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バブル経済期1991年入社の新入社員座談会から当時と今の就活を比べてみた

今から約30年前のバブル経済の時代、大学生の就職状況は極めてよく、1991年卒の大卒求人倍率は 2.86 倍(リクルートワークス研究所)に達した。この倍率は統計開始後の最大値であり、現在に至るまでこの倍率を超えた年は無い。

当時、マイナビ(旧社名:毎日コミュニケーションズ)が取引先向けに無料配布していた「月刊コミュニケーション」という冊子が存在したが、この冊子の1991年8・9月合併号で「社会人一年生座談会」という特集記事が掲載されている。

この座談会に参加したのは1991年4月に「鉄道会社」「旅行代理店」「消費財メーカー」「電機メーカー(2名)」に新卒で就職した社会人1年生5名で、勤務先(就職先)の社名は伏せられているが、話の内容から大手人気企業に入社したメンバーによる座談会であることがうかがえる。

この座談会に出席した5人の話をもとに、「過去最高の求人倍率」の中での就活はどのようなものだったのか?を紐解いてみたい。

「月刊コミュニケーション」(1991年8・9月合併号)の写真
「月刊コミュニケーション」(1991年8・9月合併号)

就活スタートは卒業年度前年の12月、内々定は卒業年度の夏休み前

※以下、水色背景は「月刊コミュニケーション」(1991年8・9月合併号)からの引用

司会:今日は、内定前後から入社までの期間について、前年を振り返っていただきたいと思います。お集まりいただいたのは、この春、社会人になられたばかりの5人の新入社員の方々、つまり前年の今ごろに就職活動されていたわけですよね。まず、内定が出た時期について教えてください。
A(鉄道会社勤務):ぼくは、すこし早かったようです。たしか6月28日ですね。
B(旅行代理店勤務):くわしくは覚えていないのですが、だいたい7月20日前後です。
C(消費財メーカー勤務):ぼくもそのくらい。7月中旬には内定の通知がありました。
D(電機メーカー勤務):7月20日ですね。
E(電機メーカー勤務):ぼくも同じ7月20日です。

1990年当時、「会社訪問は(卒業年度の)8月20日解禁、採用内定・試験解禁は10月1日」という「就職協定」が存在していたものの、実態としては大手人気企業においても(卒業年度の)夏休み前には内定がでていたようである。

現在(2022年卒)の就活においては「内々定だし」開始のピークが(卒業年度の)「4月」ということを考えると(下図参照)、企業の採用意欲が高い年だったにも関わらず、随分「遅い」印象を受ける。

当時はインターネットの普及前で、就活ツールの“主役”は就職情報会社が無料で送ってくる「就職情報誌」や「ダイレクトメール(郵送物)」であったが、それらが学生の手元に到着し始めるのは「卒業年度前年(3年生)の12月」からであった。

現在は卒業年度前年(3年生)の夏ごろから「就活前の事前準備ともいえるインターンシップ」が開催されているが、1990年当時そういったものは存在しておらず、学生が就職を意識し始めるのは早くて「卒業年度前年(3年生)の12月」からであった。「超売り手市場」の環境下とはいっても、意外と就活のスタート時期は遅かったのである。

《企業アンケート》 採用局面別の開始時期(2022年卒/予定)

2022年卒採用局面別の開始時期:マイナビ2022年卒企業新卒採用予定調査
出所:マイナビ 2022年卒 企業新卒採用予定調査

  

今より多かった「重複内定」

司会:みなさん、入社を決意された会社のほかに、別な企業から内定をもらっていたということはありませんでしたか?あるいは人事の人に「重複内定している人は、よその企業をはっきりと断ってください」というようなことをいわれませんでしたか?
A(鉄道会社勤務):ぼくが内定をもらったのは、その企業ーつまり現在の勤務先ですがー1社のみです。(途中省略)
B(旅行代理店勤務):ぼくはいまの会社のほかに、ホテル関係のところでもらっていたんですが、誓約書に印を押してほしいといわれたので「ほかに決めたところがありますから‥」と言って断りました。かなりイヤミを言われましたが…
E(電機メーカー勤務):かなり強引に引きとめられた?
B(旅行代理店勤務):いや、結局はけっこう簡単に断ることができたね。企業としても、その気のない学生を追いかけてもしかたがないってわかっているんじゃない。    

司会者からこのような質問がでた背景には現在より「重複内定」が多かったからであろう。この年、文系学生ひとりあたりの平均内々定社数は男子学生が3社、女子学生が2.5社となっており、2022年卒の男子学生2.1社、女子学生2.1社(マイナビ 内定者意識調査)と比較した場合「やや多い」程度の印象だが「10数社から内々定を受けた学生もいた」や「(文系男子の)4分の3は複数の企業から内々定」などの状況(月刊コミュニケーション1990年10月号「就職戦線中間報告」)をみても、内々定までのハードルが現在と比較して低く、判りやすくいえば「簡単に、あっさりと」内々定をだす企業も多かったように思う。

