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ウィズコロナ時代に気を付けたい、病める組織を大解剖

こんにちは、株式会社エリクシア代表取締役の上村紀夫と申します。私は産業医・経営コンサルタント・経営者という3つの役割で、日々組織の問題解決に取り組んでいます。

本コラムでは変化の乗り越え方について述べてきました。最初の2回で個人、続いて管理職、前回は組織へと段々視点を上げてきましたが、今回は前回に引き続き「組織」に関する話で「組織の病」について解説します。コロナ禍で起こりやすい組織の病の種類はどんなものなのか、またそれを予防するためにできることは何か、ぜひ自社に当てはめながら最後までお読みください。

コロナ禍で注意したい組織の病

「組織の病」と聞いてみなさまはどんなことを考えるでしょうか?

・離職者は多く採用にも苦戦しており、慢性的に人手不足の状況が続いている
・働き手が疲弊していて、休職者も発生している
・職場の雰囲気が殺伐としていて、人間関係のトラブルもある

他にもいろいろありますが、このように組織に関して何らかのトラブルが起きている症状があれば「組織の病」にかかっているかもしれません。ただ、この組織の病の話は深入りすると長くなりますので、今回はコロナ禍で起こりやすい組織の病の話に絞り説明します。(より詳細な内容は著書『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』にて解説しています

コロナ禍で起こりやすい組織の病の中で、特に注意したいのは「ぬるま湯系組織」になることです。

ぬるま湯系組織とは、簡単に説明すると「従業員のためを思って働きやすさを過度に追求した結果、仕事へのやりがいを感じずにモチベーションが低い状態にもかかわらず居心地の良さを理由に定着する、いわゆる『ぶら下がり化』した従業員が増えてしまう組織」のことです。

ぬるま湯系組織化するメカニズム

組織はどのようにぬるま湯になっていくのでしょうか。前提である組織の病に影響する要素についてまず理解を深めていきましょう。組織がいきいきとした状態を保つための主な要素は3つあると私は考えています。それは「心身コンディション」「働きやすさ」「働きがい」です。

3つの要素は中身を見るとイメージしやすいので、下記の表にまとめました。

この3つの要素が損なわれると、組織の中でさまざまな影響が現れます。

・心身コンディションが悪化すると…
メンタルダウンや体の不調によって休職や転職など組織から離脱が発生します。

・働きやすさが悪化すると…
今の環境から逃げたいと考える従業員が離職します。

・働きがいが無くなると…
優秀な従業員は新しい職場を求めて離職します。

これら3つの要素は単独で悪化するだけでなく、それぞれの要素が相互に関係しあう場合もあります。たとえば、過重労働などで働きやすさが低下することで、心身コンディションの悪化や働きがいの低下が発生することや、細かい業務指示を上司から受けることで仕事のやりづらさを感じ働きやすさが低下、その後仕事へのやる気も低下してしまうことがあげられます。
ぬるま湯系組織においては、特に3つの要素のうち「働きやすさ」が大きく関わってきます。

それでは本題に戻り、ここからはぬるま湯系組織になっていくメカニズムについて解説します。一般的に働きやすさを充実させるための施策にはどのようなものがあるでしょうか。

下記は一例にはなりますが、これらはコロナ対応や働き方改革によって現在導入を推進されている施策です。施策を実施すると従業員の働きやすさはもちろん向上します。

【働きやすさ施策 一例】
・テレワーク
・フレックスタイム制度
・残業禁止デーの設定
・福利厚生の充実
・有給休暇の付与数増加

しかし、働きやすさ施策を導入するにあたっては注意すべき点が2つあります。

1点目は、効果が短期的で早期に当たり前化してしまうことです。働きやすさ施策が従業員に与える効果は長続きしづらいものです。施策を導入した直後は従業員にとって待遇が改善するので、従業員から「これは良い施策だ」と思われますが、時間が経てば新鮮味が薄れ慣れてしまいます。慣れてしまえば、「当然の権利である」ととらえる人も出てきます。

2点目は、働きやすさが向上した結果、従業員の働きがいが二極化してしまうことです。
具体的に言うと、「この環境が好きだから、もっとがんばろう!」と意欲を持って働く従業員がいる一方、「今の会社には特に思い入れもないが、他社も働きやすいとは限らないから、このまま会社で働き続けよう」という考え方、もしくは「転職自体が面倒くさいからこの会社にいる」という考え方をする従業員も出てきます。後者のような考え方に至り、業務への意欲が低い状態になってしまった従業員のことを今回は「ぶら下がり人材」と呼びます。

ぶら下がり人材が増えてくると組織への弊害はとても大きくなります。ぶら下がり人材は消極的に会社に定着している状況なので、仕事の意欲は高くありません。そのため、言われた範囲の業務をこなすだけになることや、人によっては「いかにして他のメンバーに仕事を任せられるか」「手を抜けるか」を考えることもあり、意欲的な従業員とは仕事の量・質面で大きなギャップが生まれます。

会社の環境に甘えている従業員と、意欲的な従業員の待遇が同じであれば意欲的に取り組んでいる従業員は不公平さを感じ、働きがいの低下につながります。働きがいが低下すれば、離職をしてしまう(積極的離職)可能性や、もしくは努力が認められないためにやる気を失い、自身もぶら下がり人材になってしまう可能性があります。

