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もはや大手=安定ではない。ハッシュタグとしての大手企業志向

こんにちは、株式会社Strobolightsの羽田と申します。前職はマイナビで、企業の新卒採用支援やキャリア教育の事業開発を担当し、2020年に独立しました。現在は大学の講師や学生のキャリア支援コミュニティを運営し、日々学生と近い距離で彼らの本音に触れています。

今回のテーマは、就活生の「大手志向」について。マイナビ2022年卒大学生就職意識調査によると、22年卒大学生の大手志向の割合は51.1%。例年の推移を見ると2016年卒以降上がり続けているようです。

しかし、大手=安定とは言えないこのご時世で、なぜ学生はそれでも大手企業を志向するのでしょうか。今回も、数字からは読めない、現場で学生と接している立場からお届けしていきたいと思います。

転職を視野に入れて大手志向になる

少し前まで大手志向=安定志向、と解釈されていたかと思います。不確実性の高い現代社会において、経済的な安定を得るためには大手企業に就職することが近道だという考え方です。

しかし、終身雇用の実質的な崩壊や大手企業のリストラ報道など、大手企業に入れば一生安泰、という時代ではもはやありません。そしてこのことは学生たちも理解しています。

その中で、なぜ学生は大手を志望するのか。最初にご紹介したいのは「転職を視野に入れた大手志向」についてです。

ここ最近、学生に特徴的な変化が現れました。それは、「転職」に強い関心を持つ大学生が増えた、ということです。私は主催する学生コミュニティで社会人をゲストに呼んだオンライントークイベントなどをよく開催しているのですが、転職経験が多い社会人を呼ぶと参加人数が増え、転職活動の実態などを興味深く聞いています。

すでに終身雇用の時代ではなく、新卒後入社した会社で一生涯働くわけではない、ということを学生たちが理解しているということでしょう。まだ就職活動も終わっていない段階から、自分もいつか転職をするのだろうな、と考えているのです。そして、大手企業に入れば転職に有利、と学生は思っている。キャリアのない状態で様々な企業に就職できる「新卒カード」を使うなら、大手企業だろうと学生は考えるのです。

ひと昔前に比べて転職活動は社会的にも一般的になってきましたが、その波は大学生のキャリア意識にも影響していたということです。大手企業に入ってそこでお世話になろう、と考えるのではなく自分でキャリアを作っていく、という意識が学生なりに芽生えているのです。

しかし、転職活動は実績とスキルがものを言う世界。ポテンシャル採用である新卒就活とは根本が違うのですが、そうした実態を学生が理解できているかというとそうではありません。具体的に転職を含めたキャリアプランを持っているわけではなく、あくまで未来のための情報収集くらいの捉え方で止まっています。もちろん、転職活動の本質なんて学生はまだ理解しなくてよいのですが、「大手に入社したら一生安泰ってことではないのだ」と理解していること自体はよい傾向だと言えるでしょう。

ハッシュタグとしての大手志向

本コラム記事で私がもっとも書きたいのはこれについてです。学生にとって大手企業とは、ハッシュタグのようなものなのです。

ハッシュタグとしての大手志向とはどういうことか。ご説明していきましょう。

ハッシュタグは、自分の存在価値

ハッシュタグとは、SNSなどで使われるタグのこと。ユーザーが何かを投稿するときに「#」とつけ、その後にキーワードを入れるとタグとして認識され、ハッシュタグによる検索をかけることができるようになります。元々はSNS上で検索する際の利便性を向上させる仕組みでしたが、このハッシュタグが自分を表現する装飾物の一つのように使われることの方が増えています。インスタグラムではこのハッシュタグを何個も何個もつけることで自己表現をする若者が多いのです。

学生と面談をしていて深く深く聞いていくと、彼らは大手企業に入ることで自分の存在価値を維持したい、という欲求を持っています。簡単に言ってしまえば「ステータスが欲しい」のですが、どうも最近の学生のそれはもうちょっと後ろ向きです。「ステータス」とは本来、一般的な人よりも上にいることの証明を指す言葉だと思います。
ところが最近の学生の大手志向は「他の人より優れていたい」ではなく「平均より下にいたくない」という後ろ向きなマインドなのです。「就活の成功=大手企業への就職」と考える人も少なからずいると思いますが、学生の場合はそれが自分の人生を決定づけるとすら思ってしまっています。大手に入ることで、自分の価値が生まれる、と思っているのです。

自己肯定感の低い大学生が生まれる理由

学生と話していると、自己肯定感が低い学生が本当に多いな、と驚きます。私個人の学生時代を振り返ると、自己肯定感が高かったわけでもありませんが、特段低いわけでもなかったと思います。そもそも、自分を肯定したり否定したりする習慣すらあまりなかった気がしますし、私だけではなく周囲の友人もそうだったと思います。

