マイナビ キャリアリサーチLab

新卒採用の「早期化」は何が問題なのか

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

2024年3月、いよいよ25年卒の新卒採用がスタートした。3月1~3日時点で内々定率は前年から16.2pt増の34.3%となった。新卒採用については、政府からの要請 により、以下のように決められているが、特に2025年卒の新卒採用においては、3月より前に採用選考が実施されるケースが増えていたようだ。

<現在の就職・採用活動日程>
広報活動開始:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降
正式な内定日:卒業・修了年度の10月1日以降

本コラムでは、こうした状況になった背景を整理したうえで、採用選考が早期化することの何が問題であるかについて述べていきたい。

2025年卒の採用選考が早期化した背景

これまでも採用活動の早期化についてたびたび問題視されてきたが、2025年卒の新卒採用においては、特にその傾向が目立った。その背景には「売り手市場による採用難」と「インターンシップの定義改正」があると考えられる。

売り手市場による採用難

以前、「新卒採用の2021年問題」という言葉がトレンドになったことがある。深刻な人材不足のなか、大学を卒業して企業で働き始める新卒人口(正確には22歳人口)が減少傾向に転じることから、それ以降の新卒採用における採用難がより深刻になることを示した言葉である。

実際には大学進学率が今よりも高くなれば、多少改善すると考えられるが、日本の年齢別人口の推移を見る限り、大幅に増加するとは考えづらいのが現状だ。

そのため、今後の労働力不足が深刻化するというのが共通認識となり、新卒採用の対象である大学生の数は横ばいであるにも関わらず、新卒の採用ニーズもこれまで以上に高くなっている。マイナビが実施した調査によると、2024年卒の10月時点での採用充足率が75.8% と過去最低の値になっており、内定者満足度においても、「量・質ともに満足」の割合も低くなっていた

【図1】「採用充足率」と「内定者満足度」の年次推移/2024年卒企業新卒内定状況調査

また、2025年卒の採用見通しについては「厳しくなる」という割合は76.6%だった。2023年までは文理別で聞いていたため、全体傾向について過去との比較はできないが、グラフで示すとおり、文理ともに、「厳しくなる」という割合が増加していることがわかる。

こうした競争激化を背景に、他の企業より少しでも早く出会い、選考を行い、内々定を出すことで関係性を作っておきたいと考える企業が増えていると考えられる。

【図2】採用環境の見通し/マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査 

インターンシップの定義改正

2022 年6月に経済産業省、文部科学省、厚生労働省は2025年卒向けのインターンシップについて定義の改正 を行った。この改正により一定の条件を満たすインターンであれば、学生の個人情報を採用活動に活用できるようになったことで、インターンシップと採用選考の関係が深くなったといえる。

(参考)25年卒から変更されたインターンシップー三省合意改正の影響を考える

詳細な説明はここでは避けるが主な条件は以下のとおりである。

・就業体験要件(実施期間の半分を超える日数を就業体験に充当)
・指導要件(職場の社員が学生を指導し、学生にフィードバックを行う)
・実施期間要件(汎用能力活用型は55日間以上。専門活用型は2週間以上)
・実施時期要件(卒業・修了前年度以降の長期休暇期間中)
・情報開示要件(学生情報を活用する旨等を募集要項等に明示)

今回、特に問題になっている「(利用)開始時期」については通常の採用スケジュールと同様に「広報活動開始後」であると明記されている。より正確にいうと、採用選考時に利用できるのは「採用選考開始後(6/1以降)」とある。

つまり、インターンシップの定義改正によって、インターンシップと採用選考の関係が深くなったとはいえ、「早期化して良い」というものではない。先ほど、三省合意による定義改正は2022年6月に行われた、と述べたが、運用に当たっての具体的な情報については、段階的に発表されたのも事実だ。こうした情報が正しく浸透する前に運用が始められてしまった点は課題だといえるだろう。

以上のように、「売り手市場による採用難」によって、企業側の競争が激しくなっているところに、「インターンシップの定義改正」があり、インターンシップと採用選考の関係が深くなり、さらにその運用時期について正確な情報が浸透しきらないまま、採用選考を早く始める企業が増えてしまったと考えられる。

インターンシップ等のキャリア形成支援活動の位置づけ

採用選考が早期化することの問題点を語る前に、インターンシップ等のキャリア形成支援活動の位置づけについて整理したい。世間でいわれる“就活”は目的が異なる2つの活動を合わせて使われがちだと感じているため、まずはインターンシップ等の含む「キャリア形成支援活動」と「就職活動」の目的を比較する。

【キャリア形成支援活動】※インターンシップ等の活動はこちらに含まれる
・社会的・職業的自立に向け必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す。(キャリア教育の定義より)
・職業観涵養

【就職活動】
・企業の採用試験を受け、内定を得て、就職先を決める。

このように、キャリア形成支援活動と就職活動は地続きの活動ではあるものの、その目的は大きく異なるといえる。

図に表すと、インターンシップ等の「キャリア形成支援活動」が土台となって、そのうえに「就職活動」があり、さらにそのうえに「良い職業人生」が構築される、というイメージではないだろうか。つまり、「キャリア形成支援活動」と「就職活動」は並立して横並びにあるものではない。

