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大切なのは最終学歴ではなく“最終学習歴”の更新
【株式会社ナンゴー】

矢部栞
著者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

厚生労働省は、従業員の自律的なキャリア形成支援について模範的な取り組みを行っている企業等を表彰する「グッドキャリア企業アワード」を実施しています。今回は、グッドキャリア企業アワード2022で大賞を受賞した京都府宇治市のはん用機械器具メーカー・株式会社ナンゴーを訪問し、取り組みの理念、具体的な取り組み内容、効果についてお話をうかがいました。

会社紹介

まずは、株式会社ナンゴーについてご紹介させていただきます。

会社名:株式会社ナンゴー
設立:1973年
事業内容: 金属全般精密機械加工、各種冶具・省力化機械の製作
従業員数:15名

株式会社ナンゴーの南郷代表取締役社長(写真右)と、プロジェクトグループ室・奥野グループ長(写真左)

今回取材を受けてくださったのは、株式会社ナンゴーの南郷代表取締役社長(写真右)と、プロジェクトグループ室・奥野グループ長(写真左)です。

仕事を通じて向上する組織を目指し、従業員のキャリア自律を支援

——株式会社ナンゴーの特徴を教えてください。

南郷: 当社は、1973年に創業した京都府宇治市に本社を置くはん用機械器具メーカーで、今年(2023年)で創立50周年を迎えます。主な事業内容は、一品ものの金属全般精密機械加工と、ものづくりの効率化に欠かせない各種治具・省力化機械の製作です。少数精鋭の会社で、ステレオグラムを立体造形アートで表現する技法「ナンゴー彫り(R)」をはじめとした高い技術力を武器に、自動車メーカー、自動車部品メーカー、輸送機器関連メーカー、 各種産業機械メーカーなどに製品を提供しています。

奥野: 日常業務は、チーム毎に行っていますが、15人しかいない会社なので、突発的な事柄に関しては、「この仕事はこの人」というように決めつけず、さまざまなことに挑戦できる風土はもともとあったと思います。

——貴社は「グッドキャリア企業アワード2022」大賞を受賞されました。社員のキャリア自律を支援する取り組みを始めたきっかけを教えてください。

南郷: 当社は、「仕事を通じて私たちは向上する!」ことを経営理念に掲げています。また、技術面、生活面も含めて向上心を養う力を「人間力」と定義し、従業員の「人間力」を向上することに継続的に取り組んでいます。近年は、新型コロナウイルス感染症の拡大、原材料の高騰など、製造業を取り巻く環境が激変していますが、こういった荒波を乗り越えて、事業を次の世代に引き継いでいくには、従業員が自律的に学び、向上し続ける環境づくりが不可欠だと考えています。

奥野: 未来を見据えた世代交代および自律的に向上する組織を目指して、2021年にプロジェクトグループ室が設置されました。一般的に製造業は男性社員が多い職場ではありますが、多様な人材が活躍し向上できる職場づくりを進めるためには、女性ならではの視点が不可欠だろうという社長のお考えで、私がグループ長を任されることになり、プロジェクトグループ室が推進役となって、従業員の自律的なキャリア形成を支援する取り組みを始めました。

——評価された取り組み内容について具体的に教えていただけますでしょうか。


月1回の勉強会の様子。これまで機会のなかった名刺交換を学んでいます。

奥野: プロジェクトグループ室が設置されて以降、月に1度の勉強会を実施しています。第一回のテーマは「いまさら聞けない名刺交換」でした。2018年にグッドキャリア企業アワードのイノベーション賞を受賞し、2020年には地域未来牽引企業に選定されたこともあって工場見学を受け入れる機会が増えてきました。製造部員のメンバーがお客様と話す機会も多くなってきたので、不安なくお客様と名刺交換できるように実演を交えた勉強会を実施しました。スタートして1年半以上になりますが、ほぼ月に1回、「電話の取り方」や「プレゼン大会」などさまざまなテーマで勉強会を継続して実施しています。複数の取り組みがありますが、小さい会社ながら「継続して取り組めている」ことが評価された理由のひとつでもあると思います。

