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他者の視点で進める関係構築~パースペクティブ・テイキングの実践~

今月から多くの企業で新年度がスタートしています。みなさんの職場においても、メンバー構成が変わり、さまざまな出会いや関わりが生まれているのではないでしょうか。

そのようななか、本コラムで注目するのは関係構築の進め方です。上司や部下、取引先との関係が豊かなものになれば仕事生活は充実したものになります。一方で、そうではない場合、仕事はこの上なく息苦しいものになってしまうでしょう。その意味で他者との関係性をいかに整えるかは、多くのビジネスパーソンの命題と言っても良いのかもしれません。

以下では、他者との関係を整えるアプローチについて解説します。パースペクティブ・テイキングというアプローチを紹介し、他者との関係性を発展させるポイントを提示します。

パースペクティブ・テイキングとは

パースペクティブ・テイキングは、社会心理学などの分野で研究されているアプローチです。その名の通り、他者の見ている視点(パースペクティブ)を、自分のなかに取り入れる(テイキング)ことを意味します。相手を深く理解したり、交渉やコミュニケーションを円滑に進めたりするための能力として注目されています(※1)。パースペクティブ・テイキングを説明する際に、よく用いられるのが“思いやり”や“共感”といったアプローチ(以降、これらを「情緒的なアプローチ」とします)との比較です。情緒的なアプローチは、相手の気持ちに焦点を当て、相手の感情を理解しようと歩み寄るものです。他者の気持ちを汲み取り、感じ入る歩み寄り(feel for)と言えます。

これに対して、パースペクティブ・テイキングは認知的な歩み寄り(think for)をするものです。心(感情)ではなく、頭(思考・認知)でも歩み寄ると言っても良いでしょう。この違いをより分かりやすく説明するために、例をあげましょう。次のようなシチュエーションを想像してください。
目の前に入社して間もない新入社員がいるとします。この社員は、新社会人としての生活に疲弊していて、悩んでいます。あなたが、情緒的なアプローチでこの社員の悩みをヒアリングする場合、どのような言動が考えられるでしょうか。
たとえば、食事にでも誘って、相手の話に耳を傾け、労いながらその大変さを分かち合おうとする対応などが考えられます。相手が吐露する感情に注目し、いかに相手が大変な思いをしているのかを汲み取り、相手の心境に自分の気持ちを重ねようとするでしょう。

一方で、パースペクティブ・テイキングを活用する場合はどのような対応になるでしょうか。相手を認知的に理解するために、彼が何に対して大変だと感じているのか、具体的な原因や状況について把握しようと試みます。また、彼がそれを独力で乗り越えられそうなのか、彼の知識や経験について客観的な情報を収集しようとするかもしれません。あるいは、彼の歩んできたこれまでの人生や挫折経験に関心を持つことも有用です。さらに、彼の帰属するZ世代の仕事観やキャリア観について知ることも役に立つでしょう。

このように情緒的な歩み寄りとパースペクティブ・テイキングによる対応は明確に異なるものです。より客観的・分析的に相手のことを理解しようというアプローチ、それがパースペクティブ・テイキングです。

情緒的なアプローチの逆機能

パースペクティブ・テイキングの効果について説明する前に、どうして情緒的なアプローチ(思いやり・共感など)では充分ではないのか?について言及しておきたいと思います。以下では、情緒的なアプローチに含まれるリスクを提示します。まず強調しておきますが、私は情緒的なアプローチを軽視しているわけではありません。思いやりや共感は、相手との関係を深めるうえで必要不可欠なアプローチであり、相手の感情に共感することは、安心感や信頼感を育み、相手が自分の気持ちを素直に話せるようにする効果が期待できます。

その前提も踏まえたうえで、情緒的な歩み寄りにはデメリットもあることを念頭に置いておく必要があります。コミュニケーションのトレーニングにおいて、傾聴や共感の重要性が強調されますが、これらのアプローチには副作用があります。相手の感情を汲み取ろうとするあまり、冷静な判断を失ってしまうリスクが先行研究では指摘されています(※2)。

