マイナビ キャリアリサーチLab

昼スナのママとしてミドルシニアのキャリア再構築を応援
これからは社会で分断された人たちのブリッジ役を担いたい

女性のセカンドキャリア

「働く女性のセカンドキャリアを考える」シリーズ第5回は、ミドルシニアのキャリア支援事業会社・株式会社ヒキダシを運営しながら、週1日、昼間だけオープンする「昼スナックひきだし」のママとして、人生やキャリアに悩むオトナ世代のキャリア再構築をサポートする木下紫乃さんにご登場いただきます。ブームを巻き起こした昼スナ開業のいきさつ、来店されるお客さまの特徴、セカンドキャリアを切り拓こうとする女性たちへのアドバイスなど、詳しくお話をお聞きします。

──これまでのキャリアについてお話しいただけますでしょうか。

大学卒業後に大手人材系サービス会社で7年ほど勤めた後、知人の情報を頼りに転職を何度か繰り返してきました。36歳のときに転職エージェントサービスに出会い、それが大きな転機になりました。初めて職務経歴書を書かされたのですが、それまではまともに自己分析などしたこともなかったので、自分のアピール材料が何も見つけられませんでした。

しかし、転職エージェントの担当者は、一貫性なくいろいろな場所で仕事をしてきたことをむしろプラスにとらえて、「どこに行ってもすぐにキャッチアップできる“クイックラーナー”と表現しましょう」とアドバイスしてくれたのです。自分では気づかない強みを第三者の視点で整理してもらえたのは、本当によかったと思っています。ありがたかったし、自分の人生にとっても役に立ちました。

転職活動の結果、出会ったのが企業内研修や人材開発コンサルティングを行う会社です。仕事が楽しくて、10年ほど勤めました。しかし、経験を重ねるうちに、世の中の中心的な世代ともいえるミドル世代に対するサポートがまったくないことに気づいたのです。若い人材やリーダーになるような社員の育成には企業も投資しますが、40代、50代の社員はほったらかし。当時はお金をかけて学び直しする人も数少なく、自分をブラッシュアップする機会もなければ、本人に意識もないのを見ていて、「これでいいのだろうか」と、問題意識を持つようになりました。

──大学院に行くことになったきっかけは何ですか?

大学院に通い始めたのは45歳のときです。なんとなく仕事で行き詰まりを感じていた頃、前職でお世話になった先輩が、50歳を過ぎて働きながら大学院に通っているのを知りました。話を聞いてとても刺激を受け、自分も大学院に行くことに。私が通った大学院は社会人向けではなく普通の学生向けだったので、若い学生がいっぱいいて、就職相談を受ける機会もよくありました。優秀な人たちが多くて、ベンチャーに就職したいとか、起業を考えている学生たちが多かったのですが、親に反対されることが多いようでした。

大学院を出たら何らかの形で若い世代の人材育成を仕事にしたいと思っていましたが、学生たちの話を聞いていて、むしろ課題があるのは親世代だと気づきました。価値観が20年前と塗り変わっていないのです。その時点では卒業後に何をやるかは具体的に決めていなかったのですが、親世代こそが変わらないと若い世代の支援はできないなと実感しました。

大学院での勉強が忙しくなって、会社は辞めることにしました。とりあえず個人事業主として研修関係の仕事をしながら大学院を卒業し、卒業後1年くらいして40代、50代のミドル世代のキャリア再構築を支援する会社「ヒキダシ」を設立しました。若い世代のためにも、楽しそうに生きているミドルシニアをもっと増やしたいなと思ったのです。47歳のチャレンジでした。

──株式会社ヒキダシではどのような活動をされたのですか。

株式会社ヒキダシでは、法人向けのミドルシニアや女性向け研修から個人のキャリア支援まで幅広いサービスを提供している。

会社を始めるときは、キャリアの壁打ちが必要なミドル世代は男性のお客さまが中心だと想定していました。男の人は結婚しても、子供ができても会社を辞めることはありません。ライフチェンジがないまま50代になって、「あれ?俺、これからの人生どうしよう?」って悩み始める方が多そうだなと思っていたのです。

しかし、ふたを開けてみると、女の人も働き続ける人が増えていて男性と同じだなと気づかされました。結婚や出産のライフチェンジの影響を乗り越えて仕事を続けてきた人は、50代くらいになって、「私、働き続けるのかな?」とか、「どうしよう、この先」って、男性とまったく同じ悩みを抱えていることがわかりました。また、育児等で仕事をリタイアしてその後は正社員でなくパートや派遣で働いてきたけれど、自分は「何もスキルを持っていない」と無力感に苛まれている女性も多いことにも気づきました。

