マイナビ キャリアリサーチLab

飲食宿泊業でアルバイトの人手不足が深刻化する要因と必要な対策はなにかを考える

三輪希実
著者
キャリアリサーチLab研究員
NOZOMI MIWA

飲食・宿泊業の人手不足が深刻化:人手不足を感じている割合は57.5%と業種別で最多

2023年1-2月時点でアルバイト人材について「不足」と感じている割合がもっとも高かった業種は[飲食・宿泊]で57.5%となり、前年同期比で6.8pt増加し、突出して人手不足に陥っている様子がうかがえる。【図1】【図2】

【図1】業種別 アルバイト 過不足感(単一回答)※グラフの業種は一部抜粋 ※( )内は回答数/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年1-2月)より
【図1】業種別 アルバイト 過不足感(単一回答)※グラフの業種は一部抜粋 ※( )内は回答数/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年1-2月)より

【図2】[飲食・宿泊]前年同時期比 アルバイト 不足の数値(単一回答)※( )内は回答数/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年1-2月) より
【図2】[飲食・宿泊]前年同時期比 アルバイト 不足の数値(単一回答)※( )内は回答数/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年1-2月) より

飲食・宿泊業が慢性的に悩まされていた人手不足は、コロナ禍により一時的に緩和されていた。しかし、行動制限や水際対策の緩和による経済再開に伴い、コロナ禍で自粛が目立っていたインバウンド需要の増加などに対応するために、再び人手不足が高まり、人員確保のために採用を行う企業も増加したと考えられる。【図3】本コラムでは、飲食・宿泊業界の雇用状況と今後人材確保を行う上で必要な施策についてみていきたい。

【図3】業種別 アルバイト 2023年1-2月採用活動実施率上位/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年1-2月) より
【図3】業種別 アルバイト 2023年1-2月採用活動実施率上位/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2023年1-2月) より

アルバイトの人手不足が高まっている要因として考えられること

1.労働人口の減少

まず、飲食・宿泊業界の人手不足が高まっている要因として考えられる3つの要因についてみていく。第一に、もっとも大きな要因として考えられるのは労働人口の減少による働き手の不足である。総務省の令和4年版高齢社会白書によると、少子高齢化によって日本の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年に8,716万人でピークを迎え、総人口も2008年に12,808万人をピークに減少に転じており、人手不足の高まりに大きく影響していると考えられる。【図4】

【図4】高齢化の推移と将来推計/※出典:総務省「令和4年版高齢社会白書(全体版)」より
【図4】高齢化の推移と将来推計/※出典:総務省「令和4年版高齢社会白書(全体版)」より

2.求人数の急速な増加

次に、求人数の急速な増加による有効求人倍率の上昇である。アルバイト市場においては2020年4月頃からコロナの影響を大きく受けはじめ、「飲食物調理」と「接客・給仕」の職業の有効求人倍率においても2021年に大幅に低下した。一方、2023年2月の有効求人倍率は、2019年のコロナ前の水準までには達していないものの、コロナ禍で落ち込んでいた2021年と比べると大きく上昇した。2023年2月時点には、飲食物調理で3.01倍、接客・給仕で3.28倍となり、全体の1.27倍を大きく上回った。【図5】インバウンド需要に加えて政府の「全国旅行支援」による後押しもあり、一気に経済回復が進んだことで人材確保が追い付かず、人手不足の高まりに影響していると考えられる。

【図5】職業別 有効求人倍率 ※2019年~2023年の2月を比較/※出典:一般職業紹介状況 職業別労働市場関係指標(実数)より
【図5】職業別 有効求人倍率 ※2019年~2023年の2月を比較/※出典:一般職業紹介状況 職業別労働市場関係指標(実数)より

3.働き手の職業選びの変化

最後に、働き手の職業選びにおける基準の変化が考えられる。2022年の飲食・宿泊業の就業者数は381万人で、コロナ前の2019年の421万人と比べると40万人少ない。【図6】

【図6】[飲食・宿泊] 就業者数の推移/※出典:労働力調査(基本集計) 2022年(令和5年)2月分結果より
【図6】[飲食・宿泊] 就業者数の推移/※出典:労働力調査(基本集計) 2022年(令和5年)2月分結果より

