【副業経験者に聞いた】副業を始めたきっかけや時間の作り方、メリット・デメリット
コロナ禍での生活の変化や、低リスクで始めることができるリスキリングとしての意味合いを持つことで「副業」が注目されている。2022年には、厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改正するなど、政府としても推進しており、企業が従業員の副業を認可する割合も増えている。
また、人手不足の影響もあり、副業・兼業社員を受け入れている企業の割合が2022年から2023年にかけて大幅に増加していることから、副業を実施する人が今後さらに増えていくことが予想される。【図1】
しかし、副業に興味が湧いてもさまざまな不安から一歩踏み出せない、という人も多いのではないだろうか。
「マイナビ ライフキャリア実態調査2023年版」では正社員で働いている人に向けて「副業を始めたくない理由」を聞いている。結果を見てみると、男性正社員の1位は「時間に余裕がない」、女性正社員の1位も「時間に余裕がない」となっており、副業をする時間の捻出に課題を感じていることがわかる。【図2】
本コラムでは、実際に副業をしている人9人に対し、副業を始めたきっかけや、副業を行うための時間の作り方、メリットやデメリットなどのヒアリングを行った。副業を始めることに不安を抱えているビジネスパーソンに向けて、その不安を払しょくする一助となるコンテンツとしたい。
今回のヒアリング対象は以下である。
Aさん | 30代男性 | 本業:リサーチャー/副業:清掃業 |
Bさん | 20代男性 | 本業:編集職/副業:ブログ運営、広告制作 |
Cさん | 50代女性 | 本業:翻訳業/副業:校正、データ入力 |
Dさん | 30代男性 | 本業:営業/副業:キャリアアドバイザー |
Eさん | 30代女性 | 本業:経営企画/副業:飲食店スタッフ |
Fさん | 30代男性 | 本業:サイト運営/副業:パワポ作成、営業コンサル |
Gさん | 20代女性 | 本業:コンサルティング業務/副業:広告運用 |
Hさん | 30代女性 | 本業:Webコーダー/副業:Webスクールの運営 |
Iさん | 30代男性 | 本業:営業/副業:メダカの育成販売 |
目次
副業を始めたきっかけ・選び方
まずは、副業を始めたきっかけや、どんな軸でその副業を選んだかを聞きその傾向をまとめた。
目的は大きく3つに分けられる
ヒアリングを行った結果、副業を始めるきっかけ・目的としては「収入アップ」「リスキリング」「趣味の派生」の3つに分けられることがわかった。
収入アップのため
本業の収入が月によって差があったため、安定して稼げるように副業を始めた。
—Cさん(本業:翻訳業/副業:校正、データ入力)
本業プラスアルファの収入が得られるのは、副業を始める大きなメリットである。「副業を始めたい」と思う人のなかでも、収入アップ目的の人が多いのではないだろうか。
リスキリングのため
転職を考えていて、そのためには経験を積んでからのほうが良いとアドバイスされた。将来のキャリアのために、今は副業として経験を積んでいる。
—Bさん(本業:編集職/副業:ブログ運営、広告制作)
もともと資料作成が好きだったのもあるが、本業にも活かせる資料作成の講座を受講して学び始めたのがきっかけ。そこから副業につながった。
—Fさん(本業:サイト運営/副業:パワポ作成、営業コンサル)
Bさんの場合は今後のキャリアを考えて、Fさんの場合は現職でのさらなるスキルアップを考えて、という目的が起点になっている。いずれも新しい知識やスキルを学ぶためという目的があることがわかる。
趣味の派生
大人になってから金魚にハマり、そこからメダカの副業のことを知った。調べたら自分にもできそうだと思った。
—Iさん(本業:営業/副業:メダカの育成販売)
Iさんの場合は、たまたま趣味が副業になることを知り挑戦したとのこと。どんな副業があるのかを知ることも大切といえそうだ。
選び方は「条件面」か「仕事内容」
上記の目的からさらに深掘りして考えてみると、副業の目的によって選び方にも特徴があることがわかった。
収入アップ目的の場合は、条件面重視
本業にプラスして、と考えると業務時間は週1~2日が限界だと思った。フレキシブルに働けることを重視して、スケジュール管理がしやすいものを選んだ。
—Aさん(本業:リサーチャー/副業:清掃業)
目的は収入だったが、とはいえ仕事内容も重視した。興味がある仕事内容かどうかに加えて、給与と勤務地のバランス、社会保険に入れるかという条件も見て選んだ。
—Cさん(本業:翻訳業/副業:校正、データ入力)
Cさんの場合は、「興味ある仕事内容」も選択軸に入っているものの、収入アップ目的で副業をする場合は給与だけでなく勤務時間や勤務地などの条件面が自分に合うかどうかを吟味する傾向にあるようだ。