たとえば、管理職の方が部下の感情と向き合った結果、管理職の業務負荷が増えてしまうケースを度々目にすることがあります。部下が業務量に悩んでおり、上司が部下の気持ちに共感を寄せるうちに、いつの間にか管理職がその部下の業務負荷を肩代わりすることが増え、管理職の残業が習慣化するようになっていくという事例です。
この管理職の対応は、完全に間違っているとは言えません。管理職の責務には、部下の感情をケアすることも含まれます。部下の心身の健康状態に深刻さが感じられる場合は、上述のような対応が優先されるケースもあります。しかしながら、ケアに集中すべき場合でなければ、部下を悩ます負荷の要因の把握や、本質的な問題解決も求められます。部下の負荷を肩代わりした結果、管理職の負荷が増してしまっては、他の部下への支援が損なわれ、別の問題が発生するリスクも高まります。

この例のように、情緒的な歩み寄りはときに副作用を生み出します。相手の“大変さ”や“苦しさ”に接近するあまり、相手の感情をどうにかすることばかりに傾注させてしまうのです。その帰結として、歩み寄った方の自己犠牲的な対応が増えたり、依存関係に発展してしまったりして、健全な関係構築が難しくなってしまう可能性が示されています。

パースペクティブ・テイキングの効能

このようなリスクを回避し、より有効な関係構築を進めるためには認知的なアプローチが求められます。情緒的なアプローチと併用して、パースペクティブ・テイキングを活用することです。パースペクティブ・テイキングの利用によって、私たちは相手のことを精緻に理解するだけでなく、自己犠牲的な関わりを回避し、より適切な関係性を生み出すことができます(※3)。下記では、先行研究で報告されている効果について提示しています。

パースペクティブ・テイキングの効果例

パースペクティブ・テイキングは、相手をより深く理解することで、適切な関わり方を発見することに貢献します。たとえば、自分が持っていた先入観や相手に対する評価が適切でなかったことに気づいたり、それによってより双方にとって有益な関わり方を見出したりすることができます。

さらに、相手の視点や考え方を深く理解することは、創造的な問題解決や交渉の成功にもつながります。パースペクティブ・テイキングの実験では、より認知的に歩み寄りを行ったグループの方がWIN-WINの関係構築に成功したことが報告されています(※4)。

パースペクティブ・テイキングは、相手との好ましくない関係(たとえば、対立・競争・依存など)をいち早く抜け出し、「どうしたら、より適切な関係をつくれるか?」に焦点を当てるためのアプローチと言えます。

相手を理解するための実践ポイント

では私たちは、どのようなことから始めるべきでしょうか。以下では、パースペクティブ・テイキングを進めるための実践ポイントを3つ紹介したいと思います。

セルフチェック―客観的に相手への理解度を確認

初めにやることは、「セルフチェック」です。自分と相手について、客観的に振り返り、相手に対する理解度を改めて確認するアプローチです。一見、地味で即効性がないように思えるかもしれませんが、日常的に接している相手のことを客観的に捉えるうえでセルフチェックはとても大切です。今、あなたがより良いパートナーシップを持ちたい相手をイメージしながら、以下のチェック項目を確認してみてください。

セルフチェック項目例

これらの項目にうまく答えることができなかったという方もいるでしょう。上司や同僚のことをよく知らないのはとくに驚くべきことではありません。職場において他者のことを深く知る機会は意外と少ないものです。

まずは、相手のことを知りたいという気持ちを醸成することが肝要です。だからこそ、「自分は相手のことをよく理解していない」ということに気づくためにセルフチェックが求められます。

観察—日常的な振る舞いから相手を理解する—

もし、あなたが関係構築をしたいと思っている相手が、同じ職場で働く人ならば、「観察」が有効です。日々の行動や振る舞いを意識的に捉えることで、相手のさまざまな側面が見えてきます。

たとえば、日常的なコミュニケーションのなかで相手がどのような言葉を使うのか?に注目してみましょう。「しっかり」「きちんと」「ちゃんと」という言葉を多用する人は、ミスなく仕事を遂行したいと考えている人かもしれません。反対に「なんとなく」「適当に」という言葉を多用する人は、あまり管理や評価をされたくないと考えている人の可能性があります。