株式会社ヒキダシでは起業当初、法人向けには、ミドル世代のセカンドキャリア設計や女性活躍推進を中心に研修サービスを提供していました。リンダ・グラットンさんの『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』が出版されたのはちょうどその頃です。“ミドル世代のキャリア自律”の機運も徐々に盛り上がってきました。そんな中、企業内だけでなく個人でも自分のキャリアを自律的に考えるミドルにきっかけを提供したいと、個人向けにオープンセミナーをいろいろ開催したのですが、当初こちらの方はあまり人は来てくれませんでした。

いろいろ聞いてみると、ミドル世代はこれからのことにぼんやりと不安は持っているけれど、キャリアを考えるセミナーとなると、若い人も多そうだし、自分のことを話すのは抵抗がある、と敷居が高いと感じていることがわかったんです。それで、「ミドル世代は研修やセミナーじゃないのね⋯、では、場所とやり方を変えたらどうか」と考えたのです。たとえば飲み会の場所だったら、気軽に仕事や人生のことを話せるのではないかと。

──「昼スナックひきだし」を開業されたいきさつについて教えていただけますでしょうか。

ちょうど大学院に通っていたときの社会人の同級生で、麻布十番でスナックをやっている人がいて、その人に、スナックが営業する前の数時間をイベント会場として借りられないかと相談したのです。本当のスナックを借りて「スナックひきだし」という名でキャリアを考えるイベントを始めることにしたんです。入店条件は2つ。「45歳以上。モヤモヤを抱えていること」です。

その狙いは大当たり。セミナーには人は来ないのに、スナックにしたらいっぱい人が来たのです。SNSでしか告知していないのに大盛況になりました。スナックだからセミナーとは違って特別なことはしません。私がママ役として、自己紹介タイムを設けて、それぞれのモヤモヤを共有してもらう、それだけ。でもそれだけでも、カウンターを挟んだ場所が作り出す安心感で隣り合ったお客さまどうしで気軽に話し合える場になりました。今大事だと言われている、心理的安全性が保たれる状態だったのでしょう。

しばらく夜、不定期で営業していたのですが、実は私は夜が苦手で、それに不定期だと来たい日にこれない等の意見をいただき、毎週木曜日と決めて、昼にスナックを始めることにしました。平日の昼間なんて来れる人いるのか?と心配していましたが、わざわざ有給をとって来てくださる方やら、営業の合間に来てくださる方やら、毎週開けているのがいいのか、さまざまな方に来ていだいています。この昼スナが口コミで広がり、メディアなどでも取り上げられ、「友人に行くように勧められました」などと遠くからも来てくださる方もいらっしゃいます。

そしてもう一つ驚いたのは、私もスナックのママをやってみたいという40代、50代の女子がいっぱい出てきたことです。たしかにカウンターにお客さんとして座っているだけでなく、カウンターの中に入ることで見えてくること、学べることはたくさんあります。私はもともと、「場の“参加者”でいるだけでなく、“主催者”になることが大切よ。それはリーダーシップそのもの」と考えていたので、もっと多くの人に主催者になる場を提供するために、2020年に自分で店を持つことにしたのです。こうして赤坂見附に「スナックひきだし」をオープンしました。

──「スナックひきだし」に来店されるお客さまはどのようなモヤモヤを抱えていらっしゃいますか。

昼スナに来られるお客さまは、本当にまじめな方が多いです。まじめゆえに心も身体もボロボロになるまでがんばってしまうのかもしれません。でも、“まじめ”を返上できないのですね。「それは自分に負けたことになる」とか、「他の人に迷惑がかかる」とかと考えてしまうのです。そんなときは、「一度迷惑かけてみたらいいじゃないの」とお話します。そんなことで会社がつぶれるわけはないですから。

特に女性は、まじめにがんばってきた方が多いですね。仕事でがんばってきて、家庭でがんばってきて、子育てでがんばってきて⋯その結果、「何やってきたんだろう、私」って思い悩んでしまう。自分のハッピーとかワクワクを置き去りにしてがんばってしまったからかもしれません。しかし、疲れ切っていると発想もネガティブになって、将来に対しても不安を感じるようになります。それに視野も狭くなるのです。

モヤモヤを抱えるお客さまは、「どうせ何やってもだめだろう」と決めつけて、脳内で完結している人が多いように感じます。そんな場合は、周りのお客さんと一緒に「なんでダメなの?」「こういうのは知ってる?」って問いをどんどん投げてみます。その時出会ったいろいろな人の頭を借りて自分の思い込みを外すんです。視野を広げて、他のお客さんも巻き込んで、もっと他の考え方もあるんだよって気づいてもらえるようにしています。

仕事やキャリアの悩みを抱えている方には、どのようなアドバイスをされますか?