準大手・中堅・中小企業や大量採用の企業は大手人気企業の動きが活発化する前(2月~5月ごろ)にどれだけの学生と接触し、内々定まで持ち込めるかが勝負であり「じっくり選考」している余裕などなかった。当時、学生への連絡手段は「郵送」か「電話」であり、企業の採用活動自体の作業効率も悪く、内々定までのスピードをあげるためにもそうせざるを得ない状況だったのだろう。

一方、就職戦線全体に影響力をもつような大手人気企業のほとんどは「就職協定遵守懇談会」に参加していたため、採用活動のほとんどが「水面下での動き」(5月の連休明けぐらいから若手社員を仲介者として出身大学の後輩学生との接触が始まる)であり、本格的な選考に舵を切るタイミングは同業や同ランクの企業を常に「横睨み」しての活動であった。採用活動の実態が公表されることもないので、学生にとっても「情報戦」だったと思う。

現在のようにあらゆる情報がインターネット上で確認できる時代ではなかったものの「早くから動く一般企業群」と「一定の時期まで動かない(動けない)大手人気企業群」は暗黙のうちに線引きされており、「本命企業がまだ動かないから“練習”のつもりで早くから動いている企業の選考を受けてみる」学生は結構いたように思う。それが空前の売り手市場と相まって、学生ひとりあたりの内々定社数を引き上げたのではないかと考えられる。

「小遣い程度の支度金」は普通にあった

司会:内定後に支度金をもらったなんて話はありませんか?
D(電機メーカー勤務):支度金?さあ、聞いたことありません。
B(旅行代理店勤務):運輸会社に内定した友達が3月はじめくらいに会社所有のマンションに引っ越して、そのときかかった引っ越しの費用は、すべて会社が出してくれたそうです。ぼくもそのとき手伝いに行ったのですが、引っ越し費用以外にも、いくらか支度金をもらってたみたいです。
D(電機メーカー勤務):ああ、そういうのなら。うちの会社も寮があるので、そこに引っ越すときにかかった費用と、それ以外に「生活用品などそろえなさい」と何万円かお金をもらいました。
E(電機メーカー勤務):あとクルマをくれるとか、スーツをつくってくれるとかいう話も、よく耳にしますが、実際はどうなんでしょうね。そこまでやっている会社がはたしてどれくらいあるか。

1980年代後半から90年代前半のバブル経済期における就活を振り返る際の定番ネタといえるのが現在では考えられないようなエピソードの数々である。

この時代、多くの企業が会社説明会や面接のための交通・宿泊費を支給していたため、地方在住の学生が複数企業の会社説明会や面接に参加することで交通・宿泊費を浮かし、そのお金でクルマを買ったとか、10月1日の「内定出し」解禁日に来た学生が「入社確定」になるため、その日に他社に行かないための「海外旅行」に連れて行ってもらった(「拘束旅行」と言われていた)などの話である。

この座談会に参加した5人の話では(引用以外の部分も含めて)そこまでの話は登場しないが、座談会ででたような「小遣い程度の支度金」をもらったケースは普通にあったと思われる。

内定辞退の歯止めは?の問いに「何をしてもムダです」

司会:みなさんの場合は、希望通りの会社に決まったから、わりと余裕があったみたいですね。しかし、会社側としては「本当にこの人は来てくれるかな」「この人は逃げてしまいそうだな」とか考えますね。そういう不確定要素をどうにか押さえておくときには、いったい何をしたらいいのでしょう。
C(消費財メーカー勤務):去るものは追わず(笑)。
D(電機メーカー勤務):何をしてもムダですよ。
A(鉄道会社勤務):そうですね。何かされたらされただけ、その会社がイヤになってしまうだろうな。ホテルにカンヅメとか、あれはほとんど犯罪ですよね。

司会:じゃあ質問を変えて、もしみなさん自身が第一志望の会社から内定がまだ来ない段階で、それ以外に内定をもらった会社から、通信教育などの事前研修を受けることになったとします。その場合どう対応しますか?
C(消費財メーカー勤務):今は売り手市場ですから、拘束を受けてまで内定を確保しようとは思いません。はっきりと、お断りしますね。
D(電機メーカー勤務):第一志望ではない企業に拘束を受けて、いつの間にか就職しているという人もなかにはいますけどね。
B(旅行代理店勤務):第一志望から内定が出ていなくてもギリギリで逆転というケースもありますし、いざとなったら留年しちゃうという手もありますからね。やっぱり断ります。
A(鉄道会社勤務):うちの学校の場合、メーカー、コンピュータ関係から来ている求人のなかから選べばいいので、就職活動しなくていいんです。その求人も大手が多いですからね。希望を申し出ればすぐに教授が推薦書を書いてくれて、決まってしまうんです。6月、7月の段階で、希望のところがダメそうだったら、違うところに変えればよかったんです。 

