Z世代の「管理職離れ」は本当か?
最新調査から読み解く「Z世代が望むキャリアアップ」
検索エンジンで「Z世代 特徴」などで検索すると、Z世代は「出世欲がない」「昇進に興味が薄い」「管理職になりたがらない」といった表現をする記事が散見される。このコラムにも、そうした検索ワードでたどり着かれた方も多いかもしれない。
たしかに、キャリアアップや昇進を目指さない働き方のことを指す「静かな退職」といわれる現象がアメリカのZ世代を中心に広がっているとされ、また2023年度就職活動を行った学生を子に持つ保護者を対象にしたマイナビの調査では、子供から感じた「Z世代らしさ」として「1つの会社に勤めあげるというイメージがない」「出世欲がない」という印象を受けたという回答がみられるなど、Z世代に対して「管理職になりたがらない」「出世やキャリアアップに消極的」というイメージが持たれている様子がうかがえる。【図1】
本コラムでは、この「管理職になりたがらない」「出世やキャリアアップに消極的」というZ世代へのイメージ、いわゆるZ世代の「管理職離れ」の実態について、最新の調査結果から考察していきたい。
目次
学生調査からみえてくる「管理職離れ」
学生の管理職への希望度合いを見るべく2025年卒の学生を対象に調査を行い、給料を上げていく方法として「出世して管理職になる」という働き方と、「仕事のレベルを上げていく」という2つの働き方があるとした際、自分の希望する働き方にもっとも近いものを選んでもらった。
結果、もっとも回答が多かったのは「仕事のレベルを上げつつ、出世して管理職にもなりたい」だったものの、割合としては42.1%と半数に届かず、次いで多かった「仕事のレベルは上げていきたいが、管理職にはなりたくない」が38.8%と4割近くとなった。【図2】
回答が多かった上記2つの選択肢はいずれも「仕事のレベルを上げていく」という点では共通しており、学生は決して向上心がないわけではなく、仕事のレベルアップを通じて給料を上げていくこと、すなわち「キャリアアップ」を目指しているということがみえてくる。
ただ「管理職になる」ということ自体は望まない学生も多く、学生にとって「キャリアアップして給料を上げる」ことと「出世する・管理職になる」ということが必ずしもイコールでないということがわかる。
管理職になりたくない理由
「仕事のレベルは上げていきたいが、管理職にはなりたくない」と回答した学生にその理由を自由記述で回答してもらったところ、「管理職は忙しい・業務量が多い」「責任ばかり増える」「仕事量と給料のつり合いが取れていない」「ワークライフバランスが取れない」といったコメントがみられ、管理職という働き方に対してネガティブなイメージが持たれている様子が、学生のコメントからうかがえる。【図3】
学生にとっての「キャリアアップ」とは?
では、キャリアアップすることが「出世すること・管理職になる」ことだけではないとすると、学生が思い描いている「キャリアアップ」とはどのようなイメージなのか。
学生に対して「あなたにとって『キャリアアップ』とはなんですか?」という質問をしたところ、もっとも回答が多かったのは「自分の業務スキル・レベル・難易度を上げていくこと」で、次いで多いのが「新しい業務領域に次々と挑戦して幅広く経験値を上げていくこと」、「出世して管理職になること」は3番目という結果となった。【図4】
「出世して管理職になる」という回答も決して少なくないが、いずれの選択肢も過半数には及ばず、キャリアアップに対するイメージが一様で画一的なものでなく、多様な働き方を含んでいることがわかる。
「業務スキル・レベル・難易度を上げていくこと」と考える理由
もっとも回答の多かった「自分の業務スキル・レベル・難易度を上げていくこと」と回答した理由としては、自分のスキルを上げていくことで「自身の市場価値を上げる」「どんな環境や部署であっても対応可能なスキルを獲得する」「専門性の高い職業人として成長する」といったものがみられた。
終身雇用が前提でなくなり、VUCAの時代と呼ばれる現代において、働き手としての高いスキルを身に着けることで自律的にキャリアを築こうとするZ世代の姿勢がみえてくる。【図5】
「新しい業務領域に挑戦し経験値を上げていくこと」と考える理由
次に多かった「新しい業務領域に次々と挑戦して幅広く経験値を上げていくこと」を選んだ理由としては、まず自身のコアとなるスキルを身に着け、それを活かしながら他のフィールドに挑戦することで全社的な広い視野を獲得したい、といった趣旨のコメントなどがみられる。
1つのことを極めることを美徳とする観点もあるが、そうした観点から「次から次へと新しい業務領域に」と聞くと、「忍耐力がないのではないか」「飽きっぽくて継続力がないのではないか」といった見え方になるかもしれないが、コメントを見ると決してそうではないことがわかる。
1つのフィールドでスキルを習熟したことを自身の成長と捉え、そこからさらなる成長・持続的な成長に向けて次なるフィールドを選ぶ、という姿勢が表れていると考えられる。【図6】