現代の学生は自分に自信がない。なぜかというと自分で何かを成し遂げたり乗り越えたりしたことがないからです。ではなぜそうした経験がないかというと、ネットで調べれば大抵のことがわかる世の中、どうすればうまくいって、何をしたら失敗するか、が事前にわかってしまうからでしょう。インターネット以前は調べる術すらなく、とりあえず行動してみて失敗してそれでもどうにかこうにかやってきました。だから「なんとかなるかな」という最低限の自信は持ちようがありました。でも今の学生は事前にリスクヘッジできてしまうので、大きな失敗も困難も経験する機会が少ないのだと思います。

結果、自分で何かを乗り越えたことがないので自信が持てない。でもSNSを見るとみんな輝いて見える。そう、現代の若者はSNSを通して他者の生活の一部を垣間見ることができてしまいます。そして、他人との比較を通して自分の価値を認識しているのです。

大手企業に入れば、承認欲求が満たされると思っている

現代の学生にとっての大手企業とは、安定した人生を送るための手段ではなく、自分の承認欲求を満たすためのものなのです。「大手企業内定」というハッシュタグが欲しいのです。

就職先を聞かれたときに、誰もが知ってるような社名を言いたい。「すごいじゃん」と言ってもらいたい。
そんなくだらない理由で、と思われる方もいるかもしれませんが、学生たちにとってハッシュタグは重要なのです。インターネット登場以前は、私たちの人間関係は物理的に視線の届く範囲でしか存在しませんでしたが、現在はSNSを通して人間関係は無限に広がっています。その中で自分を簡潔に表現するハッシュタグは、とても重要なツールなのです。

もちろん、やりたいことが明確になっている学生はこの限りではありません。他者と比較して自分の価値を測るようなことはせず、自分のやりたいことに突き進みます。そして彼らは自分の夢、ビジョンというハッシュタグを持っています。学生たちが喉から手が出るほど欲しいものです。この「やりたいこと」については以前「学生を追い詰める、「やりたいことを探そう」の罪深さ」という記事で書いたことがあるのでご参照ください。

やりたいことがある学生は輝いて見える一方、やりたいことが見つからない学生にとっては、大手企業から内定をもらうことが自分の存在証明。学生たちとのこんな会話をご紹介します。

「やりたいことがないからこそ、立場が欲しいんです。だから大手企業に行きたいんですよ」

「私は大学受験で失敗し、志望していなかった大学に行かざるを得ませんでした。だから就職では失敗したくない。絶対大手じゃなきゃいやなんです」

「結局、”大手に入った私”が欲しいんだと思います」

「ハッシュタグとしての大手」には疑問を感じる

いかがでしたでしょうか。「大手志向の学生は安定志向なんだな」と考えていた方からしたら驚かれたかもしれません。繰り返しますが、大手が安定とは言えないなんて、学生だってわかっているのです。

私は、大手志向は悪いとは思いません。キャリアがなく企業や社会、ビジネスの世界をまるで知らない学生たちが見た目も派手な大企業に憧れるのは致し方ない部分も多いでしょう。大手イコール安定とは言えませんが、財務基盤がしっかりしている大手企業の方が事業投資もしやすく、新しいチャレンジをしやすいとも言えるでしょう。

ただ、これまで書いてきた「ハッシュタグとしての大手」には疑問を感じます。会社の事業概要、理念に対する理解や共感があり、仕事との相性が良ければいいですが、そうでなかったら早期離職待ったなしでしょうし、そもそもそんな浅はかな理由で競争倍率も高い大手企業から内定がもらえるとも思えません。「ハッシュタグとしての大手」は言ってしまえば、自分の価値証明を外部に依存しているということであり、それは最近よく耳にする「キャリア自律」と逆行しているとも言えます。

他者との比較の中で自分の価値を作るのではなく、自分の価値は自分で作り、認められるようになる。そのためには失敗や成功した体験を積むことが大切です。

そしてそれは就活が始まってからでは遅く、もっと早い段階から「自分で動く」機会を提供をして意識を根本から変えていく必要があります。以前も書かせていただいたことがありますが、だからこそ低学年からのキャリア教育が重要なのです。

羽田啓一郎
株式会社Strobolights
代表取締役社長

著者紹介
立命館大学卒。株式会社マイナビにて大手企業の新卒採用支援を経て、学生向けキャリア支援プロジェクト「MY FUTURE CAMPUS」「キャリア甲子園」「キャリアインカレ」「課題解決プロジェクト」「キャリア教育ラボ」等を立ち上げ、国内最大規模までグロース。2020年に独立、株式会社Strobolights設立し、小学生から若手社会人までのキャリア支援サービスを展開。早稲田大学、立命館大学、昭和女子大学、武蔵野大学などで就活やキャリア教育の講義も担当。

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