マイナビ キャリアリサーチLab

「仕事の成果に影響する非認知能力」とは~先行研究の紹介~

早川 朋
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TOMO HAYAKAWA

働き方や価値観が多様化する昨今。自分自身のキャリアを考えていくときに、「自分はどんなところが評価されているんだろう?」「そもそも自分の得意なこと・能力ってなんだろう?」と悩む人も多いのではないだろうか。

マイナビキャリアリサーチLabでは、そんな悩みを持つビジネスパーソンに向けて、「自分の”得意”を理解し、それを社会で活かす」ために、「非認知能力」に焦点をあてた本特集を開始した。第一回では、非認知能力とは何かを考えた。続く第二回では、「仕事の成果に影響する非認知能力」について、先行研究の結果を紹介していく。

性格スキルを構成する5つの要素「ビッグ・ファイブ」とは

「仕事の成果に影響する非認知能力」を説明する上で、まずは性格スキルを構成する「ビッグ・ファイブ」について紹介したい。非認知能力は、心理学において性格スキルと呼ばれ、人の性格は5つの因子によって構成されているという学説「ビッグ・ファイブ」が有名である。

アメリカの心理学者であるオレゴン大学のルイス・R・ゴールドバーグ教授は、この性格スキルが5つの因子によって分類でき、人の性格はその組み合わせで決まることを提唱した。これら5つのうちいずれかの因子と仕事の成果に関連性があるのかを見ていきたい。

人の性格の5つの因子

5つの因子とは、

  • Openness(開放性)
  • Conscientiousness(誠実性)
  • Extraversion(外向性)
  • Agreeableness(調和性)
  • Neuroticism(神経症的傾向)/ Emotional Stability(精神的安定性)

を指す。この各因子の強弱が人によって異なるため、性格や振る舞いに違いが出るとされている。

イメージ図(マイナビ作成)
開放性 Openness知的、美的、文化的に新しい経験に対する反応に関する因子。
開放性が高い人は、好奇心が強く、感受性が豊か。想像力豊かで、新しいアイディアを生み出すことを好む特徴がある。
誠実性 Conscientiousness感情や行為をコントロールする力、良心性、達成力の高さ、責任感の強さに関する因子。
誠実性が高い人は、真面目で粘り強く、達成力があるとされている。第一回で紹介した「GRIT(グリット)」も誠実さの一例である。
外向性 Extraversion社交性、積極性、活発さ、外界への興味関心に関する因子。
外向性が高い人は、他者との関わりを好む特徴がある。
協調性 Agreauleness他者への共感力、配慮、思いやりに関する因子。
協調性が高い人は、親切で貢献することを好み、争いを避ける特徴がある。
神経症的傾向 Neuroticism/精神的安定性 Emotional Stability神経症的傾向とは、ネガティブな刺激への耐性に関する因子。
神経症的傾向が高い人は、不安やいらいらを感じやすく、ストレスにより精神的・身体的に影響を受けやすい特徴がある。
反対の概念として、精神的安定性がビッグ・ファイブの因子の1つとして導入される場合もある。
精神的安定性が高い人は、不安やいらいら、衝動が少なく、自尊心が高いといった特徴がある。
表:ビッグ・ファイブ5つの因子の説明

仕事の成果にもっとも影響が大きいのは「誠実性」である

ビッグ・ファイブと仕事の成果については、特に「誠実性」との関係性が強いことが先行研究*1でわかっている。

アメリカの研究者、マレイ・バリック教授らによる研究では、5つの職業グループ(専門職、警察官、管理職、営業職、熟練・純熟練職)について、ビッグ・ファイブ(開放性、誠実性、外向性、協調性、精神的安定性)と仕事の成果との関係性を調査している。この結果について、経済学者である鶴光太郎氏の著書*2に掲載されているグラフや海外の研究結果等を参考に紹介していきたい。

仕事の成果との相関係数

仕事の成果との相関係数/Barrick and Mount(1991)
(出典)Barrick and Mount(1991)

上のグラフは、「1」に近いほど正の相関、「-1」に近いほど負の相関が強いことを示している。つまり、誠実性がもっとも「1」に近いため、仕事の成果にもっとも影響が大きいことを意味する。

研究結果によると、ビッグ・ファイブと仕事の成果との相関関係は、「誠実性」がもっとも高く、次いで「外向性」「精神安定性」「協調性」「開放性」となった。なお、「誠実性」の重要性は仕事の種類や特徴にあまり依存せず、幅広い職業に影響を与えることも明らかにしている。

一方で、「外向性」との相関関係は、専門職(学者、医師、弁護士など)ではマイナスだが、管理職、営業職ではプラスの傾向がみられたとのことだ。「外向性」は人との相互的な関わりが成果に直結するような仕事においては重要な要素となっているようだ。

ビッグ・ファイブで見る日米の違いについて

バリック教授らの先行研究より、仕事の成果にもっとも重要な非認知能力は、ビッグ・ファイブの中では「誠実性」であることがわかった。この研究結果はアメリカのものであったが、日本においても同様の傾向がみられるのだろうか。

ビッグ・ファイブが、学歴や労働市場での成果とどのような関係があるかについて、日本とアメリカのデータを用いてその比較をした先行研究の結果が公表されている*3。この研究では、ビッグ・ファイブが学業や職業の成功に関連することを示唆しており、全体として日本とアメリカにおいてよく似た傾向が見られたとしている。仕事の成果に関する結果をいくつか以下にて紹介する。(*3の論文より筆者翻訳)

