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学生のキャリア形成活動と卒業後の活躍の関係(第6回学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード開催報告)

宮地太郎
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TARO MIYAJI

6回目の開催となった「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」は学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップやキャリア形成支援に係る取り組みを表彰するアワードだ。学生の職業観涵養を促進する効果的な取り組みを周知することで、プログラムの質的向上および実施企業数の増加を実現し、学生と企業のより精度の高いマッチングを目指している。

学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード

「大賞」に輝いたのは株式会社麦の穂・椙山女学園大学の「産学連携による『キャリアデザインスキル習得プログラム』とキャリア形成のための『リアルな職場体験』」、「文部科学大臣賞」に北九州市立大学の「地域創生学群チャレンジプログラム」、「地方創生賞」には燕市の「つばめ産学協創スクエア インターンシッププログラム」。

「優秀賞」には島根電工株式会社とテンプル大学ジャパンキャンパスの2法人が、「入賞」には帯広市、株式会社カタヤマ、金沢工業大学、SOLIZE株式会社、東邦音楽大学、株式会社ニトリホールディングス、株式会社日本総合研究所、株式会社ミルボンが選出された。

第1回から選考委員を務める法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授は審査講評の中で「応募プログラムはどれもレベルの高いものばかりでした。本日みなさまのプレゼンテーションを聞き、その内容に感動すると共に改めて素晴らしいプログラムを選出することができたと実感しました。その中でも今回は「連携」を上手く活用できているプログラムが多かったことが特徴といえます。「連携」とは企業と大学はもちろんですが、たとえば行政やNPO等と連携して取り組めたものは、その重なりから、参加したいと学生に思わせる魅力的なプログラムになっていると感じます。」と講評した。

開催報告 

2008年にスタートした本アワードは6回目を迎えた今回より「学生が選ぶインターンシップアワード」から「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」に名称変更を行った。

カンファレンスの開催報告を行った実行委員長の林俊夫氏は2022年6月に文部科学省・厚生労働省・経済産業省により「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取り組みの推進に当たっての基本的考え方」に示された考え方に則り、本アワードの方向性をさまざまな観点から検討した結果、再定義されたインターンシップに限らず幅広くキャリア形成支援に関わる取り組みを応募要件とし、総称して「キャリアデザインプログラム」と設定する大きな決断を行ったと語った。

インターンシップという言葉を使用しない名称変更により応募が集まらないのではないかという不安もあったが、結果応募法人数694法人(企業651・大学39件・団体4件)(前年比+150 法人(127.6%))、応募プログラム770(前年比+125 (119.4%)と共に過去最多の応募数となった。

法人規模別・地域別・受入日数・開催形式のエントリー数

法人従業員規模別ではボリュームゾーンが「従業員数500人未満」規模の法人からの応募となっており、規模に関わらず満遍なく増加している。地域別では東京や首都圏の応募シェアは依然高いが、中国・四国、九州、北陸・甲信越、北海道などのエリアからの応募も増えており、より全国的な取り組みとして広がっていることが実感できる数値となっている。

受け入れ日数別では引き続き1日のプログラムが最多だった。しかし、本アワードでは新たな指針に準じて、引き続き幅広い取り組みを推奨すると共に受け入れ日数の多いプログラムを増やしていきたいという意向も報告された。

新型コロナウイルス以降議論となっている開催形式(オンライン・対面)は前年と比較するとすべてオンラインで実施が減少(40.9%→28.6%(マイナス12.3pt))し、すべて対面で実施が上昇(33.3%→41.3%(プラス8.3pt))する結果となった。

実行委員会委員長林俊夫挨拶
開催報告 実行委員長 林 俊夫氏

最後に「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取り組みの推進に当たっての基本的考え方」をきっかけとし、インターンシップの在り方について議論が活発化されている状況において、世間の関心も高いという状況の中、本アワードやカンファレンスの内容がこれからも続くみなさまの取り組みの一助になれるようにしていきたいという林委員長の宣言で開催報告を締め括った。