南郷: それ以外にも、能力開発の支援策として社外研修やセミナーの参加に関しては、本人の申し出があれば全額会社負担で受講することが可能となっています。受講した社員はレポートをまとめ、学んだことを社内報告会で社内共有してもらっています。また、社員が自己啓発のために購入する書籍の買い取り制度も設けています。自分が読んで良かったと思える本の内容を発表会で社内共有すれば、その本を会社が買い取り、さらにプラスして図書券がもらえる仕組みです。 社員の自主的な学びをサポートするさまざまな取り組みを総合的に評価いただいたんだと思います。

——取り組みを進めるにあたって、反対意見や苦労されたことがあれば教えてください。

奥野: 「特にありませんでした!」というのが正直な感想です。弊社は、素直で真面目な社員が多く、勉強会に対する否定的な発言はありませんでした。家庭で出た不要品の交換会を実施したり、宇治市主催の「ものづくりツアー」を受け入れたりと、業務以外にもさまざまな活動に取り組んでいますが、声をかけるとみんなが賛同してくれます。とても風通しの良い社風なんだと思います。

南郷: 大手企業と違って社員数も限られていますので、人材育成や研修に費やせる人手やコストにも限りがあります。それだけに、個人個人が持っている技術やノウハウを独り占めするのではなく、できるだけ可視化して共有するという姿勢が社内に根付いているように思います。率先して自主的に学ぼうとする意識を持っている社員が多いから、自分たちの能力開発につながる取り組みにも抵抗がないようです。

——社員のみなさんに自主的に取り組んでもらうために工夫されたことはありますか?

南郷: 月1回の勉強会に関しては、業務時間を割いて実施するのではなく、誰もが気軽に参加できるように昼食の後の時間を15分ほど使って実施する工夫をしてくれています。また、強制的に参加を呼びかけるのではなく、自由参加というスタンスで実施したのが良かったようで、みなさん自主的に参加し学びを業務にも展開してくれています。
また、ガーデニングが好きな社員に「園芸番長」と敬意を込めて呼ぶなど、個人の得意分野や興味のあることに対して自主的に動いてもらっています。グッドキャリア企業アワードのシンポジウムでは、法政大学の坂爪先生より「“この会社にいていいんだ”という心理的安全性につながって自主的に取り組みができているのでは」とお褒めの言葉をいただきました。

奥野: 先ずは、私自身がプロジェクトリーダーとして率先して学ぶ姿勢を見せる必要もあると感じておりました。現在、さまざまな企業がSDGsへの取り組みを積極的に進めているなか、当社でもいち早く私がオンラインで講座を受講して、SDGsビジネス検定に合格しました。社内活動としてSDGsの普及にも取り組んでいます。

——キャリア自律支援の取り組みを進めることで、どのようなメリットを感じておられますか?

奥野: 自分たちの取り組みが第三者にきちんと評価していただけるというのが、社員みんなのモチベーションアップにつながっていると思います。大賞をいただいたグッドキャリア企業アワードは厚生労働省が主催されていますし、2020年に選定していただいた地域未来牽引企業は経済産業省の主催です。他にも京都府から「知恵の経営」実践モデル企業として認証を受けたりしています。自分たちの取り組みが公的な評価を受けることは、社員だけでなく社員の家族の安心にもつながっていると思います。

南郷: ものづくりの企業というのは、ある程度設備投資すればその後は同じものをつくっているイメージが強く、企業の特色を理解していただくのは簡単ではないように思います。しかし、自分たちの技術や取り組みが第三者から高い評価を受けることで他社との明確な差別化ができるように感じます。取引先企業さまの評価が上がるのはもちろんのこと、会社としての信用度のアップ、企業ブランド力の向上にもつながっています。当社では地域連携の取り組みも積極的に進めていますが、グッドキャリア企業アワードなどの賞を受けていることで、他の企業さまとのご縁が広がり、新たな商品開発にも携わらせて頂くきっかけにもなっております。