  1. 日米ともに「誠実性」が男性の収入と正の相関(=誠実性が高い人ほど収入も高い傾向)がある。
  2. 日米ともに「外向性」と「情緒安定性」が女性の収入と相関(=外向性と情緒不安定性が高い人ほど収入も高い傾向)がある。
  3. 日米ともに「外向性」が男性の管理職に昇進する確率の重要な因子である。
  4. 日米間で異なる点として、日本においては「協調性」が学歴や収入と正の相関(=協調性が高い人ほど学歴や収入が高い傾向)がある。一方でアメリカにおいては負の相関(=協調性が高い人ほど学歴や収入が低い傾向)がある。

上記の結果に対し、鶴光太郎氏は自身の著書の中で以下のように述べている。

「真面目さ(誠実性)」が就業してからのパフォーマンスに影響を与えることが、男性のみであるがアメリカのみならず日本でも確認されたといえる。また、「協調性」と教育年数や年間所得の関係が日米で異なることは、注目すべき結果である。日本では「協調性」がプラスに働くが、アメリカではマイナスに働いている。学校や職場でも、集団主義が強い日本と個人主義が強いアメリカの違いを反映していると解釈できるかもしれない。

鶴光太郎『性格スキル—人生を決める5つの能力』(祥伝社新書、2018年)63ページ

企業で活躍するための非認知能力

ここまで、「仕事の成果に影響する非認知能力」について、ビッグ・ファイブの観点から先行研究を紹介してきた。最後に、一般財団法人日本生涯学習総合研究所(以下、日本生涯学習総合研究所)が発表している『企業で活躍するための「非認知能力」』*4から、仕事の成果に影響する非認知能力について紹介したい。

企業で活躍する非認知能力

日本生涯学習総合研究所では、同団体が設定している非認知能力のうち、個々人の持つ能力に関連する非認知能力8つ(問題解決力、批判的思考力、協働力、コミュニケーション力、主体性、自己管理能力、自己肯定感、独創力※)を企業におけるパフォーマンスに影響する要素とし、因子分析を行った。
※独自性と探求心を統合し、独創力としている

その結果、“企業で活躍する非認知能力“とは、「協力して成果を生み出す力」「主体的創造的に道を開く力」「批判的に問題を解決する力」という3因子に分けられることが確認できたとしている。

第1因子の「協力して成果を生み出す力」には、協働力・自己管理能力・コミュニケーション力が属する。第2因子の「主体的創造的に道を開く力」には、主体性・独創力が属する。第3因子の「批判的に問題を解決する力」には、批判的思考力・問題解決力が属する。自己肯定感は、「協力して成果を生み出す力」と「主体的創造的に道を開く力」にほぼ同じ重みで負荷する。

日本生涯学習総合研究所『企業で活躍するための「非認知能力」』【図7】をもとにマイナビ作成

理想の上司・好ましい部下に望むもの

同研究では、企業で活躍する非認知能力として、「理想の上司・好ましい部下に望むもの」という観点からも分析を行っている。その結果によると、職場で活躍する人物が身に付ける非認知能力は、「コミュニケーション力」「協働力」「批判的思考力」「問題解決力」の4つである可能性があることがわかっている。 特に部下が理想の上司に対して、自分自身よりも高いレベルでこの4つの非認知能力を求める傾向が強いようだ。

第二回では、「仕事の成果に影響する非認知能力」について、先行研究の結果を紹介した。ビッグ・ファイブの中では、「誠実性」がもっとも仕事の成果に影響すること、また、「協力して成果を生み出す力」「主体的創造的に道を開く力」「批判的に問題を解決する力」といった能力も重要であることがわかった。 続く第三回では、評価者・被評価者を対象にインタビュー調査を行い、職場で活かせる非認知能力について、詳細を探っていく。

キャリアリサーチLab 「大人の非認知能力」特集メンバー


<参考文献>
*1:Barrick, M. R., & Mount, M. K. (1991). The Big Five personality dimensions and job performance: A meta-analysis. Personnel Psychology, 44(1), 1–26.
*2:『性格スキル―人生を決める5つの能力』(鶴 光太郎著/祥伝社新書)
*3:Lee and Ohtake (2014).The Effects of Personality Traits and Behavioral Characteristics on Schooling, Earnings, and Career Promotion, RIETI Discussion Paper Series 14-E-023
*4:『企業で活躍するための「非認知能力」』一般財団法人日本生涯学習総合研究所(2022年10月)

関根 貴広
登場人物
キャリアリサーチLab主任研究員
関根 貴広
TAKAHIRO SEKINE
石田 力
登場人物
キャリアリサーチLab研究員
石田 力
CHIKARA ISHIDA
長谷川洋介
登場人物
キャリアリサーチLab研究員
長谷川洋介
YOSUKE HASEGAWA
矢部栞
登場人物
キャリアリサーチLab編集部
矢部栞
SHIORI YABE

関連記事

コラム

他者の視点で進める関係構築~パースペクティブ・テイキングの実践~

中途採用状況調査2023年版(2022年実績)

調査・データ

中途採用状況調査2023年版(2022年実績)

コラム

学生に求められる「○○力」を考える