マイナビ キャリアリサーチLab

大人も伸ばせる、社会で役立つ「非認知能力」とは?
—先行研究を参考に

矢部栞
著者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

VUCAの時代といわれ、働き方や価値観が多様化する昨今。自分自身のキャリアを考えていくときに、「自分はどんなところが評価されているんだろう?」「そもそも自分の得意なこと・能力ってなんだろう?」と悩む人も多いのではないだろうか。
マイナビキャリアリサーチLabでは、そんな悩みを持つビジネスパーソンに向けて、「自分の”得意”を理解し、それを社会で活かす」ために、近年注目されている「非認知能力」に焦点をあてた本特集をスタートさせる。また、企業が一人ひとりの得意を前向きに評価し、「得意を伸ばして活かす」ための気づきを得られるコンテンツをお届けしたい。

非認知能力とは?

まずは、「非認知能力とは何か」について紹介する。「非認知能力(Non Cognitive Skills)」とは、アメリカの経済学者、ジェームズ・ヘックマン教授の研究によって提唱された言葉である。学力やIQなどの数値で測れる能力(認知能力)に対し、意欲やコミュニケーション力といった数値では測れない能力を「非認知能力」と定義した。

一般財団法人日本生涯学習総合研究所(以下、日本生涯学習総合研究所)によると、非認知能力とは「物事に対する考え方、取り組む姿勢、行動など、日常生活・社会活動において重要な影響を及ぼす能力」と説明されており、学問的に統一された見解はないようだ。

OECD(経済協力開発機構)では、認知的スキルに対比される能力のことを「社会情動的スキル」と定義するなど、研究者の間では”そもそも「非認知能力」という呼称でよいのか”という議論もあり、非認知能力の捉え方も複数あるため、今後もさまざまな研究が進むことが予想される領域である。
本特集ではヘックマンの定義どおり、数値で測ることのできない能力を「非認知能力」と捉え、特集していく。

ここで、本特集のスタートに立ち返ると、「自分の”得意”を理解し、それを社会で活かす」ことを目的としている。これは、売上や営業成績などの数値で測れる評価だけではなく、コミュニケーション力などの「非認知能力」も社会人にとって評価対象となる重要な能力であると考えたからだ。では、非認知能力とは具体的にどんな能力が挙げられるのか。日本生涯学習総合研究所が行った『「非認知能力」の概念に関する考察<集約版>』において日本国内の各機関などの提言をもとに独自に整理した構成要素と、分類を以下に示した。【図1】

【図1】一般財団法人日本生涯学習総合研究所『「非認知能力」の概念に関する考察<集約版>』を参考にマイナビ作成
【図1】一般財団法人日本生涯学習総合研究所『「非認知能力」の概念に関する考察<集約版>』を参考にマイナビ作成

非認知能力の例

「これが非認知能力である」という明確な定義づけがされていないというのが大前提ではあるが、日本生涯学習総合研究所の分類では「批判的思考力」「実行力」「統率力」「創造性」「自己肯定感」「共感性」「道徳心」「倫理観」「問題解決力」「協働力」「コミュニケーション力」「主体性」「自己管理能力」「探求心」「規範意識」「公共性」「独自性」とある。

日本生涯学習総合研究所では上記の能力を図の左から順に(1)諸々の能力、資質の基盤の上に成り立つ能力、(2)発達の過程で確立される能力、(3)発達段階に応じて変容・発展する能力、(4)一貫して必要とされている能力の4つに分類している。

近年、社会的に成功している人が共通して持つ心理特性として注目を集めている「やり抜く力」を意味する「GRIT(グリット)」も非認知能力の代表的な要素として語られることが多い。ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース氏が提唱したもので、「Guts:度胸」「Resilience:回復力」「Initiative:自発性」「Tenacity:執念」の頭文字をとっている。これは、困難なことがあっても粘り強くやり抜くことを指しており、GRITがある人は、才能や生まれ持った能力に関係なく、後天的な意識と努力で物事を成功に導くことができるとされている。

また、挙げられているようなさまざまな非認知能力の要素を大きく5つに分類した性格特性「ビッグファイブ」という理論もある。これをもとにした適性検査なども行われており、ビジネスの場ですでに活かされているものであるが、こちらについては続く第二回コラムにて詳しく触れたい。

非認知能力はなぜ大切?注目されている背景とこれまでの研究

さて、非認知能力とはこれまで、おもに幼児教育において研究されてきた分野である。ヘックマンの研究では、幼児教育における非認知能力が幼児期以降の基礎学力や年収などに影響を与えることが立証された。 日本の幼児教育においても、文部科学省が定める新学習指導要領のなかに「3つの柱(※1)」として非認知能力の要素を入れている。
※1:「3つの柱」①知識及び技能、②学びの向かう力・人間性など、③思考力・判断力・表現力など

日本の教育は「1つの正解を求める」傾向にあるが、社会やビジネスにおいて絶対的な1つの正解は存在しない。そのため、近年では教育においても多様性を重視しており、社会においても非認知能力が求められている。性格や気質といったパーソナリティは、幼児期に形成されるといわれていることから、非認知能力が幼児教育において重要視されているというのが多く取り組まれてきた研究である。

未来のある子供たちにとって、学力の向上や将来的な収入の安定に大きく影響するといわれれば、非認知能力を育てたいと思うのは必然だろう。そのため、どうしても幼児教育のなかで語られることが多い。また、非認知能力が高い子供の特徴としては、自尊心が養われるため自己効力感が高く、情緒が安定し、友達との関係構築も上手、などが挙げられる。

