マイナビ キャリアリサーチLab

コロナ禍で深刻化する「宿泊業、飲食サービス業」人材流出への懸念

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

 

長引くコロナ禍が、さまざまな業界に深刻な影響を及ぼしている。
もちろん、コロナ禍の影響を直接的に受けない業界、コロナ禍でも業績に大きな変化のない業界、コロナ禍でも業績を伸ばしている業界と、天気模様はさまざまだが、人材の流出という側面で深刻な影響が懸念される業界がある。「宿泊業、飲食サービス業」である。

今回は、雇用関係の政府統計データとマイナビが実施したアンケート結果をもとに、主に正社員を中心に「宿泊業、飲食サービス業」の雇用環境にどのような変化がみられるのかを検証してみたい。

緊急事態宣言のタイミングで賃金指数が下落

賃金指数/「毎月勤労統計調査」厚生労働省
毎月勤労統計調査<全国調査・地方調査>」(厚生労働省)
事業所規模=30人以上、就業形態=一般労働者(2015年平均=100とする)

最初に、厚生労働省が実施する「毎月勤労統計調査」の賃金指数を確認しておこう。上のグラフは、2015年の平均を100として、調査対象の全産業と「宿泊業、飲食サービス業」について、事業所規模30人以上の一般労働者の賃金指数を抽出したものだ。期間は、2019年11月から直近の2021年5月までとした。

調査対象産業の全体としては、数値の上下はあるものの、コロナ禍でもそれほど大きな変化は見受けられない。しかし、「宿泊業、飲食サービス業」については、日本でコロナ感染者が初めて確認された2020年1月をきっかけに急激に落ち込み、その後、緊急事態宣言1回目(2020年4月11日)、2回目(2021年1月9日)、 3回目(2021年5月1日)と、緊急事態宣言の発出とタイミングを合わせるように賃金指数の下落が見受けられる。

就業者数は回復の兆し

主な産業別正規の職員・従業員数/「労働力調査」総務省統計局
労働力調査(総務省統計局)

 

次に就業者数の変化を確認してみる。上のグラフは、総務省統計局が実施している「労働力調査」から、「宿泊業、飲食サービス業」の職員・従業員数のデータをグラフ化したものだ。

就業者の増減については、賃金指数の動きとまったく同じというわけではない。緊急事態宣言の発出のタイミングやコロナ感染者数の増減とある程度リンクする形では変化してきたようだ。しかし、直近では増加傾向を示しており、コロナ前の水準まで回復してきている。

マイナビ転職の掲載者数推移
マイナビ転職の掲載社数推移(コロナウイルス蔓延前の2019年11月を100としてグラフ化)

 

ただし、採用意欲という面では、回復の兆しは見えてこない。上のグラフは、マイナビ転職における掲載社数を月別に集計したものだ。産業分類が政府統計とは違うので、マイナビ転職の業種区分の中で、比較的近似値が取れると考えられる「レジャー業界(ホテル・旅館、レジャーサービス・アミューズメント、旅行・観光)」と「フード業界」の数値を抜き出して、2019年11月を100としてグラフ化してみた。

グラフを見ると、新型コロナウイルスによる1回目の緊急事態宣言時期で一時下落はしたものの、2020年8月以降は、サイト全体の掲載社数はある程度安定しているが、フード業界とレジャー業界については、2020年1月をピークに掲載社数は一気に落ち込みはじめ、それ以降、多少上下はするものの、2019年11月の数値と比較すると20〜60%の間で低空飛行を続けている。

人材の流出がコロナ後の業績回復の懸念材料に

現段階での転職意向/マイナビライフキャリア実態調査2021年版
ライフキャリア実態調査2021年版」調査対象:2021年3月の雇用・就業形態が正社員(正規の職員・従業員)で週3日以上勤務していた人、調査時期:2021年4月

企業側の採用意欲が回復しない限りは、いかんともしがたいことではあるものの、「宿泊業、飲食サービス業」にとっては、他業界への人材の流出が、アフターコロナの業績回復の足かせとなる可能性もある。

上のグラフは、マイナビが2021年4月に、2021年3月時点で調査した「ライフキャリア実態調査2021年版」の結果である。正社員(正規の職員・従業員)として週3日以上勤務していた総計4,140名をベースに集計した結果、「現段階で転職や就職したいと考えており、活動も行っている」人の割合は7.4%、「現段階で転職や就職をしたいと考えているが、活動はしていない」人の割合は14.7%、そして、「いずれは転職や就職したいと考えている」人が21.3%で、転職の意向がある人の合計は、43.4%となっていることがわかる。

これを業界別に詳しく見ていくと、転職の意向がもっとも強くデータに表れているのが「宿泊業、飲食サービス業」である。「現段階で転職や就職したいと考えており、活動も行っている」人の割合が22.3%、「現段階で転職や就職をしたいと考えているが、活動はしていない」人の割合が17.4%、そして、「いずれは転職や就職したいと考えている」人の割合が26.6%で、転職の意向がある人の合計は66.3%と、非常に高い数値となっている。

どの数値も他業界に比べて高水準になっているが、中でも「現段階で転職や就職したいと考えており、活動も行っている」人の割合が22.3%というのは、「宿泊業、飲食サービス業」で勤務する人の5人に1人が、具体的な転職活動を行っている状況であると言える。

賃金指数が下がり、掲載社数も減少しており求職者にとっての環境は厳しくなっている。ただし、企業視点で見ると元から人手不足感の強かった「宿泊業、飲食サービス業」の場合、事業の成長には店舗の拡充に伴う人員確保が必要なことに変わりはない。今後、企業にとっては人材流出抑止と共に、withコロナ時代の経営戦略としてどのように人材を確保するか、暫く難しい状況が続きそうだ。

 


著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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