2023年夏ボーナスは増えるのか?企業の予定から給与待遇について考える
求職者の6割以上が「転職活動に賞与が影響」しており、賞与の少なさは人材流出につながる
全社員の待遇改善が難しい企業は、健全な待遇差で人材流出防止を
昨今、パンデミックやロシアのウクライナ侵略、金利の引き上げなどから世界的なインフレが起きており、日本でも円安などの影響により物価高騰が急速に進んでいる。これを受けて政府も民間企業に賃上げの要求が行われている。
今回は、2023年賃上げや夏のボーナスを含めた給与待遇への影響を企業・個人ごとに考察し、今後の人材活用やキャリアへの向き合い方について解説していく。
目次
サマリー
- 従業員の少ない中小企業や、コロナの影響が残る「流通・小売・フード」業界ではボーナスの支給予定割合・増加予定割合が低く、給与待遇の改善が追いついていない結果に
- 企業が夏のボーナスを増額する理由は「物価高対策」「離職防止」「社員のモチベーションアップ」
- 企業は20代~30代など、採用難易度の高い世代を中心に給与待遇の改善に特に力を入れている
- 「転職活動に賞与が影響した」と回答した割合は約6割。そのうちの55.4%が「賞与額が少なかったから」と回答。賞与額の少なさによっては人材流出の可能性が高まる結果に
- 業績不振などにより全社員の待遇改善が難しい場合は、自社に必要なスキルを持った人材や若手など、流出させたくない人材の待遇を上げる、”健全な待遇差”を作ることがポイントになってくるだろう
夏のボーナス支給予定は84.6%
物価高にあわせ注目されている「賃上げ」について、マイナビが行った調査では、現従業員の賃金ベースアップについて、2023年度は前年度より 「上げる予定」としたのは74.8%で、前年比+14.7ptと大幅に増加した。【図1】
「今年の夏のボーナスは支給予定か」を企業に聞いたところ、全体では「支給予定」が84.6%、「支給されない予定」が15.4%だった。従業員「301名以上」の企業では、「支給予定」が96.1%と全体平均と比べて10pt以上高く、従業員数が多いほどボーナス支給予定の割合が高い特徴がみられた。
業種別にみると、「メーカー」「医療・福祉・介護」は支給予定割合が高く、約9割が支給予定と回答した。一方、「流通・小売・フード」「サービス・レジャー」は全体平均と比べて「支給予定」が低く、コロナの影響がまだ残る中、「人件費高騰」や「原価高騰」のあおりを受け、業績が厳しかった企業が多かったと推察する。【図2】
夏のボーナス、前年から増加予定の企業は約3割、特に「IT・通信・インターネット」が大幅増加
今年の夏のボーナス支給額をみてみると「増加予定」が29.4%、「変わらない予定」が58.8%、「減少予定」が11.7%だった。物価の上昇に対して賃上げなどの注目が高まっていたものの、夏ボーナスに関しては支給額「増加予定」は約3割にとどまる結果となった。従業員規模別にみると規模が大きいほど高く、301名以上は半数近くが「増加予定」と回答した。
業種別では「IT・通信・インターネット」で「増加予定」が40.7%と全体より10pt以上高くなり、「医療・福祉・介護」は15.9%と全体と比べて10pt以上低かった。「流通・小売・フード」では、「減少予定」が全体と比べて若干高かった。この結果から、従業員規模別・業種別に差がみられ、特に従業員が少ない中小企業や、新型コロナウイルスの影響が残る「流通・小売・フード」業界では、給与待遇の改善が遅れている可能性がある。【図3】
夏のボーナス支給額の増減理由を企業に聞くと、増加予定だと回答した人は「物価上昇への対応」「人材確保」「社員のモチベーション向上」という回答が目立った。一方で減少予定と回答した人は、コロナの影響や原価高騰などが起因し「売上・利益の減少」を理由に挙げる傾向にあった。【図4】
約7割の企業が「給与待遇の改善に特に力を入れている年代や役職、職種がある」
大手企業を中心に賃上げを積極的に行う一方で、企業によっては原材料の価格高騰もあり、すぐに対応するのが難しいのも現状だ。そのため、賃上げが難しい企業は、優秀人材を確保するために、一部の年代や役職、職種を絞って待遇改善を行っているのかを探ってみた。