この座談会が掲載された「月刊コミュニケーション」という冊子は企業の採用担当者向けに作られた冊子なので、司会者も“内定辞退の歯止め”になるような効果的な方法を引き出そうとしたのだろうが、あえなく「何をしてもムダ」と切り捨てられてしまっている。

さらに質問の角度を変えてみたものの、参加者の多くは「第一志望ではない企業から拘束がかかったら辞退する」と答え、極めつけは鉄道会社勤務のAさんによる「来ている求人の中から希望を言えば教授が推薦書を書いてくれて、決まってしまうから就活はする必要がない」という発言である。

今の学生からすればAさんの発言は相当「強気」に映るが、当時の理系学生(特に電気、電子、機械系学科の学生)の就活の主流は「学校(教授)推薦」での就職であり、「推薦状」さえあれば形式だけの面接を受けて「すぐに決まってしまう」ケースが多かった。

特に有力大学の理系学部の研究室ともなれば大手有名企業からの「推薦依頼」が多数来るので、教授がその「割り振り」に苦心したとか研究室のメンバー同士で話し合って決めた、中には「ジャンケン」で決めたなどというエピソードは普通に存在した。

就活に“良い時代か悪い時代か”は
求人倍率の高低だけでは測れない

(引用した部分以外の話を含めて)この「座談会」には「自己分析」や「将来のキャリアアップ像」の話はまったくでてこない。ほとんどが就職(採用)活動の「手法論」の話である。

この時代には「自己分析や将来のキャリアアップ像といった発想は無かった」といわれればそれまでだが、学生も企業も「どのような手法(手段)を使うことで就職(採用)活動を成功させるか」に終始していたように思える。

「どんな働き方をしたいと思うのか」「ビジネスパーソンとしてどんなスキルを磨き、どのようなキャリアを実現したいのか」などの視点はほとんどなく、たとえば「旅行が趣味だから旅行会社でツアーを企画したい」「自動車が好きだから、自動車の機械設計に携わりたい」といった程度の理由で志望企業を決めている学生がほとんどだったのではないか。

企業側も学生の行動特性や価値観を“深堀り”して選考する余裕など無く、実態として学生の“スペック”と“仲間に加えたい学生かどうか?”でほとんど合否が決まっていたように思える。大量採用の企業や不人気業界の企業、中堅・中小企業に至っては「自社を希望さえしてくれれば、よほどひどい学生でない限り、とりあえず内々定をだす」というスタンスのところも多かった。

そんな就職(採用)活動であったとしてもその企業での仕事が「天職」となり、30数年が経った今でもその企業で活躍している人はいるわけで、そういう意味では「就活など難しく考える必要はない」という考え方もあるだろう。

現在の就活では「自己分析してもやりたい仕事がでてこない」「どのようなキャリアを積めばいつの時代でも通用するビジネスパーソンになれるのか判らない」など準備段階で行き詰まってしまう学生もいるようなので「就活における“ねばならない”の弊害」も無いとはいえないが、当時と比べれば業界や企業の情報は格段に入手しやすくなっているうえ、企業の「水面下での動き」が減った分、就活に意欲的に取り組みたい学生にとってはやりやすい環境になっていると思う。

就活学生は「時代背景や企業の採用意欲」によっていつの時代も翻弄されてきたが“良い時代か悪い時代か”は単に求人倍率の高低では測れないものが存在するといえる。

1990年と2020年における就活環境の違い、総務省統計局・文部科学省学校基本調査
1990年と2020年における就活環境の違い

※本文中の引用はすべて「月刊コミュニケーション」(1991年8・9月号)「社会人1年生座談会」からの引用


綿貫 哲也 (株式会社マイナビ 支社業務推進担当)

1987年 毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)入社。就職情報事業本部 営業職として、250社の採用募集活動に携わる。管理本部総務部長、沖縄支社長、埼玉支社長などを歴任。埼玉県経営者協会をはじめとした経済団体等で企業経営者、採用担当者向け講演多数。特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 キャリアコンサルタント(国家資格)、日本キャリア開発協会会員(CDA)、著書に「中小企業の採用担当者へ!これが新卒獲得のノウハウです」(実務教育出版)。

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