リスキリング目的の場合は、仕事内容重視
本業で部下のマネジメントに課題を感じていて、知識を活かせるキャリアコンサルタントの資格を取得した。自分のスキルを活かせるし、いろいろな人のキャリア面談という副業をすることで本業にもいい影響があると思った。
—Dさん(本業:営業/副業:キャリアアドバイザー)
本業も副業も、人とのつながりが大事な仕事。コミュニティを広げたくて始めた。
—Eさん(本業:経営企画/副業:飲食店スタッフ)
本業とは関連しないものの、インターンシップで経験のある仕事だったので始めた。自分の知識が活かせると思った。
—Gさん(本業:コンサルティング業務/副業:広告運用)
未経験職種に転職したいという気持ちから、スキルが学べるキャリアスクールに通い始めた。そこでスクールの運営業務にも携われると知り、副業として始めた。
—Hさん(本業:Webコーダー/副業:Webスクールの運営)
リスキリング目的の副業の場合は、まず本業と関係ある業務内容か、関係ない業務内容かに分けることができた。Dさん、Eさんの場合は本業と関連する仕事内容、Gさん、Hさんの場合は本業とは関連しない仕事内容である。
いずれの方も、仕事内容を軸として副業を始めており、「ほかの副業をするという選択肢はなかった」と答える人も多かった。リスキリング目的の場合は、「こうなりたい」「こういうスキルを身に着けたい」という目的が先行するため、収入アップ目的のように条件面ではなく仕事内容を重視した選び方になるようだ。
また、副業でのスキルについては、本業やインターンシップ経験などで、もともと持っていたスキルを活かすケースと、本業のスキルアップにつながる経験を望むケース、転職などを視野に新たなスキル獲得を目的とするケースの3つがあることがわかった。
働き方とスケジュール例
次に、時給のようなかたちで時間に対して報酬が支払われるのか、成果物に対して報酬が支払われるのかという観点で副業の内容を分類し、それぞれの働き方を聞いた。
「時間」で報酬を得る人の働き方
働いた時間に対して報酬を得ているのは、Aさん(清掃業)、Cさん(校正、データ入力)、Dさん(キャリアアドバイザー)、Eさん(飲食店スタッフ)、Hさん(Webスクールの運営)。
スケジュールを聞くと、「週1回」「週2~3回」「月2回」など頻度は人によりさまざまであったが、短時間でもOKの仕事は平日の本業が終わった時間を使ったり、休日に副業をしたりという働き方であった。ただし、時間に対する報酬なので、10分だけ、15分だけ、というようなスキマ時間に副業という働き方は 難しく、ある程度のまとまった時間が必要である。
▼Dさんのある一日
在宅勤務で本業に従事→終業後、夕飯を食べる→20時から2時間面談(副業)
▼Eさんのある一日
本業を18時半に退勤→19時半にバー到着、副業開始→終業し24時ごろに帰宅
「成果物」で報酬を得る人の働き方
成果物に対して報酬を得ているのは、Bさん(ブログ運営、広告制作)、Fさん(パワポ作成、営業コンサル)、Gさん(広告運用)、Iさん(メダカの育成販売)。
スケジュールを聞くと、自分で「週に○時間くらい」「一日○分くらい」と決めている人も多く、無理せず副業をしていると答えた人が多かった。成果物に対する報酬なので、納期があればまとまった時間をとって作業をするというケースもあったが、本業がある日のスキマ時間や、友達と遊びに行く前の時間といった少しの時間を有効活用するなど自分でコントロールできている印象であった。
▼Bさんのある一日
残業して帰宅→通勤電車のなかで事務連絡に対応→10分~15分だけデータのチェック
▼Iさんのある一日
20時帰宅→21~22時で採卵、卵の梱包
報酬のもらい方別/時間の作り方
これまで紹介した報酬のもらい方の違いをもとに、それぞれのタイプの時間の作り方を聞いた。
まとまった時間が必要な人の時間の作り方
働いた時間に対して報酬を得ている人の時間の作り方は、ヒアリングの結果「無理をしないでできる範囲で働く」タイプと「プライベートや睡眠を削って時間を作っている」タイプに分かれた。
本業の勤務時間後に自由な時間が多かったので、その時間を副業に充てている。無理して時間を作っているわけではない。
—Hさん(本業:Webコーダー/副業:Webスクールの運営)
頑張って時間を作っているわけではない。お金を払ってでもやりたいと思える仕事を選択しているので、苦ではない。
—Eさん(本業:経営企画/副業:飲食店スタッフ)
HさんやEさんの場合は、なにか特別な工夫をして時間を捻出しているわけではないとのこと。とくにEさんのように、「やりたい仕事をしている」という意識が強い場合は、好きなことだからこそ多少の無理は苦ではないという側面もあるのではないだろうか。
自分で時間を調整できる仕事なので詰めすぎることはないが、それでも趣味の時間などプライベートを削っている感じはある。
—Aさん(本業:リサーチャー/副業:清掃業)
