マイナビ キャリアリサーチLab

就職企業人気ランキングの変遷に見る学生の志望企業

栗田 卓也
著者
キャリアリサーチLab所長
TAKUYA KURITA

4月9日に「マイナビ・日経2022年卒就職企業人気ランキング」がリリースされた。今年は新型コロナウイルス蔓延の影響を受け、これまで文系ではつねに上位にランクインしていた旅行・航空系の企業が順位を落とし、代わりに巣ごもり需要により音楽・出版・ゲーム・小売系の企業が順位を上げるなど、ランキングが大きく変化している。また理系では、根強い人気の食品系企業に加え、コロナ禍でより安全に移動する手段の一つとして注目される自動車関連企業が順位を上げるなど、世相を反映した変化がみられた。
このように、就職企業人気ランキングは時代を反映した興味深い調査だといえる。そこで今回のコラムでは、弊社が1978年から調査している「就職企業人気ランキング」の文系総合・理系総合それぞれ10位までのランキングを、1980年から10年ごとに当時の状況と併せて振り返ってみたい。また、各上位50社の業界別社数を使って、時系列変化もひもといていく。なお、社名は発表当時のまま掲載し、業種に関しては直近の業種分類に照らし合わせて集計を行っている。
※「マイナビ・日経2022年卒就職企業人気ランキング」の詳細はこちら

過去ランキングを10年ごとに、時代背景と共に振り返る

■1980年 ・・・ 「商社・総合電機メーカー人気」時代 景況感〇 就活〇

2022年卒で文系総合1位の東京海上日動火災保険(当時:東京海上火災保険)は1982年以来のトップとなった。当時のランキングを1981年卒(1980年調査)で振り返ってみると、文系では上位10社中「商社」が3社と人気が高かったことがうかがえる。当時の東京海上火災保険は9位にランクインしていた。 理系では上位10社中「総合電機メーカー」が6社と人気が集中している【図1】。
この時代は円高不況の入口ではあったが国内の消費意欲は高く、完全失業率が2.1%と景況感はよい状況にあった。大学生(学士)の卒業人数は38.6万人(男性29.1万人、女性9.5万人)と、現在の大学生(学士)57.3万人(男性30.5万人、女性26.8万人)の6割程度で、男子学生に人気だった企業が上位となっている。

文系・理系別人気の企業ランキング/マイナビ就職企業人気ランキング1980年調査
【図1】マイナビ就職企業人気ランキング1980年調査(1981年卒)

■1990年 ・・・「楽観的大手志向」時代 景況感◎ 就活◎

バブル景気真っ盛りの1991年卒(1990年調査)は完全失業率も2.3%と低く、就職活動は非常に楽な年だった。学生の意識も楽観的で、就職志望先は大手企業を志向する傾向が高かった。ランキングにおいても文系上位10社中、海外の華やかなイメージを持つ「航空」2社に加え、安定経営のイメージを持つ「銀行」が3行ランクインしている。「自動車」は理系上位10社中3社が入り、当時のF1ブームを背景に男子の人気が高かった【図2】。大学生(学士)の卒業人数は42.8万人(男性30.8万人、女性12.0万人)と、女子学生が徐々に増え始めている。

文系・理系別人気の企業ランキング/マイナビ就職企業人気ランキング
1990年調査
【図2】マイナビ就職企業人気ランキング1990年調査(1991年卒)

■2000年 ・・・ 「各業界トップ志向」時代 景況感× 就活×

就職氷河期のもっとも厳しかった時期に当たるのが2000年だ。求人倍率は1倍を下回り、完全失業率も4.7%と高く、学生の就職活動は困難を極めた。ランキングにおいては文系上位10社中、「旅行」2社、「航空」2社以外は各業界1社ずつとなり、厳しい環境の中でも憧れの業界を視野に入れつつ、「安定」を求めて各業界トップ企業を志望する傾向がみられた。理系上位10社においても「自動車」2社、「建設」2社以外は各業界1社となり、文系同様に業界トップが上位を占める傾向がみられた。またこの時期に急速に普及した携帯電話の影響で、NTTドコモ(NTT移動通信網)が文理共にランクインしている【図3】。大学生(学士)の卒業人数は54.5万人(男性33.6万人、女性20.9万人)と、1991年卒と比較すると女子学生がほぼ倍増しており、文理共に資生堂がランクインしている。