——貴社が目指す理想の企業像について教えていただけますでしょうか。

奥野: 製造業で長年仕事をしてきたので、これまでの経験を生かしてもっと株式会社ナンゴーの発展に貢献したいと考えています。当社がこれまで培ってきた良い風士は残しながら新たな風を巻き起こしていきたいと思います。また、技術力の高さや社風の良さだけでなく、当社が実践しているさまざまな素晴らしい取り組みについても、もっと積極的に社外に広報していきたいと思います。今後は、「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として、健康経営優良法人認定制度にも挑戦しようと考えています。

南郷: 当社は今年創業50年を迎えますが、私は株式会社ナンゴーを1,000年続く企業にしていきたいと考えています。そのためには、製造業として新しい技術にも果敢に挑戦しながら、次世代にきちんとバトンタッチできる会社であり続けることが重要です。たとえ規模が小さい会社であっても、社員が仕事を通じて向上することで、企業価値が向上し、そして社会に貢献することができる。そんな会社に株式会社ナンゴーをしていきたいと思っています。だからこそ、社員が自主的に学ぶことができる職場環境を整備したいし、社員のキャリア自立を支援する企業であり続けたいです。

——従業員のキャリア自律に関する取り組みを始める企業に向けて、アドバイスやメッセージがあればお話ください。

奥野: 大切なのは、自社の身の丈に合った取り組みをすることではないかと思います。当社にしても、大手企業が実践されていることは到底まねできませんし、仮にできたとしても、それが本当に自社の従業員のためになってなるのかどうかは疑問です。その意味では自分の会社と同じ規模の会社の取り組みを参考にするのがいいのではないかと思います。当社に関しては、これまで当社を支えてきた先人たちの技術、知恵、そして社風を大切にしつつ、今いる社員で新たな風を入れながら、ほんの少しだけ背伸びした取り組みを従業員全員で実践できればいいなと考えています。

南郷: 「労働力は労働市場からの借り物だ」と言われることがありますが、自分自身は少し否定的に思っています。株式会社ナンゴーに入社したら長い間務めていただきたいというのが正直な気持ちです。そのための環境づくりをするのが経営者としての務めだと考えています。また、キャリア形成というのは仕事をしていくなかで自分自身をどう実現していくのかを考えることがベースにあると思います。仕事をするなかで、必要とされるスキルや専門的な知識は常に変化するので、向上心を忘れずに自主的に学び続ける意識を社内で根付かせることが重要ではないでしょうか。大切なのは、最終学歴ではなく最終学習歴です。社員の最終学習歴を更新するサポートをして、キャリア自律をバックアップすることも現代の企業に求められることだと思います。


■プロフィール
南郷 真(なんごう・ただし)写真左
株式会社ナンゴー 代表取締役社長
1962年生まれ。大学卒業後、大手都市銀行にて証券業務に従事。39歳で株式会社ナンゴーに入社。2005年、代表取締役に就任。休日は趣味のサーフィンとSUP(スタンドアップパドルボード)でリフレッシュしている。

奥野 英子(おくの・ひでこ)写真右
株式会社ナンゴー プロジェクトグループ室 グループ長
長年ものづくり企業で勤務後、2018年に株式会社ナンゴーに入社。企画広報業務全般を担当。2021年より“未来を見据え世代交代および自律的に向上する組織を目指すため”のプロジェクトグループ室のグループ長に就任。

編集後記:キャリアリサーチLab編集部 矢部 栞
少数精鋭の企業規模ながら、自主的な学びをサポートするためになにができるかを考えて取り組まれている様子がよく分かりました。また、少人数の会社だからとキャリア形成を諦めず、少人数だからこそできる社員のキャリア形成にまい進されているところが他の中堅中小企業様の参考になるなと感じました。
キャリア自律という言葉は個人の目線から考えられがちですが、企業としては「この会社で成長するためには何ができるか」を従業員に考えてもらえるようなサポート体制をつくることが大切だと感じました。「学ぶ気持ちがあれば何歳からでも学べる」という南郷社長の言葉も印象的でした。


——次回も、社員のキャリア自律に取り組む企業にインタビュー。次回からは、アワードで「イノベーション賞」を受賞した企業をご紹介します。

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