マイナビ キャリアリサーチLab

非正規社員のテクノロジーによる技術的失業のリスクとリスキリングの必要性

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

本コラムはジェンダーギャップ指数の発表を受けて、特に経済分野に焦点をあてて課題と解決策について講演「ジェンダーギャップ指数とは?日本の現状と改善に向けたポイントを紐解く」の内容を紹介するものである。第2回では、研究員 三輪希実 が「非正規社員のテクノロジーによる技術的失業のリスクと対策とは」と題して解説した内容を基にする。

ジェンダーギャップ指数を改善するためには、第1回のコラムで述べたように、特に経済分野において「女性の管理職比率の向上」や「賃金格差の是正」が求められている。そのため、ジェンダーギャップ指数の改善という前提で、非正規社員について述べるのであれば、女性をいかに(非正規社員から)正規社員化するか、あるいは正規社員の女性を非正規化しないためにどうすればよいかという対策が求められるだろう。

しかし、本解説では、まさに今、非正規社員で働いている人が直面するリスクに焦点をあて、ジェンダーギャップ指数の要素の一つである「労働参加率」を今以上に低下させないことも大切であると考え、このテーマとなった。

非正規社員の現状と課題

まず、非正規社員の現状を整理する。「労働力調査(厚生労働省)」によると、2023年年平均で正規社員は3,615万人で前年から18万人増加、非正規社員については2,124万人と23万人増加だった。また、非正規社員について男女別にみると、男性は683万人、女性は1,441万人であり、女性は男性の2倍以上となっている。また、その雇用形態ではアルバイト・パートが多い。

こうした状況のなか、マイナビが実施した調査で「アルバイトの仕事が将来的にシステムやAI・ロボットなどのテクノロジーに代替されると思う割合」を企業の人事担当者に聞いたところ、全体では70.9%の企業が「代替されると思う」と回答していた。

(引用元:マイナビ非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月

仕事がテクノロジーに代替されるリスク

次に、雇用形態にかかわらず、現在の仕事全般がテクノロジーに代替された場合に想定される施策を企業に聞いたところ、「非正規社員の削減」が29.4%ともっとも高くなり、次いで「正社員の労働時間の短縮(27.2%)」「正社員の削減(26.6%)」となった。また、DX・AIの推進により、人員計画の見直しを行う企業が多いことから、雇用形態にかかわらず技術的失業が起こる可能性がうかがえる結果となった。

テクノロジーの導入が人手不足の解消につながる一方で、人間の雇用が失われる「技術的失業」のリスクが高まり、特に非正規社員への影響が大きいと予想され、非正規社員においてもビジネスモデルや雇用環境の変化に対応して、成長分野である職種や異なる仕事に適応するスキルの習得・アップデートを行う学び直し(リスキリング)が求められると言える。

学び直し(リスキリング)の浸透の課題

次に、「今後、社員の仕事がテクノロジーに代替された場合に、必要になるスキルがあるか」については、マイナビが実施した調査によると、非正規社員に対して「必要になるスキルがある」と答えた企業は50.8%で、正規社員に対しては60.6%だった。

また、非正規社員・正規社員ともに必要になるスキルは、「新しいデジタルツールの活用スキル」がもっとも多く、次いで「AIを用いたデータ分析スキル」「ビジネス課題を設定・解決するスキル」だった。テクノロジーに仕事を代替された場合に企業が従業員に求めるスキルには雇用形態による差はなく、デジタルスキルを求める企業が多いことがわかる。

さらに、対象となる雇用形態について聞いたところ、「雇用形態にかかわらず全従業員に実施している」と回答したのは30.4%だった。そこに、「非正規社員のみに実施している(13.0%)」を足すと合計43.4%となり、従業員に対してリスキリングを実施している企業のうち、非正規社員にリスキリングを実施している企業は半数以下であることがわかった。

一方、正規社員については、「正規社員のみに実施している(56.7%)」となっており、「雇用形態に関わらずかかわらず全従業員に実施している(30.4%)」とあわせると87.1%がリスキリングを実施している。