文系・理系別人気の企業ランキング/マイナビ就職企業人気ランキング
2000年調査
【図3】マイナビ就職企業人気ランキング2000年調査(2001年卒)

■2010年 ・・・「食品人気」時代 景況感× 就活×

リーマンショックの影響下にあった2010年は完全失業率が5.1%と高く、経済環境も厳しい状況が続いていた。ランキングにおいては文系上位10社にオンリーワンサービスを提供する「オリエンタルランド」がランクインした。理系上位10社では今年トップに返り咲いた「味の素」をはじめ、「食品」が3社ランクインするなど、この頃から不況に強く身近な商品である「食品」業界の躍進が目立つようになってきた【図4】。大学生(学士)の卒業人数は55.2万人(男性31.1万人、女性24.1万人)で、理系においても女子学生の人数が増加していた。

文系・理系別人気の企業ランキング/マイナビ就職企業人気ランキング
2010年調査
【図4】マイナビ就職企業人気ランキング2010年調査(2011年卒)

■2020年・2021年 ・・・「安定志向」時代 景況感△ 就活△

コロナウイルスの影響下にあった2020年の完全失業率は2.8%と悪化はしたものの、それ以前の人手不足感を受けて、この40年で見ると比較的低い状況にあった。ランキング調査期間の大半が非常事態宣言前ということもあり、「旅行」や「航空」などがランクインしていた【図5】。それが1年後の2021年調査ではコロナの影響を受けた「旅行」や「航空」は文系上位10社外となり、代わりに「生損保」が3社ランクインするなど、大幅に顔ぶれが入れ替わっている【図6】。大学生(学士)の2020年卒業人数は57.4万人(男性30.6万人、女性26.8万人)と、ほぼ男女半々の比率になっている。

文系・理系別人気の企業ランキング/マイナビ就職企業人気ランキング
2020年調査
【図5】マイナビ就職企業人気ランキング2020年調査(2021年卒)
文系・理系別人気の企業ランキング/マイナビ就職企業人気ランキング
2021年調査
【図6】マイナビ就職企業人気ランキング2021年調査(2022年卒)

上位50位内の業界別社数で時代の変遷を見る

これまで文理上位10社の過去ランキングを10年ごとに、時代背景と共に振り返ってきたが、次に上位50社にランクインした企業データを基に、業界別社数推移を比較する事で、どのような変化を示しているのか文系と理系に分けて確認してみたい。

■業界社数別比較(文系)

まず文系を見てみると、1980年・1990年は特定の業界に偏る傾向にあったことが分かる。当時は「銀行・証券」、「商社」、「電子・電気機器」に人気が集中していたが、これらの業界は近年各業界とも2社程度にとどまっている。また、2000年や2010年に人気のあった「マスコミ(放送・新聞・出版・広告・芸能)」も現在は6社となっており、詳細に見るとテレビや新聞等のメディア企業に代わり、広告や音楽系企業がランクインするようになっている。ここ数年は「食品」、「生保・損保」などの安定的なイメージが強い業界や、「スポーツ・ゲーム製品・その他メーカー」などの企業が人気を集めている【図7】。

文系の社数推移/マイナビ就職企業人気ランキング調査
【図7】文系の社数推移/マイナビ就職企業人気ランキング調査

■業界社数別比較(理系)

続いて理系を見てみると、1980年・1990年は「電子・電気機器」や「自動車・輸送用機器」の割合が高かったが、近年は割合が下がっている。代わりに2000年ごろから「食品」、「薬品・化粧品」の割合が増加し、いまも一定の割合を占めている。これは女子学生の人数増加に伴って人気業界が徐々に変化していることや、文系と同じく「安定」を求めて当該業界を志望する割合が高くなっていることが原因と思われる。

理系の社数推移/ マイナビ就職企業人気ランキング調査
【図8】 理系の社数推移/ マイナビ就職企業人気ランキング調査

最後に

改めてこの40年を振り返ると、つねに上位に名を連ねる普遍的人気を誇る企業や、合併などにより、いまではなくなった懐かしい社名など、時代の移り変わりを感じる結果となっている。真剣に就職活動を行う学生に入社したい企業として名を挙げてもらえることは、企業にとって自社のブランド価値が高まる一要素となろう。これからのwithコロナ時代において、ランキングがどのような変遷をたどるのか、見守りつつ分析を行っていきたい。

キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也

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