全体では、「特に力を入れている年代や役職、職種はない」が29.5%だったため、約7割は「給与待遇改善に特に力を 入れている年代・役職・職種がある」と回答している。【図5】
※「特に力を入れている年代や役職、職種はない」29.5%を排他選択肢としており、残り70.5%の回答者に複数回答を得ている。
年齢別では30代が49.1%と最多で、次いで20代が42.5%、役職別では「役職についていない正社員」が27.9%と最多となった。
近年、終身雇用制度や年功序列制度を廃止する企業がある一方で、未だに年齢給の要素が残っている企業があると考えられる。給与の設定はそのままに終身雇用制度や年功序列制度のみ廃止されてしまうと、転職が前提となりつつある若年層では、給与への不満を感じてしまう可能性がある。
企業は人材難が続く中、特に採用難易度が高い若手人材の確保のため、若手世代の給与待遇を上げる形にシフトしていくだろう。
また、業績不振などにより全社員の待遇改善が難しい場合でも、成果主義的に自社に必要な人材に絞って工夫して賃上げを行い、人材流出防止を図っていると考えられる。企業の需要に応じた健全な待遇差は今後も広がっていくだろう。
求職者は物価高による給与への不安が高まっている
ここまで企業側の動向を見てきたが、今度は求職者側の意見を確認してみたい。社員が職場に求めることの中で「給与」の重要性は上がっている。2022年に転職活動を行った正社員に対し、転職理由・入社の決め手・選考を辞退した理由を聞いたところ、トップがすべて「給与」となった。すべての項目が「給与」となったのは調査開始以降初で、先行き不透明感を強まっていることで給与への不安が高まり、生活に必要な収入確保を重視している人が増加していることがわかる。【図6】
また、転職意向のある正社員のうち、「ボーナスが転職活動に”影響している”」人が63.7%となった。年代別にみると20代・30代は影響している割合が全体と比べて高く、特に若年層において「賞与は転職活動に影響している」ことがわかった。【図7】
「賃上げのための転職」は今後も増えていくため、企業は売上・利益に応じた待遇改善が急務
2023年の夏は、ボーナス支給額を前年より増やすとする回答が3割と一部にとどまった。特に中小企業や「流通・小売・フード」業界など物価上昇や新型コロナウイルスの影響が大きく残る企業では、給与待遇改善への対応が遅れていることがうかがえた。
また、働く人の傾向としても物価上昇の影響で給与やボーナスの重要性が上がっている。給与・ボーナスは、社員の働く意欲にも直結しており、転職理由の最重要事項であることから、自社でほしい人材を見極めて適切な賃金体系を整えることが急務だ。特に20代・30代の若手や給与を重視している人に、賃上げやボーナスアップは有効な施策であると考えられる。
今後は年齢や在籍年数に比例した給与待遇から、若手社員や社内で重要性の高い成果主義的な給与形態にシフトしていくと予測する。併せて賞与の原資が限られるような企業でも、多様な働き方に応じた様々な給与形態を模索し、働く社員個々の満足度を高める検討も必要になろう。いずれにしても給与問題が解決しなければ、社員の「賃上げのための転職」は今後も増えていくだろう。
一方で働く人も、職場環境は多様化し、選択肢が増え自由度が増しているため、給与待遇改善には以前と比べて自主的な行動が求められる。積極的に自身のキャリアに向き合い、リスキリングや副業、転職など自ら行動することが重要になっていくと考える。
「2023年夏ボーナスに関する調査」調査概要
調査対象 |
従業員数3名以上の企業に所属している全国の経営者・役員または会社員で、中途採用業務を担当している人 |
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調査期間 | 2023年6月1日~3日 |
調査方法 | WEBアンケート調査(調査主体:株式会社マイナビ アンケートモニター提供元:外部調査会社) |
有効回答数 | 2,538名 |
キャリアリサーチLab研究員 朝比奈 あかり