい企業へのアクションでは、タイパにこだわらない傾向があり、これによって企業とのコミュニケーションの内容・質の面を最大化しようとする目的がある。

タイパを使い分ける学生たち

このように、フェーズと目的に合わせて、タイパを意識するのか、あるいはタイパにこだわらずに取り組むのかを、学生は使いわけていると考えられる。
2022年のコラムでは「エントリーシートはタイパが悪い」という趣旨の学生のコメントを紹介したが、これは主に手書きであったり、郵送が必要であったりという作成や提出にかかる手間や煩雑さに関するコメントが多かった。
つまり、エントリーシートの内容を考えるという本質的な部分ではなく、あくまで二次的な部分に関するタイパの良し悪しという評価であった。今回の結果をエントリーシートの内容を考えること(本質的な部分)への評価として見れば、タイパにこだわらずにじっくりと取り組むという一貫した姿勢を見ることができる。

就職活動におけるタイパとは、単なる時短にあらず

すでに述べたように、タイパとはかけた時間に対する効率や満足度を表している。2022年のコラムでも、企業が主催する就活生向けの会社説明会のうち、録画で配信される説明会動画を早送りで視聴した経験のある学生が約7割に上る、という調査結果を紹介した。
タイパというと、このような「時短」や「ショートカット」のような行動が「タイパが良い」と見なされることが多いが、就職活動においてはやや様子が異なるというのが筆者の考えだ。あくまでもタイパは「かけた時間に対する効率や満足度」を表すものであり、たとえ長時間を要したとしても、その分効果や高い満足度を得られれば、それはそれで「タイパが悪いとは感じない」ということになる。
就職活動という自分の将来に関わる重要な場面における「タイパの良さ」は、サブスクで見たいコンテンツを探す場面における「タイパの良さ」とは、同じ言葉であっても当然ながらニュアンスが異なってくるのであろう。

学生が考えるタイパ就活のメリット・デメリット

次に、就職活動でタイパを意識することのメリット・デメリットについて、学生がどのように考えているのかを見てみる。下の【図2】は、タイパを意識した就職活動準備および就職活動について、「メリットの方が多いと思う」か「デメリットの方が多いと思う」かを調査した結果であり、45.8%の学生が「メリットの方が多いと思う」と回答した。
「メリットとデメリットが半分半分だと思う」まで含めると、96.9%の学生が就職活動でタイパを意識することに何かしらメリットを感じていることがわかる。

タイパを意識したインターンシップ参加・就活準備、就職活動について/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 
【図2】タイパを意識したインターンシップ参加・就活準備、就職活動について/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 

タイパ就活のメリット

  • 「企業との接点の最大化」
  • 「学業との両立」

学生調査では、合わせてタイパ就活に感じるメリット・デメリットを自由記述で回答してもらった。
回答の中から目立ったものを一部抜粋したところ、「多くの企業を知ることができる」「エントリーできる企業の数が増える」といった【出会える企業の数を最大化できる】というコメントが見られた。
また「学業に時間を使うことができる」「就活にはお金がかかり、それを得るためにバイトをする時間も捻出する必要がある」など【学業やプライベートと就職活動の両立が可能になる】というものもあった。

タイパを意識したインターンシップ参加・就活準備、就職活動に感じるメリット(自由回答)/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 
タイパを意識したインターンシップ参加・就活準備、就職活動に感じるメリット(自由回答)/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 

タイパ就活のデメリット

  • 「情報を取りこぼす懸念」
  • 「視野が狭くなる」

一方でデメリットを感じる部分としては「表面的なことしか知ることができない」「見落とす情報がありそう」など【情報の取りこぼしが起きる懸念がある】というものや、「関心のない業界を切り捨ててしまうことにつながる」という【視野が狭くなる懸念がある】というもの、そして【使いわけを誤ると逆効果になる】というものがあった。

タイパを意識したインターンシップ参加・就活準備、就職活動のに感じるデメリット(自由回答)/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 
タイパを意識したインターンシップ参加・就活準備、就職活動のに感じるデメリット(自由回答)/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) 

企業は学生のタイパ就活をどのように捉えているのか

では、そんな学生のタイパ就活に対して、企業側はどのような捉え方をしているのか。企業向け調査で、学生が就職活動でタイパを重視することについてどう考えるかを聞いたところ、7割の企業が「良い部分も悪い部分もあると思う」と回答した。【図3】
「どちらかというと良いことだと思う」という肯定的な企業は24.5%も4社に1社ほどとなり、「どちらかというと良くないことだと思う」という否定的な企業は5.5%と少数にとどまった。

学生が就職活動においてタイパを意識することについて、どう思うか/2024年卒マイナビ企業新卒採用予定調査 
【図3】学生が就職活動においてタイパを意識することについて、どう思うか/2024年卒マイナビ企業新卒採用予定調査 

企業がタイパ就活を良いと思う理由

  • 「効率重視の姿勢は大切」
  • 「学業との両立」
  • 視野を広げてほしい」

企業調査でも、タイパ就活に関する考えを合わせてその理由を自由記述で回答してもらった。タイパを意識することの良い部分に関して一部を抜粋すると、「時間効率を考えることは実際に仕事をする上でも非常に重要であり、合理的」のように【効率を重視する姿勢を評価】するコメントのほか、「学生の本分である学業に集中してほしい」のように【学業への配慮】を表したもの、「さまざまな業界や企業を知ることで自身の適性について考えを深めることができる」のように【視野を広げてほしい】という趣旨のものがあった。