家族に家事を頼むなど、まわりの協力を得ながら時間を作っている。睡眠時間を削ることもよくある。
—Cさん(本業:翻訳業/副業:校正、データ入力)
一方で、AさんやCさんのように趣味や睡眠など、なにかの時間を削って時間捻出している例もみられた。こちらのタイプは、業務内容を条件で選んでいる人にみられる傾向であり、収入を得る対価としてプライベートを差し出しているというイメージである。
スキマ時間でもできる人の時間の作り方
成果物に対する報酬の場合、自分次第でハンドリングできるので、スキマ時間を有効活用しているという声が多かった。
「時間を作ってやる」わけではなく、時間があるときにやる感じのほうが近い。電車での移動時間も有効活用している。
—Bさん(本業:編集職/副業:ブログ運営、広告制作)
効率的に作業を終わらせるために、事前にスケジュールを確認して、スキマ時間を作っておく。本業も効率的に終わらせるようにしている。
—Gさん(本業:コンサルティング業務/副業:広告運用)
本業、副業ともに業務の効率化をしたり、スマホをいじる時間を副業に充てたりすることで、空いた時間をうまく活用しているようだ。
副業経験者に共通していた特徴
ここまで紹介した内容以外にも、さまざまな視点からヒアリングを行っている。ここからは、その回答をもとに副業経験者に共通していた価値観や考え方を紹介する。
労力に対する満足度
副業をするということは、短時間やスキマ時間であっても本業にプラスした労力が必要だ。そこで、「労力に見合う収入かどうか」「副業に時間を充てるだけの価値を感じているか」という視点で、労力に対する満足度を聞いた。
労力に見合う収入かという点では、報酬の金額は人により異なるものの、満足している様子であった。「充分報酬をもらっていると思う」「かけた労力以上にもらっていると思う」「好きなことをしているので収入を不満に思うことはない」という声が多い一方、「もらっている金額的には多くないが、楽しいので労力(負荷)に感じていない。その点で見合っていると思う」という声もあった。
また、副業に時間を充てることに対しても、みなさん価値を感じており、今後も続けたいという声が多かった。ブログ運営などのように、副業を始めたときはリターンが少なく、時間をかけることでリターンが増えていく仕事もあるので、仕事内容によっては長く続けることで価値を感じていくものもあるようだ。
副業を始めてからの気持ち的な変化
上記では金銭的な満足度を聞いたが、ここでは気持ちの面での変化を聞いた。
とくに将来のキャリアや転職を視野に入れた副業選びをした人は、「スキルアップすることで充実感がある」「やりがいを感じながら仕事ができている」という回答であった。
ほかにも、「やればやるだけ成果が見える仕事なので、自己肯定感があがった」という声や、「限られた時間に効率的に使えていることに満足感がある」という声もあり、今回ヒアリングしたみなさんは気持ち的にもポジティブに変化しているとのことだった。
また、収入が増えることによる気持ち的なゆとり、心の余裕ができたという声も多かった。
副業を始めたことによるデメリット
ここまで、副業を始めたことによる良い面を見てきたが、デメリットはないのだろうか。この質問もみなさんに聞いたが、「思い当たらない」との声多数。あえて挙げるなら、と考えてもらうと、確定申告などの手続き面の面倒さやスケジュール管理が難しいという回答が得られた。
ただ、手続き面も「今まで知らなかった税金の仕組みを知ることができた」などポジティブに捉えており、デメリットとしては感じていないようだった。
これから副業を始めたい人へ—まずは目的を明確に
今回の副業経験者へのヒアリングから、以下のように分類ができることがわかった。
副業を始めた目的別に特徴を整理すると、お金目的の人は求める条件に合う副業を探すことから始める必要がありそうだ。今回インタビューしたなかでは時間単位で働く人が多かったが、スキルや好きなことがあれば成果物で報酬を得ることも可能だろう。
リスキリング目的の人は、みなさん好きなことや、やりたいことをベースに副業をしていたので、すでにある人はやりたいことに通じる副業を探すと良いだろう。将来像や、やりたいことがまだわからないという人は、まずは興味のある分野のスクールに行くなどインプットから始めてみるのもおすすめだ。
趣味の派生で副業を始めたい人は、自分の趣味についてお金の稼ぎ方があるかを調べたり、趣味についての情報発信から始めたりするのも良いだろう。
ヒアリング対象者にこれから副業を始めたい人に向けてのアドバイスを聞くと、「悩んでいるならまずはやってみて!」という回答が多かった。ご紹介したように、大きなデメリットもなく気軽に始めることができるため、興味があればぜひ一歩踏み出してみてほしい。
キャリアリサーチLab 研究員 朝比奈 あかり
キャリアリサーチLab 編集部 矢部 栞