進化するインターンシップとさらなる可能性(第5回学生が選ぶインターンシップアワード開催報告)
5回目の開催となった「学生が選ぶインターンシップアワード」は学生の社会的・職業的自立に貢献した優れたインターンシッププログラムを表彰する日本最大級のアワードだ。学生の職業観涵養を促進する効果的なインターンシッププログラムを周知することで、プログラムの質的向上およびインターンシップのさらなる普及や促進、学生と企業のより精度の高いマッチングを目指している。
見事「大賞」に輝いたのはボッシュ株式会社の「オンライングローバルインターンシップ2021」 、「文部科学大臣賞」に大東文化大学の「大東文化大学インターンシッププロジェクト」、今回より新たに設立された「地方創生賞」には滋賀県・株式会社いろあわせの「しがプロインターン(Summer/Winter)」。「優秀賞」には三菱ふそうトラック・バス株式会社と株式会社ミルボンの2法人が、「入賞」には株式会社カタヤマ、静岡県立大学、徳島大学、株式会社星野リゾート・マネジメント、株式会社麦の穂・椙山女学園大学が選出された。
開催報告
2008年にスタートした「学生が選ぶインターンシップアワード」は前年に引き続き、経済産業省、厚生労働省、文部科学省、日本経済新聞社、マイナビ、そして今回より加わった内閣府を後援とし「学生が選ぶインターンシップアワード」実行委員会により運営されている。
5回目となった今回は全国の544法人(うち大学28法人、地方自治体5団体)(前年比+123法人(129.2%))から、645プログラムと過去最多の応募があった。今回インターンシップによる地方創生という文脈より「地方創生賞」が設立され地方自治体からの応募も受け付けた。
法人従業員規模別では規模に関わらず全体的に増加しているが、特に従業員数500人未満の法人からの応募が増加した。地域別では東京の法人が多いものの、関東(除く東京)や東北の法人からの応募が増加している。学生の受け入れ日数は5日間以上のプログラムの応募割合が増加の傾向となっている。インターンシップが学生のキャリア醸成に与える影響が年々増してきているなか、法人規模や地域や受け入れ期間などの偏りが減り、より多くの選択肢から学生がインターンシップに参加できることはより良い傾向と言えるだろう。
開催形式は、前年同様に「すべてオンラインで実施」が41.0% と最多を占めたが、「すべてオンラインで実施」「すべて対面で実施」の割合は減り、オンラインとオフラインのハイブリッド型を導入した法人が、26.0%と前年の20.0%から6.0pt増加している。
コロナ禍という特殊な環境下で対処的に始まったオンライン活用だが、対面の代替手段ではなく「オンラインだからこそ」の参加しやすさなどの利点を活かした良質なプログラムが増えたのではないだろうか。特に「大賞」を受賞したボッシュ株式会社の「オンライングローバルインターンシップ2021」はベトナム法人とはオンライン、横浜研究所では対面と使い分け、過去のインターン参加者との交流会をオンラインで開催するなど目的にあった手段をその都度選ぶことで、オンライン、対面双方の良さを活かす工夫が随所にみられるプログラムであった。
インターンシップの効果と発展に向けて
「学生が選ぶインターンシップアワード」ではカンファレンスを開催し規範となるべきプログラムを表彰・周知すると共に学生アンケートの調査結果・分析をもとにインターンシップの持つ役割と未来についての考察と示唆も行っている。分析を行った多摩大学 経営情報学部 初見康行准教授のクロージングスピーチ「インターンシップの効果と発展に向けて」から以下3つのテーマで紹介された。
- インターンシップの現状・成果
- さらなる発展に向けて
- インターンシップの可能性
テーマ1.インターンシップの現状・成果
└インターンシップは学生・企業・大学にとって有益な活動になっているか?