飲食・宿泊業界からは、コロナ禍の需要低迷期に相次ぐ時短営業などで離れてしまった働き手が戻ってこないという声が多く聞かれる。そこで、コロナ禍で働き手の職業選択の変化があったかについてみていきたい。コロナ禍でシフトが減少した人が新たな仕事を始める場合に別の職種へ変更意向があった割合は、[飲食・フード]の職種で働く人で81.2%、[販売・接客・サービス]の職種で働く人で67.8%となった。新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた飲食や接客業で働いていた人は別の職種に移りたいとしている人が多く、移動先としてはオフィスワークや軽作業といった職種を希望する人が多かった。【図7】

【図7】コロナの影響でシフト減少した人が新たに仕事を始める場合の職種/※出典:新型コロナウイルスによるアルバイトシフト減少者動向調査より
【図7】コロナの影響でシフト減少した人が新たに仕事を始める場合の職種/※出典:新型コロナウイルスによるアルバイトシフト減少者動向調査より

また、コロナ禍でアルバイトを選ぶ基準に変化があったか聞いたところ、若年層ほど「変わった」割合が高く、学生においては約半数となった。【図8】

【図8】コロナ禍におけるアルバイト選びの基準の変化(単一回答)/※出典:アルバイト就業者調査(2022年)より
【図8】コロナ禍におけるアルバイト選びの基準の変化(単一回答)/※出典:アルバイト就業者調査(2022年)より

変化した基準の内容は「コロナで経営が左右されないアルバイトを選ぶようになった(35.2%)」がもっとも多く、安定感のある職種が選ばれているようだ。【図9】

【図9】コロナ禍で変化したアルバイト選びの基準の内容(単一回答)/※出典:アルバイト就業者調査(2022年)より
【図9】コロナ禍で変化したアルバイト選びの基準の内容(単一回答)/※出典:アルバイト就業者調査(2022年)より

一方で、2022年11-12月に採用活動を実施した飲食・宿泊の企業の採用ターゲットでは「学生」が63.0%と他の業種と比べて高かったが、新型コロナウイルス感染症によるネガティブなイメージは完全には払拭されておらず、安定感を求める学生の採用はコロナ以前より難しくなっていると考えられる。【図10】以上のことから、コロナ禍において飲食・宿泊業で働いていた人は別職種に移動していることに加えて、働き手の職業選びの基準も変化しており、飲食・宿泊業の就業者数の減少に影響していると考えられる。

【図10】採用活動を実施した際のターゲット属性(複数回答)/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2022年11-12月) より
【図10】採用活動を実施した際のターゲット属性(複数回答)/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2022年11-12月) より

働き手の労働意欲に影響し、待遇改善として重要視するものとはなにか

では、人手不足が高まる飲食・宿泊業で、どうすれば働き手を確保できるのだろうか。ひとつは、急速に増加した求人のなかで、いかに他と差別化できるかという観点だ。待遇面にかかわらず、職場の雰囲気やお客様とのかかわり方など、そのお店で働くことは他とはなにがちがうのかを求職者に伝えることが、数ある求人のなかで選んでもらえるポイントになる。次に、求職者の意識からみていきたい。求職者に働く意欲が上がる要素を聞いたところ、[時給単価アップ(賃金ベースUP)]が59.9%でもっとも高く、次いで[賞与の支給(寸志・特別報奨金含む)]が54.2%、[定期昇給]が51.3%で、TOP3の項目はいずれも賃金関連となった。また、求職者が非正規社員の待遇改善に重要だと思う要素としては、[時給単価アップ(賃金ベースUP)]が69.6%でもっとも高く、次いで[有給や育休など、休日・休暇制度の拡充]が65.8%、[賞与の支給(寸志・特別報奨金含む)]が64.3%となり、賃金や休暇に関連する項目で6割を超えた。【図11】

【図11】非正規社員の待遇改善に重要だと思う要素と働く意欲の変化/※出典:非正規雇用に関する求職者・新規就業者の活動状況調査(22年5-6月)より
【図11】非正規社員の待遇改善に重要だと思う要素と働く意欲の変化/※出典:非正規雇用に関する求職者・新規就業者の活動状況調査(2022年5-6月)より

そのため、企業が働き手の確保を行うためには、非正規雇用者の賃金のアップと休日休暇の拡充が重要であるといえるだろう。

 飲食宿泊業で働き手を確保するために求められること

1.賃金アップ:求職者のニーズを考慮した待遇改善の再検討を行う

働き手の労働意欲に影響し、待遇改善として重要視されるものとしては賃金のアップと休日休暇の拡充が重要であることがわかった。まずは働き手確保の施策として「賃金アップ」について企業の意識と実施施策をみていく。2022年に企業がアルバイト人材確保のために実施した施策は、[ホールキッチン・調理補助(飲食・フード)][接客(ホテル・旅館)]でともに「給与の増額」がもっとも多くなった。【図12】

