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シニア雇用の現状とお金事情~働く必要がありそうな高齢者は6割?~

はじめに

前年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」。弊社が前年末に実施した「マイナビ企業人材ニーズ調査」によると、「70歳までの就業機会確保」の努力義務に対して、定年引き上げを含めた何らかの雇用継続制度を準備した企業は6割となっている。その内訳は以下の通り【図1】。一方で、いずれの対応も行わない予定の企業が3割強存在しており、高齢者(65歳以上で定義)の就業環境は、雇用継続の方向で改善されつつあるものの、まだ道半ばといったところではないだろうか。そこで今回は高齢者雇用をめぐる現状について、企業と求職者両方の視点で整理してみたい。

2021年4月に施行された「70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)」の努力義務に関して、どのような対応を行ったか /マイナビ企業人材ニーズ調査(2021年版)
2021年4月に施行された「70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)」の努力義務に関して、どのような対応を行ったか /マイナビ企業人材ニーズ調査(2021年版)

企業の雇用意欲と定年年齢

まず企業の高齢者に対する雇用意欲はどうなっているかを確認する。厚生労働省の「一般職業紹介状況調査」を年代別で経年比較してみると、新規求人数は他の年代同様に、上昇基調にあることがわかる。【図2】
企業としては若い年代ほど需要が高いことは間違いないが、昨今の人手不足もあり、高齢者にも門戸が拡がる動きがみられる。

年代別の新規求人数/厚生労働省「一般職業状況調査」
※<就職機会積み上げ方式>個々の求人について、求人数を対象となる年齢階級〔5歳刻みの11階級〕の総月間有効求職者数で除して当該求人に係る求職者1人当たりの就職機会を算定し、全有効求人についてこの就職機会を足し上げることにより、年齢別有効求人倍率を算出する。年齢別月間有効求人数は、年齢別有効求人倍率に年齢別月間有効求職者数を乗じて算出する。なお、新規求人倍率および新規求人数も同様の方法により算出する。(この際、月間有効求職者数の代わりに、新規求職申込件数を用いる。)平成18年7月分公表時より公表。

では企業は高齢者雇用に、何を期待しているのだろうか。前述の「マイナビ企業人材ニーズ調査」で採用にあたっての期待点と懸念点を年代ごとに回答してもらった結果がある。それによると、高齢者雇用の期待点は「経験値・スキル」や「技術や知識の継承」が多く挙げられた。一方、懸念点としては「体力・健康」を不安視する回答が高かった。やはり知識や経験は発揮してもらいたいが、健康で長期にわたって働いて貰えるかという点では、不安視する声があるのも頷ける【表1】。

採用するにあたっての期待点と懸念点 /マイナビ企業人材ニーズ調査(2021年版)
【表1】採用するにあたっての期待点と懸念点

続いて定年年齢の引き上げは、どの程度進むのだろうか。同じ「マイナビ企業人材ニーズ調査」によると、前年4月の法改正で若干ではあるが、定年年齢が引き上げられたことがわかる。但し、いまだに60歳定年が49.1%でもっとも多く、65歳定年までの合計でみると88.1%となっており、正社員としての雇用年齢の上限は60歳か65歳が目安となっていることに変わりはない【図3】。また、そのひとつ前の段階で、役職定年という壁も存在する。これはある年齢に達した社員が、その時点で就いている役職(課長・部長など)から退く制度で、60歳定年が施行された1990年前後から少しずつ導入が進んでいったようだ。弊社の調査では「役職者の定年がある」と回答した人事担当者が約3割(29.8%)で、従業員規模の大きな企業ほど導入している割合が高い。役職定年がある企業の実施年齢を聞いてみると、60歳未満が20.6%となっており、5社に1社が定年より前に賃金調整の機会がある状況だ【図4】。
つまり、企業側としては、定年より前に段階的に賃金を引き下げ、更に定年退職時に雇用を終了するか、延長しても再雇用※1の形態をとって賃金の見直しを行うという、「雇用は維持するが、賃金の抑制は行う」という姿勢が、明確に示されているといえるだろう。
※1、人材ニーズ調査において、「60歳以上も継続雇用される社員がいる場合、その役割・待遇についてどのような対応をしているか」という設問参照。

 定年年齢の変化/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)
定年年齢の変化/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)
  役職定年年齢の変化/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)
役職定年年齢の変化/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)

高齢者の就労状況

では高齢者の就労状況はどうだろうか。まず労働力調査をベースにした高齢者の就業状況を確認すると、高齢就業者数(正規非正規含む)は、18年連続増加の912万人と過去最多で、就業率は25.1%と前年と変わらないものの、こちらも10年連続で上昇するなど、雇用の数値としては明るい材料がみられる【図5】。この内、休業者や役員を除いた雇用者の推移でみてみると、正規の職員として働いているのが124万人、非正規の職員として働いているのが394万人と4人に3人は非正規での雇用となっている。基本は定年後の雇用延長でも、別企業に再就職となる場合でも非正規での雇用になるケースが多い【図6】。