同様に、日々の行動を観察することで、相手の状況や仕事観、性格が見えてきます。早めにミーティングに参加したり、スケジュールの確認を詳細に行ったりする人は、タイムマネジメントを徹底したいという人である可能性があります。ほかにも、何かミスをした際に必要以上に謝意を示そうとする人は、自信を持つことができないでいる人なのかもしれません。

また、相手の作成した資料からも有益な情報が得られます。報告書やプレゼンテーション資料には、その人の重視している情報や主張が現れます。相手がどれほどの知識や情報量を有しているかも分かります。

日常的な振る舞いには、その人の重視したいことや仕事観がよく表れます。当然ながら、これらの情報だけで相手を理解できたと思い込んでしまうことは危険ですが、相手に関心を持って理解しようとする眼差しは両者の距離を縮めることにつながるでしょう。仕事のなかで顔を上げて他者に関心を示せば、今まで見えてなかったものが見えてくるかもしれません。

リレーショナル・クエスチョン—相手の人柄や価値観を捉える―

3つの目の実践ポイントは、質問することです。相手との関係構築が一定レベルでできているならば、観察を続けるよりも質問をしてしまった方が効率的に相手を理解することができます。とくに大切なのは「リレーショナル・クエスチョン」です。相手と有効な関係を築くために理解すべきことを尋ねる質問です。リレーショナル・クエスチョンは、たとえば次のようなものがあります。

・仕事における楽しみはある?
・今の仕事、どう思っている?
・最近、会社で楽しいことはあった?
・これからどうなっていきたい?

みなさまが面談や1on1のなかで問いかける質問もこのようなものかもしれません。ポイントは、非常にシンプルで且つ相手自身の内面にアクセスする質問である点です。仕事における役割や目標、進捗といった文脈から離れて、その人の等身大の声を聞こうとするのがリレーショナル・クエスチョンの本質です。これらの質問を問いかける際には、仕事とは異なる場や空気感のなかで行うことが大切です。

仕事に対する意識が相手のなかに強く残っていると、「自分のことよりも仕事が……」といったニュアンスの回答が多くなってしまい、相手の内面を充分に理解することができなくなってしまうためです。仕事の役割から相手を切り離して、相手の価値観や考え方を適切に理解するための問いかけをしていく。これがリレーショナル・クエスチョンのポイントです。

変化の多い時代こそ、関係性を大切にする

本コラムでは、パースペクティブ・テイキングを取りあげ、効果や実践ポイントをお伝えしてきました。

今は、柔軟さや臨機応変さが試される時代です。そのような時代こそ、チームの力や他者との関係性が問われます。何かを新しく始めようとするとき、あるいは、イレギュラーなことに対応しようとするとき、みなさまが周囲とどのような関係であるのかによって、推進力や成果は大きく変わってくるでしょう。また、多様な価値観が尊重される時代でもあります。「みんな違う」という前提認識に基づいて、他者との関わりを見つめ直すことが求められていると思います。

本コラムが、そのようなことを振り返るきっかけとなり、みなさまを取り巻く人々とのつながりがより豊かなものに発展していくのであれば嬉しく思います。


<参考文献>
(※1)Galinsky, A. D., Maddux, W. W., Gilin, D., & White, J. B. (2008). Why it pays to get inside the head of your opponent: The differential effects of perspective taking and empathy in negotiations. Psychological science, 19(4), 378-384.
(※2)Batson, C. D., & Ahmad, N. (2001). Empathy‐induced altruism in a prisoner’s dilemma II: What if the target of empathy has defected?. European Journal of Social Psychology, 31(1), 25-36.
(※3)Epley, N., Caruso, E. M., & Bazerman, M. H. (2006). When perspective taking increases taking : reactive egoism in social interaction. Journal of personality and social psychology, 91(5), 872.
(※4)Galinsky, A. D., Maddux, W. W., Gilin, D., & White, J. B. (2008). Why it pays to get inside the head of your opponent: The differential effects of perspective taking and empathy in negotiations. Psychological science, 19(4), 378-384.

著者紹介
神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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