マイナビ キャリアリサーチLab

派遣法の規制緩和と規制強化の歴史、派遣社員として働く意識の男女差

関根 貴広
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TAKAHIRO SEKINE

はじめに

新型コロナウイルスの影響による雇用環境の悪化から、2019年2,173万人だった非正規雇用者の数は2021年に2,075万人で98万人減、この間の正社員数の推移が大きく変わらなかったことを考えると、新型コロナウイルスの影響は非正規雇用者に特に厳しい影響があったことがうかがえる。

そんな厳しい非正規雇用者の中で、派遣労働者については2019年143万人から、2021年141万人で、コロナ禍においても、僅かの減少となっていることをご存じの方は少ないのではないだろうか。(総務省「労働力調査」より)

今回のコラムでは、そんな派遣労働者の働く意識の男女差について、弊社で行った「派遣社員の意識・就労実態調査(2021年)」をもとに、私の実体験も含めて書いてみようと思う。

2021年時点の派遣労働者の男女比は4:6、法改正で変わっていく男女比

派遣労働者の男女比は、圧倒的に女性が多いと思われている方もいるかもしれないが、労働力調査をみると2021年時点で派遣労働者の約4割は男性で構成されており、実際には大きな男女差はないといえる。

では、これまでも派遣労働者の男女比に差はなかったのだろうか? 派遣労働者数の推移を2000年から2021年まで振り返ってみる。

人材派遣は1986年7月の「労働者派遣法(以下:派遣法)」の施行から始まり、今年で37年目を迎える。1986年当時は専門的な業務13業種のみに人材派遣が解禁され、2000年時点は派遣労働者の7割以上が女性であった。その後、派遣法は規制緩和路線を歩んでいくのだが、特に大きな規制緩和が2004年の「製造業の派遣解禁」であろう。この規制緩和により、2004年の派遣労働者数は2003年比で1.7倍に増加し、男性の割合も2割台から3割台へ増加した。

【2008年リーマンショックにより起きた大量の雇い止め】

2004年以降、男女ともに右肩上がりであった派遣労働者数だが、リーマンショックの影響により、2008年の140万人から、翌2009年には31万人減(男性:18万人減、女性:13万人減)の109万人となった。特に製造業への影響は大きく、2004年の製造派遣の解禁以降の2005年から、4割弱で推移していた男性の割合はリーマンショックにより33.9%まで減少した。

この頃よく聞かれた「年越し派遣村」という言葉をご記憶されている方もいるかもしれないが、企業都合による雇い止めにより、住む場所を失った派遣労働者が年を越す場所としてできたのが「年越し派遣村」であり、当時は大きな社会問題となった。その後2009年~2012年まで派遣労働者数は減少していき、派遣法は規制強化路線へと変わっていく。

【派遣法の規制強化と女性活躍推進法】

2012年「※1日雇い派遣の原則禁止」「※2グループ企業内派遣規制」など、派遣労働者の待遇改善強化が行われた。また同年末には「女性活躍促進法」も施行され、2012年91万人だった派遣労働者数は、翌2013年には26万人増の117万人(男性:12万人増の48万人、女性:14万人増の69万人)、2014年には120万人 (前年比:男性は横ばいの48万人、女性は3万人増の72万人) となり、2021年現在は141万人(男性:53万人、女性:88万人)でリーマンショック以前と同水準となっている。

「女性活躍推進法」の施行以降は、女性の派遣労働者が堅調に増加しており、非正規雇用である是非は抜きにして、女性の社会進出を後押ししたことは確かだろう。このようなこともあり、派遣労働者は女性が多いイメージに繋がっていると考えられる。

※1「日雇い派遣の原則禁止」専門的な技術や技能が要求される業務や、一定の収入がある人とその配偶者、学生、高齢者などの例外条件を除き、「雇用期間が30日以内の日雇派遣」は原則禁止となった。
※2「グループ企業内派遣規制」 グループ内の正社員の代替えのために派遣会社を設立し、人件費の削減に利用する事例が見受けられたため、グループ企業内に派遣会社を持ち、派遣先の大半がグループ内の企業の場合はその関係派遣先への派遣割合を8割以下にしなければならない規制がなされた。

派遣労働者数の推移と男女比 / ※出典元:総務省統計局「労働力調査」(詳細集計、年平均)を元にマイナビで作成
【図1】派遣労働者数の推移と男女比 / ※出典元:総務省統計局「労働力調査」(詳細集計、年平均)を元にマイナビで作成

派遣労働者の就業職種からみる男女差

派遣労働者数の男女比に大きな差はないことがわかった。では、就業している職種はどうだろうか。弊社の調査「派遣社員の意識・就労実態調査2021年」で就業職種をみると、男性では「製造」がもっとも多く25.4%、次いで「配送・輸送・物流」で24.7%などブルーカラー職種が多い。一方、女性では「オフィスワーク・事務」が25.6%、次いで「テレオペ・テレマーケティング」16.3%でホワイトカラー職種が多くなっている。男性でもっとも多い「製造」に携わる女性派遣労働者は8.9%、女性でもっとも多い「オフィスワーク・事務」に携わる男性派遣労働は3.3%になっており、就業職種の男女差は大きい。