キャリア形成活動と卒業後の活躍について

「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」ではカンファレンスを開催し規範となるべきプログラムを表彰・周知すると共に学生アンケートの調査結果・分析をもとにインターンシップやキャリア形成支援の持つ役割と未来についての考察と示唆も行っている。

分析を行っている多摩大学 経営情報学部 初見康行准教授は、前回の第5回までにアワード参加者への調査を通して、「志望度・満足度の向上には事前事後の学習や社会人基礎力*1 の向上が有効」「教育効果を高めるためには、大学の専門・専攻に近いプログラムに参加した方が有効である」などさまざまな示唆を提供し、総論「キャリア形成活動は学生・企業・大学にとって有意義な活動といえる」と発表した。

今回の発表は「在学中のキャリア形成活動は卒業後の活躍に影響を与えているのか?」をテーマに、進路・就職先の決定は社会人生活の第一歩に過ぎず、学生が卒業後、生き生きと働けていることや社会人生活が充実していることがもっとも重要であるという観点から、どのようなキャリア形成プログラムを提供することが卒業後の活躍につながるのか?について調査結果を示し、考察を発表した。

*1 社会人基礎力:社会人基礎力とは経済産業省が2006年に提唱した3つの力のこと。「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」から構成されている。

疑問1  入社後にどのような状態を目指すべきか?

入社後「生き生きと働けている」とはどのような状態を指すのか?に対し、仕事に対する「活力」「熱意」「没頭」から構成される概念である「ワーク・エンゲージメント」を成果指標として設定。先行研究からもワーク・エンゲージメントが高いことは働く人と企業に多くの良い影響をもたらす可能性が高いとされているが、今回行った調査でも、ワーク・エンゲージメントは職務満足、職場の人間関係、在職意思、社会人生活の満足納得感などと強い相関が確認された。

入社後の「ワーク・エンゲージメント」を高める要因とは何か?という問いへの答えとして、社会人基礎力の自己評価が高い学生は入社後のワーク・エンゲージメントが高い傾向にあることを調査結果が示した。

調査結果は卒業前の社会人基礎力の値に応じて下位25%を「低群」、中間の50%を「中群」、上位25%を「高群」とした3群に分けて分析。社会人基礎力とワーク・エンゲージメントは正の相関関係があることが示され、在学中に「社会人基礎力(能力面)」の育成をすることは入社後のワーク・エンゲージメントにポジティブな影響があると確認できた。

疑問2 社会人基礎力を 向上させるものとは何か?

次に新たな疑問として、社会人基礎力を向上させるものとは何か?を提示し、その問い に対する答えとして、自律的キャリア観(キャリア自律)が社会人基礎力と強く相関することを示した。つまり「会社に頼らず、自分のキャリアを自主的・自律的に築いていきたい」「成功や失敗は自分の責任である」「キャリアを前進させるために頼るべきは自分自身だ」といった自分のキャリアは自分で作り上げていくといった意識の強い学生は社会人基礎力も高いということが確認できた。

またこの結果は性別や文系・理系別に分割しても同様の傾向が得られ、属性に関わらず相関があることも示され、自律的キャリア観(マインド面)と社会人基礎力(能力面)は強い正の相関関係にあると確認できた。

キャリア形成活動と卒業後の活躍について

疑問3 自律的キャリア観・社会人基礎力を高めるにはどうしたら良いのか?

