マイナビ キャリアリサーチLab

高年齢者雇用安定法の改正で「生涯現役社会」は現実化するか!?
企業における高年齢者の雇用状況を探る

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

改正高年齢者雇用安定法(高年齢者雇用安定法)が令和3年4月に施行された。同法では、65歳までの雇用確保を義務化し、65歳から70歳までの就業機会を確保するために、70歳まで定年を引き上げたり、定年制を廃止したりするなどの努力義務が新設された。少子高齢化が進むなか、日本経済の活力を維持するためには、働く意欲がある55歳以上の高年齢者の活躍が不可欠となっている。今回は、企業における高年齢者の雇用状況を確認する。

尚、本文に入る前に、基本用語について確認しておきたい。
定年とは、労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度のことで、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律では、65歳までの雇用確保措置が義務付けられている。
役職定年とは、管理職が所定の年齢に達した時に、ラインから外れて役職を離れる制度のことで、組織の活性化、人件費の抑制、ポスト不足の解消などを目的として導入されたケースが多いとされている。
また、継続雇用制度とは、本人が希望すれば定年後も引き続き雇用する制度のことで、再雇用制度などの制度を指す。

定年到達者の90%以上が継続雇用を希望

独立行政法人労働政策研究・研修機構が2020年3月に発表した「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」によると、調査を実施した2019年の時点で、回答した企業の94.7%が定年制を導入しており、極めて多くの企業に定年制が設けられていることがわかる。【図1】

定年制の有無/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図1】定年制の有無/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

また、定年制を設けている企業に対して、定年年齢を尋ねてみると、75.6%の企業が定年年齢を60歳に設定しており、65歳に設定している企業が18.5%、66歳以上に設定している企業は2.0%となっている。【図2】

定年年齢/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図2】定年年齢/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」では、定年年齢を65歳に設定している企業が18.5%あったが、企業規模によって差があるようだ。厚生労働省が2022年12月に発表した「高年齢者雇用状況等報告」では、定年年齢を65歳に設定している企業は全体で22.2%である。「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」の調査結果よりも多くなっているが、内訳を見ると従業員301人以上の大企業が15.3%、従業員21〜300人以下の中小企業では22.8%となっており、中小企業のほうが65歳を定年とする企業が多いことがわかっている。【図3】

65歳 定年企業の状況/令和4年「高年齢者雇用状況等報告」(厚生労働省)
【図3】65歳定年企業の状況/厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」

さらに、定年に到達した正社員のうち継続雇用を希望している社員がどれくらいいるかを調査したところ、「社員全員が継続雇用を希望している」と回答した企業が44.0%で、90〜100%未満の社員が継続雇用を希望していると回答した企業が26.6%であった。つまり回答した企業の4分の3以上で、定年到達者の90%以上が継続雇用を希望していたことがわかっている。【図4】

継続雇用を希望する従業員の割合/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)より
【図4】継続雇用を希望する従業員の割合/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

60歳以上の常用労働者数は、過去10年で約178万人増加

労働者側の継続雇用の希望を受けて、企業側はどのような取り組みを進めているのか 。厚生労働省が2022年12月に発表した「高年齢者雇用状況等報告」をもとに確認する。同報告では、企業規模に関係なく100%近い企業が、なんらかの高年齢者雇用確保措置を講じているとしているが、①定年制の廃止、②定年の引き上げ、③継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)などの措置内容別に見ると、企業規模で違いがある。特に定年制の廃止や定年の引き上げについては従業員301人以上の大企業に比べて、従業員21〜300人以下の中小企業が高い割合を示している。【図5】

雇用確保措置の内訳/令和4年「高年齢者雇用状況等報告」(厚生労働省)
【図5】雇用確保措置の内訳/厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」

さらに、66歳以上の継続雇用制度を導入している企業は、従業員301人以上の大企業では37.1%、21~300人の中小企業では41.0%で、全体では40.7%となっており、取り組みの内訳を見ると、「定年制の廃止」や「希望者全員66歳以上の継続雇用制度」を導入している割合が、大企業より中小企業のほうが高くなっている。【図6】

66歳以上まで働ける制度のある企業の状況/令和4年「高年齢者雇用状況等報告」(厚生労働省)
【図6】66歳以上まで働ける制度のある企業の状況/厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」

「高年齢者雇用状況等報告」では、回答した235,875社の常用労働者総数は約3,480万人で、60歳以上の常用労働者数は約470万人。年齢階級別では、60〜64歳が約254万人、65〜69歳が約128万人、70歳以上が約88万人であったとしている。また、高年齢者雇用確保に向けた企業側のさまざまな取り組みを反映して、従業員31人以上の企業の常用労働者数は、10年前の平成24年の264.2万人と比較すると、令和4年には約178万人増加し、441.7万人になっていると報告している。【図7】

60歳以上の常用労働者の推移(31人以上規模企業)/令和4年「高年齢者雇用状況 等報告」(厚生労働省)
【図7】60歳以上の常用労働者の推移(31人以上規模企業)/厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」