その結果として、環境としては働きやすいものの、やる気は起こりにくい組織になってしまい、まさしく「ぬるま湯系組織」ができあがってしまいます。

しかし、働きやすさ施策は推進するのが当たり前の世の中

働きやすさ施策を推進しすぎた末路として、ぬるま湯系組織があることを解説してきました。しかし、今の世の中、働きやすさ施策を推進するのは避けられないと考えます。なぜならば、コロナ禍に対応していく中で一時的にテレワークを実施したり、フレックスタイム制を導入したりと、社会的に働きやすさ施策を推進する必要が出ていたためです。

また、働きやすさ施策は、働きがい推進の施策と比べると従業員からの要望や社会の要望に基づいて行われるという性格から、どんなことをしなければいけないのかが明確であり、組織として推進しやすいという側面もあります。そして導入すれば、離職対策や採用活動の際にわかりやすい宣伝にもなります。さらに他社がやっているのに自社がやっていなければ、時代に逆行している会社とみなされ採用面においては不利になる場合もあります。

働きやすさ施策の中には、重篤な副作用を持つものがある

では、ぬるま湯系組織にならずに働きやすい組織にするためにはどうしたらよいのでしょうか。
特に重要な1点に絞ってお話します。ポイントは「施策の目的を設定してぬるま湯系組織化を防ぐ」ことです。

Point 施策の目的を設定してぬるま湯系組織化を防ぐ

働きやすさ施策の目的にはさまざまなものがあります。たとえば、テレワークの導入や時差出勤などは、感染拡大防止や事業への影響を最小限にするための施策といえます。

その一方で、福利厚生の拡充やフレックスタイム制などは、働く環境をより良くするための施策といえます。これらの施策は、経営陣や人事・総務担当者が従業員のためを思って導入することもあれば、採用時に求職者へのアピールをするための導入、もしくは従業員の不満をガス抜きするために使われることもあります。

前者のコロナ禍での働きやすさ施策のように、社会情勢により一時的に施策を導入せざるを得ない場合、その施策自体がぬるま湯系組織をもたらすという事例は少ない印象です。一方で、後者のような快適をもたらす施策を「従業員を気遣ったつもり」で過度に取り入れた企業のうち一定数は、ぬるま湯系組織へと変化しているように思われます。実際、多くの人事担当者や経営陣から「社員のためを思っていろいろ手を尽くしてきているが、いまひとつ効果を感じない」という声があがっています。

働きやすさを担保することで働きがいを上げ、いきいきとした組織を作り上げることが望ましいのは間違いありません。ただその与え方のバランスを間違えると、組織は徐々にぶら下がり化し、ぬるま湯系組織と化していきます。

コロナ禍でも安心して働いてほしいと、従業員に対してさまざまなことに配慮をした施策を行ってきた組織は多いと思います。その一方で、ウィズコロナに伴う社会や働き方の変化により、従業員は「組織の一員という自分」よりも「個としての自分」を今まで以上に意識するようになり、従業員と会社・組織の精神的距離が一気に広がったともいわれています。

このように「組織に帰属している」という意識が低下しつつある中で、無理やり従業員を定着させるために働きやすさを過度に追求する施策を行うことは、一部の人の働きがいを向上し定着させることもあります。しかし、繰り返しになりますが、過度な働き方の追求は副作用として「ぶら下がり化」を招くことも多くみられます。ぶら下がり化した従業員の比率が上がれば、優秀な人材やこれから活躍が期待される人材が組織に対して失望感を抱え、離職するという事態を招いてしまうこともあります。

働きがいと両立しながら働きやすさの追求を行っていく大切さ

働きやすさを過度に追求することで起こる組織の「ぶら下がり化」ですが、業務遂行性が最優先で求められる現場であれば、仮にぶら下がり人材が増加したとしても、業務を行う人自体が確保できている状況なので組織運営にとってそれほど大きな問題となりません。ただ、「組織を今よりも活性化したい」「変化に強い組織にしていきたい」などの思いがある現場では、ぶら下がり人材の割合が増えると組織の生産性を大きく落としかねない問題となりえます。

経営者はもちろんのこと、人事・総務担当の方や、現場を管理する管理職の方々にとって、働きやすさと働きがいの2つをバランスよく上げることを意識して施策を行うことは、これからやってくるアフターコロナ時代の組織づくりにおいてとても大切なこととなりそうです。

おわりに

5回にわたって、ウィズコロナと個人と組織の健康についてお話してきました。産業医の立場から申し上げますと特にコロナの感染が収まらない今日においては、働く場の「安全」を担保することで安心して従業員に働いてもらうことは、組織としての責任でもあると考えています。

今私たちはコロナ感染への不安のみならず、働き方や生活スタイルの変化などさまざまな変化を受け入れています。今までテレワークをされていなかった会社の方もテレワークをせざるを得ない状況になっているかもしれません。

変化はストレスになり、心身の健康に直接影響を及ぼします。変化の数が多く、同時多発的に変化への適応が求められる時代の今だからこそ、ぜひ、前半の方でお伝えしたメンタルケアやラインケアを実施するなど、ご自身や周囲の方々が心身共に健康で働けるようにポイントをおさえた配慮をして、コロナ禍を乗り切りましょう。


上村 紀夫
株式会社エリクシア
代表取締役

著者紹介
1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」としてエリクシアを設立。これまで3万件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。著書は『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』『組織と働き方を「変える・変えない・先延ばす」さて、どうする?』(クロスメディア・パブリッシング)。

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