マイナビ キャリアリサーチLab

“ひとりじめしない”という気持ちを大切に
がんばる女性たちに「恩送り」をしていきたい

働く女性のセカンドキャリアを考える

シリーズ第4回は、40代後半で大企業の部長職を辞し、ダイバーシティ経営や女性活躍を推進する企業を支援する会社を設立した小嶋美代子さんにインタビュー。なぜ大企業での安定を捨てて、セカンドキャリアに踏み出したのか、その思いに迫ります。

── まず、これまでのお仕事のご経験とキャリアについてお聞かせいただけますか。

株式会社アワシャーレ 代表取締役 小嶋美代子さん

新卒で大手IT企業にコンピュータエンジニアとして就職しました。1989年です。最初に担当したのは金融機関系のシステム開発でした。金融系のシステムは安定運用が求められるので、ミスやトラブルは許されません。テストにテストを重ねて、さらにテストをする⋯⋯そんな姿勢で仕事を進めていました。このときに得た経験は「慎重さ」や「確実に進める」といったその後の仕事の進め方の礎になったと思います。

その後は、だいたい5年ごとに転機が訪れました。金融機関向けシステム開発を5年経験した後、次の5年は企業のIT導入のサポート業務を担当し、先端技術教育や大規模システム導入教育を提供していました。当時は、女性の技術職はまだ珍しい時代だったのですが、お客様から女性のほうが好まれる、といった気づきもありました。

その頃、合併で会社の規模が一気に大きくなりました。入社した頃はまだ社員500人くらいで、お互いの顔と名前も一致するくらいだったのですが、社員数が4000人になり、「ここには私の居場所がないかもしれない⋯⋯」と少し疎外感を感じてしまうこともありました。

これからの生き方を考え始めた頃、東京で仕事をする機会が増え、約5年間は東京と大阪を行ったり来たりして仕事をしていました。その後、1年間、東京に単身赴任したのですが、東京での仕事が本当に面白くて、それで自ら志願して転勤をさせてもらいました。

その後、管理職として約5年間、チームを率いました。業務の幅も広がり、仕事はとても充実していました。会社もどんどん成長し、そして、また合併することになります。社員数は1万人にふくれあがりました。

── セカンドキャリアを考えたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

(株)アワシャーレでの仕事風景。企業のダイバーシティ担当者にオンラインで交流する場を提供しているとのこと。
グラレコ(グラフィックレコーディング)を用いて議論を可視化する試みも。右はスタッフとのミーティングの様子。
全員が在宅勤務で、文章作成、イラストや画像編集、ヒアリングなど、
それぞれの特性と挑戦機会で仕事を分担しているそうだ。

このとき、合併プロジェクトに入ったことが、私にとってはとても大きな転機になりました。コーポレートビジョンの策定、ブランディング、経営戦略の立案と、これまでやってきた業務とはまったく違った仕事を担当することになり、初めて企業経営というものに接することができました。

その後、ダイバーシティ推進室の部長を任され、特に女性活躍推進に力を入れて取り組みました。トップからのメッセージを発信したり、他社と連携して共同イベントを開催したり、女性社員が働きやすい職場作りに向けて取り組みました。

その頃出会ったのが「GEWEL(ジュエル)」です。2012年のことでした。GEWELは、2004年に設立されたNPO法人で、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進する取り組みをしています。私は、会社でD&I推進の責任者としていろいろなことを学びたいと、GEWELが開催したイベントに参加したのです。GEWELではたくさんの人との出会いがありました。私の強みや特性を気づかせてくれたメンター、女性活躍推進の素晴らしいロールモデル、「恩送り(Pay it forward)」の大切さを気づかせてくれた女性など、いろいろな方との出会いが自分のキャリアを見直すきっかけとなり、自分はこれから何を大切にすべきか、自分という存在をどう活かしていくべきかについて気づくことができたように思います。

── セカンドキャリアを考えるにあたり、特に意識されたことはありますか?