高齢就業者数(65歳以上の推移)/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)
高齢就業者数(65歳以上の推移)/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)
労働力調査2021年(総務省統計局)※数値は、単位未満を四捨五入しており、合計の数値と内訳の計が一致しない場合がある。
高齢者の雇用形態別推移(役員除く)/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)
高齢者の雇用形態別推移(役員除く)/マイナビ企業人材ニーズ調査 (2021年版)


高齢求職者の就労意思

続いて「ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査(2021年)」から働く目的について確認していく。こちらの調査は「現在就労している40~70代の正規・非正規を含んだ男女」なので、全体の数値は65歳より下の世代も入っていることを留意いただきたい。まず40代以上の働く目的を見てみると、「自分の生活費のため」や「貯金をするため」「家族の生活費のため」など、基本は生活のために働かないといけない状況にある事がわかる。これを65歳以上の高齢者に限定して集計してみると、「健康維持のため」や「時間を有効に使いたいため」「人との交流・出会いがほしいため」など、収入目的以外の要素が相対的に高くなる傾向がみられる。これは退職金や年金も受給し、金銭的な悩みがやや減少していることもあるだろう【図7】。では実際に、生活に十分な貯蓄や収入があるのかを確認してみたい。

高齢者が働く目的/ ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査(2021年
高齢者が働く目的/ ミドルシニア/マイナビシニア層の就労者実態調査(2021年

高齢者のお金事情

今度は高齢者のお金事情についていろいろと深掘りしてみよう。先ずは高齢者の平均賃金を国税庁の「民間給与実態統計調査」から年収ベースで見てみると、60~64歳が411万円なのに対し、65~69歳で324万円、70歳以上で282万円となっている。先のデータで示したように65歳以降は非正規雇用の割合が高いこともあり、年を追うごとに減少する傾向がみられる。月収については厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から雇用形態別に参照した【表2】。

高齢者の平均年収と雇用形態別の毎月平均賃金/国税庁「民間給与実態統計調査」
【表2】高齢者の平均年収と雇用形態別の毎月平均賃金/国税庁「民間給与実態統計調査」


また65歳から支給される年金についても簡単に触れておきたい。年金についてはさまざまな条件によって支給金額が異なるため、あくまで平均的なモデル額となる。「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」では厚生年金に加入していた人で14万6,145円。国民年金のみの場合は基礎年金が5万円台と大幅に下がる。年金は配偶者の有無によって、世帯ごとの額が異なってくる。これは少し古いデータになるが平成29年に厚生労働省が発表している「公的年金受給者に関する分析」で確認してみた。まず配偶者の有無についてみてみると、老齢年金受給者の分布において「配偶者あり」が66.7%に対し、死別や離婚を含めた「単身者」が31.7%となっている。平均受給金額は「夫婦ともに65歳以上」の世帯年金月額は23.8万円に対し、単身世帯の「65歳以上男性」では13.9万円、「65歳以上女性」は11.6万円となっており、2人分の年金であれば月々の生活に困らないかもしれないが、単身世帯だと貯蓄を少しずつ切り崩す必要がありそうな金額となっている。生活のためにいくらお金が必要なのかは人それぞれだが、年金だけで生活できるという世帯は意外と限られているのではないだろうか。

世帯の貯蓄についても見てみよう。総務省の「家計調査年報」で世帯単位の年間収入と貯蓄・負債額を世帯主の各年代別に比較してみると、50代では1,703万円だった貯蓄が60代で一気に2,384万円増加している。これは60~65歳で定年を迎えた人が退職金を貯蓄に回していることによる。負債についても住宅ローン等の残債が減り、平均で見れば2000万円の貯蓄があるように見える。しかし、これはあくまで平均額だ。実際に分布でみると決して安心できない現状がある。

二人以上世帯の世帯主の年代別年間収入と貯蓄・負債額  / 総務省「家計調査年報」
【表3】二人以上世帯の世帯主の年代別年間収入と貯蓄・負債額 / 総務省「家計調査年報」

以下は世帯主が65歳以上の高齢者に限定して集計した世帯別の貯蓄額の分布図だ。これで見ると、貯蓄額が1000万円に満たない世帯が全体の4割(38.2%)、2000万円未満もあわせると6割(59.3%)と、5世帯に3世帯は2000万未満の貯蓄にとどまっていることがわかる。これで65歳以降、「人生100年」と言われると、残りが35年。年金があるとはいえ、確かにやや心もとない金額に見えるのではないだろうか。先の高齢者の働く目的でも「健康維持」や「時間の有効利用」を挙げる割合が高い一方で、「生活費のため」が高齢者でもっとも多い60.5%あることからも、定年退職後でも何らかの働かないといけない方が一定数存在しそうなことがおわかりいただけるだろう【図8】。

