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ワーケーションがもたらす働き方の変革ー調査結果からみる効果と課題を考察ー

吉本隆男
著者
キャリアライター
TAKAO YOSHIMOTO

「ワーケーション」という言葉が一躍注目を集めたのは2020年。政府の観光戦略実行推進会議の議論において、新型コロナウイルス感染症による社会変化を受け、休暇の分散化の重要性が指摘され、「新しい旅行スタイル」としてのワーケーション環境の構築が提案された

しかしながら、ワーケーションはコロナ後の新たな観光戦略として、そして地方創生の切り札として期待されたものの、長引くコロナ禍のなかで一般化が進んだテレワークとは異なり、あまり普及が進んでいないように思われる。

その要因は何なのか、今回はワーケーションの現状を考察する。

テレワークとワーケーションの導入状況を比較

まずは、普及が進んでいるテレワークとワーケーションの導入状況を比較したい。

ワーケーションの定義

観光庁によると、ワーケーションとはWork(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語で、「テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすこと」と定義づけられており、余暇主体と仕事主体の2つのパターンがあるとしている。

さらに、ワーケーションの具体的なスタイルとして、次の4つに分類している。

  1. 福利厚生型=有給休暇を活用してリゾートや観光地等でテレワークを行う
  2. 地域課題解決型=地域関係者との交流を通じて、地域課題の解決策を共に考える
  3. 合宿型=場所を変え、職場のメンバーと議論を交わす
  4. サテライトオフィス型=サテライトオフィスやシェアオフィスでの勤務

テレワークとワーケーションの導入状況

さて、国土交通省観光庁が令和4(2022)年3月に発表した「今年度事業の結果報告」には、ワーケーションの定着に向けた現状と課題の洗い出しを目的としたWeb調査(企業向け、従業員向け)の結果が掲載されている。

このうち、企業向けの調査では、テレワーク導入率は38.0%となっているが、ワーケーションの導入率は5.3%と、非常に低い数値となっている。【図1】

テレワーク導入状況、ワーケーション導入状況/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)
【図1】テレワーク導入状況、ワーケーション導入状況/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)

テレワークとワーケーションの認知と経験の有無

従業員向けの調査においても、テレワーク経験がある社員は33.0%であるのに比較して、ワーケーション経験率は4.2%とその差は非常に大きい。【図2】

テレワークの認知と経験有無、ワーケーションの認知と経験有無/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)
【図2】テレワークの認知と経験有無、ワーケーションの認知と経験有無/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)

ワーケーションを実施したい企業の理由

それでも、リフレッシュ効果や働く場所を問わない合理的な働き方など、ワーケーションに対してさまざまなニーズがあるようで、ワ―ケーションを実施したい理由として、「リフレッシュ効果(36.5%)」がもっとも多く、「働く場所にこだわらない(30.2%)」「働き方改革推進(28.8%)」が続き、「ワークライフバランス推進(28.4%)」といった回答も少なくない。【図3】

ワーケーションを実施したい理由/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)
【図3】ワーケーションを実施したい理由/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)

ワーケーション導入の効果「期待と課題」

次に、ワーケーションの導入とその効果について、導入への期待や課題の視点から見ていこう。

導入への期待

企業側も、ワーケーションの導入についてはさまざまな効果を期待しているようだ。

観光庁が令和3(2021)年3月に発表した「『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書」によると、「心身のリフレッシュによる仕事の品質と効率の向上(88.9%)」「多様な働き環境の提供(88.9%)」のほかに、「優秀な人材の雇用確保(55.6%)」や「優秀な新卒社員や若手社員の採用および定着率の向上(33.3%)」など、人材の採用や定着についても期待していることがわかる。【図4】

ワーケーション導入の目的および期待する効果/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書
【図4】ワーケーション導入の目的および期待する効果/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書

導入の現状と課題

しかしながら、企業向けの調査で導入率が5.3%、従業員側の調査で経験率が4.2%と、普及にはほど遠い結果となっているのは、導入に際してさまざまな課題が存在することが考えられる。

ワーケーション導入に関する課題を聞いた設問では、「業務としてワーケーションが向いていない(61.7%)」「『ワーク』と『休暇』の区別が難しい(43.2%)」 「運用できる部署や従業員が限定的になり、社内で不公平感が生じる(42.1%)」といった回答のほかに、「情報漏洩の可能性がある(33.5%)」といった情報セキュリティに対する懸念、「労災適用の判断が難しい(33.1%)」「社員の勤怠管理およびそれに伴う給与計算が難しい(27.4%)」といった労務管理上の課題を指摘する回答もある。

また、「ワーケーションにあまりメリットを感じない(35.7%)」「導入後の評価や効果の可視化が難しい(23.3%)」など、ワーケーションの効果を疑う回答も寄せられている。【図5】

ワーケーション導入の課題/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書
【図5】ワーケーション導入の課題/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書

