マイナビ キャリアリサーチLab

自分の中にできることはたくさんあるはず
始めてみれば、何かが変わる

キャリアリサーチLab編集部
著者
キャリアリサーチLab編集部
働く女性のセカンドキャリアを考える

第1部では、各種の調査データを用いながら、働く女性を取り巻く雇用環境について詳しく解説していただいた。第2部では、働く女性が直面する課題を整理し、セカンドキャリアに向けて何を意識し、どう準備すべきなのかについてお聞きする。

聞き手:赤松 淳子/マイナビキャリアリサーチLab 副所長


50歳という節目と悩み

定年というゴールを前に抱くモヤモヤ感

──女性が長く活躍できる環境が整いつつあるようですが、これからのキャリアについて迷いや悩みを抱えている50代女性が多いように思います。いったいどんな課題に直面しているのでしょうか?

男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年ですから、今、50歳前後の方は均等法第一世代と言われる方たちの少し後、1990年代に就職した世代ですね。法律は施行されたとはいえ、採用、配属、昇進などの面でまだまだ苦労が多かった世代です。それでも、結婚や出産、育児などとの両立をはかりながら懸命に仕事に取り組み、自分なりのキャリアを築きあげて責任ある仕事を任されている方も多いことでしょう。また、いわゆる管理職経験者も徐々に増えています。しかし、定年が近づいてくると否応なく職場での立場や役割の変化に直面します。今までずっと走り続けてきた中でふと気づくと定年というゴールが見えてくるタイミング、このまま現在の仕事にとどまるべきか、新しいことを始めるべきか、でも50代はまだ働きざかりで目の前の仕事は待ってくれない。そういう日々の中ではっきりしないモヤモヤ感を抱える方も多い時期だと思います。

多くの女性が直面する「50歳という節目」

女性・年齢階級別就業率/総務省統計局・労働力調査より
男性・年齢階級別就業率/総務省統計局・労働力調査より
年齢階級別の就業率は、女性、男性とも年々上昇しているが、特に女性の伸びが著しい。

『LIFE SHIFT』の著者、リンダ・グラットンさんが「人生100年時代」という言葉を提唱されましたが、ここまで長く働くことが求められる社会になるとは、誰も想像できなかったのではないかと思います。 ようやく家庭での負担が減って、「これからもう少しギアを上げて仕事がんばってみようかな」と思い始めたタイミングで定年が目前に迫ってくるんですね。でも、まだまだ体は元気だし、もっと働ける、もっと仕事をしたいという思いはある。「では、これからどうしたらいい?」と思い悩み始めるタイミングがちょうど50歳くらいなのだと思います。前回ご紹介したJEEDの調査でも、50歳を超えるとそれまでより迷わなくなっていました。

もう1歩、踏み出すために

──今後の生き方、働き方について悩み、セカンドキャリアを模索する女性たちに、どんなアドバイスができるでしょうか?

事業創造大学院大学・浅野浩美教授

これからは自分自身のこと「も」考える、ということを大切にしてほしいと思います。30代は仕事と家庭の両立をがんばり、40代になって男性より遅れて昇進を意識するようになり、50代になってようやく子育てや家庭のことを気にせず思いきり仕事ができるようになったという方も多いと思います。常に自分以外の誰かのこと、家族のこと、後輩のことなどを考えながら仕事をしてこられた方も、このあたりで、これからの自分の生き方や働き方など、自分自身のこと「も」考えてあげる、ように意識するのがよいと思います。

女性の強みと内的キャリア

これまでは女性は男性ほど昇進しないことが多かった。これ自体は、残念なことではありますが、逆説的にポジティブに考えると、役職定年による落差や定年前後のギャップは男性ほど大きくありません。現場を離れていないので「現場感」を持ち続けているということも多い。これはとても大きなアドバンテージです。それまでのスキルをそのまま活かして仕事をすることができるわけですから。

女性の特性を表す興味深い調査データがあります。2019年に21世紀職業財団が、50代、60代の男女正社員を対象に行った調査で、仕事で重視していたことをたずねています。それによると、「信頼」「仕事の面白さ」「成長」など内的キャリア(自分にとってのキャリア)と関係することは、男性は年代とともに低下しますが、女性は一度低下した後に再び上昇しています。50代の女性は、働く価値観としてステータスや肩書きより、周りからの信頼とか自身の成長、仕事のやりがいを再び重視するようになっています。女性の50代は、男性ほど落差が激しいものではないことが読み取れます。

女性が各年代で重視したこと/21世紀職業財団調査より
男性が各年代で重視したこと/21世紀職業財団調査より

準備とヒント

──定年後を見すえ、充実したセカンドキャリアを歩むためには、どんな準備が必要でしょうか?

