マイナビ キャリアリサーチLab

将来の労働力不足が深刻な社会問題に!?
日本人の婚姻状況と結婚観を探る

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

2022年9月に厚生労働省が発表した「2021年 人口動態統計」によると、婚姻件数が戦後最小を記録した。男性の育児休業に着目した前回のコラムでも紹介したように、現岸田内閣は、異次元の少子化対策と銘打って、子育て世帯の負担軽減、男性の子育て参加を促す働き方改革などに乗り出している。しかし、そもそも婚姻数が減ると出生数の減少は避けられず、労働力不足はさらに加速することになる。今回は、結婚をテーマに日本の現状を探っていく。

日本の婚姻件数が戦後最少に。50万人を割り込む可能性も

2021年 人口動態統計」によると、2021年の日本の婚姻件数は50万1,138組で、前年より2万4,369組減少し戦後最小となった。【図1】

【図1】婚姻件数(組)/「2021年 人口動態統計」(厚生労働省)
【図1】婚姻件数(組)/「2021年 人口動態統計」(厚生労働省)

その要因を「コロナ禍で結婚を先延ばしにしたから」と推察する声も少なくはないが、過去40年の婚姻件数の推移を見る限り、決して一時的な減少とは思えない。1972年には110万組を超えていたが、2021年にはその半数以下にまで落ち込んでおり、50万組を割り込むのも時間の問題だと考えるのが自然だろう。

「一生結婚するつもりはない」と考える未婚者が男女とも過去最高に

婚姻数が減少する最大の要因は、やはり結婚に対する意識の変化であろう。国立社会保障・人口問題研究所が2021年に実施した「第16回出生動向基本調査」によると、「一生結婚するつもりはない」と答えた未婚者(対象は18~34歳)の割合が、男女とも過去最高になっているという。【図2】【図3】

【図2】【図3】未婚者(男性)(女性)の生涯の結婚意思/「第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)より
【図2】【図3】未婚者(男性)(女性)の生涯の結婚意思/「第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)より

「いずれ結婚するつもり」と考えている未婚者の割合は、1997年の調査以降、比較的安定的に推移してきたが、2021年の調査では男女とも前回から減少し、男性では81.4%、女性では84.3%であった。一方、「一生結婚するつもりはない」と答える未婚者は2002年調査以降に増加傾向が続いており、2021年調査では男女とも前回より5ポイント以上増え、男性で17.3%、女性で14.6%となった。

では、なぜ結婚するつもりはないのか?「男女共同参画白書 令和4年版」(内閣府)によれば、「積極的に結婚したいと思わない理由」として、「結婚に縛られたくない、自由でいたいから」、「結婚するほど好きな人に巡り合っていないから」、「結婚という形式に拘る必要性を感じないから」といった回答が上位にあがっている。【図4】

【図4】積極的に結婚したいと思わない理由(20〜39歳)/「男女共同参画白書 令和4年版」(内閣府)より
【図4】積極的に結婚したいと思わない理由(20〜39歳)/「男女共同参画白書 令和4年版」(内閣府)より

グラフを見てお気づきの方もいるかと思うが、ほぼすべての項目で女性のポイントが男性を上回っている。女性は男性よりも「結婚したいと思わない」という意志が明確になっているのかもしれない。男性の回答が女性を上回っているのは、唯一「結婚生活を送る経済力がない・仕事が不安定だから」だけで、結婚生活で必要となる金銭的な負担を重荷に感じている男性は少なくないようだ。

一方で、独身生活のどこに魅力を感じているのか。「第16回出生動向基本調査」の調査では、「独身生活の利点」として、男女とも「行動や生き方が自由」が飛び抜けており、結婚生活によって自分自身の生活スタイルに何らかの制限がかかることを嫌う声が大きいようだ。【図5】

【図5】「独身生活の利点」を選択した未婚者の割合(2021年)/「第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)より
【図5】「独身生活の利点」を選択した未婚者の割合(2021年)/「第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)より

また、男性の場合は、「家族を養う責任がなく、気楽」(27.7%)、「金銭的に裕福」(24.9%)といった回答が女性を上回っており、女性の場合は、「友人などとの広い人間関係が保ちやすい」(20.6%)が男性を上回っている。独身でいることの魅力をどうとらえているか、男女で少し違いがあるようだ。

結婚した理由と結婚相手に求める条件とは?

「結婚したい理由」についても見てみよう。「男女共同参画白書 令和4年版」によると、「好きな人と一緒に生活をしたいから」(男性:52.7%、女性:51.4%)が1位となっている。【図6】

【図6】結婚したい理由(20〜39歳)/「男女共同参画白書 令和4年版」(内閣府)より
【図6】結婚したい理由(20〜39歳)/「男女共同参画白書 令和4年版」(内閣府)より

女性の場合は、「家族を持ちたいから」(30.8%)、「精神的な安らぎの場を持ちたいから」(27.5%)、「子供が欲しいから」(26.9%)が続いており、前述の「積極的に結婚したいと思わない理由」と同様、ほとんどの項目で女性のポイントが男性を上回っている。1位の「好きな人と一緒に生活をしたいから」以外で男性のポイントが女性を上回っているのは、「特にない」(27.1%)で、結婚したい理由についても、男性より女性のほうがより明確になっている傾向がうかがえる。

続いて、結婚相手に求める条件についても見てみよう。「男女共同参画白書 令和4年版」では、「結婚相手に求めること」として、「価値観が近い」(男性:59.2%、女性:62.7%)、「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」(男性:51.1%、女性:64.4%)、「一緒にいて楽しい」(男性:49.4%、女性:49.7%)が上位に入っている。【図7】