「出世して管理職(部下ができること)になること」と考える理由
3つ目に多かった「出世して管理職になること」を選んだ理由では、自分が獲得したスキルを部下の育成や指導を通じて社内に還元したいという気持ちや、「出世とは周囲から得られた高評価の結果である」という受け止めから、出世自体を目的化せず、周囲から十分な信頼や評価を得られるような働き方をし、その結果として出世というものがある、といいった考え方が垣間見えてくる。
もちろん「それが一番給料が上がりやすいと思うから」という趣旨のコメントもみられたが、単に収入を上げるために管理職を目指すという以外にもさまざまなモチベーションが背景としてあることがわかる。【図7】
日本型雇用を襲う「管理職のポスト不足」問題
ここまで、学生の管理職志向について、また学生がイメージする「キャリアアップ」がどのようなものかについて見てきたが、ここで一度、日本型雇用における管理職の意味に目線を向け、そこで起こっている「管理職のポスト不足」という問題について触れておきたい。
日本の高度経済成長を支えてきた日本型雇用の特徴の1つに「長期雇用慣行」があるが、この長期雇用慣行にはポスト競争によって従業員のモチベーションを維持するということが不可欠であった。高度経済成長期は企業の事業規模も右肩上がりで拡大していたため従業員に対してポストを十分に用意することができたが、高度経済成長期を過ぎると企業の成長も鈍化し、加えて、団塊の世代がちょうど管理職になる年齢に差し掛かったタイミングも重なったことで、従業員に対して十分なポストを用意できなくなる「ポスト不足」という事態が発生する。
そして、そのポスト不足という事態に対して、従業員の動機付けを維持するために生み出された施策が「部下なし管理職」によってポストを増設することであった。(※)
このように、企業が従業員のモチベーション維持のために、本来であれば用意できないポストを「部下なし管理職」という力技で増設したということからも、日本では長らくの間、「管理職になること」がほぼ唯一のキャリアアップの手段であったということがいえる。
※管理職のポスト不足についての詳細は下記を参照
「管理職離れ」と「ポスト不足」の時代における管理職のあり方とは
学生の思い描くキャリアアップのイメージが多岐にわたっていることを考えれば、従来型の「キャリアアップとは管理職になることである」という道だけでは、次世代の働き手たちが希望するキャリアを実現させることは当然できない。まして、管理職のポストが不足する時代においては、「管理職にはなりたくないがキャリアアップしたい」という学生のニーズに対応していくことが重要になる。
…【ニーズ①】
ただその一方で「管理職になりたい」という学生も一定数おり、部下や後進の育成を通じて社会に貢献したり、自分が周囲から得る評価や信頼の結果として管理職になりたいというモチベーションを持つ学生のニーズも汲み取る必要がある。
…【ニーズ②】
「管理職になる」以外でキャリアアップ・昇給を実現できる豊富なキャリアパスを提示
ここからは、【ニーズ①】【ニーズ②】に対してどのようなアプローチが可能かを考えていく。
まずニーズ①「管理職にはなりたくないがキャリアアップしたい」に対応するためのアプローチとしては、管理職になること以外でキャリアアップ・昇給を実現できるようなキャリアパスのモデルを構築・提示していくことが考えられる。
どのようなキャリアパスがあればその企業の志望度が上がるかを学生に聞いたところ、もっとも多かったのは「社内公募などにより自分のやりたいことにチャレンジできる」が45.9%で、その他、「管理職として出世していく」(27.1%)「育児や介護などライフステージに応じて職位や役職を変更できる」(27.6%)「リスキリングなどを通じて働きながら新しいスキルを学べる」(24.2%)というキャリアパスも同じ程度の回答があった。
志望度が上がるキャリアパスについても一様で画一的ではなく、多様な状態であることがわかる。【図9】
この結果から考えられるアプローチとして、以下のような施策が検討できるだろう。
「管理職にはなりたくないがキャリアアップしたい」に対応するためのアプローチ
☑社員が自分の希望するキャリアを自律的に社内で選択し、キャリア構築できる社内公募制度を拡充・浸透させていくこと
☑リスキリング支援を通じて社員が新しいスキルを学び直す機会を提供すること
☑ライフステージに応じて職位や業務・責任の幅を柔軟に加減できる人事制度を導入する
現役管理職世代の負担軽減により、若手が持つ管理職に対するネガティブなイメージを払拭
続いてニーズ①と②の両方へのアプローチとして、管理職として働く世代の負担軽減により、若手が持つ管理職に対するネガティブなイメージを払拭するということが考えられる。
現役管理職世代の「管理職疲れ?」
