採用の春 AI活用で企業負担軽減~マンパワー不足解消のヒント~

宮本祥太
著者
キャリアリサーチLab研究員
SHOUTA MIYAMOTO

はじめに

春は採用活動の季節。新卒採用では新入社員の受け入れと来春の採用に向けた広報の真っただ中にあり、転職市場が活発になるタイミングも重なる。アルバイト従業員の入れ替わりも多い。広く採用に関わる人事担当者にとっては猫の手も借りたい時期に違いない。

専任者不在やマンパワー不足の課題がある人事採用の現場では、徐々にAI活用の波が広がる。デジタルが人手に代わっているというわけだ。情報化がますます進む今の社会。企業はどのように採用慣行にAIを組み入れ、それによってどれほど人手不足を補っているのか。企業の採用シーンにおけるAI利用実態から、今後の活用のヒントを探る。

マンパワー不足とAI代替

採用の現場に担当者不足の課題はつきもの。マイナビの「2025年卒企業新卒内定状況調査」では、約5社に1社は新卒採用担当が「1人」と回答。「2人以下」の割合は6割に迫る勢いだ。【図1】

【図1】新卒採用担当部署の人数/「マイナビ2025年卒企業新卒内定状況調査 ※回答者:新卒採用実績のある企業の採用担当者
【図1】新卒採用担当部署の人数/「マイナビ2025年卒企業新卒内定状況調査 ※回答者:新卒採用実績のある企業の採用担当者

企業人材ニーズ調査2024年版」でも採用業務の負担感が透ける。正社員採用担当者に聞いた自社の採用課題の結果では、「応募が集まらない」など候補者群形成に関する苦悩が顕著だが、「専任の採用担当がいない」「採用担当者が足りない」という課題も重荷の様子だ。【図2】

【図2】自社の採用課題/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:正社員(新卒・中途)採用担当者
【図2】自社の採用課題/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:正社員(新卒・中途)採用担当者

担当者不足の改善に期待されるのがAIの活用だろう。デジタル庁が2024年6月に策定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」ではAIに関する取り組みを柱の一つとし、人手不足解消の手段として企業経営に関わる幅広い分野でのAI活用が推進されている。

AI利用率と利用フェーズ

労働・雇用の現場でもAI活用の波は広がりつつある。「企業人材ニーズ調査2024年版」で、人手不足解消や生産性向上を目的に採用活動にAIを取り入れているか聞いたところ、新卒採用担当者の約5割、中途採用担当者の約4割がAIを取り入れているとした。【図3】

【図3】人手不足解消や生産性向上を目的に採用活動にAIを取り入れているか/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:新卒採用担当者、中途採用担当者
【図3】人手不足解消や生産性向上を目的に採用活動にAIを取り入れているか/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:新卒採用担当者、中途採用担当者

採用活動は募集・選抜・定着の3つのフェーズに分けることができる。同調査では、採用活動にAIを取り入れているとした企業の採用担当者に、どのフェーズでAIを活用したかも合わせて聞いている。結果は「採用要件・ターゲット設定」が、新卒採用担当者・中途採用担当者とも特に高い。採用活動の初期フェーズの方が、よりAIが活用されている割合が高い傾向にある。【図4】

【図4】各採用フェーズでAIを取り入れている割合(採用活動のどのフェーズでAIを取り入れているか)/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:採用活動にAIを取り入れているとした新卒採用担当者、中途採用担当者
【図4】各採用フェーズでAIを取り入れている割合(採用活動のどのフェーズでAIを取り入れているか)/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:採用活動にAIを取り入れているとした新卒採用担当者、中途採用担当者

AI活用のメリット

「採用要件・ターゲット設定」にAIを活用するメリットの一つは、従業員の性格・マインドなどの個人特性の傾向を探ったり、自社の現在の経営課題に対して必要となるスキル・専門性を洗い出したりできるところだ。必要な情報を多面的に集め、瞬時に要点をまとめ、優先順位まで検討してくれる。

そもそも、自社が求める人材像が明確化・可視化されておらず、それが採用活動に関わる人同士で共有されていなければ、自社にマッチした候補者を効果的に集めたり評価したりすることができず、良い採用成果をあげることは難しい。

その点、採用の出発点とも言える「採用要件・ターゲット設定」に、客観的・網羅的な情報集約というAIの機能が加わることで、求める人材像がより明確になり、募集の手法や選抜の仕方などその後の採用活動の方向性が定まることに繋がり得る。また、人だけでは気が付かなかった潜在的な自社の採用ニーズが見つかる可能性もあり、AIが採用業務の「精緻化」の一助となることが期待できる。

