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【連載】新入社員を「即」戦力化することってできるの?(2/3回目)

新入社員を即戦力化する為に、どのようなポイントがあるのかを紹介する本コラム。前回は、新入社員の傾向や置かれた環境などに触れてきました。2回目となる今回は、新入社員の周囲に目を向けていきましょう。

新入社員だけ育てても意味がない?

みなさまは採用成功の定義と聞いて何を頭に浮かべるでしょうか。母集団 (※) が十分に形成できる、面接でたくさんの合格者を出せる、優秀人材を入社させるなど、いろいろ想定できるかもしれませんが、私は「採用した人が業績に資する人材・活躍人材になってこそ」採用の成功だと考えています。企業によって業績に資するタイミングや活躍人材の定義は異なってくるとは思いますが、新入社員の教育はそのゴールから逆算されたマイルストーンの一つである必要があります。そこで、ここでは人事担当が押さえておくべき新入社員育成のポイントとなりうる考え方を2つご紹介いたします。
(※)母集団:自社の求人に興味や関心を持っている求職者のこと。またその数。

組織社会化(organizational socialization)

組織社会化とは、新規組織参入者(新しく組織に入る社員)が組織に適応するプロセスを示す言葉です。さまざまな研究があり、早期戦力化や職務満足度の上昇、離職率の低減などにも相関があるとも言われます。前述の通り、新入社員にも即戦力化が叫ばれている中で、多くの企業でこの組織社会化をスピードアップさせる傾向が高まってきました。では、どのように組織社会化を促進すれば良いのでしょうか。それを図示したものが図①「組織社会化 概念図」となります。

図①:組織社会化 概念図

図①にも記載のある通り、組織社会化は「プロアクティブ行動」・「(組織)社会化戦術」によって促進されると言われます。つまり、個人の情報探索行動、社会的行事への参加、仕事への意味付けといった「本人の問題」と、社内研修、キャリアパス(※)の提示、人事や管理職などに働きかけといった「周囲の問題」の2つの要素があるということです。どうしても新入社員本人に目がいきがちではありますが、人事担当としては、周囲からどのような働きかけがなされているのか、細かい部分までまずは確認していくことが求められてくるのではないでしょうか。
(※)キャリアパス:企業内で社員が目標とするポジションに至るまでのルート、道筋のこと。

また、組織社会化は入社前にも促進できると言われています(予期的社会化)。本人の問題(求職者側)でいえば、自己分析、業界研究や仕事研究(キャリア探索行動や職務探索行動)が求められ、周囲の問題(人事担当側)でいえば、リアルな仕事情報の提供(Realistic Job Preview)が必要になります。人事担当としては、企業の採用プロモーションを学生視点で分かりやすく理解しやすい内容に強化することで、新入社員の即戦力化は入社前から促進できると言えるでしょう。近年、インターンシップをよりリアルな仕事内容に近づけたり、内定者教育で企業価値を分析させるようなワークショップを行ったりする企業が増えていますが、その背景もこうしたところにあるのではないかと推察されます。

場の法則(クルトレヴィン)

場の法則とは、人の行動には、その人の特性だけではなく、周囲の環境が関係するという考え方です。もう少し具体化すると、人間性、人格、個性、価値観、性格など本人の特性(P)だけではなく、周囲の状況、集団の規制(制度)、人間関係、風土などの周囲の環境(E)面が人の行動には影響するということです。図②「場の法則(クルトレヴィン)」にもある通り、B=f(P,E)という式で説明されています。

仮に、コミュニケーションを積極的にとらない新入社員がいたとします(B)。それを本人の問題(P)として捉え、人事担当がコミュニケーション研修を実施しても、思うような成果が上がらないということは多々あります。たとえば、上司が威圧的であったり、寡黙であったり、そもそもオフィス全体に暗い雰囲気があるような、環境の問題(E)が存在するからです。つまり、人事担当としては本人に向けた研修以外にも、管理職へのマネジメント教育や風土改善などに取り組む必要があるわけです。

図②:「場の法則(クルトレヴィン)」

人事担当としては、今一度制度がどのように機能しているのか、全社或いは部門ごとに風土はどういった状態なのか、感覚や噂話だけを施策の根拠とするのではなく、実態を正確に捉えていきたいところです。