【図7】結婚相手に求めること(20〜39歳)/「男女共同参画白書 令和4年版」(内閣府)より
【図7】結婚相手に求めること(20〜39歳)/「男女共同参画白書 令和4年版」(内閣府)より

また、男女の差に着目してみると、「満足いく経済力・年収」(男性:5.8%、女性:32.6%/差:26.8%)、「一緒にいて落ち着ける・気を遣わない」(男性:51.1%、女性:64.4%/差:13.3%)、「家事力・家事分担できる」(男性:17.4%、女性:27.8%/差:10.4%)となっており、結婚相手に求める条件に男女で違いがあることがわかる。

共働きを希望する割合が過去最高を更新。男子は6割超え

大学生の結婚観についても見てみよう。「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」によると、結婚後の仕事に関して、共働きを希望するか、どちらかの収入のみで生活することを希望するか、あるいは結婚しないことを希望するかを聞いたところ、共働きを希望する割合は全体で68.2%と過去最高を更新した。【図8】

【図8】結婚後の仕事に関してどのように考えているか/「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」より
【図8】結婚後の仕事に関してどのように考えているか/「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」より

特に男子は初めて6割を超え、男女の割合の差も調査開始以来、もっとも小さい値になっている。【図9】

【図9】「夫婦共働きが望ましい」と考える比率/「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」より
【図9】「夫婦共働きが望ましい」と考える比率/「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」より

共働きを希望するのはなぜか? 「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」によると、男子のベスト3は、「結婚相手が仕事を続けたいならその意思を尊重したいので」(18.8%)、「一方の収入だけでは生活できないから」(15.5%)、「それぞれ自分の仕事を持っていることが自然だと思うから」(15.1%)で、女子のベスト3は、「仕事を続けることが生きがいになると思うから」(15.3%)、「仕事でキャリアを積みたい(出世したい)から」(14.4%)、「それぞれ自分の仕事を持っていることが自然だと思うから」(14.2%)となっている。男女とも「それぞれ自分の仕事を持っていることが自然だと思うから」が3位に入っており、最近の大学生のなかでは男女共同参画社会は当たり前のこととなっているようだ。【図10】【図11】

【図10】【図11】「夫婦共働きが望ましい」理由(男子)(女子)/「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」より
【図10】【図11】「夫婦共働きが望ましい」理由(男子)(女子)/「マイナビ 2024年卒大学生のライフスタイル調査」より

結婚を促進する支援策と環境とは?

最後に、独身者の婚姻を促進するために、どのような支援が求められているかを確認する。内閣府の「少子化社会対策に関する意識調査」では、「どのような支援・環境があれば結婚の希望がかないやすくなるか」について調査している。結果を見ると、第1位が「自分もしくはパートナーの雇用機会や収入が安定すること」で、第2位が「結婚後も希望すれば継続して就業できること」、第3位が「住宅費の軽減などにより結婚後の住宅が確保できること」と、上位に入っているのは男女とも同じ回答となっている。【図12】やはり、安定した雇用の維持、住宅費を含め経済的な不安なく結婚生活を送るための収入の確保を望む声が大きいようだ。

【図12】どのような支援・環境があれば結婚の希望がかないやすくなるか/「少子化社会対策に関する意識調査」(内閣府)より
【図12】どのような支援・環境があれば結婚の希望がかないやすくなるか/「少子化社会対策に関する意識調査」(内閣府)より

経済的な不自由を感じることのない結婚生活を送るためには、夫婦ともにフルタイムで働くことが理想であると考える人は多いようだが、実際のところ理想と現実にギャップがあるようだ。内閣府・男女共同参画局の「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査報告書」によると、20〜39歳の既婚者は、結婚後の自分と配偶者の仕事について、「夫婦ともに原則フルタイム勤務」を“理想”とする人の割合が最も高く、男性で52.5%、女性で46.9%という結果となっている。ところが、“現実”には、男性が43.0%、女性が40.7%と、 “現実”の割合が“理想”よりも5ポイント以上下がっている。【図13】【図14】

【図13】男性・20−39歳/結婚後の自分と配偶者の仕事について望む形/「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査報告書」(内閣府)より
【図13】男性・20−39歳/結婚後の自分と配偶者の仕事について望む形/「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査報告書」(内閣府)より
【図14】女性・20−39歳/結婚後の自分と配偶者の仕事について望む形/「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査報告書」(内閣府)より
【図14】女性・20−39歳/結婚後の自分と配偶者の仕事について望む形/「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査報告書」(内閣府)より

逆に、「夫は原則フルタイム勤務/妻は家事に専念(働かない)」を“理想”と考えている人は、男性が5.2%、女性が8.5%だったが、“現実”は男性が11.0%、女性が17.3%と、5ポイント以上上昇しており、男女ともフルタイムで仕事ができる環境が十分には整っていないことがわかっている。

婚姻数の低下と未婚者の増加は、将来の労働力不足と少子高齢化を加速させ、国力の衰退につながる深刻な問題となるに違いない。日本人の結婚に対する意識が多様化し、平均年収の低迷が続くなかで、解決に向けた最適解を出すことは簡単ではないが、希望すれば男女ともフルタイムで仕事ができる環境をいち早く整備することは、解決に向けた糸口になるに違いない。いずれにせよ、日本の将来を左右する問題として、国を挙げてさまざまな解決策を模索する必要がありそうだ。


著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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