
採用のミスマッチを防ぐリファレンスチェック~実施状況や求職者の印象は?~
近年、早期離職が話題となるなど、採用市場で大きな課題となっているのが、自社とマッチングし、採用後に定着する社員を採用することだ。
そんな中、中途採用において「リファレンスチェック」という手法が注目されている。今回はこのリファレンスチェックについて、実施状況や転職者がリファレンスチェックに対して抱く印象などのデータを見ていく。
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リファレンスチェックとは
リファレンスチェックとは、企業が中途採用の過程で、採用予定者や内定候補者の前職での勤務状況や人物などについて関係者にヒアリングすることである。業務経験や人となりを客観的な情報から確かめることによって、配属先の業務やメンバーとのマッチングの精度向上を狙うものだ。
リファレンスチェックの現状
企業の実施状況
2023年の調査によると、リファレンスチェックを実施している企業は36.6%だった。実施していないが今後検討したい企業(36.6%)も合わせると73.2%となり、多くの企業がリファレンスチェックを導入・検討していることがわかる。【図1】

/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
従業員規模別に見ると、従業員規模が大きいほどリファレンスチェックの実施率が高く、301名以上の企業では56.5%となっており、「実施していないが、今後検討したい」も含めると89.6%と非常に関心が高いことがわかる。【図2】

従業員規模が大きいと、中途採用する社員の人数も多いと考えられることから、採用業務の効率化を考える企業で実施・導入検討がより進んでいると推察される。
求職者がリファレンスチェックを受けている割合
2024年4月付近で転職活動の選考を受けた人*1に、リファレンスチェックの経験を聞いたところ、リファレンスチェックを受けたことがある人は31.5%だった。調査対象者の「約3人に1人」がリファレンスチェックを経験していることがわかる。【図3】

/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
*1:調査(2024年4月)時点の前月転職活動を行った人、今後3か月で転職活動を行う予定の人、直近3か月に中途入社した20~50代の正社員のうち、中途採用の選考を受けたことがある人
また、リファレンスチェックの回答者(他の人の転職の際に、リファレンスチェックで経歴について確認される対象)になった経験について見ると、直近で転職した人や転職活動の予定がある人のうち21.3%が「回答者として推薦されたことがある」と回答した。【図4】

現在の転職市場において、リファレンスチェックを実際に受けたり、回答者として推薦されたりしている人が少なくない割合で存在していることがわかる。
リファレンスチェックが注目される背景
ではなぜ、リファレンスチェックの関心がそれほど高まり、実施されているのか。その背景について見ていく。
近年課題となっている早期離職
リファレンスチェックが注目されている背景の一つに、早期離職の問題がある。実際に、20~50代の正社員の中で、入社後半年以内に退職した経験がある人の割合は全体で9.1%、20代では11.0%となっている。【図5】

早期離職の理由を見ると、「職場の雰囲気が良くなかった/自分に合わなかった(44.4%)」「上司/同僚などの職場の人間関係が合わなかった(33.4%)」が上位になっており、職場の雰囲気などとのミスマッチが原因となっているケースが多いことがわかる。【図6】

このようなミスマッチから早期に退職してしまうことを防ぐため、求職者の人となりや現在までの仕事への取り組み方などを深く理解し、採用可否や、より適した配属先の検討材料にしていると考えられる。早期離職の現状の詳細については、離職理由を年代別に見ているコラムも合わせてご覧いただきたい。
リファレンスチェックの効果と影響
リファレンスチェックを導入している企業が多いことがわかったが、リファレンスチェックの実施によって実際にどのような変化があるのだろうか。企業が感じているリファレンスチェックの効果と、リファレンスチェックについて求職者がどう感じているのかに関する調査結果を見ていく。
リファレンスチェックによる企業への効果
リファレンスチェックを実施している企業の採用担当者に、リファレンスチェックが役に立っているか聞いたところ、(非常に+やや)役立っていると回答した企業は96.8%と、ほとんどの企業が効果を実感していることがわかる。【図7】

リファレンスチェックは採用活動に役立っているか/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
具体的にどのような効果があったのかを見ると、「ミスマッチによる早期離職防止」が63.1%で最多となっている。第三者の話を聞くことによってもっとも効果を感じやすそうな「客観的、公正な選考評価(55.4%)」や「応募者の虚偽を見抜く(50.3%)」を上回った。
早期離職を防ぐ意図でリファレンスチェックを導入している企業が多かったが、実際にその効果を実感している企業が多いことがわかる。【図8】

/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
また、「入社後の早期活躍の支援」も47.1%で半数近くの企業が効果を実感している。リファレンスチェックによって企業と求職者とのマッチングが確認できていることが、離職防止と活躍につながっていると考えられる。
リファレンスチェックによる転職者へのプラスの印象
一方で、転職活動をしている人に対しては、リファレンスチェックはどのような印象を与えているのだろうか。希望する企業の選考にリファレンスチェックがあった場合どのように感じるか聞いたところ、「応募意欲が高まる」と回答した人は39.0%で、「応募意欲が下がる」人よりも多かった。