負担軽減の割合

AIを活用することで、どれくらい(何割)業務負担が軽減したと感じているかを採用フェーズごとに聞いた結果が【図5】だ。

【図5】AIを採用活動に取り入れたことで、どれくらい採用業務の負担が軽減できたと感じるか/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:採用活動にAIを取り入れているとした新卒採用担当者、中途採用担当者 ※平均値は選択肢を数値化(0割→0、1割→1)として算出
【図5】AIを採用活動に取り入れたことで、どれくらい採用業務の負担が軽減できたと感じるか/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:採用活動にAIを取り入れているとした新卒採用担当者、中途採用担当者 ※平均値は選択肢を数値化(0割→0、1割→1)として算出

新卒採用担当者・中途採用担当者ともに、どのフェーズも3割がボリュームゾーン。負担軽減率の平均はどの段階も4割前後で、AIが、人による仕事の補完的な役割を果たしている様子がうかがえた。

次の【図6】は利用率と負担軽減率をプロットした結果である。傾向としては、応募者への個別的な対応件数が多くなる「適性検査」「書類選考」「面接」の選抜フェーズで特に新卒・中途ともに負担軽減率が高い。

【図6】AI利用率とAI活用による負担軽減率の散布図/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:採用活動にAIを取り入れているとした新卒採用担当者、中途採用担当者
【図6】AI利用率とAI活用による負担軽減率の散布図/企業人材ニーズ調査2024年版 ※回答者:採用活動にAIを取り入れているとした新卒採用担当者、中途採用担当者

一般的に、企業規模が大きいほど採用数が多くなり、選抜対象者も必然的に多くなる。中には一度で数百人~数千人を募る会社もあり、一人ひとりの応募書類や試験結果を精査するとなれば多くの時間を費やす。工数が多い選抜フェーズでは特に、採用業務の「省力化」にAIが一役買っていると考えられる。

採用者の質への影響

また調査では、採用活動にAIを取り入れることで、採用者の質にどのような影響があったか、プラス面・マイナス面を含めてたずねている。その結果について分析ツールを使ってテキスト分析し、特徴を探った。

頻出したワードは「客観性」「俯瞰」「公平」。これらに関連して、私情を挟まず標準的に評価ができるところに利点を感じるなどの意見も多く見られた。

反対に「特殊な人を取り逃がす」「人柄を見なくなった」「個々の人物に適した対応ができない」などマイナスの側面も見えてきた。候補者特有のマインド面の特徴を個別に判断することが難しく、同質的になりやすいという課題が感じられる。「機械的」「人間味がなくなった」などの声もあった。

プラス的な意見

  • 客観性が生まれた(従業員1,000人以上/積極的に取り入れている)
  • 私情の排除(従業員1,000人以上/積極的に取り入れている)
  • 公平な判断が容易にでき正確な採用につながると期待ができるから(従業員300~999人/取り入れている)
  • 均一な俯瞰的視点評価ができる(従業員1,000人以上/積極的に取り入れている)
  • ミスマッチが起こりにくくて良いと思います(従業員300人未満/取り入れている)
  • より定量的な分析ができる(従業員300~999人/取り入れている)

マイナス的な意見

  • 人間性がどんな人か分からない(300人未満/取り入れている)
  • AIに頼りすぎ、人柄などを見なくなった(従業員1,000人以上/取り入れている)
  • 機械的になってしまうこと(従業員300~999人/積極的に取り入れている)
  • 全体的に偏った(300人未満/積極的に取り入れている)
  • 人間味が薄くなった従業員(1,000人以上/取り入れている)
  • 本当に採用すべき人間なのかAIだとやや不安が残る(従業員1,000人以上/取り入れている)

プラス・マイナス両方の意見

  • 見抜けなかった採用者の取りこぼしが減った。逆に特殊な人を取り逃がしている可能性がある(従業員1,000人以上/積極的に取り入れている)
  • 評価が公平に行えるのがプラス面。 言葉の意味や表情が分かりにくいのがマイナス面(従業員1,000人以上/積極的に取り入れている)
  • 本質を見抜く面接官がいなくなるのがマイナス。手間が省けるのはプラス(300人未満/取り入れている)
  • 公平感は、増えたが、実際にはインパクトのない人材が多い(従業員1,000人以上/積極的に取り入れている)
  • ジョブマッチしやすいとはいえマッチしない人もたくさん引っかかる(従業員1,000人以上/積極的に取り入れている)
  • プラス面では客観的に人物評価できる。 マイナス面では個々の人物に適した対応ができない(従業員300~999人/取り入れて