インターン参加率が8割を超えて(2023年卒大学生広報活動開始前の活動調査より)一般化されたと言えるが、学生・企業・大学にとって有益な活動となっているか?を卒業前の学生調査(有効回答:2073名)から考察された。初見准教授は「“インターンシップ経験に近い業界・企業に入社しているほど、就職活動の納得感が高い” “インターンシップ経験に近い業界・企業に入社しているほど、入社に対する納得感が高い” “インターンシップ活動をしている学生の方が大学生活の満足感・納得感が高い”という興味深い結果が得られた。」と語る。インターンシップについてはその在り方に対してさまざまな議論があるが、学生・企業・大学にとって有益であり、今後も推奨すべき価値のある活動であると語った。
テーマ2. さらなる発展に向けて
└オンライン・対面の効果/ステップ別の効果/伝えるべき内容
インターンシップが有益で価値ある活動であることが示されたが、さらなるインターンシップの発展に向けてというテーマで、第5回インターンシップアワードの学生回答者(有効回答:3643名)から調査と分析を行い、以下3つのポイントが示された。
・オンライン・対面の効果
オンライン・対面という提供手段がインターンシップの効果(「インターンシップの満足・納得感」「志望度の向上」「教育効果」)に与える影響に関しては昨年に引き続き、今年も同様の結果が得られた。提供手段と効果の関係は対面よりもオンラインの方が効果は高くなったものの効果量の差は極めて小さく、提供手段でインターンの効果が決まる可能性は小さい。オンライン・対面という「手段」を過度に気にする必要はなく、プログラムの中身に注力する方が本質的であるとの見解が示された。
・インターンのステップ別効果
インターンシップ全体の中でどの部分に注力すべきか?という疑問に対し、インターンシップを3つのステップに分割(事前学習・就業体験・事後学習)。インターンシップの効果(「志望度の向上」「適職の発見感」)向上にはどのステップの充実が重要かを分析した。結果は就業体験が重要であるものの、事前学習よりも事後学習の方が効果向上に大きな影響を与えている傾向があり、「丁寧な後工程」がインターンシップ全体の価値を高める。さらに高い効果を目指すためには、振り返り・フィードバックに注力することが重要であるとの見解が示された。
・インターンで伝えるべき内容
インターンシップを通して何を伝えるべきか?学生に何が伝わるべきか?をステップ別に「内容の理解・吸収」「働く人・社風の知覚」への影響をそれぞれ検証したところ、インターンシップに関して、事前学習、インターンシッププログラム、フィードバックといったすべてのステップにおいて「働く人・社風の知覚」の方が「内容の理解・吸収」よりも満足・納得感への影響が大きいという結果となった。現在のプログラム内容で自社のアイデンティティが伝わるかを自問する必要があると訴えた。
テーマ3.インターンシップの可能性
└インターンシップという「枠組み」には多様な目的・内容を受容する力がある
初見准教授から締めくくりのテーマとして「インターンシップの可能性」が語られた。インターンシップ参加率が8割を超え、学生・企業・大学にとって有益な活動になっている可能性があるものの、多くの学生がインターンシップを就職活動の一部として狭く捉えがちで、目的なく義務的に参加する学生も増えているのではないかと危惧する。前述した通り、インターンシップは大学生活全体の満足感や納得感に影響を与えている可能性があり、インターンシップの経験は社会人として必要なスキルやキャリア観を獲得することが可能なことから、就職活動視点のみでインターンシップを捉えるのは学生にとって「もったいない」と指摘している。また企業は自社のビジネスや組織開発にインターンシップを活用できるのでは?大学は学習深化にもっと活用していけるのでは?1つのアイデアとして大学内外の「学習サイクル」を創り出すことにインターンシップは活用できるのではないか? インターンシップという「枠組み」には多様な目的・内容を受容する力がある。インターンシップの設計者次第でその概念を更新するような事例を創っていけるのではないかと訴えた。
さいごに
前回の第4回で大賞に輝いた沖縄ワタベウェディング株式会社の新里麻未子氏と山城葵氏はキーノートスピーチで「受賞後は各方面からさまざまな反響があり、インターンシップの実施は学生だけでなく、社員や業界、ひいては地域にもプラスの効果をもたらすことを体感できた」とこの1年を振り返った。
第1回から選考委員を務める法政大学キャリアデザイン学部 坂爪洋美教授は審査講評のなかで「地方公共団体様のプログラムを拝見し、インターンシップが地方の人材育成や課題解決につながるなど、地域の活性化やさらなる発展に寄与するということがわかりました」と“インターンシップによる地方創生”という新たな可能性を見出せたと語った。
またさいごに「毎年審査をするなかで、インターンシップの形って見えてきたのかなと思うことがある。だけど次年度審査をすると、こんなにも良いものがあったんだという発見がまだまだあります。インターンシップは完成形に近づきつつあるかもしれないけれども、まだまだより良いプログラムってあるだろう、新たな可能性に出会えるだろうということを楽しみにしていています」と締めくくった。
キャリアリサーチLab主任研究員 宮地 太郎