/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
応募意欲が高まる理由を聞くと、もっとも多いのは「入社後のミスマッチが減りそうだから(51.6%)」で、年齢別に見ると20代が61.4%と特に割合が高かった。求職者にとってもミスマッチは気になる点であり、リファレンスチェックによって、客観的に適性を確認してほしいという思いが見てとれる。【図10】

/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
また、「自分ではアピールできなかった点を補足して貰える可能性があるから(48.0%)」や「より公正で客観的な視点で評価される可能性があるから(47.7%)」なども半数近い割合となっており、第三者からの意見を志望企業に伝えられることにメリットを感じているようだ。
このような点などから、特に若い年代の求職者においてリファレンスチェックがあることが好意的に受け取られていることがわかる。
リファレンスチェックの課題と懸念
リファレンスチェックについて、導入している企業と求職者の双方が良い印象を持っているようだが、【図1】を見ると導入の検討予定がない企業が21.9%となっており、課題もあるようだ。そこで最後に、リファレンスチェックにおける企業の導入課題や転職者が抱く懸念についても検討していく。
企業のリファレンスチェック導入における課題
企業の導入課題について見てみると、企業がリファレンスチェックを実施しておらず今後も検討しない理由で最多だったのは「コストをかけられないから」で37.8%だった。
リファレンスチェックは企業が直接実施する以外にも、リファレンスチェックのサービスを実施している企業に外注する方法もあるが、その場合は費用が発生するため、ハードルを感じているようだ。【図11】

/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
また、「リファレンスチェック自体を知らないから」が23.4%で3位となっている。この点についてはリファレンスチェックの認知が広まっていくことで、導入の検討が進む可能性がありそうだ。
さらに、「応募者に不信感を与えそうだから(21.3%)」や「応募者が減少、選考辞退する懸念があるから(16.0%)」と回答した企業も一定数いたが、前述の通り、リファレンスチェックが実施された際に応募意欲が下がる求職者よりも応募意欲が上がる求職者の方が多いことがわかっている。
応募意欲が下がる求職者も一定数存在しているが、実施の仕方や求職者への伝え方次第でそういった懸念が解消される可能性もあるので、この点のみが導入検討のネックなのであれば、導入を検討しても良いのではないだろうか。
リファレンスチェックによる転職者へのマイナスの印象
実際に、リファレンスチェックによって求職者がマイナスの印象を抱く場合はどのようなものなのか見てみる。選考でリファレンスチェックがあった場合、応募意欲が下がると回答した求職者にその理由を聞くと、「転職活動していることを会社に知られたくないから(55.3%)」が最多だった。【図12】

/2024年3月度中途採用・転職活動の定点調査
求職者のこの懸念について、まず、リファレンスチェックは企業が求職者の同意なくして実施されることは違法性が高いとされることから、同意書などの形で求職者の同意を確認した上で実施される。自身の了承なく、知らないところでリファレンスチェックが実施されて現職に知られることは考えにくい。
また、転職活動していることを知られたくない場合は、前述の同意確認の際などに「現職に転職活動していることを伝えていない」ことを説明し、前職へのリファレンスチェックや、転職活動していることを知っている上司や同僚を自身で紹介する形で実施できないかなど相談することも一つの手段と考えられる。
「自身を信用されていない気がするから」が42.7%で2位となっているが、先に述べた通り、企業がリファレンスチェックの効果を実感するのは求職者の経歴の虚偽を見つけるなどのことではなく、ミスマッチによる早期離職防止であり、リファレンスチェックを実施する意図もその点にあると考えられる。求職者の不安を解消するためにも正しい認識を広めていくことが必要と言えそうだ。
まとめ
今回はリファレンスチェックの実施状況やその効果などについて見てきた。リファレンスチェックを実施している企業はこの記事の公開時点で3割以上で、そのほとんどが効果を実感しており、また、検討中の企業が同程度いることを考えると今後ますます広まっていきそうだ。
リファレンスチェックに対して後ろ向きな企業や求職者が一定数いることもわかったが、懸念を見ると、「求職者に不信感を持たれそう」「現在の職場に転職活動していることを知られそう」「企業に信用されていない気がする」といった点ではリファレンスチェックについての誤認や杞憂もあるように思われる。
求職者について第三者に照合する、というと一見経歴書の事実確認のように見えるかもしれないが、本来はより深く求職者を理解し、企業と求職者のマッチングを確認するための手段である。ただ、リファレンスチェックを正しく理解していても、第三者から自身の情報が伝わることに不安を覚える求職者はいるだろう。
企業がリファレンスチェックを実施する場合は、同意を取る際などにその狙いが正しく伝わるように説明することや、その結果どのような点がマッチングしていると感じたかフィードバックするなど、求職者にとっても有用な取り組みであると感じられるような工夫があると良いのではないだろうか。
人材不足が加速していく中、企業と求職者の双方にとってより良い採用活動の手段の一つとして理解が広まっていくことを期待したい。
キャリアリサーチLab編集部 沖本麻佑