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働く世代に知ってほしい ウィズコロナ時代のメンタルヘルスケア(前編)

はじめまして、株式会社エリクシア代表取締役の上村紀夫と申します。私は産業医・経営コンサルタント・経営者という3つの役割で、日々組織の問題解決に取り組んでいます。


この記事では、産業医という立場からコロナ禍での職場・生活におけるメンタルヘルスというテーマを2回に分けてお話します。前編では、ストレスとは何か、コロナ禍は通常時と比べてメンタルへの影響にどう違いがあるのかについて解明していきます。後編では対処法として、ストレスを溜めない方法「発生源を減らしつつ、発生したストレスの対処の仕方(セルフケア)」の観点ですぐに取り入れられる方法を紹介していきます。ぜひ最後までお読みいただき、自分でできそうなところがありましたらどんどん活用して、ウィズコロナ時代を健康に乗り切りましょう。

良いことも悪いことも「変化はストレス」

ウィズコロナ時代、誰しもストレスを抱えています。ストレスは、肉体的な疲れや心の疲れに直結し、人々のやる気や行動力を奪います。ストレスが極端に蓄積するとメンタルダウンにつながってしまい、自身のキャリアを築くうえで大きなブレーキになる可能性があります。
しかし、逆にストレスに対処できる方法を知っていれば、ココロと身体に余裕が生まれ、活動時間や活動範囲、やる気が向上し、頭の活性化にもつながります。そのためストレスについて学び、対処方法を知り、ストレスをコントロールできるようにしておくことはキャリアを築くうえでも重要な要素です。

それでは、ストレスとは何か、について具体的に考えていきましょう。
ストレスとは何か、思い浮かべてみてください。一般的には「長時間労働」や「苦手な人とのコミュニケーション」、「健康問題」や「金銭トラブル」があります。コロナに関連した部分に焦点を当てると、「毎日のマスク生活」、「活動制限」などを思い浮かべる方が多いかもしれません。いずれもネガティブな気持ちになる悪いことを想像した方が多かったのではないでしょうか。
ですが、実際にはこのような「悪いことだけがストレス」ではありません。

悪いことだけでなく、良いこともストレスになりうる」ことが、メンタルヘルスケアでまず押さえておきたいポイントです。このお話をすると、面談者や人事担当からは毎回驚かれます。特に、「良いこともストレスになりうる」ことにはピンとこない人が多いかもしれません。
この「良いこと」にあてはまる身近な例としては、「結婚」や「出産」、「新居への引っ越し」、「昇進」などがあてはまります。一見すると「嬉しい」「喜ばしい」できごとであったとしても、生活の中に変化が生じるとき、私たちはストレスを感じやすい状態となります。良いことによって生じた変化も、悪いことによって生じた変化も、それぞれが私たちにとってストレスになりうるのです。ストレスとは何か?その答えは、生活の中に生じるさまざまな「変化」なのです。

大きなストレスにつながる変化のタイプは2つ

私たちは毎日の生活の中でさまざまな変化を経験しています。
そのすべてが大きなストレスにつながっているわけではありません。では、どのような変化があると心身に大きなストレスとなるのでしょうか。

タイプ①同時多発的に重なる変化
変化が大きなストレスをもたらす条件の一つは「一度に多くの変化が重なる」ことです。
個々のストレスは小さくても、多くの変化が同時期に重なってしまうことは心身ともにダメージが大きくなります。イメージとしては足し算というよりも掛け算に近いと思ったほうがよいかもしれません。昇格を伴う単身赴任や、結婚で新居へ引っ越しする場合など、周りの人からみると「良いこと」であっても、適応すべき変化の数が多いことで心身へのダメージが大きくなり、メンタルダウンに至るリスクが高まります。

タイプ②突然の大きな変化
もう一つの条件は「予期せぬ大きな変化が起こる」ことです。変化の少ない生活が数年続いているときや、心の準備無しに突然変化が起こる際は、変化が本来もたらすと考えられる影響よりも大きなストレスを心に与えるため要注意です。突然の配置転換や携わっていたプロジェクトの中断、関わりの強い人の突然の不幸などが例として挙げられます。自分でコントロールできない変化であることが多く、戸惑いや不安、いら立ちなどさまざまな感情が呼び起こされ、ストレスが増幅される傾向があります。

ウィズコロナ時代は、メンタルダウンの発生・悪化のリスクが増える!?

悪い変化だけでなく良い変化もストレスであることは、ここまででわかっていただけたかと思います。
ウィズコロナ時代の今は、自分ではコントロールができない大きな変化が多く起こっており、その分、心にダメージを受けやすくなっています。

図 コロナ流行における変化 エリクシア「セルフケアウェビナー」より抜粋

新型コロナウイルス感染症や、ワクチン接種などに対する不安だけでなく、雇用不安、将来不安も高まっています。それだけでなく、勤務形態の変化、特にリモートワークなど生活環境そのものも変化しています。さらに、リモートにおいて慣れないオンラインツールを使用することや、従来よりもコミュニケーションが減ることによる孤立感などさまざまな不安が生じています。生活環境にもさまざまな制限があり、息苦しさを感じる人も多いでしょう。つまり、ウィズコロナ時代にメンタルダウンが増えている最大の理由は、「変化の重なり」と「不安の増大」が同時に起こっていることとなります。

日々、環境が変化し不安が増大している中、対処していく術はあるのでしょうか。
それをひも解くために、今回の新型コロナウイルス感染症に限らず、災害が私たちの心に与える影響を時系列でみていきましょう