派遣労働者の就業職種(単一回答)/ マイナビ派遣社員の意識・就労実態調査2021年
【図2】派遣労働者の就業職種(単一回答)/ マイナビ派遣社員の意識・就労実態調査2021年

派遣労働者を選んだ理由からみる男女差

次に、派遣労働者を選んだ理由をみると、全体では「すぐに仕事に就けるから」「勤務地を選べるから」「働く日数・時間を自分で選べるから」がTOP3となった 。

男性より女性が高い理由項目TOP5をみると、「賃金が高いから」で差分が17.3ptでもっとも高く、次いで「仕事内容・職場の雰囲気が合わなかった場合、職場を変えやすいから」で差分が11.7ptなど、TOP5の理由項目すべてで男性に比べ女性が10pt以上高くなっている 。

反対に女性より男性が高い[派遣労働者を選んだ理由]をみると、「正社員を希望していたが、自分のスキル・経験でできる正社員の仕事がなかったから」「正社員になるまでの繋ぎのため」「正社員を希望していたが、希望条件に合う正社員の仕事がなかったから」が男女差項目のTOP3となっており、特に40代で、その傾向は高い。

このことから、女性では働き方や働く場所が選択できることなど、男性に比べれば、派遣労働者であることに、ある程度の納得感を持っているようにも感じられる。

一方、男性は、正社員を希望するも、これまでのスキル・経験でできる仕事がない等、正社員意向があるにも関わらず、派遣社員を選んでいる傾向が女性に比べ高く、男女での働く納得感に差があるように見受けられる

特に就職氷河期世代ともいえる40代男性で正社員を希望する傾向が高く、働き盛りの年代が正社員になりたくてもなれない、というような意識をもっていると感じてしまうのは私だけではないだろう。「就職氷河期世代支援プログラム」などの政府支援の重要性を痛感させる。

派遣労働者で働くことを選んだ理由/ マイナビ派遣社員の意識・就労実態調査2021年
【図3】派遣労働者で働くことを選んだ理由/ マイナビ派遣社員の意識・就労実態調査2021年

今後も派遣労働者として働きたいという意向は2020年比で増加。女性は半数以上で、一方の男性は?

派遣労働者として働く人に、今後も派遣労働者として就業したいと思うかを聞いたところ、「派遣労働者として働きたい計」が50.2%と半数を超え、前年2020年調査と比べると6.2pt増となった。

前年比増の背景には、派遣労働者の雇用安定措置として2015年に改正された「派遣3年ルール」により、派遣労働者が派遣契約形態の選択権を得たことにあるのではないかと考えられる。

派遣労働者というと有期雇用契約である「登録型の派遣」をご想像される方が多いかとは思うが、「派遣3年ルール」により、有期雇用派遣労働者が同じ職場や部署で働ける上限が3年となり、3年を経過すると、無期雇用派遣社員になるか、別の派遣先に移るなど派遣労働者が選択できるようになっている。また派遣元が行う措置として、派遣先に対して直接雇用を働きかけるなどもある。

働き方や働く場所だけでなく、契約形態も選択できるようになっていることが、今後も派遣労働者として働きたいという意向の増加に繋がっているのではないかと考えられる。実際に弊社の「派遣社員の意識・就労実態調査2021年」をみても、「常用型派遣契約(無期雇用派遣)」が前年比:4.0pt増の32.5%となっている。

少し脱線してしまったが、話を戻そう。

今後の派遣労働者意向について、男性の「派遣労働者として働きたい計」は42.7%(前年比:4.9pt増)、女性では54.3%(前年比:6.1pt増)となり、今後も派遣労働者として働きたいとする意向は、男女ともに前年比で同程度に増加している。

しかし、次の今後も派遣労働者として働きたいと思う理由では、男女差がみえてくる。

今後の派遣労働者意向/ マイナビ派遣社員の意識・就労実態調
【図4】今後の派遣労働者意向/ マイナビ派遣社員の意識・就労実態調

今後も派遣労働者として働きたいと思う理由からみられる、働く納得感の男女差

今後も派遣労働者として働きたい理由をみると、全体では「勤務地を選べるから」が27.4%でもっとも高く、「責任が重くないから」24.9%、「働く日数・時間を自分で選べるから」「雇用保険・健康保険・厚生年金に加入できるから」が同率23.9%と続く。全体の傾向からは「派遣労働者を選んだ理由」と同様に、働き方や働く場所の自由度の高さに合わせ、社会保険加入などの安定性を得ながら、責任は重くないという、社会保障と職責のバランスの良さが、今後も派遣労働者として働きたいと思う理由に繋がっているようだ。