【図12】人材確保のために実施した施策(複数回答)/※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)
【図12】人材確保のために実施した施策(複数回答)/※出典:アルバイト採用活動に関する企業調査(2022年)

また、物価高が続くなか、飲食・宿泊業で非正規社員に対して金銭面での生活支援を行う必要性を感じている企業は53.5%となり、生活支援のために時給UPの対応をした企業は[飲食・宿泊]で40.0%と、[小売(50.0%)]に次いで高かった。【図13】【図14】

【図13】物価高が続く中、非正規社員に金銭面での生活支援を行う必要性を感じるか(単一回答)※回答数:57/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(22年11-12月)より
【図13】物価高が続く中、非正規社員に金銭面での生活支援を行う必要性を感じるか(単一回答)※回答数:57/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2022年11-12月)より
【図14】物価高が続く中、非正規社員に対しての時給UPの対応状況(単一回答)/※ベース:「わからない」除く、回答数30以上の業種を抜粋/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(22年11-12月)より
【図14】物価高が続く中、非正規社員に対しての時給UPの対応状況(単一回答)/※ベース:「わからない」除く、回答数30以上の業種を抜粋/※出典:非正規雇用に関する企業の採用状況調査(2022年11-12月)より

飲食・宿泊業の企業では、非正規社員に対して時給UPやインフレ手当の支給などなにかしらの形で金銭面での支援をしようという意識が他業種と比べて高い傾向にあるようだ。一方で、賃金アップに関しては物価高の影響を販売価格に転嫁できておらず収益が低迷している企業においては、非正規社員に対し金銭面での支援の必要性を感じてはいるものの対応が難しい場合もあると考えられる。また、前述したように、すでに一部の企業で賃金アップの施策は実施されているものの、求職者のニーズは依然として高いため、引き続き改善を検討する必要があるだろう。

ここからは、飲食・宿泊業で働く非正規社員の賃金をみていきたい。マイナビのアルバイト・パートの平均時給レポートによると、飲食・フードの2023年3月の全国平均時給は1,070円で、前年同月比+58円と上昇傾向にある。これは2022年10月に最低賃金の引き上げが行われたことに加えて、水際対策緩和などによる経済回復で人手不足が高まり、人材確保のためにアルバイトの時給を上げる企業が多かったことが影響していると考えられる。【図15】

【図15】<全国>5職種別平均時給推移 ※職種(大分類)を5つにまとめ集計/※出典:アルバイト・パートの平均時給レポートより
【図15】<全国>5職種別平均時給推移 ※職種(大分類)を5つにまとめ集計/※出典:アルバイト・パートの平均時給レポートより

賃金の待遇改善は進んでいるように思われるものの、業種別2022年の賃金構造基本統計調査結果から非正規社員の賃金を産業別でみると、全体の賃金は22万1300円に対して飲食・宿泊業は18万5000円となり、非正規社員のなかでも飲食・宿泊業の賃金は他産業と比べてもっとも低いことがわかる。また、飲食・宿泊業の賃金を雇用形態別でみると、正社員は28万5300円に対して、非正規社員はその7割以下の18万5000円にとどまり、非正規社員と正社員の賃金差は大きいことがみてとれる。【図16】

【図16】産業、雇用形態別 賃金/※出典:令和4年賃金構造基本統計調査より
図16】産業、雇用形態別 賃金/※出典:令和4年賃金構造基本統計調査より

以上のことから、非正規社員の賃金アップの動きがみられる飲食・宿泊業は他の業種や正社員と比べると賃金は低く、賃金アップは依然として十分とはいえず、さらなる待遇改善が必要であると考えられる。

2.休日休暇の拡充:育児介護休暇の取得要件緩和で、離職を防ぎ人材の定着を図る

次に、働き手の労働意欲に影響し、待遇改善として重要視される「休日休暇の拡充」に関して求職者の意識をみていく。特に飲食業では学生などの若年層が多く働いているイメージがあるかもしれないが、働き手を確保するためには主婦層やミドル層などにターゲットを広げる必要があり、多様なニーズに合わせて柔軟に働ける職場環境を整備することは重要だと考える。非正規社員で働いている理由では、「家事・育児・介護等との両立がしやすいから」が24.6%ともっとも高く、特に主婦層では約5割となっている。仕事と家事・育児・介護との両立のために柔軟に働けることに利点を感じ、非正規社員という働き方を選択している人が多いと考えられる。【図17】