【図3】キャリア形成支援活動と就職活動の関係

実際、キャリア形成支援活動に含まれる「キャリア教育」は、文部科学省が「小学校キャリア教育の手引き 」を策定していることからもわかるように、小学生のころから、計画的に取り組むことが求められている。

1999年 に中央教育審議会が発表した「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申) 」のなかでは「学校と社会及び学校間の円滑な接続を図るためのキャリア教育(望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに,自己の個性を理解し,主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育)を小学校段階から発達段階に応じて実施する必要がある。」と明記されているのだ。つまり、キャリア形成支援活動については、なるべく早いタイミングで始める必要があるといえる。

一方で、就職活動については、土台となるキャリア観の醸成や職業観涵養がしっかりなされた状態で取り組む必要のある活動である。そのため、就職活動については「始めるのが早ければ早いほどいい」というものではないだろう。大卒の新入社員の離職率を表す「3年3割」という言葉があるが、土台作りがしっかりしていないと、入社後に「思っていたのと違う!」というミスマッチに気づき、望まない離職が生まれる可能性もある。

そうした状況を避けるためにも、インターンシップ等のキャリア形成支援活動は就職活動を始める前までの時期にしっかり取り組んでおく必要があるといえる。

まとめると、「キャリア形成支援活動」はなるべく早いタイミングから始める必要があり、「就職活動」は土台を固めた後に始める必要がある、といえるだろう。

採用活動が早期化することの問題点

ここからは企業の採用試験を受け、内定を得て、就職先を決めるという意味での「就職活動」に焦点を当てて、その「早期化」の問題点を述べていきたい。

前章の話題があるので学生視点で「就職活動」という言葉を使っているが、実際には企業が採用活動をするから、学生はそれに対応するために就職活動を行うというのが実態なので、本章のタイトルは「採用活動が早期化することの問題点」とした。

終身雇用の終焉による新卒人材へのニーズ変化

日本では人材の流動化が進んでいないといわれているが、それでも徐々に「定年まで働くこと(終身雇用)」があまりリアルではない状況になりつつある。

これまでは、新卒採用は入社後にその適性を見てから配属先を決めるので、どちらかというと自社で育成しやすい人材ということでカルチャーフィットや人柄などが求められ、中途採用は人手不足になったポストを埋めるための即戦力人材ということで業務を行ううえで必要な能力・スキルを持っていることが求められるなど、人材要件が大きく異なるもの、という前提にあった。

しかし、終身雇用が終焉したとなると、企業側も新卒採用で入社する人材においても、早く戦力化できるように「専門能力や技術を持つ人材の獲得」を理由に実施する割合が「事前の計画による定期的な採用」を上回るようになってきている。

【図4】正社員(新卒)採用理由の推移/マイナビ企業人材ニーズ調査

また、新卒採用において「採用時に重視すること」を詳細に確認すると、もちろん「人柄」は外せない要件ではあるものの、キャリア形成支援活動で培われるであろう項目だけでなく、「大学で専攻している内容が自社の職務に活かせる」「データ分析力」「ロジカルシンキング・仮説思考」といった学業で培われるであろう汎用的な能力についても求められていることがわかる。

【図5】採用時に重視すること/マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査

こうした視点で見ると、企業側が“良い人材”を採用するためには、むしろ学生に対して、学生時代にしっかりと能力・スキルを向上させる機会を確保すべきだといえるだろう。

また、昨今よく聞かれるような「ジョブ型雇用」もしくは初職配属のみ確約するような「ジョブ型採用」が今後、主流になるかもしれず、そうなれば向上させたスキル・能力と仕事内容のマッチングを前提に採用することが求められるようになる可能性は高い。そのように考えれば、いたずらに採用活動を「早期化」することはこうした流れに逆行する動きともいえるのではないだろうか。

さいごに

採用難の時代になり、なんとか良い人材を採用するために「他社よりも早く」採用活動を始めて、内々定を出しておきたい、という企業側のニーズもよく理解はできるものの、その「良い人材」を育てるのは、キャリア形成支援活動や学業(学修機会)であるともいえる。そのため、学生が「良い人材」になるための学びの機会を十分に持てるように支援するのも、人材採用を行う企業の役目なのではないかと思う。

新卒採用自体が入社後の育成が前提であったり、即戦力を求めるといっても、最初は人材に対する先行投資である点は否めない。そういう意味では、社会貢献といった印象が強いかもしれない。しかし、長い目で見れば、結果的に、しっかりと学び、育った良い人材が自社の一員になるということで、企業の利益を生むという良い循環につながるのではないだろうか。

マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷 こずえ

関連記事

コラム

25年卒から変更されたインターンシップー三省合意改正の影響を考える

コラム

「配属ガチャ」の裏にある、配属決定の本当の難しさ

東郷さん0921アイキャッチ

コラム

「売り手市場」だからといって決して楽なわけではない!24年卒学生の就職活動を振り返る。