都市から地方への人口移動は加速するか!?
統計データで再発見する地方の姿
コロナ禍で暮らし方の見直しが進んでいるという。便利ではあるものの感染リスクが高い都市部を離れ、郊外に住まいを変えることへの関心が高まっているようだ。コロナ禍が収束の兆しを見せるなか、テレワークの見直しも進んでいるようだが、過去2年間で経験したテレワークを通して、オフィスでなくても問題なく業務が遂行できるという実体験も後押ししている。
ではどのような地域が生活拠点として暮らしやすいのか。
今回は、総務省統計局がまとめた 「統計でみる都道府県・市区町村のすがた(社会・人口統計体系)」をもとに、暮らし、住まい、文化など、さまざまな切り口で地方の魅力に迫ってみたい。
目次
マイナビとマイナビ転職の調査でわかった求職者の意識の変化
コロナ禍で働き方に対する人々の意識がどう変わりつつあるのか、まずは就活中の大学生と2020年に転職をした労働者の調査をもとに確認してみよう。左のグラフは、2022年卒業予定の大学生を対象に実施したアンケート調査のなかで、「Iターン就職のように地元以外の自然が豊かな地方で働いてみたいと思うか」についての調査結果をまとめたものだ。この調査によると、「自然が豊かな地方で働いてみたい」と考える大学生は2018年卒以降微増傾向で、2021年卒はいったん数値はさがったものの、2022年卒では大きく上昇している。
また、転職者の調査では、転職時に「コロナの影響で転居を検討した」労働者は、男女ともに若年層ほど数値が高くなっている。年代が上がると生活環境を変えて転職をすることが難しくなるので、若年者ほど柔軟に働き方を変えることができるのは当然だが、20代の男女とも3割以上が転職に際して転居を考えており、コロナ禍によって働き方の意識も大きく変化する兆しを見て取れることができるのではないだろうか。
人口増減の現状と15歳未満人口割合に見る今とこれから
ここからは、「統計でみる都道府県・市区町村のすがた」をもとに、都道府県ごとの特徴や魅力を見ていきたい。
まずは、人口について。都道府県別に見ると人口が増えているのはわずか7都県で、残りの40道府県については、人口が減少している状況。ただし、都道府県ごとに年齢構成比には違いがあるようで、特に15歳未満の人口割合は、沖縄県がずば抜けて高い数値となっている。沖縄県の場合は、人口増減率もプラスの数値となっているので、日本全体で少子高齢化が進むなかで、他の都道府県とは違った傾向にあるようだ。
住宅の家賃は最大で2.7倍の違い
次に、暮らしやすさの視点で、住まいにかかるコストを比較してみよう。下のグラフは、専用住宅の1畳あたりの家賃を比較したものだ。左が47都道府県のなかで家賃が低い県を、右は逆に家賃が高い都道県をまとめたものだ。順位については誰もが想定できる内容だと思われるが、金額の違いを見ると、その差の大きさは目を見張るものがある。もっとも低い青森県の家賃ともっとも高い東京都の家賃では、2.7倍の開きがある。一概に家賃だけで暮らしやすさを比較することはできないものの、住宅費のコストを一生負担し続けることを考えると、この差が暮らしに与える影響も決して小さくないのではないだろうか。
健康寿命から感じられる都道府県ごとの暮らしやすさ
暮らしやすさ、生活環境の違いは、健康寿命にも表れている。ただし、理由はわからないが、男女別では健康寿命の長い県のランキングは微妙に違いが出ている。男女ともに登場するのは、山梨県、愛知県、岐阜県、富山県、茨城県の5県で、残りは県が違っており、また、順位にも違いがある。ただし、山梨県と愛知県は男女ともベスト3に入っており、この両県は、性別に関わらず長く健康で暮らせる県であるのは間違いなさそうだ。
生活時間で推しはかる生活充実度の違い
健康寿命の長さにどれほどの影響があるのかは不確かだが、睡眠時間と趣味・娯楽の時間についても確認してみよう。グラフが煩雑になってもいけないので、ここでは睡眠時間については男性のデータを、趣味・娯楽の時間については女性のデータを紹介する。ベスト10を見る限り、どちらのデータも都道府県ごとにそれほど大きな差があるわけではないが、睡眠の平均時間(男)についてはトップと10位で9分の差があり、趣味・娯楽の平均時間(女)については、トップと10位で6分の差がある。
ついでというわけではないが、ボランティア活動・社会参加活動の時間(有業者、男)と、休養・くつろぎの時間(有業者、女)についても見てみよう。分単位の微妙な差とはいえ、ボランティア活動・社会参加活動の時間(有業者、男)についてはトップと10位で5分の差があり、休養・くつろぎの時間(有業者、女)についてはトップと10位で7分の差がある。
この結果をもって何か特別な指摘ができるわけではないが、都道府県ごとの生活時間の配分の違いで、生活環境の違いが推察できるようで興味深い。
教育環境の違いで子育てにも影響か!?
最後に、教育環境の違いについてもデータを見ておきたい。「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育 ICT 環境の実現」を目指すとして、GIGAスクール構想が発表されたのは2019年。コロナ禍のもとでのオンライン授業を普及させるため、ICT環境の整備は一気に進んだとはいえ現状はどうだろうか。下の左のグラフは、「学校における教育の情報化の実態等に関する調査(文部科学省/令和3年3月1日現在)」によるもので、教育用PC1台あたりの児童生徒数のグラフだ。1台あたりの生徒数が少ない方がPC環境としては良いわけで、トップの和歌山県が0.9人に1台、10位の香川県が1.1人に1台となっている。グラフには出していないが、47都道府県中の最下位の県では、2.9人に1台という結果になっており、ICT環境の整備については都道府県ごとにかなり差があることがわかる。
また、下の右のグラフは、「統計でみる都道府県・市区町村のすがた」で、人口100万人あたりの図書館数の調査結果だ。トップの山梨県が人口100万人あたり64.9館で、10位の鹿児島県が39.0館となっている。グラフには出していないが、最下位の県は人口100万人あたり9.3館となっており、図書館の設置状況は、都道府県によって大きな差があるようだ。
今回は、「統計でみる都道府県・市区町村のすがた」を中心に、一部、「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」の結果を踏まえ、都道府県ごとの地域性の違いについてデータで比較してみた。もちろん今回取り上げたデータはほんの一部に過ぎず、これだけで何かを語ることはできない。コロナ禍をきっかけに都市から地方へと、職場や生活環境を変えようとする人が増えるなか、転居先のエリアに関して、さまざまな視点、データをもとに詳しく見ていくことで、新たな特性や魅力が発見できるのではないだろうか。
著者紹介
吉本 隆男(よしもと たかお)キャリアライター&就活アドバイザー
1960年大阪生まれ。1990年毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)入社。各種採用広報ツールの制作を幅広く手がけ、その後、パソコン雑誌、転職情報誌の編集長を務める。2015~2018年まで新卒のマイナビ編集長を務め、2019年からは地域創生をテーマとした高校生向けキャリア教育プログラムおよび教材の開発に従事。2020年定年退職を機にキャリアライター&就活アドバイザーとして独立。
日本キャリア開発協会会員(CDA)、国家資格キャリアコンサルタント。著書に『保護者に求められる就活支援』(2019年/マイナビ出版)