では、非認知能力を伸ばせるのは何歳までなのか、と気になる人もいるだろう。しかし、何歳という区切りはなく、「いつまででも」伸ばせるというのが本特集でお伝えしたいことのひとつだ。次の章で先行研究をもとに考えてみよう。

非認知能力と社会での評価

繰り返しになるが、本特集は「非認知能力は社会人にも求められるスキルであり、評価にもつながる」ことを前提に、よく論じられる子供を対象にしたものではなく、大人を対象にこれから伸ばせる非認知能力について考えていくものである。
まず、非認知能力と評価の関係性についてマイナビ独自で考察し、以下のように図で表現してみた。【図2】

【図2】非認知能力と評価の関係性(マイナビ作成)
【図2】非認知能力と評価の関係性(マイナビ作成)

「苗木の根」を「社会で活かしたい得意なこと=非認知能力」とした場合、これが成長する(得意を伸ばす)きっかけとして以下の3つが関連してくると考えた。
■天気=マクロ環境(社会・経済・政治など)
自分の力で変えるのは、限りなく不可能に近いもの
■水=客観的評価(個人や組織など)
自分の力で変えられる可能性が高いもの
■土壌=組織や職場環境(人間関係など含む)
自分の力で変えるのは難しいが不可能ではないもの(※2)
※2: 転職などで土壌じたいを変えることはできるが、同じ土壌を仮定すると変えるのが難しいもの

以上のことから、得意を伸ばすための要素として、変えられる可能性がもっとも高い「客観的評価」に着目する。本特集では、実際にどんな非認知能力が評価されているのかについて考察を行い、読者のみなさまが「評価される非認知能力(=得意)」を見つける一助となることを期待したい。

大人になってからでも伸ばせる非認知能力

ここからは、「大人になってからも伸ばせる非認知能力とはなにか」を考える第一歩として、先行研究と先に示した日本生涯学習総合研究所が整理した構成要素をもとに、マイナビ独自で非認知能力の中身を分類し、マッピングをしてみた。【図3】

【図3】日本生涯学習総合研究所が整理した構成要素と先行研究をもとにマイナビが独自にマッピングした図

縦軸は、「対自己」と「対他者」である。国立教育政策研究所・総括客員研究員である遠藤利彦氏の研究では、非認知能力は「他者との関係性の構築・維持に必然的に深くかかわる」ものと、「自らの心身の健康や成長において、そうした欲求の充足を効果的に可能ならしめる心の性質」の2つに大きく分けている。

また、同研究のなかで、非認知能力を「発達的起源に応じ、どれだけ可塑性・変容可能性(malleability)を有するかによって、3層構造のいずれかに位置付けられるのではないか」(※3)とし、表層・深層・中層の3つに分類している。
※3:「可塑性(かそせい)」はある一定以上の力が加わったときに元に戻らず、変化したままになる性質を指し、発達心理学においては人が訓練や教育によってどんな形にも変化できることを意味する。

この「表層」はマナーや規範に関する知識など「自覚的意識によって働きかけるトレーニングや指導・教授法等によって、相対的に短期間に、また比較的容易の習得が可能である」と見込まれるものを指す。「深層」は、「より発達の早期段階にその基盤が形成され、生涯全般を通して相対的に高い一貫性を有し、通常、上位には変化しにくい」とされるものを指す。性格などパーソナリティにかかわるものがこの「深層」に該当する。そして、表層と深層の間にある「中層」は、「発達の時間軸の中で徐々に形成されるものであり、かつ相対的に安定した形で連続することが想定されるが、各種ライフイベントの経験や学習の蓄積などを受けて、それなりに変容可能である」とされるものである。中層に該当するものの例として、遠藤氏は「自尊心、自己効力感、自制心、メタ認知能力及びそれに結びついた自己内省、また、他者に対する社会的行動や共感的態度あるいはコミュニケーション・スタイルのようなもの」を挙げている。

さらに、中山芳一氏は、著書『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍、2020年)のなかで上記研究を踏まえて以下のように述べている。

(前略)中間の非認知能力は、発達過程の様々な経験と学びの中で形成されるため、深い非認知能力とは異なり乳幼児期以降の発達段階(例えば、児童期や青年期以降)であっても伸ばすことができます。

中山芳一『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍、2020年)26~28ページ

以上のことから、横軸を「表層」「中層」「深層」とし、ちょっとした意識で変容可能な「表層」と、経験や学びのなかで形成されていき、ある程度の変容可能性がある「中層」に注目していく。 まずは先行研究をもとに、非認知能力とはなにかを紐解いてみた。
本特集では、インタビュー調査なども行いながら社会で役に立つ=評価される非認知能力について詳しく考察していく。子供だけでなく「大人になっても伸ばせる非認知能力」にフォーカスし、ビジネスパーソンがこれから”得意”を伸ばして社会で活躍するためのヒントを提示したい。続く第二回では、性格特性ビッグファイブをもとに、賃金など仕事の成果に影響する非認知能力について深掘りしたい。

キャリアリサーチLab 「大人の非認知能力」特集メンバー


<参考文献>
・『「非認知能力」の概念に関する考察(集約版)』一般財団法人 日本生涯学習総合研究所(2022年9月1日)
・「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書」国立教育政策研究所 統括客員研究員 遠藤利彦(2017年3月)
・中山芳一『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』(東京書籍、2020年)

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