継続雇用者や役職定年者に対してさまざまな配慮

しかしながら、高年齢者の雇用を確保するには、さまざまな課題が存在する。労働政策研究・研修機構の「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」では、60代前半の継続雇用者の仕事内容について、定年前(60歳頃)からどのように変化したかを集計している。これを見ると、全体の44.2%の企業は「定年前とまったく同じ仕事」であったが、38.4%の企業は「定年前と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなる」としており、定年前と一部、あるいはまったく異なる仕事と回答した企業は6.1%であった。【図8】

定年前後の仕事の変化/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図8】定年前後の仕事の変化/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

継続雇用をスムーズに進めるために、企業側はさまざまな配慮をしているようだ。もっとも多くの企業が配慮しているのは「慣れている仕事に継続して配置すること」(72.2%)で、「本人の希望への配慮」(62.0%)が続く。他には、「技能やノウハウの継承が円滑に進むようにすること」(26.6%)や「肉体的に負担の少ない仕事に配置すること」(25.1%)など、約4 分の1の企業が配慮していると回答している。【図9】

継続雇用者の配置における配慮
※「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図9】継続雇用者の配置における配慮/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

「管理職を経験した者の意識改革」は3.1%と多くはないが、役職定年制を導入している企業は、定年を前に役職定年を迎える社員のモチベーションを維持するための配慮も欠かせない。「平成29年民間企業の勤務条件制度等調査」(人事院)によると、役職定年制を導入している企業は、従業員500人以上の企業で約3割あることがわかっている。【図10】

役職定年制の有無別企業数割合/「平成29年民間企業の勤務条件制度等調査」(人事院)
【図10】役職定年制の有無別企業数割合/人事院「平成29年民間企業の勤務条件制度等調査」

役職定年制を導入している割合が、従業員規模が大きい企業のほうが高い傾向は、株式会社マイナビが2022年に実施した「人材ニーズ調査」ではさらに顕著になっている。従業員50〜99人の企業の役職定年制の導入割合は33.2%だが、従業員5000人以上の企業では半数を超える56.5%の企業が役職定年制を導入しているようだ。【図11】

従業員規模別の役職定年年齢内訳
/「人材ニーズ調査/2022年12月調査」(株式会社マイナビ)
【図11】従業員規模別の役職定年年齢内訳/マイナビ「人材ニーズ調査」

労政時報 第4039号」(労務行政研究所)によると、管理職・専門職関連の役職定年制の実施率は、ここ10年は30%前後で推移しており、役職定年の年齢については、部長職が58歳(28.8%)で一番多く、課長職は55歳(35.9%)が最多となっている。【図12】【図13】【図14】

管理職・専門職関連の役職定年制の実施率推移/「労政時報 第4039号」(労務行政研究所)
【図12】管理職・専門職関連の役職定年制の実施率推移/労務行政研究所「労政時報 第4039号」

役職定年の年齢(部長)・役職定年の年齢(課長)/「労政時報 第4039号」(労務行政研究所)
【図13】役職定年の年齢(部長)【図14】役職定年の年齢(課長)/労務行政研究所「労政時報 第4039号」

「生涯現役社会」を実現するための課題

定年を迎える社員の雇用継続をスムーズにするため、あるいはモチベーション維持や意識改革のために、個別面談を実施している企業は多い。面談の目的は、「労働条件(勤務条件、賃金、評価等)を説明するため」(92.6%)が第1位で、「本人の仕事の希望を聞くため」(72.1%)、「従業員との意思疎通のため」(57.2%)、「期待する役割を明確に伝えるため」(48.5%)などが続く。【図15】【図16】

60歳以降の雇用に際しての個別面談等の機会の有無/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図15】60歳以降の雇用に際しての個別面談等の機会の有無/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」
個別面談等の目的/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図16】個別面談等の目的/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

しかしながら、60歳に到達する前の正社員を対象に、セミナーや説明会を実施したり、能力開発の機会を提供したりする企業は非常に少ないようだ。【図17】【図18】

60歳に到達する前の正社員を対象としたセミナー・説明会の実施の有無/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図17】60歳に到達する前の正社員を対象としたセミナー・説明会の実施の有無/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」
60歳到達前の正社員に対する能力開発の実施の有無/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図18】60歳到達前の正社員に対する能力開発の実施の有無/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

高年齢者の雇用を確保するには、さまざまな課題が存在する。労働政策研究・研修機構の「高年齢者の雇用に関する調査」によると、「60代前半の雇用確保における課題」として、「定年後も雇用し続けている従業員の処遇決定が難しい」(22.1%)がもっとも高く、「管理職社員であった者の扱いが難しい」(20.0%)、「若年層が採用できず、年齢構成がいびつになる」(19.6%)、「高年齢社員の仕事を自社内に確保するのが難しい」(12.0%)などが続いている。【図19】

18】60代前半の雇用確保における課題/「高年齢者の雇用に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
【図19】60代前半の雇用確保における課題/独立行政法人労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査」

高年齢者が年齢に関わりなく働き続けることができる「生涯現役社会の実現」に向けて、越えなければならないハードルはまだまだ多いようだ。


著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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