65歳以上の貯蓄額分布<2020年平均> 各年代別<2020年平均>/ 総務省「家計調査年報」
【図8】65歳以上の貯蓄額分布<2020年平均> 各年代別<2020年平均>/ 総務省「家計調査年報」

高齢者の今後の働き方

では高齢者は今後どのように働いていけばよいのだろうか。以下のグラフは、前述の「ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査(2021年)」から「仮に転職するとした場合の仕事探しでなくてはならないもの」について、上位回答を抜粋したものだ。40代以上の全体だと「有給休暇など労務管理がしっかりしていること」や「交通費が支給されること」など労務上の条件が上位に挙げられている。一方で65歳以上の高齢者に限定してみると、「年齢に関係なく活躍できる」や「経験を活かせる」など高齢者自身が活躍実感を持てて、且つ「シフトの融通が利く」や「短時間・少日数でよい」「楽な仕事である」「残業なし」など、体力的に無理のない範囲で短時間に終わる楽な仕事を求める傾向がみられる【図9】。

転職すると仮定して、仕事探しに絶対無くてはならないこと/マイナビ ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査(2021年)
転職すると仮定して、仕事探しに絶対無くてはならないこと/マイナビ ミドルシニア/シニア層の就労者実態調査(2021年)

実際にそのような仕事が多くあればよいのだが、現実はかなり厳しく、中々マッチしにくいのが現状ではないだろうか。
ではどうしてゆけばよいか。個人的には今後高齢者の方々に「スマホの活用」と「副業・兼業」で、新たな収入や活路が見いだせるのではないかと考えている。

<スマホの活用>
まず「スマホの活用」だが、これはさまざまな可能性が拡がる。たとえば入力代行や翻訳、経理代行業務など、自宅から出ることなく短時間でシフトの融通も利く仕事はネット上に多い。アンケート回答で謝礼を貰ったり、自分のスキルを登録しておいて、仕事のオファーを待つサービスもある。こういったサービスは、かなり低料金での利用が可能だし、自分自身の市場価値を把握するうえでも役に立つ。また、フリマアプリを利用して、自作の商材や畑で取れた作物を直接販売することも可能だ。自作の商品を購入してもらえれば、承認欲求も満たされる。実際に、ある調査ではメルカリの年代別売上金額において年代が高い世代ほど売り上げも高いという結果もあり、毎月の平均売上額が60代以上の男性で31,960円、60代以上の女性で29,788円だったそうだ。

PCなどではいろいろと複雑な操作が必要だったが、スマホのアプリは直観的に操作できるようなデザインが多く、扱いやすい。使い方に詳しくなれば、マーケティングツールとしても高い能力を誇る。今の高齢者世代でいえば、70代までは比較的扱いにも慣れているだろう。ITエバンジェリストの若宮正子さんがアプリを開発したのは81歳。自分のポケットの中に無限の可能性があるにも関わらず、活用しないのはもったいない。ぜひ何かひとつ、新しい取り組みを始めてみていただきたい。

<副業・兼業のススメ>
こちらは非正規雇用で賃金が下がり、やむなく複数の仕事を掛け持ちするということではなく、自分らしく働ける別な場所を確保する意味でお勧めしたい。たとえば、これまで盆栽が趣味だった方が庭師に弟子入りして、月に数回仕事をするといったように、自分のやりたいことやスキル等を活かして活躍できる場所を副業や兼業で実現していくというものだ。これはあまり年と取りすぎてからでは難しく、できれば40代後半から50代の社会人としてのネットワークを保有している内に、探しておくことをお勧めする。そうすれば、お金のために働くだけでなく、自分を活かせる場としての仕事を見つけやすくなるだろう。

まとめ

企業側は必要な人材なら雇用を継続するが、会社に貢献できない人材は少しずつ振り落としていく姿勢がより鮮明になってきている。一方で、高齢者の状況を見るに、年金で悠々自適な生活をできる人は限られており、人生を100年と捉えるなら、半数以上の人は何らかの糧を得るために、働く必要がありそうな状況だ。

働く社員としても、ただ会社にぶら下がるだけではなく、企業や社会のニーズにこたえられるよう、自分自身のアップデートし続けることも必要だし、働きながら将来自らが活躍できる場をあらかじめ模索しながら、来るべき退職後の生活に備えておくことも必要なのではないだろうか。

己の自戒の念と共に、今後の高齢者雇用についても追いかけていきたい。

キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也

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