図 有事における人の心の動き4つのフェーズ エリクシア「セルフケアウェビナー」より抜粋

感染症の流行や震災など有事の際の人の心の動きは、時間経過とともに、心理状況が変化していくといわれています。この時期は4つに分かれ、時期ごとに心理状況は異なるため、今どの時期にいるのかを考え対処する必要があります。全員が全員同じ流れで同一の時期を迎えるわけではありませんので、ご自身が今どこにいるのかを考えてみましょう。

■茫然自失期
コロナ流行直後から数日間(一週間程度)といった、身近で大きな被害がおきた直後がこの「茫然自失期」に当たります。
予期しないできごとに大きな心理的負担を抱え、衝撃を受け、思考や感情の停止、茫然自失の状態となります。

■ハネムーン期
変化する生活に適応しようと立ち向かい、周りの人と助け合って行動する時期です。
前向きに乗り切ろう、困難に立ち向かおうという気持ちが高まり、普段以上に活動的になることで、過緊張状態となり、自分自身では意識しなくても心に疲労が蓄積していく傾向がみられることが多いです。また「こうするべき」との思いが強すぎると対人トラブルになることもあります。

幻滅期
コロナ直後の混乱がおさまりはじめ、復旧に入る時期です。ちょうどワクチン接種が進む今の時期があてはまります。行政の対応や援助の遅れに対し、不満が噴出したり、無力感に陥ったりします。やり場のない怒りのために喧嘩やトラブルが起こりやすくなります。ハネムーン期に頑張りすぎた人が疲弊して、一気に気持ちが抑うつ的になる場合もあります。

再建期
生活に「日常」が戻りはじめ、生活の立て直しへの勇気を得ます。自信を取り戻し活力が湧いてくる人が多い一方で、特別大きなストレスを受けた人や、精神的支えを失っている人は新たな日常への適応がうまくいかず、取り残された感覚を持ち、心身の不調が起こる可能性があります。

今はどの段階?今後気を付けるべきこと

図 有事における人の心の動き4つのフェーズ エリクシア「セルフケアウェビナー」より抜粋

多くの人は2021年9月現在、幻滅期にあると考えています。コロナ収束のめどが立たずに、幻滅期が長期化している状況です。幻滅期が長引き再建期に移行できないことで、消極的・抑うつ的な気持ちが溜まっている方も多いのではないでしょうか。

これから先、収束のめどが立ってくるとウィズコロナからアフターコロナへの移行が徐々に始まる再建期に入ってきます。再建期に本格的に入ったら一安心、というわけにはいきません。ウィズコロナの生活に慣れすぎたことで、コロナが収束したアフターコロナの世界に不安を覚える人が出てくるため注意が必要です。

コロナが収束することがなぜ不安につながるのでしょうか?
それはウィズコロナ環境下で一時的に移行していた生活様式や、リモートワークといった業務環境を快適に思っていた人が、コロナ収束後にコロナ前の環境に戻ってしまう可能性を懸念することで起こると考えられます。

たとえば、コロナの蔓延防止のためにリモートワークが推奨されていたり、飲み会が禁止されていたりしました。コロナが収束したとなれば、再びオフィスに出社することになるかもしれません。オフィスに出社できることが嬉しいと感じる人にとっては喜ばしい変化ですが、満員電車通勤がなくなったことや自宅での作業を快適に感じている人にとってはネガティブな気持ちになる変化です。さらに、勤務後には懇親会と称して以前のように飲み会が開催されることもあるかもしれません。コロナによって飲み会の機会が減ったことが寂しいと感じる人には嬉しい変化ですが、余計な付き合いが減って楽になったと感じている人にとってはこれもまたネガティブな気持ちになる変化です。
また、全世界の人々がコロナに向き合いコロナ中心の生活をすることは、一種の『お祭り』と似たような非日常的な感覚も伴います。しかし、コロナが収束すれば、コロナ前の環境に戻り、お祭りが終わったかのような非日常的な感覚を喪失するかもしれません。コロナが収束することはもちろん喜ばしいことである一方で、コロナによって変化せざるを得ずようやく適応した生活環境を壊されるという面も考えておかなければなりません。コロナ収束後、私たちは再び生活の中で「変化」と向き合います。コロナ収束後は同時多発的な変化が生じる可能性が高く、その適応過程で、「コロナ収束後うつ」のような症状が生じやすいことは大いに予想できるでしょう。

ワクチン接種が進んでいますが、コロナの収束はいつになるかまだわかりません。
コロナによるストレスを乗り越えるための第一歩としては、「不安やストレスを感じることは自然な反応である」と考え、自分の感情を受け止めることです。そして、自分でコントロールできる範囲のストレス発生源を極力減らすことと、ストレスが発生したらうまく解消していく術を学び実践していくことが大切です。後編では「コロナ禍でメンタル不調にならない、具体的な対処法」について即効性のあるものや効果が高いものを厳選してお伝えしていきます。ぜひ後編もお読みください。

上村 紀夫
株式会社エリクシア
代表取締役

著者紹介
1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」としてエリクシアを設立。これまで3万件以上の産業医面談で得られた従業員の声、年間1000以上の組織への従業員サーベイで得られる定量データ、コンサルティング先の経営者や人事担当者の支援・交流で得られた情報をもとに、「個人と組織のココロの見える化」に取り組む。著書は『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』『組織と働き方を「変える・変えない・先延ばす」さて、どうする?』(クロスメディア・パブリッシング)。

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