学生が就職活動においてタイパを意識することについて、良いと思う理由/2024年卒マイナビ企業新卒採用予定調査 
学生が就職活動においてタイパを意識することについて、良いと思う理由/2024年卒マイナビ企業新卒採用予定調査 

企業がタイパ就活を良くないと思う理由

  • 「情報を取りこぼす心配」
  • 「ミスマッチの懸念」

一方でタイパを意識することの良くない部分については、「表面上の情報だけを狭く浅くしか取れなくなる」という【情報の取りこぼしを心配する】ものや、「自己分析や企業研究にかける時間が減れば、適性の低い学生から応募が増えるのではないか」という【ミスマッチを懸念する】ものなどが見られた。

学生が就職活動においてタイパを意識することについて、良くないと思う理由/2024年卒マイナビ企業新卒採用予定調査 
学生が就職活動においてタイパを意識することについて、良くないと思う理由/2024年卒マイナビ企業新卒採用予定調査 

タイパ就活がもたらすものは「より良いマッチング」か、それとも「機会損失」か

このように、就職活動においてタイパを意識することのメリット・デメリットを学生・企業それぞれに聞いたが、メリットについては「多くの企業を知ることができる」「学業との両立が可能になる」などの点で、またデメリットについては「情報の取りこぼしが起きる懸念がある」「視野が狭まり、ミスマッチにつながる」などの点において、学生・企業双方が共通の認識を持っていることがわかる。
学生がメリットに感じる部分は企業も好意的に見ており、また学生が懸念していることは同時に企業の懸念事項でもある。学生が就職活動においてタイパをうまく使いこなすことができれば、学生と企業が互いに出会える機会が増え、より良いマッチングにつながるといえる。

一方で、学生が企業の情報を取りこぼし十分な企業理解ができなくなれば、就職先として検討しアプローチできる企業数が減り、自身のキャリアの可能性を狭めてしまうことになる。またその結果として、企業側も学生と出会う機会を失ってしまう。
つまりタイパ就活の負の側面とは、学生・企業双方が「出会えたかもしれない相手と出会えなくなる」という「機会損失」にあると言い換えることができる。タイパ就活では、より良いマッチングというポジティブな面と、機会損失というネガティブな面が混在していると言えよう。

機会損失を防ぐために学生・企業ができること

では、学生・企業の双方が機会損失を防ぐためにできることはなんだろうか。まず学生側で重要なのは、企業探しにおいて収集した情報に対して「本当にこの情報だけで十分だろうか」と情報の取りこぼしがないかを自らに一度問い直す姿勢である。タイパを意識することでより多くの企業を知ろうとすること自体は自身の選択肢を増やし、キャリアの可能性を広げるうえで有効な戦略といえるため、必要に応じて企業研究を深掘りするなどして、見落としている企業情報・企業の魅力などがないかという意識を、頭の片隅に持っておくことが必要となる。
またタイパを意識して取り組んだ方が良いことと、タイパにこだわらずに取り組むべきことを自身の中で整理し(どこでタイパを意識すべきかは人それぞれであり、自身の性格や傾向を踏まえて都度判断していく)、そのうえで必要に応じてタイパを使いわけ、企業と適切なコミュニケーションをとることが必要になるだろう。
時間を意識しすぎて、自身のやりたいことや強みなどを深掘りしていく自己分析などをショートカットしたり、面接準備をおそろかにしたりすると、エントリーシート作成や面接対策などに影響が出るなど、本末転倒になってしまう。タイパは目的でなく、手段であるべきだ。

タイパ就活による機会損失を防ぐために学生・企業それぞれができること/マイナビ
タイパ就活による機会損失を防ぐために学生・企業それぞれができること

企業においては、学生が企業探しにおいて少しでも多くの企業の情報を集めたいと考えていることを踏まえ、学生にぜひとも伝えたい情報は可能な限りわかりやすく、端的に伝える工夫が必要になるだろう。
その一方で、特に時間をかけて丁寧に伝えたい自社の魅力などがある場合(学生にはWEBではなく対面で来社してもらい、自社製品の製造ラインや品質へのこだわりを直接伝えたい、等)は、時間をかけることの意義や目的を学生にわかりやすく伝え、理解を求めることが重要だ。
先に述べたようにタイパとは、かけた時間に対する満足度であるから、時間は多少かかってもその結果このようなメリットがある、ということを学生が理解すれば、決してタイパの悪いコミュニケーションにはならないはずだ。そして、そのようにして学生に対して自社に魅力を伝えることに成功した後は、いよいよ面接・選考となる。ここでも、実施する方法(WEBか対面か)や、実施日程を可能な範囲で多く用意するなどの工夫を行うことで、学生との出会いの機会を最大化することが可能となる。

さいごに

本コラムでは、就職活動においてタイパを意識することのメリット・デメリットについて、学生・企業の双方に行った最新の調査をもとに考察してきた。
2022年のコラムではタイパ就活の懸念について「(学生が)『見たい情報しか見ない』ことにより、リーチできたかもしれない情報にリーチできなくなるという機会損失」の可能性について触れたが、今回の調査によって、そのような機会損失のリスクを理解し、メリット・デメリットを踏まえて就職活動に上手に組み込んでいる学生たちの姿を垣間見ることができた。
高度にIT化が進んだ現代社会で、常にインターネットに接続可能な環境に身を置くZ世代の学生たちは、自身の今後や将来に関わる重要局面である就職活動においても、このタイパという行動様式をバランスよく取り入れている。タイパ自体を目的化せず、あくまで手段として冷静に取り扱うことさえできれば、タイパ就活は今後も学生にとって頼もしい武器になっていくだろう。

キャリアリサーチLab研究員 長谷川洋介

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