管理職の重要性

見てきたように、新入社員の即戦力化の為には、本人だけではなく周囲も大事であることがわかりました。人事担当が自社の制度や施策を見直していくことも重要ですが、同様に新入社員を指導する「管理職」も重要であることをここでは伝えていきたいと思います。

なぜ管理職が重要かと言えば、管理職は組織の“ハブ”であるからです。組織構造上の“要”とも言われます。図③「管理職の役回り」にもありますが、経営・人事は中長期視点でどちらかと言えば「本質的な仕組み作り(中長期視点)」が仕事となります。一方、新入社員をはじめとする一般社員は「対処療法的欲求を満たそうとすること(短期視点)」に主眼が置かれることが自然です。その間を繋いでいくことができる唯一の存在が「管理職」なのです。

図③:「管理職の役回り」

たとえば、新入社員育成施策として、人事が1on1(※)を制度・施策化したとしましょう。新入社員のガス抜きやお悩みごとの解消、更なる成長やキャリア観醸成に向けて運用されるべき場であるはずです。しかしながら、面談をするのは人事担当ではなく現場の管理職になります。管理職が機能しておらず、1on1が単なる数字進捗管理の場と化してしまったケースなどは多くの企業事例として存在しています。
(※)1on1:上司と部下が比較的短いスパンで定期的に行う面談のこと。業績管理面談などとは異なり、対話を通じて部下の成長をサポートする性格を持つ。

また人事担当が新入社員に介在できる日数は限られています。仮に年間240営業日(20営業日/月)で、新入社員研修期間が1か月(20日間人事預かり後現場配属)であった場合、新入社員は1年の9割以上(220日間)は現場で過ごすことになります。無論、そこを束ねる管理職の影響は否が応でも受けることとなります。このように、新入社員教育には、管理職の教育も重要であることがご理解いただけると思います。

一方で、厚生労働省の能力開発基本調査によれば、能力開発や人材育成に問題があるとする事業所が74.9%となっています。中でも、図④:「R2.能力開発基本調査(厚生労働省)“能力開発や人材育成に関する問題点の内訳(複数回答)”」によれば、指導人材の不足が54.9%とトップになっており、中々思うように育成が行えていないことが推察できます。

図④:「R2.能力開発基本調査(厚生労働省)“能力開発や人材育成に関する問題点の内訳(複数回答)”」

人事担当としては、新入社員の即戦力化に向けて、新入社員本人だけではなく、管理職を正しく機能させることも同時に検討していくことが求められます。現在自社の管理職がどの程度機能しているか、どのように管理職を支援できるかがポイントになるでしょう。

事例:人事の行った管理職支援策

管理職の仕事を一言で言えば「マネジメント」といえますが、Manageの語源はイタリア語で「馬を調教する(馴らす)こと」とされます。転じて、マネジメントは「物事をうまく扱うこと(何とかすること)」を意味するようになりました。「組織の成果に責任を持つ(P.ドラッカー)」、「他者を通じて何かを成し遂げる仕組みを作る(中原淳)」と言われたりもしています。とはいえ、実際「物事をうまく扱いづらい(何とかしづらい)」環境があることもまた事実です。

一般的に、管理職に求められるものとして、図⑤:「管理職のミッション」にもある通り、①リーダーシップの発揮、②目標・課題設定、③問題解決・業務改善、④部下の指導・育成、⑤チーム力向上・組織の活性化などが挙げられます。人事担当が研修を企画する際には殆どが検討される要素でしょう。しかし、研修でいくらインプットしたとて目の前の業務(数字)が忙しく、組織を作れないといった課題や、時代変化の対応(例:コロナ禍によるリモートへの対応、多様性への対応、一般社員の残業規制など)により「あれもこれも求められる状態」になってしまい、機能不全に陥ってしまっているケースは少なくありません。

図⑤:「管理職のミッション」

そうした環境下で、人事担当としては何をすればよいのでしょうか。ここでは、最近増えてきた人事主導の管理職支援事例を2つお伝えします。

事例①「求められるもの」の再定義

まずは、改めて管理職に求められるものを定義するということです。そもそも論に近い話ではありますが、時代変化などもあり、事業の方向性や方針なども変わってきている企業は多いと思われます。一方で、10年前の役割等級定義書を未だに使い続けているようなケースも散見されます。そのような企業の場合、人事担当としては今、或いは今後、どういった管理職像が求められるのかを再考していく余地があると言えるのではないでしょうか。