21世紀職業財団の調査では、定年後も働き続けるための準備を50代でしていない人が、男女とも4割以上いることがわかっています。また、準備している内容で多いのは、「健康な体を維持するための運動等」(男性28.1%、女性30.5%)で、次に「スキルを磨くための学習」(同19.8%、19.9%)となっています。セカンドキャリアに向けての準備という意味では少し心もとない状況です。

特別な挑戦の必要はない

事業創造大学院大学・浅野浩美教授

今いる会社で仕事を続けるにしても、セカンドキャリアを模索するにしても、その仕事に取り組む意味ややりがい、面白さを再確認することが大切です。また、自分が培ってきた専門性をどう活かすのかを考え、社外にネットワークを広げる意識も持ってほしいです。セカンドキャリアを考えるとしても、“特別な挑戦”である必要はないと思います。これまでの経験や培ってきたこととつながる意味を考えることが重要だと思います。

多くの会社で取り入れられている定年後の制度や定年前のキャリア研修は、男性を対象に考えられているものが多いと思います。中高年キャリア研修についての調査研究をした時も、受講者のほとんどは男性で、ぴんとこなかった、という女性からの回答もありました。キャリアの自律化、というと、難しいことのように感じるかもしれませんが、要は、自分で自分のキャリアをどうしたいのか考える、ということです。女性は男性よりも平均寿命も健康寿命も少し長いわけですし、後回しせずに、自分自身のことを考えるべきでしょう。

インタビューの最後に

──浅野先生のご経験から、後輩女性へのエールをいただけますでしょうか。

学び直し、パラレルキャリア、デュアルキャリアなど、セカンドキャリアの歩み方は多種多様ですが、別にこれまでに経験してきたことと違うことに挑戦しなければいけないわけではありません。身近なところから始めてみる、これまで気になっていたことを考えてみる、1科目だけ試しに受けてみる、そんな意識でいいと思うのです。始めてみれば、何かが変わります。何かが見えるようになります。うまくいかなければやめればいい。忙しくて大変なら一度立ち止まったり休んだりすればいい。ワークライフバランスを実現しながら、15年、20年とがんばって仕事をしてきた方であれば、すでに自分の中にできることがたくさんあるはずだと思います。

もちろん高いところを目指してもいいですが、ここまで十分がんばってきたのだから、別にそんなことをしなくてもいい。気になることがあったら一歩踏み出してみる、誘われたら行ってみる、そこから始まると思います。

■プロフィール
浅野 浩美(あさの・ひろみ)
事業創造大学院大学 事業創造研究科 教授
筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了。博士(システムズ・マネジメント)。厚生労働省で、人材育成、人材ビジネス、キャリア教育、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案に従事したほか、労働局長として働き方改革を推進。人事制度見直しのためのマニュアルを執筆。社会保険労務士。日本キャリアデザイン学会理事、経営情報学会理事、日本人材マネジメント協会執行役員等。


編集後記:赤松 淳子/マイナビキャリアリサーチLab 副所長
働き続ける中で50歳という節目が近くなったとき、ふと見渡すと定年を迎えられた先輩のロールモデルが身近にはほとんどなく、いわゆる総合職が増加する中で女性の定年はこれから増えていくことに気づきました。「ならば探そう!」それが本企画のきっかけでした。この企画を通して、セカンドキャリアに踏み出された方々のご経験や、現状と課題などを少しでもお伝えし、今後増える女性の定年退職についてレポートできればと考えています。
第1回目にあたり、有識者かつセカンドキャリアを体現されている浅野先生にお話をうかがうご縁をいただけたことは幸運でした。「50歳からはぜひ自分のこと『も』考えましょう」「高みへのチャレンジだけでなく身近なところからチャレンジしてみる、そうすると見えてくるものがある。 」というメッセージは心に残り、女性ならでは強みを生かし「しなやかに」波にのる、それが1つのヒントになるのではないか、と感じました。 ※所属は取材時点のものです。

←前のコラム          次のコラム→

関連記事

研究レポート

女性活躍の現状と課題—企業の取り組み具体策も

研究レポート

中高年層の特徴と仕事—働く意識を中心に

コラム

昼スナのママとしてミドルシニアのキャリア再構築を応援
これからは社会で分断された人たちのブリッジ役を担いたい