「ワークライフ・インテグレーション」とは?ワーク・ライフ・バランスの枠を超えて、人生の充実を目指そう!
多様な働き方ができるようになってきた近年。この流れに合わせて、仕事(ワーク)と私生活(ライフ)のとらえ方も多様化されていくと考えられる。本コラムでは、現在注目されつつある「ワークライフ・インテグレーション」の考え方について解説し、その実現におけるメリットについても考察していく。
目次
「ワークライフ・インテグレーション」とは
ワークライフ・インテグレーションの考え方
「ワークライフ・インテグレーション」とは、仕事とプライベートの双方を充実させて、人生を豊かにしていくという考え方である。仕事と私生活のどちらも人生の構成要素として尊重し、充実させることで相乗的に人生を豊かにしていく。
ワーク・ライフ・バランスとの違い
従来よく取り上げられている「ワーク・ライフ・バランス」は、一般的に仕事(ワーク)と私生活(ライフ)のバランスを考えるものであり、どちらかに偏重が起きないように調整をする必要があった。一方、ワークライフ・インテグレーションは、仕事と私生活の相乗効果を追及する考え方である。
仕事(ワーク)と私生活(ライフ)を対立的にとらえるのではなく、相乗効果を狙って人生そのものを豊かにしていくという点で、ワークライフ・インテグレーションは、ワーク・ライフ・バランスが整った先の発展形ともいえるだろう。
ワークライフ・インテグレーションが注目されつつある背景
働く場所と私生活の場所の境目がなくなる傾向
働き方改革による残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化などにより、仕事と私生活の「時間的バランス」が取りやすくなってきている一方で、新型コロナウイルスの影響を経て、テレワークや在宅ワーク制度が定着し、「働く場所」と「私生活の場所」は境目がなくなる傾向にある。
また副業の認可が進んだことにより、私生活の中により複雑に仕事が入り込み、仕事と私生活を切り離して考えることが難しくなってきている。
若者たちの価値観が多様化している
Z世代を含む若者が、個人の多様性を尊重する傾向が高まり、結果として仕事に対する価値観も多様化している。
このように私生活の時間は確保できるようになりつつある中で、仕事(ワーク)と私生活(ライフ)が物理的に切り離せなくなっていることや、仕事の価値観の多様化によってワークライフ・インテグレーションが注目されつつある。
言葉の認知度
20代~50代の正社員男女に対し、「ワーク・ライフ・バランス(WLB)」「ワークライフ・インテグレーション(WLI)」それぞれの言葉を知っているか聞いた。
ワーク・ライフ・バランスの認知度
WLBについては、「言葉も意味も知っている」が57.3%で過半数となっており、「言葉は知っているが意味は知らない」と合わせて82.8%が、WLBの言葉を知っている、と回答した。
ワークライフ・インテグレーションの認知度
WLIについては、「言葉も意味も知っている」が6.6%、「言葉は知っているが意味は知らない」が19.5%と合わせて26.1%がWLIの言葉を知っている、と回答。WLBと比べて56.7ptの差があり、認知度に大きな差があることがわかった。
仕事と私生活の充実の関係性
仕事と私生活の充実のつながり
「仕事と私生活の充実には関係がある」が70%
「仕事と私生活の充実のつながり」について聞いたところ、70.0%の人が「仕事と私生活の充実につながり」を感じる、と回答している。「ワークライフ・インテグレーション」という用語の認知度は低かったものの、実感として仕事と私生活につながりを感じている人は多いようだ。
年代別にみると、20代では、『仕事と私生活の充実につながりを感じる』が全年代のうちもっとも高く、特に『「私生活の充実」が「仕事の充実」につながっている』が他の年代と比べて5pt以上高かった。20代は「私生活の充実」が仕事にも良い影響を与えていると感じる人が多いようだ。
役職別にみると、部長クラス以上では「仕事と私生活の充実につながりを感じる」が約9割となっており、全体と比べて多くの人が仕事と私生活の充実につながりを感じているとわかった。
ワークライフ・インテグレーションを実現できていると感じる人の割合
ワークライフ・インテグレーションを実現できていると感じている人は26.6%
「ワークライフ・インテグレーション」の意味を説明し、自身が実現できているか聞いた。全体では、「実現できていると感じる」は26.6%となり、「実現できていないと感じる」よりも少なかった。
図4では、仕事と私生活の充実につながりを感じると回答した人が7割だった。仕事と私生活につながりは感じてはいるものの、両方の充実を求めているか、と聞かれるとそうではない人が多数派だったようだ。
年代別でみると、全年代のうちもっとも「実現できていると感じる」が高かった年代は、20代で30.2%だった。20代は「私生活の充実」が「仕事の充実」につながっている傾向が強かったことから(図4)、私生活を充実させる取り組みが仕事にも良い影響を与えているとを実感している人が他の年代よりも多いのではないだろうか。
ワークライフ・インテグレーションを実現できている人の特徴
希望勤続年数の長さ
現在の職場であと何年働きたいか聞いたところ、WLIを実現できていると感じる人は平均であと「11.2年」働きたい、と回答した。実現できていないと感じる人は平均であと「8.1年」働きたい、と回答。WLIを実現できていると感じる人の方が、現在の職場で長く働いていたいと思っている傾向にあるようだ。
リスキリング経験の多さ
リスキリングをした経験はあるか、という問いに関して、WLIを実現できていると感じる人は24.3%が「ある」と回答。実現できていないと感じる人は16.2%が「ある」と回答し、8.1ptの差があった。WLIを実現できていると感じる人の方が、リスキリングを実施しており、自身のスキル向上に積極的である可能性がある。
さいごに
「ワークライフ・インテグレーション」という用語はまだ広く知られていないが、実際には、仕事と私生活の充実には関係性があると感じている人は7割いる。企業が私生活までサポートする支援を行うことで、従業員の仕事の充実度を高めることができるかもしれない。
企業の視点
さらに、ワークライフ・インテグレーションを実現している人を増やすことは、企業にとってもメリットがあると考えられる。具体的には、個人のリスキリング意欲向上、勤続年数増による社員の定着に繋がる可能性があるということだ。
実際に調査上では、ワークライフ・インテグレーションを実現できていると感じる人は、希望勤続年数が長く、リスキリング経験が高い傾向が見られている。また20代は私生活を充実させることが仕事の充実にもつながると感じている傾向があるため、私生活の充実を支援することは、企業にとってもメリットとなる可能性がある。
個人の視点
一方、働く個人としては、まずは自身がワーク・ライフ・バランスを取れているか確認し、私生活の充実に目を向けられるような「ゆとり」を作ることから始めるのをおすすめする。個人にとって、仕事と私生活の関係はそれぞれ異なり、どちらが優先されるべきかに正解はない。現在、働き方や私生活は多様化している。過去には諦めるしかなかったことでも、今なら実現できることもあるだろう。
また、多様化する過剰な選択肢から選び続けていると、選択結果のあいだに矛盾が生じたり、相容れないものを選んでいたりする。キャリアリサーチラボでは、これらの多様で過剰な選択肢を新しい文脈で意味づけて、撚り合わせ、調和させることを「つむぐ」と表現し、これからのキャリアデザインのあり方として、選択するキャリアから、「つむぐ、キャリア」という考え方も提示している。
仕事も私生活も充実させるために、自身が大切にしていることや本当に追求したいことに目を向け、人生の充実について考える時間を作ってみるのはいかがだろうか。
キャリアリサーチLab研究員 朝比奈あかり