求職側から見たAI活用

視点を変えて、採用選考で「AIを使われる」ことが求職側にどう映っているのかを考える。

マイナビの「2024年9月度 中途採用・転職活動の定点調査」では、転職者・転職希望者の正社員に対して、企業が採用活動でAIを使うことは応募/入社意欲にどう影響するか聞いている。最も多かった回答は「変わらない(54.5%)」、次いで「応募/入社意欲が高まる(37.0%)」となり、「応募/入社意欲が下がる」は8.5%と少数派だった。転職者・転職希望者には抵抗感が薄い印象だ。

「応募/入社意欲が高まる」割合を年代別に見ると、20代の53.8%が最も高く、30代(44.8%)、40代(29.9%)と続いた。年代が低いほど「企業が採用活動でAIを使うこと」をポジティブに捉えていることが分かる。【図7】

【図7】企業が採用活動でAIを使うことは応募・入社意欲にどう影響するか/2024年9月度 中途採用・転職活動の定点調査 ※回答者:2024年9月に転職活動を行った・または今後3カ月以内に転職活動を実施する予定の正社員
【図7】企業が採用活動でAIを使うことは応募・入社意欲にどう影響するか/2024年9月度 中途採用・転職活動の定点調査 ※回答者:2024年9月に転職活動を行った・または今後3カ月以内に転職活動を実施する予定の正社員

一方で、学生に目を向けると少し様相が異なる。2026年3月卒業見込みの全国の大学3年生、大学院1年生を対象に実施した「マイナビ2026年卒 大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月)」で、面接 にAIを導入することに対しての印象を聞いたところ、「AIがどのように回答内容を評価しているのかについて、疑問を持つ」が48.3%で最も多い。【図8】

【図8】面接にAIを導入することに対してどのような印象を持つか/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) ※回答者:2026年3月卒業見込みの全国の大学3年生、大学院1年生
【図8】面接にAIを導入することに対してどのような印象を持つか/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(1月) ※回答者:2026年3月卒業見込みの全国の大学3年生、大学院1年生

職業経験があり経験値・スキル値を定量的に測りやすい転職者(中途採用者)とは違って、学生の選考では非認知能力などの可視化しにくい特性が重視されることも少なくない。そんな学生の立場で考えると、人同士の直接的なやりとりを重ねる面接の過程で「私」を伝えたいと思う人も多いのではないか。

無論、採用における評価は企業独自に定められるもので、それ自体や評価手法が妥当かについては外部から干渉されるべき性質のものでない。だが、人の言葉と言葉による相互的コミュニケーションがこれまで当たり前とされてきた面接のシーンでは特に、非リアルのAIが用いられることへの抵抗感は大きいのだろう。「正しく評価されているのか」という不安や疑念を感じる学生も多いことは企業側も留意する必要がある。

AIでなく人による対面型面接の場合も同じだが、面接を通過した人に対しては、その人のどのような特徴・個性を、どのような観点で評価したのか、直接的に丁寧にフィードバックすることが欠かせない。

結び

採用活動へのAI活用の有用性を見てきたが、活用のメリットは大きく、採用活動に客観性や公平性を加えることができる点で有効だろう。部分的な活用であっても省力化の効果を実感できそうだ。

ただ、活用にあたってはバランスが重要だ。機械的になりすぎては味気ないし、明文化されていない組織文化との相性や仕事成果をあげるために求められる潜在的なマインドセットのようなものは、その組織で活躍している人材や、人事に長く携わった人のフィルターを通すことでしか判断できないものも多くあると思う。

案外それが、知識や経験値よりも、企業で息長く活躍するための重要な要素だったりもする。その意味で、どの採用フェーズにおいても最終的なチェックとジャッジは「人」が行うことが良いだろう。補完的にAIを取り入れるという選択肢だ。

まだAIを活用していない企業があれば、まずは採用フェーズ初期の「ベースをつくる」際に利用してみるのはどうだろうか。情報を集め、傾向を探り、分類する。このような使途で、求める人材像を見直したりブラッシュアップしたりすることで、採用活動に一貫性が生まれ不用意なミスマッチを抑えることにも繋がる。

このベースをつくる作業自体は、採用・人事に特化したものに限らず、汎用的なAIツールでも行うことができるだろう。手始めのハードルも高くない。せわしい採用の春。マンパワー不足解消の一手にAIの手を借りてみては。

マイナビキャリアリサーチLab研究員 宮本 祥太

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