さらなる疑問として、自律的キャリア観・社会人基礎力を高めるにはどうしたら良いのか?が挙げられる。

「自律的キャリア観・社会人基礎力が高い学生は在学中にどんな活動をしているのか?何かしら特徴があるのではないか?」と仮説をたて、疑問1と同様に、自律的キャリア観・社会人基礎力の値に応じて下位25%を「低群」、中間の50%を「中群」、上位25%を「高群」と3群に分け、さらに、キャリア形成活動の14項目をその内容から「【大学提供】キャリア教育系」「【企業提供】業界・企業研究就活支援系」「【企業提供】就業体験系」の3つのグループに分けて分析した。それぞれの仮説に対する結果は以下となる。

自律的キャリア観・社会人基礎力が高い学生は・・・

仮説1.キャリア形成活動を開始する「時期」が早いのでは?
→低群・中群・高群で、キャリア形成活動の開始時期に大きな差は確認されなかった

仮説2.キャリア形成活動の「量」に違いがあるのではないか?
→キャリア形成活動の「量」だけで決まっているわけではない可能性が確認された

仮説3.キャリア形成活動の「内容」に違いがあるのではないか?
→「就業体験系」のキャリア形成活動により多く参加している可能性が確認された

自律的キャリア観・社会人基礎力の高い学生は、「【企業提供】就業体験系」に参加した割合が高い。また参加割合に加えて、各種キャリア形成活動に対してどの程度熱心に取り組んだかの程度の関係を見たところ、「キャリア教育系」「業界・企業研究就活支援系」「就業体験系」すべてで低群・中群・高群に有意差があった、さらに「就業体験系」はもっとも効果量として大きく、キャリア形成活動全般への積極的な参加は効果があり、特に就業体験系への参加が有効な可能性があるということが確認された。

キャリア形成活動はどれも効果があるが、就業体験系を中心としたキャリア形成活動への参加が自律的キャリア観・社会人基礎力をより高める可能性

さいごに 今後想定される2つの課題

初見准教授は今回の分析結果から就業体験系は有効であることがわかったものの、課題1として全学生に体験してもらうための受け入れ側法人のキャパシティの確保が困難であること、特に5日間以上の就業体験は負担が重いことを指摘した。同様に、学生にとっても参加の心理的ハードルが高い可能性があるとし、有益なキャリア形成プログラムをどのように多くの学生に体験してもらうのかが今後問題になってくると警鐘を鳴らす。

また課題2としてキャリア形成活動の開始時期については、低学年からインターンシップ等のキャリア形成活動に取り組む学生は全体の2割程度に留まっており、現状は一部の意欲の高い学生が2年次よりキャリア形成活動を開始している。多くの活動は大勢が就職活動を意識する3年次に偏り過ぎている可能性があるとし、平準化することが大事なのではないかと指摘する。

疑問1と同様に一部の学生にとってはいきなり長期間のプログラムに参加することはハードルが高いという可能性も十分に考えられ、たとえば1年次に大学のキャリア教育の授業を受ける、2年次に企業主催のオープンカンパニーに参加する、3年次にインターンシップ等の就業体験を伴うプログラムに参加するなど段階化を踏むということも重要になってくるのではないかと語った。

最後に就職活動の早期化につながらないように注意が必要であるものの、低学年から参加できるキャリア形成プログラムの充実が必要ではないかと提案があった。ただし、現段階では受け入れをする法人側もまだ具体的な方向性が定まっていなかったり、手を付けられていない状況も推察される状況だからこそ、フラッグシップとなるキャリアデザインプログラムが必要であるし、範となるキャリアデザインプログラムを発信する本アワードやカンファレンスの場は、ますます重要になるだろうと講演を締め括った。

キャリア形成活動の偏り(1年次・2年次・3年次)

「キャリアデザインカンファレンス2023」の様子は、HP(https://internship-award.jp/)でアーカイブを公開しており、前年大賞に輝いたボッシュ株式会社によるキーノートスピーチや大賞、文部科学大臣賞を含む優秀賞と地方創生賞の受賞プレゼンテーションも視聴することができる。

梅崎選考委員が素晴らしいプログラムを選出することができたと実感した理由と、受賞法人のプログラムに対する熱意が伝わる素晴らしい内容であるので是非ご覧いただきたい。

キャリアリサーチLab主任研究員 宮地 太郎

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