転職して幸せになれるのか?年収アップだけじゃない転職者の変化
かつての日本は、入社したら定年になるまで安定して働けるという安心感が保障された「終身雇用制度」が主流であった。しかし、時代が変化しつつある昨今では、転職が当たり前になってきている。一つの会社に留まり続けるという選択肢以外に、スキルアップやキャリア形成といったポジティブな理由での転職も増えている。
では、転職した人々の生活はどのように変化しているのか。本稿では調査をもとに、転職についての現在地を確認してみる。
転職活動と新型コロナウイルスの影響
現在、転職活動を語る上ではずせない要素がある。それは2020年から現在まで、まだ終息の見えない新型コロナウイルスの流行だ。この2年の変化とそれ以前を含めて、影響の有無や転職活動全般についてまずは記載してみたい。
転職動向調査 2021年版(2020年実績)によると、転職を前向きに考えている割合は3年連続増加している。【図1】
その上で、新型コロナウイルスの影響で「転職に積極的になった」は4割弱、「転職に慎重になった」 割合の2倍となっており、転職の動機付けの一因に加わった、という様相である 。【図2】
その中でも、男性20代では「転職に積極的になった(計)」が半数を超え、51.2%が新型コロナウイルスの影響で転職活動に積極的になったと回答している。【図3】
まず、従来からの転職活動へ踏み出す理由として、当然ながらポジティブな理由だけではなく、「給与が低かった」「職場の人間関係が悪かった」などネガティブな理由もあげられている。それに加えて「会社倒産やリストラ・ハラスメント等の非自発的理由があった」などもあげられ、コロナ禍の影響も一定数あると想像できる。
コロナ禍による雇用情勢の悪化が求職者の意識に影響している可能性もある一方で、コロナ禍ならではの変化もみられる。たとえば、テレワーク導入による労働環境の変化や通勤時間の減少などで自身の働き方を見直す時間が増えたことや、転職活動においてweb面接が多く導入され、簡易に受験できる環境が拡がったことなどは、転職活動にポジティブな変化をもたらしているといえる。
特徴的だったのは、応募にプラスとして働く項目として「在宅時の設備や通信費を補助する制度」も8割を超える回答者から期待されていた。この回答などはテレワークが推進されたウイズコロナ時代らしい結果となっている。【図4】
新型コロナウイルスの影響は、転職活動に様々な影響や意識の変化を与えていると思われるが、この2年の変化は決してネガティブなものだけでない、といえるだろう。
実際の就職後の変化は?
転職後の変化について「仕事に取り組みやすくなった」「職場環境(人間関係など)が良くなった」は、7割台と高くあげられている。【図5】後述するが、転職後の満足度は仕事内容に強く影響される。「仕事に取り組みやすくなる」ということは、満足度上昇の一助になるだろう。そして当然ながら、職場環境は働きやすさに直結する。転職動向調査 2021年版(2020年実績)によると、転職活動を始めた理由では「給与が低かった」が最も多かったが、次点として「職場の人間関係が悪かった」が挙げられている。特に「職場の人間関係が悪かった」は2019年の最多の回答であり、職場環境の良さは、働きやすさに直結することは明白だ。
その上で、前職と比較して現職の満足度が高い人たちは、『仕事内容』『給与や休日などの待遇』『対人関係』で「前職より満足度が高い」が半数を超えている。これらのことから、転職後は総合的に満足度が高く、ポジティブな変化がみられることがわかった。【図6】
転職後の満足度は仕事内容に左右される
そして、確実に満足度を上げ、より良い転職をするためには「仕事内容」に着目すべきだということも明らかだ。
同調査を前職と比較した現職の満足度をスコア化してみてみると、仕事の満足度が上がった人では「仕事内容」のポイントがより高く、下がった人では「仕事内容」のポイントがより低い。仕事の満足度へは「仕事内容」がもっとも強い影響力を持っているといえる。【図7】
また転職だけではなく、新卒で入社した人について2021年卒 入社半年後調査「2020年卒 入社半年後調査」によると、文系学生において「就職活動時に知っておけばよかった情報」の中でもっとも高かったのが「実際の仕事内容に関する社員の話」だった。就職後の満足度が低い人ほど、この回答が多く、就職の満足度は仕事内容によって大きく左右されることがここからもわかる。【図8】
そして、転職への満足度が高いと自信につながるのか、自己評価が高くなる傾向がある。
仕事の満足度が上がった人と下がった人では、「市場価値は高いと思う」「比較的市場価値は高いと思う」に大きな差が出た。転職して仕事の満足度が上がった人は自分のキャリア経験の市場価値を高く自己評価しているなど、ポジティブな思考をしている人が多くなった。【図9】
実際に自分の市場価値が上がるかどうかはさておき、「市場価値は高い」と思うようになることはポジティブな変化といえる。転職後の総合的な満足度も高いことを見ると、転職は転職者にとって良い変化をもたらす一つの手段であろう。