導入支援

では、これからの課題を克服するためには何が必要か。

同調査では、ワーケーション導入にあたり必要と思われる情報や支援についても調査しており、「労災、通勤災害、企業の安全配慮義務等に関する解釈の明確化またはガイドラインの策定(77.8%)」「導入している他企業の成功事例等の情報提供(66.7%)」「導入の際に整備が必要な社内規定やガイドラインのひな形(66.7%)」など、労務管理上の懸念を払しょくできる情報やワーケーションの効果を確信できるエビデンスの共有、導入を支援する具体的なノウハウの提供など、さまざまなサポートが期待されている。【図6】

ワーケーション導入にあたり必要と思われる情報や支援/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書
【図6】ワーケーション導入にあたり必要と思われる情報や支援/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書

ワーケーション導入は従業員の意識改革が必要

次に、従業員の意識という視点から導入へのヒントを探ってみよう。

従業員の認識

また、ワーケーションの普及にあたっては、従業員側の意識にも課題があるようで、前出の「『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書」によると、ワーケーションに対する従業員側の興味関心について、「非常に興味がある」の9.0%と、「興味がある」の19.2%を合計しても30%弱という結果になっていることから、ワーケーションに対する従業員側の期待値があまり大きくないのがわかる。【図7】

ワーケーションに対する興味関心/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書
【図7】ワーケーションに対する興味関心/観光庁『新たな旅のスタイル』に関する実態調査報告書

従業員側はなぜワーケーションに期待を寄せていないのか、観光庁の「今年度事業の結果報告」によると、「テレワークができない仕事だから(54.2% )」「テレワークはできるが勤務時間に制約がある仕事だから(16.3%)」など、業務内容がテレワークやワーケーションに向かないケースが多いようだ。

また、「休暇中や旅行中に仕事をしたくないから(34.2%)」といったワークとバケーションを組み合わせてしまうことに対する疑問や「旅行先で仕事をしても質が落ちそうだから(14.4%)」「旅行先で仕事をしても効率が落ちそうだから(12.2%)」など、ワーケーションの業務効率を心配する回答も寄せられている。【図8】

ワーケーションに興味がない理由/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)
【図8】ワーケーションに興味がない理由/観光庁「今年度事業の結果報告」(令和4年3月17日)

知識の浸透が導入への鍵に

一方で、 ワーケーションに関する知識の有無によってワーケーションに対する印象が異なるようで、NTTデータ経営研究所・NTTコム リサーチの共同研究で2021年12月に発表した「地方移住とワーケーションに関する意識調査」によると、ワーケーションの知識がある人はワーケーションに関してポジティブな印象を持ち、「ワーケーションは遊びである」等のネガティブな印象がより低いことが示されている。

つまり、ワーケーションに関する正しい知識を提供することで、ワーケーションに関する偏った印象を払拭できる可能性があるようだ。【図9】

ワーケーションに対する印象/NTTデータ経営研究所・NTTコム リサーチ「地方移住とワーケーションに関する意識調査」
【図9】ワーケーションに対する印象/NTTデータ経営研究所・NTTコム リサーチ「地方移住とワーケーションに関する意識調査

ワーケーション導入からみるさまざな効果と展望

最後にワーケーションの導入における効果と展望について見ていこう。

ワーケーション導入後の効果

実際に、ワーケーションを経験した人はそれなりの手応えを感じているようだ。

マーケティングリサーチ会社のクロス・マーケティングと山梨大学が共同で調査した「ワーケーションに関する調査(2021年3月)」によると「リフレッシュできた(35.2%)」「リラックスできた(31.3%)」「仕事に集中でき成果があげられた(16.7%)」「これまでと異なる環境で新たなアイディアや企画が生まれた(13.5%)」など、業務効率や生産性向上につながったことを感じさせる回答も少なくない。

また、数値としては高くはないものの「地域や施設の人たちとの交流やコミュニケーションができた(11.0%)」「地域への貢献ができた(9.1%)」など、地域課題解決につながったという回答も寄せられている。【図10】

ワーケーション実施効果/クロス・マーケティング、山梨大学「ワーケーションに関する調査」
【図10】ワーケーション実施効果/クロス・マーケティング、山梨大学「ワーケーションに関する調査

ワーケーション導入への展望

実際に、キャリアリサーチLabの栗田所長が体験したワーケーションでも、リフレッシュしながら業務を行うことができ、新たなアイディア出しもできたようだ。

コロナ禍が長引き、引き続き感染リスクのない安全な環境で仕事をしたいというニーズは根強いものがあるに違いない。また、テレワークを経験し、会社以外の場所で仕事ができることの可能性を実感している人も非常に多いはずだ。

地方移住への関心も高まっているようで、総務省が実施した「令和3年度における移住相談に関する調査結果」によると、各都道府県および市町村の移住相談窓口等において受け付けた相談件数は、調査を開始した平成27年度以降、最多の件数となっているという。

今後もコロナ禍を契機に、働き方や暮らし方を見直す人はこれからも増加していくものと思われる。そのスタイルのうちのひとつとしてワーケーションへの関心も今後高まっていくことは予想されるが、企業側の環境整備、従業員側の意識改革など、まだまだ乗り越えるべき課題は多く、当面は試行錯誤が続くのではないだろうか。


著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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