では、男女で差が大きい理由項目をそれぞれみてみる。まず、女性の方が高い理由項目では「働く日数・時間を自分で選べるから」「賃金が高いから」「派遣会社が間に入っていろいろな相談に乗ってくれるから」「仕事内容・職場の雰囲気が合わなかった場合、職場を変えやすいから」「やりたい仕事が選べるから」で、男性より10pt以上高く、働き方や働く場所などの自由度の高さを実感しており、ある程度の納得感を持って今後も派遣労働者として働き続けたいとしている様子がうかがえる。

反対に、男性の方が高い理由項目では「正社員を希望していたが、希望条件に合う正社員の仕事がなかったから」で差分が6.5ptともっとも高く、次いで「正社員を希望していたが、自分のスキル・経験でできる正社員の仕事がなかったから」3.1pt、「専門スキルを活かせるから」2.8pt、「正社員として就職できなかったから」1.1pt、「責任が重くないから」0.8ptとなり、男女の差分が大きい理由項目5つのうち3つが、正社員を望みつつも、正社員の仕事がないことが、今後も派遣労働者として働きたいと思う理由となっており、特に40代男性(就職氷河期世代・ミドル層)では「正社員として就職できなかったから」が16.3%で全体より5pt以上高いなど、顕著な傾向が見て取れる。

男性について、女性でみられたような派遣労働者として働く、ある程度の納得感は感じられず、正社員として働く自信のなさから、不本意的に派遣労働者として働いている人もいるのではないだろうか。ここに派遣労働者として働く意識のもっとも大きな男女差を感じてしまうのは私だけだろうか。

今後も派遣労働者として働きたいと思う理由/マイナビ派遣社員の意識・就労実態調査2021年
【図5】今後も派遣労働者として働きたいと思う理由/マイナビ派遣社員の意識・就労実態調査2021年

最後に

私は以前に派遣事業に携わったことがあり、当時の実体験も交え、本コラムを締め括りたいと思う。

派遣労働者として働く意識の男女差は、「派遣労働者を選んだ理由」「今後も派遣労働者として働きたいと思う理由」で大きくみられた。

女性の派遣労働者は、働き方や働く場所の自由度を求め、ある程度の納得感を持って働いている人も多く、私の実体験での認識とも合致する部分がある。それは私が派遣事業に携わっていた頃に担当していた女性の派遣社員の方にいわれたことにある。「派遣社員は自分の持つスキルを活かしながら、決められた業務範疇で、稼ぎたい時は残業の多い仕事や職場を選び、プライベートの時間を取りたい時は、時短などができる職場や仕事に変えやすい、だからこれからも派遣社員を続けたい」と、今にして思えば、ジョブ型で働き、自分のライフステージに合わせ週休3日で働くなど、多様な働き方を選択していた。当時はテレワークこそなかったが、現在注目されている多様性のある働き方を先駆けて行っていたのだと思えてならない。

リーマンショック以降、派遣労働者の雇用安定を目指した「派遣3年ルール」などの規制強化により、派遣労働者の待遇改善、雇用の安定が実現されていることは、コロナ禍においても派遣労働者数の減少が僅かであったことからもうかがえる。

しかし、「派遣3年ルール」が必ずしも働く人すべての希望を叶えるものではないこともある。

「派遣3年ルール」により、働き慣れた職場を離れなくてはいけなくなったり、無期雇用派遣となるには、働き方を変えなくてはいけなくなったりすることだ。無期雇用派遣として同一の職場で勤務を続けるためには、派遣労働者・派遣先・派遣元の合意が必要であり、必ずしも同一の派遣先で無期雇用派遣されるとも限らない、また必ずしも登録型の派遣(有期雇用契約)と同じ働き方ができるとも限らない。

私は、派遣先から惜しまれつつ、別の派遣先に移った派遣労働者をみたことがある。本来は同じ職場で登録型の派遣労働者として働き続けたいと思っていた方だったが、「派遣3年ルール」においては、登録型の派遣(有期雇用契約)のまま、同一の職場で3年以上は働くことはできないため、働き慣れた派遣先から別の派遣先に移ることを選んだのは、派遣先でも派遣元でもなく、派遣労働者本人の判断だった。

私がみたものは少数派なのかもしれない、そして非正規雇用者としては少数派である派遣労働者の声は、社会に届き難いのかもしれない。しかし、いま現在、価値観は多様化してきており、これまで以上に少数派の価値観も生まれてくることだろう。多様性を許容するということは、少数派の意見や価値観に耳を傾けるということなのではないのか?と私は考えている。少なくとも少数派を既存の多数派に取り込むことではないと思っている。

これからは、少数派の声にもきちんと耳を傾けられる社会になることを願っている。

キャリアリサーチLab研究員 関根 貴広

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