会社の規模は急速に大きくなりましたが、会社のことを嫌いになることはありませんでした。もちろん、規模が大きくなって何かを決定するのに時間がかかったり、仕事のやり方が変わったことはありますが、規模が大きくなることで社会的に大きなことができるようになったり、できることが増えることはむしろいいことだと思っていました。自分では社会に役立ついいことをしたいという思いもありましたので。

でも、D&Iを推進する取り組みを進めるなかで、自分のことを考える機会が増えたせいか、これまでの会社員人生を振り返ると、「自分のキャリアにはもっと違う道もあるのではないか、他にもできることがあるのではないか⋯⋯」と思うようになり、居場所を変えることで、どんなことが起きるか見てみたくなったのです。転職という選択肢もあったかもしれませんが、システム開発やD&I推進で培った経験をベースに、これまでのキャリアとのマッチングを考えると、転職ではそれほど大きな変化があるわけではありません。それよりも、見える景色そのものを変えてみたくなったというのが正直な気持ちでした。

── 起業に向けてはどのような準備をされたのでしょうか?

株式会社アワシャーレ 代表取締役 小嶋美代子さん

実は特に準備はしませんでした。まずは会社を出て景色を見てみて、とりあえず起業してみようという感じでした。ただし、法人化するにあたっては死に物狂いで勉強しました。会社法を勉強し、法務局や税務署に足繁く通いました。もちろん資金計算はしましたし、事業計画も綿密に立てました。会社員時代の経験で3年単位でロードマップを描くことが当り前になっていましたし、合併プロジェクトの業務を通して経営計画を立案することにも戸惑いはありませんでした。

株式会社ourshare(アワシャーレ)を設立したのは2017年です。「ourshare」は、「私たちを共有する」という意味と「our chalet(私たちの山小屋)」を掛け合わせ、ネーミングしました。これまで自分がいただいてきたものをひとりじめせず、私の考えに共感してくださる方と一緒に、安心できる環境を作っていきたいと思っています。具体的な事業としては、D&Iを中心とした講演や研修、コンサルティング、ブランディング、事業戦略の立案・経営支援、起業支援などを行っています。

── 現在のお仕事やその他の活動についてお聞かせください。

特定非営利活動法人GEWEL代表理事 小嶋美代子さん
 GEWELでの活動風景。ダイバーシティの認知度を高め、広める活動をされています。
「20年近い活動のバトンを受け取った責任を感じつつ、定点観測調査や交流の場を持っています」とのこと。

現在、3カ年計画の2クール目に入っています。事業内容に変化はありませんが、コロナ禍によっていろいろなことが大きく変化しています。女性活躍の支援というのは、アワシャーレの重要なミッションですが、今はオンラインでのコミュニケーションが当たり前になってきたので、「オンライン×女性」という切り口やテーマで新たな可能性を感じています。また、アワシャーレの事業と並行して、NPO法人GEWELの代表理事として、さまざまな領域にD&Iを広げる取り組みにも従事しています。また、フィリピンやネパールの社会課題解決のための取り組みなども行っています。

会社経営、NPO法人の運営、大学の講師など、いろいろな場所で活動していますが、組織のマネージメントにおいてはあまりセオリーを持たないように注意しています。一貫性がないという指摘を受けるかもしれませんが、常に今と向き合って変化に対応するようにしています。また、パワー配分をあまり意識することなく、少し先のことを視界に入れながら地に足をつけていろいろな活動に取り組むようにしています。

── 多彩なご活躍をされている小嶋さんが大切にされているのは何でしょうか?