図10は、正社員として働く人を対象に、現在の役職と今後出世したい役職に関してマイナビにて調査を行った結果を示している。左側の「現在の役職」では年代が20代から50代まで上がるにしたがって「役職についていない」という割合が減少している一方で、右側の「今後出世したい役職」では年代が上がるにしたがって「これ以上出世は望まない」の割合が増えている。
この結果から1つ考えられることは、「管理職離れ」はZ世代や学生の間だけでなく、現在働いている世代でも起きていることなのではないか、ということだ。
むしろ、現役世代の管理職離れ、あるいは「管理職疲れ」を見た下の世代が「こんな働き方はしたくない」と感じた結果として、Z世代において管理職離れが起こっている、という関係も考えられるのではないだろうか。
先ほど示した図3の学生のコメント「親が管理職になってから非常に大変そうにしている」や「給料が少ない上に雑務が多くスキルアップも見込めないと管理職の親から教わった」といったものは、このことを裏付けているようにもみえる。
現役管理職世代の負担軽減のために
現役世代の管理職疲れ・管理職離れを改善し、次世代における働き手にとっての管理職へのネガティブなイメージを払拭してくためには、現役世代の管理職の負担軽減が欠かせない。特に学生のイメージで多かった「業務量が多い」「ワークライフバランスが保てない」といった不安に対して、管理職の長時間労働の是正や待遇面の改善による納得感を増やしていくことが重要となる。
また昨今話題になっているAIによる業務負担の軽減という方法も考えられるだろう。こうした管理職へのネガティブなイメージを払拭することで、ネガティブなイメージがネックとなり管理職を志望しなかった人が心理的に管理職を目指しやすい状況を作れるほか、管理職になりたい人が安心して働ける状況を整えることも可能となる。
現役管理職世代の負担軽減ためのアプローチ
☑ 長時間労働の是正・待遇面の改善による管理職の働き方への納得感の向上
☑ AIに代替できる業務は代替し、業務負担を軽減(※)
※AIによるマネジメント業務の代替に関しては、下記コラムを参照
「管理職になりたい」人にキャリアパスを用意するために
そしてニーズ②「管理職になりたい」という人に向けたもう1つのアプローチとしては、ポスト不足を解消してポストを用意するという考え方がある。
そのためには、これまで管理職の業務としてまとめられていた複数のタスクを分解し、タスクごとに担当を割り振って管理職業務を分担するというアプローチが考えられる。これは一部の企業で実際に導入されている事例を参考にしているが、部下の育成・指導、業務管理、事業推進、会社上層部との折衝・調整など、これまで管理職の仕事として一緒くたにされていた諸業務を細分化し、それぞれを得意な人材に割り振って「○○専門部長」といった管理職を増やしていくもので、これにより管理職のポストを複数用意することが可能性になるのではないだろうか。
また、図9で示した「学生の志望度が上がるキャリアパス」の1つ「ライフステージに応じて自由に昇り降りが可能なキャリアパス」を実現できる制度が普及すれば、結婚や出産育児、介護などで一時的にキャリアのステージを一段降り、落ち着いたら復帰をすることでワークライフバランスを維持できるほか、その間にその空いたポジションを適正のある別の人材に任せることで、その代打人材にとっても管理職スキルを身に着ける機会が得られるなど、ポジティブな影響も期待できる。
「管理職になりたい」人にキャリアパスを用意するためのアプローチ
☑ 管理職の業務を分解して、複数人で分担する
(部下の育成、事業推進、会社上層部との折衝・調整…etc)
☑ ライフステージに応じて昇降可能な柔軟なキャリア制度
キャリアアップの仕方も多様化の時代へ
本コラムでは、Z世代の管理職離れのイメージとその実態についての調査結果からスタートし、若い世代にとっては「キャリアアップ=管理職になる・出世する」ということではないということと、学生が管理職になること以外に実際にどのようなキャリアアップをイメージしているのか、ということについて最新の調査データを元に考察してきた。
そしてその結果から、まず「管理職を希望しない人には管理職にならずともキャリアアップを目指せるようなキャリアパス(社内公募制度やリスキリング支援、昇り降り自由なキャリアを実現する人事制度)」を提示すること、また「管理職にモチベーションを感じている人には管理職離れの原因だと考えられるネガティブなイメージを払拭するべく現役管理職世代の負担を軽減させていくこと」、そして「管理職としてキャリアアップできるようにポスト不足を解消すること」という3つのアプローチを提案した。
働き方や人材の多様化が進むなか、キャリアアップのイメージが多様化している。管理職になりたい・なりたくないに関わらず、キャリアアップを目指す次世代の働き手が社会で活躍していくためには、キャリアアップの仕方自体にも多様性が求められている。
キャリアリサーチLab 研究員 長谷川洋介