【図17】非正規社員(アルバイト等)で働きたい理由(単一回答)※ベース:非正規社員で働きたいと答えた人/※出典:マイナビ調べ
【図17】非正規社員(アルバイト等)で働きたい理由(単一回答)※ベース:非正規社員で働きたいと答えた人/※出典:マイナビ調べ

しかし、出産・育児・介護を理由とした退職経験の有無を聞いたところ、出産では18.0%、育児では14.8%、介護では11.3%と、一定数は両立ができずに退職していることがわかった。さらに、退職経験者のうち「望まない退職」だった割合は、出産では31.1%、育児では43.9%、介護では57.5%と、介護に至っては半数以上が不本意な退職であったことがわかった。【図18】

【図18】出産・育児・介護を理由とした退職経験(単一回答)※ベース:2021年11-12月に「非正規社員の仕事を探した人」/※出典:非正規雇用に関する求職者・新規就業者の活動状況調査(21年11-12月)より
【図18】出産・育児・介護を理由とした退職経験(単一回答)※ベース:2021年11-12月に「非正規社員の仕事を探した人」/※出典:非正規雇用に関する求職者・新規就業者の活動状況調査(2021年11-12月)より

こうした育児や介護による働き手の離職を防ぎ、希望に応じて仕事と両立できるようにするために、2022年4月に育児・介護休業法の改正が行われ、「有期雇用者の育児・介護休業取得要件の緩和」が適用された。法改正前は【①引き続き雇用された期間が1年以上であり、②介護休業の場合:介護休業開始予定から93日が経過した時点で、以降6ヶ月の間に契約が満了することが明らかになっていない、育児休業の場合:子供が1歳6ヶ月までの間に契約満了することが明らかになっていない】という内容だったが、2022年4月から①が撤廃され②のみとなり緩和される。(※ただし事前に労使協定を結べば、勤続1年未満の人を除外することも可能。)【図19】

【図19】育児・介護休業法「有期雇用労働者の育児介護休業取得要件緩和」の2022年4月以降の改正内容
【図19】育児・介護休業法「有期雇用労働者の育児介護休業取得要件緩和」の2022年4月以降の改正内容

法改正により非正規社員も正規社員と同様に勤続年数にかかわらず、介護休暇や育児休暇を取得できるようになり、これまでより非正規社員の休暇取得の可能性が広がることが期待されている。また、飲食・宿泊業においても、働き手を確保するためには、新規採用者を増やすだけでなく、従業員の離職を防ぐこと重要である。法改正に加え、企業ベースでも働く人が離職せずに働き続けられる選択ができる制度の整備や活用しやすい職場環境を整えることがさらに求められるだろう。

まとめ

労働人口の減少により、飲食・宿泊業ではコロナ前から慢性的に人手不足が課題となっていたが、コロナ禍で人々の行動や企業活動が制限されていたことで一時的に人手不足は緩和されていた。しかし、感染が収束する中で飲食・宿泊業の需要が急速に増えたことに加えて、コロナ禍で働き手の職業選びの基準が変化してコロナの影響を受けにくいより安定感のある職種に移動したり、選んだりする人が増えたことで、飲食・宿泊業において、コロナ前とは異なる要因が加わり、再び人手不足が深刻化している。コロナ禍で飲食・宿泊業を離れた働き手を引き戻して人材確保を行うためには、同業種・同職種だけではなく、異業種・異職種との奪い合いになりつつあることから、他業種と比べて低水準にある飲食・宿泊業の賃金を同等以上の賃金水準に引き上げる必要性があり、このままの賃金水準では人材確保は容易ではないと考えられる。また、同業種内で非正規社員の賃金は正社員より10万300円低く、正社員と非正規社員間に不合理な待遇差がある場合は均等・均衡待遇に是正することが求められる。加えて、働き手を確保するためには主婦層やミドル層などにターゲットを広げる必要があり、人材の確保や定着を図る上では非正規社員の賃金のみならず、出産・育児・介護などの事情があっても継続して働けるような休日休暇の制度についても待遇改善を進めることが重要となるだろう。

キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実

関連記事

コラム

Z世代が思う「タイパの良い就職活動」と「タイパの悪い就職活動」 ~就活に費やす時間とスマホ普及率の関係~

コラム

柔軟な働き方で注目を集めるスポットワーカー採用の現状~企業に求められる職場環境を考える~

非正規雇用に関する求職者・新規就業者の活動状況調査(2023年1-2月)

調査・データ

非正規雇用に関する求職者・新規就業者の活動状況調査(2023年1-2月)