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所得倍増は実現するか!?
日本の賃金水準を確認する

2021年10月に新しく誕生した内閣は、目玉政策の一つとして「令和版所得倍増計画」を掲げた。成長と分配の好循環によって幅広く所得を引き上げ、中間層の支援強化を目指すという。実現可能性については、さまざまな意見が出ているようだが、この機会に労働者の賃金の現状を確認しておきたい。

企業規模が大きいほど賃金カーブの傾斜は急に

まず、正規社員、非正規社員を含む一般労働者の企業規模別賃金カーブを確認してみると、男女いずれも企業規模が大きいほど傾きは急になっており、男性では、常用労働者1,000人以上の大企業の場合、50〜54歳でピークに達し(485,400円)、常用労働者100~999人の中企業と、常用労働者(※)110~99人の小企業では、どちらも55〜59歳がピークとなっている(中企業/419,600円、小企業/349,100円)。

女性の場合は、男性と比較してどの企業規模でも賃金カーブが緩やかになっているのが特徴で、賃金ピークは大企業が40〜44歳(289,000円)、中企業が50〜54歳(282,200円)、小企業が55〜59歳(252,400円)という結果となっている。これは女性の非正規社員比率が男性に比べて高く、年齢が上昇するほど非正規社員比率が高まる傾向にあるためで、賃金カーブが緩やかで平均賃金も低く抑えられている。※参考:年齢階級別非正規雇用労働者の割合の推移(男女共同参画局)

※毎月勤労統計調査では、常用労働者は以下のように定義されている。
(1)期間を定めずに雇われている者。
(2)1カ月以上の期間を定めて雇われている者。
尚、パートタイム労働者も常用労働者に含まれる。

産業別で特徴的な賃金カーブ

次に、一般労働者の主な産業別の賃金カーブについて確認する。一般労働者には常用労働者の正規・非正規の社員と職員が含まれる。

男性の場合は、産業別の賃金カーブはかなり大きな違いがある。各賃金カーブのピークを比較すると、「金融業、保険業」の636,100円(50〜54歳)がもっとも高く、次いで「医療、福祉」の597,400円(70歳〜)、その次が「情報通信業」の561,100円(55〜59歳)となっている。
女性の場合は、産業による差が男性と比較して小さく、もっとも高いのが「情報通信業」の458,400円(55〜59歳)で、次が「金融、保険業」の359,300円(70歳〜)、その次が「医療、福祉」の288,800円(55〜59歳)となっている。

正規、非正規で賃金ピークに大きな開き

雇用形態別の賃金についても確認しておこう。男女とも「正社員・正職員」と「正社員・正職員以外」の差は大きく、特に男性の場合は、「正社員・正職員」の賃金ピーク(435,300円/55~59歳)と「正社員・正職員以外」の賃金ピーク(266,700円/60~64歳)にはかなり大きな差がある。

女性の場合は、男性ほどではないが、それでも「正社員・正職員」の賃金ピーク(303,600円)と「正社員・正職員以外」の賃金ピーク(200,600円)には大きな差がある。女性の場合は、金額差だけではく、賃金ピークに達する年齢にも特徴があり、「正社員・正職員」の賃金ピークは「55~59歳」であるのに対し、「正社員・正職員以外」の賃金ピークは「35~39歳」となっている。

各種世帯の平均所得は2013年以降改善の傾向

ここまで、労働者個人の賃金について、企業規模別、産業別、雇用形態別に確認してきたが、次に世帯ごとの所得金額について確認しておきたい。「国民生活基礎調査」では、各種世帯の平均所得金額を年次で集計している。下のグラフは、1989年〜2018年まで約30年にわたる平均所得金額をグラフ化したものだ。

2018年の1世帯当たりの平均所得金額は、「全世帯」が5,523,000円。「高齢者世帯」が3,126,000円、「高齢者世帯以外の世帯」が6,593,000円、「児童のいる世帯」が7,459,000円となっている。全体の傾向としては、バブル期後半から1996年頃にかけて平均所得は増加したが、その後は2013年頃まで15年以上も減少が続き、その後ようやく増加に転じている。この傾向が続けば、2019年、2020年とさらに所得金額は増加しているはずだが、2020年以降については、コロナ禍に直面したため、頭打ち、あるいは減少に転じている可能性もある。

長期低迷する日本の平均賃金

世帯全体の所得金額については、2013年以降上昇傾向にあることがわかったが、労働者個人の給与の状況についても確認しておこう。下のグラフは、一般労働者とパートタイム労働者を含む常用労働者の月間の給与を事業所規模別にまとめたものだ。「現金給与額」とは、所得税、社会保険料、組合費、購買代金等を差し引く以前の総額のことで、「きまって支給する給与」には、基本給、家族手当、通勤手当等の「所定内給与」のほか、時間外勤務手当や休日出勤手当のように所定労働時間外の労働に対して支給される「所定外給与(超過労働給与)」も含まれる。

これを見ると、いずれの事業所規模でも1997年をピークに約15年間減少が続き、2013年頃より徐々にではあるが増加しているのがわかる。まさに、「給料が上がらない」という実感を持っている労働者が多いことを、如実に裏付ける調査結果だといえるだろう。

1990年代後半から日本人の給与が微減、あるいは横ばいに推移した結果、日本人の給与は世界で比較しても相対的に順位を下げている。下のグラフは、OECDが発表している平均賃金の国際比較表をグラフ化したものだ。平均賃金は、国民経済計算に基づく賃金総額を、経済全体の平均雇用者数で割り、全雇用者の週平均労働時間に対するフルタイム雇用者1人当たりの週平均労働時間の割合を掛けることで得られる。

これを見ると、日本人の平均年収は、世界のランキングで23位、主要先進国(G7)の中では、米国、カナダ、ドイツ、イギリス、フランスに次いで6位と低迷。金額比では日本は米国の55.5%、ドイツの71.6%、イギリスの81.6%となっている。1990年のランキングでは、日本は世界で13位、G7では米国、カナダ、イタリアの次に位置づけていたので、30年間で日本は大きく順位を下げたことがわかる。

新規学卒者の初任給増加が明るい材料に

長期的に労働者の賃金が伸びないなか、新規学卒者の初任給については、長期的に上昇の傾向が続いているようだ。「賃金構造基本統計調査」によると、バブル崩壊後の1990年代後半以降、上昇度合いは緩やかではあるものの初任給は少しずつ上昇を続けている。大学院・修士課程修了に関しては2005年以降のデータしかないが、学歴が上になるほど初任給が高いというのは男女とも共通で、その差は一定のまま、どの学歴でも初任給は上昇しているようだ。

従来、日本の賃金は年功賃金制の下で賃金後払い方式がとられ、年齢別に見ると若年層は実質的な生産性より低く抑えられているとされてきた。若年層の場合は、給与以外に教育研修にかけるコストもかさむため、給与を上げることは難しいとされてきたが、若年労働者不足、採用難を背景に、若手人材の賃金水準を見直すことで採用競争力を高め、賃金と生産性の不均衡を解消する方向へ進んでいるのかもしれない。

いずれにしても、長期的な賃金水準の低迷に加え、コロナ禍によって大きな痛手をこうむっている業界は少なくない。国内の格差是正、低賃金からの脱却を目指す新政権の手腕に期待したい。

著者紹介 吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー

1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)

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