一番問題なのは、自分ひとりで悩みを抱え込んでしまうことです。「私はダメだ」と思い込み、何もしないのは時間の無駄です。ダメだろうが、とにかく何か一つでも行動を起こしたらいいんです。そのための小さな一歩、半歩を一緒に探すお手伝いをしています。

アクションを起こせば、何か結果がフィードバックされます。たとえば「仕事がきつい」。でも誰にも話さない人も多い。「どうせダメだろう」って。でも、大事なことはまずは周りにきちんと伝える。そうすれば場合によっては相手に激怒されるかもしれませんし、無視されるかもしれません。あるいは、思った以上に心配されるかもしれません。いずれにせよ結果が出たら、それに対してまた次のアクションを起こしていく、それを繰り返すことで少しずつでも自分が希望する方向に軌道修正していけるのです。

私自身ができることなんて大したことないです。でも私よりも能力がある人が勝手に自分には能力がないと思い込んでくすぶっているのを見ているのは嫌なのです。それは社会の損失なんです。私が少し背中を押すことで、その人の変化を促すことができたら、世の中にとってもきっとプラスになるはずです。私はそんな役割を通して社会に貢献したいんです。

今の世の中には、背中を押したり、おせっかいをしたりする人が少なすぎるのかもしれません。多くの人は、自分の中に解決策を持っているのに、勝手にあきらめていたりそれに気づかないでいるのです。でも、他人だからこそ見えることがあります。それを一緒に考えて探し出すことが私はすごく楽しいのです。私が気づいたことをお話しすると、「あ、そうか!」という納得していただける瞬間があります。みなさん、何か変化を起こしたいと思うから、昼スナにいらっしゃるわけで、その変化のきっかけを一緒に探すことに楽しみを感じます。

紫乃ママご自身は、今後の生き方、方向性についてどのようにお考えですか。

「3年後どうしていたいですか?」という質問をよく受けますが、自分では何も決めていません。これが私の悪いところでもあり、良いところかな。大学院に行くことも悩まずに決めましたし、お店も綿密な計画を立ててオープンしたわけではありません。ほんとに行き当たりばったりなのです。

ただこれからは、恵まれているけどなんとなく充実感がない人たちと、サポートが必要な人たちとのブリッジをかけられるようなことができればいいなと漠然と考えています。振り返ってみれば今まで、学生と親世代だったり、ダイバーシティだったら男性と女性だったり、若い人とそうでない人だったり、繋がっていない領域のブリッジをかける役割をしてきたのかなと思っています。

スナックに来店されるお客さまには経済的に困窮している方はいらっしゃらないのですが、一方で社会にはしんどい思いをしている人、理不尽な目にあっている人がたくさんいます。しかし、スナックにお客さまとして来られる方と、しんどい思いをしている方とは、すごく分断されているように感じるのです。

「生きがいがない、時間を持て余している」と感じてスナックに来店される方と、しんどい思いをしている人たちを直接つなぐことは難しいかもしれませんが、サポートが必要な人を支援している方たちと間接的にむすびつける仕組みは作れるのではないかと考えています。

どちらの側も見えているのに、大きな溝があるのが嫌なのです。私自身は何かの専門家になれるわけではないですが、これまでの人生でいろいろな人と出会ってきましたし、スナックにも多種多様なお客さまがいらっしゃいます。ここにこんな人がいるという、マップは見えるので、人と人にブリッジをかける、“つなぐ”ことをこれからのライフワークにできたらいいなと思っています。

木下紫乃(きのした・しの)/
株式会社ヒキダシ CHO(チーフ・ヒキダシ・オフィサー)
昼スナックひきだしママ
1991年、慶應義塾大学を卒業後、新卒で大手人材系サービス会社に入社。その後転職を繰り返し、企業研修設計、人材育成等に携わる。47歳で慶應義塾大学大学院修了。2016年、40代、50代の「自分で選ぶ働き方生き方」を支援する会社ヒキダシを設立。企業研修やミドルシニアのメンタリングを生業とするかたわら、週1日、昼間だけオープンする「昼スナックひきだし」を開店。プライベートでは結婚、離婚、再婚、駐妻、家出、再婚…⋯など紆余曲折盛りだくさん。著書に『昼スナックママが教える 「やりたくないこと」をやめる勇気』(日経BP)がある


編集後記:赤松 淳子/マイナビキャリアリサーチLab 副所長
「働く女性のセカンドキャリアを考える」シリーズ第5回は木下紫乃さん。紫乃ママ、とみんなに親しみを込めて呼ばれ、いろいろな場で多くの人のキャリアに向き合ってきた方です。紫乃ママのお話にも、シリーズ第1回浅野先生のお話と共通する「一歩を踏み出す」という大切さがありました。まずは、一歩、そしてもう一歩。その中で気づくもの・得ていくものがあるのだ、ということ。
キャリアの棚卸しやリスキリング、キャリアセミナーのような敷居の高さではなく、昼スナという場で、少し背中を押してもらう。キャリアに悩むオトナ世代には妙薬ではないかと思いました。

関連記事

女性のセカンドキャリア

コラム

身近なところから始めてみる
それがセカンドキャリアの第一歩

研究レポート

中高年世代の働く意識

コラム

終身雇用、年功序列…日本型雇用に対する世代間ギャップと、この20年の意識変化