〈事例〉

図⑥:「管理職要件の見直し事例」

上記は管理職要件を見直した事例となります。業界変化や社内からの不満などもあり、要件を見直しすることとなりました。コンピテンシー(※)調査やヒアリングなどを通じ、数か月間かけて全面的な見直しを行った結果、従来管理職に求められていた「業績目標の達成」や「コミュニケーションスキル」などとは異なり、「マーケティング(市場を先取りする)力」や「戦略立案・浸透」に重きが置かれるような要件が完成しました。
(※)コンピテンシー:高業績者の行動特性のこと。

また、この事例の場合、新要件に準ずる「次世代」の管理職研修も同時にスタートしました。中長期的な管理職の人材プールを作っておくことで、「登用時に機能する管理職をつくる」という意図がありました。結果として、次世代管理職層まで新入社員に積極的な関わりを持つようになり、組織として強固なベースを作り上げることができたのです。

事例②優先順位の明確化

続いて、優先順位の明確化が挙げられます。実態として「あれもこれも」求められてしまう管理職に対して、また、なかなか「集合教育ができない」管理職に対して人事担当が行うことのできる支援です。具体的には、組織課題や個人課題を明確化することで、何から着手すれば良いのか(逆に何を優先順位下げて良いのか)を管理職個々人に合わせて伝えてあげるということです。

すでに組織成果が求められる既存管理職には、組織ごとにどういった課題があるのか明確にし、次世代(或いは新任)管理職には、個人能力のどこに課題があるのかを明確にすることが一般的です。「あれもこれも」求められている管理職に対し、人事担当から優先順位をつけてあげるというのもこの時代に必要な支援と言えるでしょう。また、データを活用することで、客観的で根拠を持った施策の展開が期待できます。

〈事例〉

図⑦:「優先順位を明確化した事例」

上記は、優先順位を組織視点から明確化した事例です。新入社員を含め離職が相次いでいた企業でした。当初、対策として、コミュニケーション研修、メンター制度の拡充や1on1の推奨などが矢継ぎ早に行われておりましたが、いずれも効果はいま一つでした。施策を運用する管理職の疲弊も大きくなり、人事担当としては見直しを迫られることになります。見直しにあたっては、離職真因の明確化を目的に、組織に対するリサーチを実施することがファーストステップとなりました。

結果、各組織によって課題が異なり、それぞれ施策を検討する運びとなります。データが根拠となっていることもあり、管理職も納得感をもって行えました。たとえば、評価に対する不満が離職真因であった組織もあれば、コンプライアンスが機能していないことが離職真因であった組織もあったため、評価者に対する制度説明会やコンプライアンス研修などが実施されました。優先的に管理職が組織課題に向き合えたこともあり、離職にも一定の歯止めがかかります。

また、この事例の場合、リサーチによって管理職自身が離職リスクを抱えていることも判明しました。人事担当は管理職向けのフォロー施策を追加で検討する形に至ってはいるものの、潜在的な課題が顕在化することにより、早い段階で対策が打てています。

以上が2つの事例となります。

その他で言えば、近年、管理職層にこそ手厚い教育を実施していくべきだという論調もあります。「継続教育」・「個別教育」、この辺りが人事担当の行う支援のもう一つのキーワードになりそうです。いずれにせよ、新入社員の即戦力化に向けて、周囲の環境を整える・現場の要となる管理職を機能させることが人事担当のミッションと言えるのではないでしょうか。

まさにこの時期、新入社員教育の検討シーズンでもありますが、あわせて、組織状態の明確化や管理職への支援も同時に検討していくことが重要だと考えられます。最終回となる次回は、こうした新入社員教育を思案する季節にしばしば挙がる「OJT」について、そのポイントや注意点をお伝えさせていただけたらと思います。


著者紹介 田口弘毅
2010年に株式会社マイナビへ入社。以後、一環して採用・人材開発・組織開発のコンサルティング(各種制度設計・企画・運用支援)に従事する。
近年では、HR Trend Labの主席研究員や日本人材マネジメント協会の執行役員なども務め、若年層のリーダーシップ開発をテーマにした研究活動なども行う。
仕事においては理論と実践のバランスを、人生においては仕事と家庭(主に息子2人の育児)のバランスをとりわけ大切にしています。

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