ネパールやフィリピンでの支援活動を行う小嶋さん
左/ネパール支援活動。ネパールの第二都市ポカラで障害者女性の団体を支援されています。画像は、女性の職業訓練所を訪問したときのもの。高等教育を受けていない10代女性や事情で家族と離れて暮らす女性らが自立できるようにミシンや工芸を学んでいるそう。
右/フィリピン支援活動として、ダイバーシティ社会の課題を英語で理解する「英語で学ぶ社会科」プログラムを実施中。協同企画者のエイミーさんとは、日本の子どもたちが使ったランドセルを配る活動を通じて意気投合したそう。

“ひとりじめしない”という気持ちであり、考え方です。これは、アワシャーレの企業理念にも掲げています。この言葉は、前々からずっと自分の中であたためていました。うまく言語化できなかったものを、以前にとある研修でのワークをきっかけに言葉で表現することができたのです。欲しいものを手に入れると誰でもうれしい気持ちになります。でも、自分がひとりじめしないことで、幸せな人をもっと増やすことができます。「自分だけの最大より、あなたとともに最小を考える」社会を実現することが大切ではないかと考えています。

ペイフォワード(Pay it forward)という言葉があります。日本語では「恩送り」というように表現したりします。アワシャーレの事業やGEWELでの活動では、女性活躍推進に力を注いでいますが、女性活躍のパイプラインをつないでいくことも「恩送り」です。自分がこれまでいろいろな方から学んできたことを、今をがんばる女性たちに伝えていきたいと思っています。

── セカンドキャリアに悩み、迷う女性たちへアドバイスをいただけますか。

悩んでいるときは辞めなくていいと思うのです。会社勤めをしていて、「辞めたいな」とか「辞めようかな」と思うときは、まだできることが残っているはずです。組織の中で「できない」と思っていることの9割は誤解だと思うのです。やりたいことがあれば必ず実現できる道があるはずです。いろいろ試してみてからでも決して遅くはありません。それに、どうせ定年になると辞めざるを得なくなるのですから、早まる必要はありません。大上段に構える必要はまったくありません。

もう一つ意識してほしいのは、会社以外で自分の居場所を見つけることです。会社の中でできること、自分の能力やスキルは、きっと会社の外でも発揮できるはずです。自分が組織の中でできていることを見つめ直し、できればそれを増やしていく、そして、その波及先を広げる意識を持つといいと思います。仕事以外のところで自分の居場所が見つかると、人間関係も広がり、刺激ももらえるし、新しい視点に気づかされます。きっと意外な自分に出会えるはずですよ。

株式会社アワシャーレ 代表取締役 小嶋美代子さん

小嶋美代子(こじま・みよこ) /
株式会社アワシャーレ 代表取締役
1989年大手IT企業にコンピュータエンジニアとして入社、金融機関向けシステム開発に従事。先端技術教育や大規模システム導入教育などのプロジェクトリーダーを務めたのち、企業の合併に際してブランド構築と社内浸透を牽引。ダイバーシティ推進部門の部長に着任後は、女性活躍推進を中心とした活動で厚生労働省、経済産業省などから表彰および認定を受けた。2017年独立、ダイバーシティ経営戦略のコンサルテーションや女性リーダー育成で企業を支援している。また、特定非営利活動法人GEWEL代表理事を勤めるかたわら、経営倫理実践研究センター・フェロー、芝浦工業大学講師(ダイバーシティ概論)としても活動中。


編集後記:赤松 淳子/マイナビキャリアリサーチLab 副所長
「働く女性のセカンドキャリアを考える」シリーズ第4回は大手IT企業を退職後、起業の道を選ばれた小嶋さんにお会いしました。ご自身の事業だけでなくNPO法人やフィリピン・ネパールでの社会貢献活動など多岐に渡る活動の中に“ひとりじめしない”という、ぶれない軸が存在しています。「誰かからもらった何かに、自分なりにプラスαをして、またほかの誰かにシェアすることが好き。それができる自分を幸せだと思う。」と語ってくださった小嶋さん。その言葉に、小嶋さんのいろいろな活動を分類すること自体に意味はなく、複数の場所・複数の仕事が彼女の中できれいなグラデーションになり、素敵な女性を形作っているのではないかと思いました。

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