つまり、非正規社員と正規社員では能力開発の機会の量に差があると考えられる。

  • 非正規社員へのリスキリング・計 43.4%
    (「雇用形態に関わらず(30.4%)+非正規社員のみ(13.0%))
  • 正規社員へのリスキリング・計 87.1%
    (「雇用形態に関わらず(30.4%)+正規社員のみ(56.7%)」
講演資料より抜粋
(引用元:マイナビ非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月))
【図2】講演資料より抜粋
(引用元:マイナビ非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年11-12月)

※なお、ここまでの内容は「非正規社員の「技術的失業」の課題とリスキリング(学び直し)実態を探る」(三輪研究員のコラム)でも詳しく説明している。

主婦アルバイト就業者の学び直し(リスキリング)の状況

ここまで企業のリスキリングへの対応状況についてみてきたが、ここからは非正規雇用社員の学び直しの状況について確認する。なお、前段で見たように、非正規社員は女性が多く、雇用形態ではアルバイト・パートとして働いている人が多いことから、「主婦でアルバイトとして働いている人」の学び直しの状況に注目する。

マイナビが実施した調査によると、主婦のアルバイト就業者で「学び直しの必要性を感じている」割合は53.2%と過半数の人が必要性を感じていることがわかったが、一方で、実際に「取り組んでいる」割合はわずか18.1%となった。

講演資料より抜粋(引用元:マイナビ主婦のアルバイト調査(2024年))
【図3】講演資料より抜粋
(引用元:マイナビ主婦のアルバイト調査(2024年)

このギャップを生んでいる壁は何なのだろうか。そこで、学び直しの必要性を感じているが、取り組めていない人に、「取り組めていない理由」を聞いたところ、「家事・育児が忙しく、時間が確保できないため」が37.9%ともっとも高く、次いで「負担する費用が重いため」が31.1%となった。

講演資料より抜粋(引用元:マイナビ主婦のアルバイト調査(2024年))
【図4】講演資料より抜粋
(引用元:マイナビ主婦のアルバイト調査(2024年)

まとめ

これまでの内容をまとめると以下のようになる。

  • 非正規雇用労働者の内訳
    ⇒男性より女性で多く、雇用形態ではアルバイト・パートが多い
  • 仕事がテクノロジーに代替されるリスク
    ⇒アルバイトの仕事がテクノロジーに代替されると思う企業は7割
    4社に1社以上の企業で非正規社員の技術的失業の可能性
  • 学び直し(リスキリング)の浸透の課題
    ⇒非正規社員にリスキリングを実施している企業は半数以下 
    主婦の学び直しの壁は「家事・育児の忙しさ」
  • 今後の企業や政府の対応として求められること
    ⇒非正規社員にもリスキリングを実施、学び直しの費用の軽減
    女性の家事・育児の負担軽減や仕事と両立可能な職場環境の整備
    労働環境や求められるスキルについて将来的な見通しを働き手に提示

最後に三輪は下記のようなメッセージで講演を締めくくった。

「女性の労働参加率を保つためには、喫緊では職を失わせない、という対策として、個人での学び直しや企業でのリスキリングが必要であると考えられますが、学び直しの浸透の課題としては、非正規社員にリスキリングを実施している企業が半数以下と少ないことや、『家事・育児の忙しさ』が主婦の学び直しの壁となっていることが挙げられます。

そのため、今後の企業や政府の対応として、非正規社員にもリスキリングを実施することや個人の学び直しの費用の軽減、加えて女性の家事・育児の負担軽減や仕事と両立可能な職場環境の整備、労働環境や求められるスキルについて将来的な見通しを働き手に提示していくことなどが求められると考えられます。学び直しを個人に任せるのではなく、政府や企業も一丸(いちがん)となって、取り組むことが必要ではないでしょうか。」

マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷 こずえ

三輪希実
登場人物
キャリアリサーチLab研究員
三輪希実
NOZOMI MIWA

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